兼継達がせっせと書類仕事を片付けている中、佐世保鎮守府の中庭にある花壇には4人の駆逐艦が集まっており、そのメンバーの内の1人である文月は……
「♪~」
ニコニコと笑顔を浮かべて鼻歌を歌いながら、花壇の中央を陣取っているそれはそれは巨大な謎の植物に水やりをしていた
この謎の巨大植物だが、それは本当に何の前触れも無く、加賀達がミッドウェーでの作戦に参加している最中に突如佐世保鎮守府の花壇に生えて来て、それを最初に発見した文月がこうしてお世話をしているのである
文月がその植物を初めて見た時、その時はまだこの植物は成人男性の広げた手ほどの大きさの葉を持つ双葉の状態だったのだが、文月がお世話を始めてからしばらく経った辺りで、唐突に尋常ではない速度で成長し始め、今では下手な樹木よりも太い茎と大柄の成人男性がスッポリ収まってしまいそうなくらいの大きさの薔薇の蕾とよく似た蕾を持つ程に大きく育ったのである
因みに、その途中でこの植物が土から驚く程養分を吸い取ったせいで、その植物の周囲の花々が全滅しかけたのだが、それに気付いた文月が桂島の提督の情報収集が行き詰っていた
兼続達に助けを求めたところ、佐世保鎮守府総出で花壇の再生作戦が実行され、花壇は見事に復活を果たしたのであった
尚、この事を桂島解放戦の後に加賀は赤城から、長月と皐月は文月から聞くと、思わず何とも言えない表情を浮かべながら大きな溜息を吐いたのだとか……
自分達が命懸けで頑張っている時に一体何をしているのか……と言う呆れと、変なトラブルも無くそう言った事が出来る程、佐世保鎮守府が平和であったと言う安堵感が綯交ぜとなった感情が生まれ、話を聞いた際にそれが表情に出てしまった結果、彼女達はその様な反応をしてしまったのである。そう、彼女達の反応こそが本来正常な反応なのであり、これは仕方が無い事なのである……
それはさて置き、謎の巨大植物に水やりをする文月から少々離れた場所で、長月と皐月はやや険しい表情を浮かべながら、水無月はややオロオロしながらその様子を見守っていた
「ねぇ長月……」
「恐らく皐月が考えている通りだと思う……、私も皐月同様そうとしか思えないからな……」
「あのさ2人共……、ちょっと顔が怖いよ……?」
皐月が険しい表情のまま長月に声をかけると、長月は皐月の言葉を遮る様にして、皐月同様険しい表情で謎の植物を睨みつけながらそう答え、そんな2人に向かって2人の表情と剣呑な雰囲気に圧倒された水無月が、恐る恐ると言った様子でこの様な言葉を口にする……
さて、長月と皐月はあの植物を何だと思っているのであろうか……?
実際のところ、長月達はミッドウェーでの戦いと泊地解放戦での経験から、この巨大植物は神話生物なのではないかと思っているのである
ある日突然生えて来て、途轍もない速度で成長する巨大植物……、そんな非常識な存在と聞いて、2人が真っ先に思い浮かべたのはミッドウェーで暴虐の限りを尽くしてアビス・コンダクターを敗走させたゾアや、鳳翔救出の際協力してくれたクタニド、クティーラ、ヴォルヴァドスの様な神話生物達だったのである
もし2人の予想が的中し、あの植物型の神話生物が何かの拍子に文月に襲い掛かった時、すぐに文月を助けられる様にと2人は身構え、全開バリバリであの植物を警戒しているのであったが……
(あぁ^~……、心がフミフミするんじゃ^~……)
肝心な巨大植物……、いや……、クトゥルフとクタニドの遠い親戚である植物型の旧支配者ヴルトゥームは、自身を警戒する長月達など一切気にも留めずに、自身に笑顔を向けながら水やりする文月を見て、思わず内心でこの様な事を呟いていたのであった……
さてこの旧支配者、元々は地球が大変な事になっていると言う情報を仕入れるなり、野次馬の為に一度種子に姿を戻してから、火星在住の自分の信者達に自身を打ち上げさせて火星から地球に飛来して来た訳なのだが、その身が地表に激突した際、その勢いが余りにも凄まじかった事が原因で、ヴルトゥームの身体は地中深くに埋没してしまったのである
その後、困ったヴルトゥームは近くを偶々通りかかったクトーニアンの力を借り、何とか地表近くまで行くとクトーニアンに礼を言って別れ、地上で活動する為の力を蓄える為に地上に芽を出し、根をそこら中に張り巡らせたところで、文月に発見されたのである。そう、彼が芽を出した場所、それは佐世保鎮守府の中庭の花壇だったのである
こうして佐世保鎮守府の花壇に生えたヴルトゥームは、最初こそ文月を取り込んで成長し、成長し切ったところで自身の目撃者を処分した後、地球滞在中の寝床を提供してもらおうとクトゥルフが治めるルルイエに向かおうと考えていたのだが、懸命に自分の世話をする文月の笑顔とその姿勢に徐々に心を開いていき、花壇再生作戦の際に知った彼女の優しさに感化された結果……
(文月は私が守らねば……っ!この混沌とした世界で彼女が生きていく為には……っ!!私が文月を守らねばならないのだ……っ!!!例えこの命に代えてでも……っ!!!)
