戦治郎達と対立する組織の方でそれぞれ動きがあった頃、鳳翔の身柄の確保や桂島泊地から艦娘達を脱出させるなど、桂島泊地解放戦で大いに活躍した加賀達が所属する佐世保鎮守府の執務室には、戦治郎の腹違いの弟であり佐世保鎮守府で提督として艦隊の指揮を執っている長門 兼継と、彼がこの世界に降り立った瞬間を目の当たりにし、その秘密を守りながら秘書艦として兼継のサポートを担当している金剛と赤城の姿があった
「あっづい……、こんなに暑かったら仕事する気になれないな……。まさかこの時期に執務室のエアコンが故障するなんて……、って言うか何で僕はこっちでも書類仕事をしなければいけないのか……」
「テイトク~……、大丈夫デスカ~……?」
真夏の気温にやられたせいか、兼継が書類仕事をほっぽりだして執務机の上でダレながらこの様な愚痴を口にしていると、その様子を傍で見ていた金剛が心配そうに尋ねて来るのであった
「このまままでは仕事どころではなさそうですね……、ちょっと食堂で何か冷たい飲み物を貰ってきますね」
そんな兼継を見兼ねた赤城はそう言うと、兼継に一礼した後執務室を出て食堂の方へ向かうのであった
「何か悪い事しちゃったな……、只でさえ赤城は忙しいはずなのに、書類仕事を手伝ってもらうだけでなく、気を遣わせる様な真似をしてしまうなんて……」
「デモ、ここでテイトクに熱中症で倒れられたら、大変な事になってしまうネー……」
「ああうん……、確かにそれは……、まぁ……」
赤城を見送った兼継が、思った事をついポロリと零したところ、相変わらず心配そうな表情を浮かべる金剛がこの様に返答し、それを聞いた兼継は申し訳なっそうな表情を浮かべてそう呟くのであった
さて、先程兼継が赤城が現在忙しい状況にあると言ったが、これは一体どう言う事なのだろうか?
その答えは、現在戦治郎が必死になって入学しようとしている軍学校にある
この世界の日本にある軍学校では、座学や海防艦の教官として常勤している練習巡洋艦娘の他に、戦場で戦う現役の艦娘達の中から選ばれた数名が、1年と言う期限付きで講師として招かれる様になっているのである
そう、この佐世保鎮守府の赤城はその講師として、1年の間江田島の軍学校に出向する事となっているのである。その関係で今の赤城は、自分が鎮守府を空けていても大丈夫な様に佐世保鎮守府に所属する後輩の空母達を育成したり、講師として生徒達に教える内容を今の内からある程度予習したりと、任務をこなす傍らで江田島に向かう為の準備をしたりしなければいけない状況なのである
現に、同じく江田島で講師をやる事になっている五十鈴は、その忙しさのせいで四苦八苦している有様である……
にも関わらず、赤城はいつもの様に金剛と協力して、兼継の仕事を手伝ってくれているのである。先程兼継が申し訳なさそうな表情を浮かべたのは、執務室を後にする赤城の背中を見送った際にこの事を思い出し、金剛の言葉で自身が熱中症で倒れ、赤城の手を更に煩わせてしまう光景を想像してしまった為である
「……これ以上赤城の手を煩わせる訳にもいかないな……」
「テイトク、無理してナイ?本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ金剛、暑さのせいでちょっと気が緩んでただけだから」
兼継はそう言うと机に突っ伏していた身体を起こし、その様子を見ていた金剛がこの様に尋ねると、兼継はこの様に返答しながら未だに心配する金剛の頭を優しく撫で始め、金剛は兼継のその手の心地良さに、思わず目を細めて口元に笑みを浮かべるのであった
その直後にキンキンに冷えた麦茶と、3人分のグラスと熱中症対策の塩飴が乗ったトレイを手にした赤城が執務室に戻り、3人は先程赤城が持って来た麦茶を飲み干すと、塩飴を舐めながら書類仕事を片付け始めるのであった
その最中、兼継が赤城に後輩の育成状況を尋ねてみたところ……
「その件なんですが……、実は事情を知った加賀さんが、私の代わりに後輩の育成をやってくれると言う事だったので、後輩達の育成は全て加賀さんにお願いしているんですよ……。なので私は、こうして提督のお手伝いが出来ている訳なんです……」
赤城は只々苦笑しながら、兼継の問いに対してこの様に返答するのであった
尚、アムステルダム泊地での戦いを少しではあるが目の当たりにし、激戦以外に表現する事が出来ないミッドウェーでの戦いを経験した加賀によって育成された空母艦娘達だが、その訓練の厳しさから誰もが加賀を鬼教官扱いし恐れおののく様になったのだが、その実力は長門屋鎮守府が誕生し稼働するまでの間、佐世保の無敵機動部隊と呼ばれる程に、確かなものとなっていたのであった
そんな中佐世保鎮守府の中庭にある花壇では、何の前触れも無く突如花壇に生えて来た異常なまでの大きさの植物に、笑顔を見せながら水やりをする文月と、そんな文月の様子をやや困惑気味の表情で見守る長月、皐月、水無月の3人の姿があった……
因みに、来年の4月から1年の間、江田島の軍学校で講師として教鞭を執る事となっている艦娘達は、以下の通りとなっている
戦艦担当……大和
空母担当……赤城
軽空担当……祥鳳
水母担当……神威
重巡担当……那智
軽巡担当……五十鈴
駆逐担当……綾波
海防担当……鹿島
潜水艦担当……伊58
ここに挙がっていない雷巡や航巡、航戦などの艦種に関しては、ある程度練度がなければ改修が出来ない都合上、実戦経験がない者ばかりが集まる軍学校では、そうなる艦種が存在すると言った予備知識を教える程度に留めてあり、これらの艦種の詳細については、軍学校を卒業し実戦を経験し練度を上げ、改修する事になったその時に教えられる事となっている様である
さて、ここで大和の名が挙がっているが、この大和は現在横須賀鎮守府にいる、戦治郎に対してやや心酔気味のあの大和である
何故大和が講師として江田島の軍学校に出向する事となったのかだが、それは戦治郎を願書を受け付けてくれた軍学校が江田島の軍学校だったからである
燎のアドバイスにより、戦治郎は穏健派大連合結成直後と言う凄まじく早い段階から日本中の軍学校に願書を出したのだが、8月が願書受付期限であるにも関わらず、ほぼ殆どの軍学校が定員超過の為願書の受付を〆切っており、奇跡的に戦治郎の願書を受け付けてくれたのが、江田島の軍学校だったのである
この事を知った大和はすぐさま元帥と交渉し、本来陸奥が担当する事となっていた江田島の軍学校の戦艦担当の講師を、大和に変えてもらったのである
この時の大和の主張は……
①もし戦治郎が深海棲艦、それも転生個体である事がバレた場合、戦治郎を襲う者が出るかもしれない
②それでもし各国の要人と繋がりがある戦治郎の身に何かあれば、最悪国際問題に発展しかねない
③襲撃者がエデンなどに所属する転生個体だった場合、かなりの実力がある者でないと太刀打ち出来ない可能性が非常に高い
この様な内容となっており、それを聞いた元帥は即座に大和の提案を了承し、大和は江田島で講師をする傍らで、駆逐担当である綾波と共に戦治郎の護衛をする事となったのである
尚、この提案が了承された直後、大和は計画通りとばかりにほくそ笑んでいたのだが、この事実を知るのはその様子を元帥の傍で見ていた燎と長門、そして日向の3人だけであり、その3人は何とも言えない表情で、元帥の執務室を後にする大和の背中を見送ったのだとか……