各地で様々な動きがあってから月日は経ち、山の木々が鮮やかに色づき始める10月になった頃、長門屋鎮守府(仮)のメンバーと横須賀鎮守府に所属する艦娘達と燎は、江田島の軍学受験の為に広島県は江田島市へと向かう戦治郎を見送る為に、横須賀鎮守府の出入口となる門に集まっていた
「それじゃあ、ちょっち行って来るわっ!」
着替えや筆記用具などが入ったバッグを片手に、戦治郎が見送りに来た者達に対して手を上げながら快活にそう言ったところ……
「戦治郎、頑張って来いよっ!」
「アニキッ!ご武運をっ!!」
「戦治郎~、お土産よろしくね~」
「個人的には、旬から外れるッスけど牡蠣がいいッスね~」
「確か向島に美味いチョコがあるそうだな……、俺はそれでいいぞ」
「ここはお土産の話よりも、旅立つ俺を激励するべき状況なんじゃないかって、おっちゃんは思うぞ~?」
最初は皆が戦治郎に対して激励の言葉を掛けるのだが、飛龍がお土産をおねだりした辺りからお土産の内容についての話になり、それに対して戦治郎は困惑しながらそう尋ねるのであった……
さて、そんな戦治郎の今の姿だが、普段のGパンTシャツ革のジャケットと言うラフな格好とは打って変わり、中東アジアの女性が着るチャドルと呼ばれる衣装でスッポリと全身を覆い隠し、頭部には戦治郎の額から生えた角を誤魔化す為の角飾りが取り付けられており、顔は一切透過しない黒いフェイスベールで隠されていたのであった
更に加えて言えば、今の戦治郎は何故か白いカツラを被っていたりする……
何故戦治郎はこの様な格好をしているのか……、それは言うまでも無く戦治郎の姿に問題がある為である
戦治郎の見た目は鬼クラスや姫クラスなどの深海棲艦の上位種の中でも、特に強力な部類に入る水鬼クラスに分類される戦艦水鬼そのものなのである。そんなものが人が集まる街中に現れようものならば、忽ち街中大パニックになる事間違い無しなのである
一応、5月の会合の後に燎が日本国民に対して、転生個体の存在を伝え認知させる事には成功しているのだが、如何せん通常の深海棲艦と転生個体を正確に見分ける方法は、現在でもその個体の血液の色を調べる以外に無く、見た目だけでその深海棲艦が転生個体であるか否かを判断するのは、転生個体と対峙した経験がある艦娘達や提督なら兎も角、少なくとも一般人には到底不可能なのである……
故に戦治郎はそう言った事態に陥る事を避ける為に、司に依頼してこの様な衣装を作ってもらい、戦治郎が転生個体である事を知らない者達に、その姿を見せない様に隠す事にしたのである
因みに、もし戦治郎が軍学受験に成功し1年の間江田島で生活する事になった場合、戦治郎は軍学の制服の上からこの衣装を纏って軍学生活を送る予定となっていたりする
そうなるともしかしたら戦治郎のその衣装について、教官達から指摘される事があるだろうが、戦治郎はその対策をバッチリ立てているのである
「いや~、自分アルビノ体質なので、日光をちょっちでも肌に浴びると、皮膚がすぐ大変な事になるんですよ~」
これが戦治郎がその衣装を指摘された場合の対策として考えた返答なのである
そう、戦治郎はその恐ろしい程白い深海棲艦の肌を利用して、自身はアルビノ体質であると偽る事にしたのである。先程戦治郎が被っていると言った白いカツラも、アルビノ体質のせいで白くなった髪を演出する為に被っているのである
もしもアルビノである事を疑われ、アルビノについて言及されたとしても、簡単にぼろを出さない様こちらもしっかり対策を立ててある
何せ長門屋のメンバーには、本当にアルビノ体質であった翔がいるのである。戦治郎はアルビノについて言及される可能性を考慮し、翔からアルビノに関する様々な情報を前もって教えてもらい、必要そうな道具なども全て買い揃えたのである
尚、もしこれらによって相手に戦治郎がアルビノであると認められ、そんな重病人が戦場に来るなと言われた場合、戦治郎は勢いと熱意で押し切るつもりでいるそうだ……
因みに、角飾りに対して指摘を受けた場合、戦治郎はそれは実家に代々伝わるお守りの類なのであると言う方向で誤魔化すつもりでいる模様……
とまあ、こんな調子で江田島の軍学校に向かう準備を整えた戦治郎が、今も尚お土産の内容について話す見送りに来たメンバーと言い合いをしていると……