ヴルトゥームは文月に完全に心酔してしまうのであった……
そんな彼には、今現在大きな悩みがあった……
それは、文月に自分の正体を明かすべきかどうかについてである……
文月に心酔し切った今の彼は、文月を怖がらせる事を……、文月に嫌われてしまう事を大いに恐れる様になってしまったのである
もし文月が自分の正体を知ったら、文月は自分の事を恐れ、嫌う様になってしまうのではないか……?いや……、最悪自分の正体を見た文月は発狂し、死んでしまうのではないか……?そんな不安が今の彼の心を支配し、今も尚苛み続けているのである……
実際、彼は文月の期待の眼差しに応える為に急速成長をしたのだが、この事が頭に過ったところで不安に襲われて成長を止め、その正体を明かさない様にする為に蕾のままの姿を保ち続けているのである……
(ああ……、私は一体どうしたら……?文月に正体を明かすべきなのか……?それとも彼女の事は影ながら守っていくべきなのか……?誰か……、誰か私にこの悩みの答えを……っ!)
「おい……」
こうしてヴルトゥームが1柱内心で苦悩していたその時である、不意に自分の方へ向けて誰かが声を掛けて来るのであった
声を掛けられた直後、驚いたヴルトゥームが声がした方へゆっくりと視線を向けたところ、そこには義手を変形させてヴルトゥームに主砲を向ける長月と、腰を深く落として腰に差した刀に手をかける皐月、そして何か信じられない物でも目にしたかの様に、目を丸くしてその場に無言で立ち尽くす水無月の姿があった……
「遂に正体を現したな……、植物型神話生物……っ!」
「文月を利用して成長するつもりだったんだろうけど、残念だったねっ!」
「えっ?あれ……?何であの植物は、風も無いのにクネクネ動いてたの……?」
最初、長月と皐月の言葉を聞いたヴルトゥームは、何故自分の正体がバレたのかについて、焦りのせいで上手く回らない頭をフル回転させて原因を考えるのだが、我に返った水無月の言葉を聞いて、ようやくその原因に気付いて思わず内心で舌打ちするのだった
そう、この神話生物、悩んでいる最中ずっとその身体を不自然なくらいにクネクネと、悩まし気に動かしていたのである……
「私も地に落ちたものだな……、まさかこの様なポカをやらかすとはな……」
「御託はいい、お前の目的は何だ?文月を使って成長した後、何をするつもりだった?」
「私の話を聞きたいのならば、先ずその武器から手を放してもらえないだろうか?このままでは怖くてまともに話せそうにないからな」
「そう言って、僕達が武器から手を放したらすぐに攻撃してくるんでしょ?その手には乗らないよっ!」
「私にその気は更々無いさ、何たって君達は文月の友人なんだからね。文月の友人を手に掛けたとなれば、私は本当に文月から嫌われてしまう……、それだけはどうしても避けたいのだ……」
「植物が喋ったっ!!?」
「水無月、済まないが文月の所に行っててもらえないか?」
「あ、この事は僕達が良いって言うまで、文月には内緒にしておいてね?」
このやり取りの後、長月と皐月の提案を了承した水無月は、2人にそのお願いを了承した事を伝える様に頷いて見せた後そそくさとこの場を後にし、ヴルトゥームは残った2人に自分が地球に来た理由と今の心境、ついでに今抱えている悩みを話したところ、それを聞いた長月達は、その内容に思わず愕然としてしまうのであった……
その後長月と皐月は、この悩める旧支配者に本当に敵意が無いどころか、文月を本気で大切に思い守ろうとしている事を知ると、ヴルトゥームの悩みを解決する為に話し合いを始め、ある程度話が纏まるとある作戦を計画、この場で解散するのであった……
因みに、ヴルトゥームがポカをやらかした時には、既に文月の姿は何処にもなかった
文月はヴルトゥームへの水やりを終えると、この後に文月も参加する予定となっている遠征の準備の為に1度自室に戻っていたのである。その為、文月はヴルトゥームが動いてしまった所を目撃していないのである
これが、後に佐世保に本部を置き、秘密結社『喰らう手』と戦う長門屋のヒーロー達を支援する事となる宗教団体『文月教』の教祖であり、ありとあらゆる厄災から文月を守る使い魔っぽい薔薇の騎士、そして佐世保鎮守府の専属邪神となる旧支配者ヴルトゥームと長月達のファーストコンタクトなのであった……