「提督、そろそろ出発しないと新幹線に乗り遅れちゃいますよ?」
戦治郎同様キャリーバッグのハンドルを手にしたまま、戦治郎の傍に控えた大和が苦笑しながらこの様な言葉を口にする
そう、大和は初めて広島に行く戦治郎に同行し、江田島の軍学校までの道のりを案内する事になっているのである
何故彼女が案内役をする事になったのかと言えば、彼女が元帥に圧力をかけたから……ではなく、如何やら彼女の出身地が広島県呉市で、彼女なら土地勘があるだろうからと言う理由で抜擢されたのである
この事を元帥から聞いた大和は、それはそれは幸せそうな表情を浮かべていたと、その様子を元帥の傍で見ていた長門は後に語っていた……
こうして戦治郎の案内役となった大和は、すぐさま軍学入試試験の会場である江田島の軍学校までの移動手段や宿泊施設の手配を済ませ、その手際の良さで戦治郎をアッと驚かせるのであった
尚、宿泊施設については最初は大和の実家になる予定だったのだが、流石にそれは色々な意味で不味いと思った戦治郎がすぐに止めに入り、その結果大和は不服そうな表情をしながらも、呉市にあるホテルに予約を入れてくれたのであった
「あ、もうそんな時間か……、ってな訳で、今度こそ行って来るわっ!」
大和の言葉を聞いた戦治郎が腕時計を見て現時刻を確認し、呟きの後に再び江田島に向けて出発する旨を見送りに来たメンバー全員に伝え、身を翻して横須賀鎮守府に背を向けたところ、見送りに来たメンバー全員が今度は真面目に戦治郎の背中にエールを送り、戦治郎は振り返る事はせずに、無言で横に伸ばした腕でサムズアップをして返答するのであった
その後、戦治郎と大和は大和が手配しておいてくれた海軍の車で新横浜駅まで送ってもらい、そこから新幹線で広島駅まで向かう。この時、新幹線内で大和を見かけた乗客達が、続々と集まって来て彼女にサインをねだると言う状況になるのだが、大和は嫌な顔一つせず、それどころか笑顔を浮かべながら手渡された物に次々とサインをして、乗客達を狂喜乱舞させるのであった
(ああ、そういや大和はあのクソ野郎の都合でメディア露出してたんだっけか……。だから皆大和にサインねだってるんだな~……)
そんな大和の様子を見ていた戦治郎は、内心でこの様な事を呟いていたのであった……
そうしている内に睡魔が戦治郎を襲い、その誘惑にものの見事に敗北Dを喫した戦治郎は、広島駅に到着し大和に揺り起こされるまでの間、ずっと座席で眠っていたのだとか……
因みに、そんな戦治郎の寝顔は、後に大和のスマホの待ち受け画面になったそうだ……
それから戦治郎達は、今度は呉駅に向かう在来線に乗り換えて呉市に向かい、ようやく到着した呉駅で、ある人物との再会を果たすのであった
「久しぶりだな2人共、待ちくたびれたぞ」
そう言って2人を迎えたのは……
「久しぶりね武蔵、無理なお願いを聞いてくれてありがとう。本当に助かったわ」
「おう武蔵っ!元気にしてたかっ!?」
そう、呉駅で2人を出迎えてくれたのは、現在佐世保鎮守府から呉鎮守府に出向している大和型戦艦2番艦の武蔵だったのである。如何やら彼女は大和からのお願いで、戦治郎達が呉にいる間、移動の足として車を出してくれるのだそうな
如何やら大和と武蔵は実の姉妹だったらしく、横須賀の乱の後にこの事実を知った戦治郎は、それはそれは驚いたそうだ……。まあ無理も無いだろう、この2人は姉妹でありながら本当に似ていないのだから……
因みに大和が言うには、大和は母親似で武蔵は父親似なのだとか……
その後戦治郎達は再会の喜びを分かち合った後、予約したホテルに向かう為に武蔵の車が駐めてある駐車場へ向かい……
「こりゃまたまぁ……」
駐車場に駐めてある武蔵の車を目にした戦治郎達は、思わずそう呟くのであった
「どうだ?中々かっこいいだろう?」
何処か自慢げにそう言った武蔵は、ポケットからキーを取り出すと愛車のドアロックを外し、戦治郎達に自慢の愛車に乗り込む様に促し、戦治郎達はそれに素直に従って武蔵の車に乗り込む。その後武蔵は運転席に乗り込んで、戦治郎達がシートベルトを着けた事を確認すると、力強いエンジン音を辺りに響かせながら、愛車であるランボルギーニのウラカンを走らせ、戦治郎達が宿泊するホテルへと向かうのであった