大和達に見送られながら、戦治郎は試験会場である江田島軍学校の敷地に入った訳なのだが……
(どいつもこいつも……、揃いも揃って俺の事見てやがる……。まあ、こんな格好してりゃぁ気になるのは仕方ねぇ事なんだが……、幾ら何でも皆俺の事見過ぎじゃね……?)
敷地内に入った途端、自身に集まる視線に対して思わずこの様な事を内心で呟くのであった
この時の戦治郎は、周りから注目される理由は自身の格好のせいだと思っているのだが、実際の所それは半分正解と言ったところで、残りの半分はあの大和型戦艦2人を侍らせて試験会場にやって来た事が原因だったりする
特に戦治郎が大和から提督と呼ばれていた事は、近くで戦治郎達のやり取りを聞いていた者達全てに衝撃を走らせたのである
あの【国士無双】と呼ばれた大和が、軍学を卒業するどころか入試前から提督と呼び慕っている存在……、周囲の者達はその事が非常に気になってしまった為、戦治郎に注目してしまったのである……
それ以外にも【勇猛果敢】の二つ名を持つ武蔵の愛車に乗り、彼女の運転でこの会場までやって来た事も、戦治郎が注目を浴びる原因となっていたのである……
そんな事とは露知らず、戦治郎がフェイスベールの下で何とも言えない表情を浮かべながら、自分が持っている受験票に書かれた番号が割り振られた教室へ入り、指定された席に腰を下ろしたところ……
「なぁ、ちょっといいか?」
戦治郎の隣の席に座っていた20代くらいの男が、不意に戦治郎に向かって話し掛けて来るのであった
「あん?何事ぞ?」
「お前と一緒に会場まで来たあの2人、あれって大日本帝国海軍が誇る大戦艦の艦娘の大和と武蔵だよな?【国士無双】と【勇猛果敢】のあの2人なんだよな?」
「ああ~、大和はそうだが……、武蔵はそんな二つ名だったのな……」
話し掛けて来た男に対して、戦治郎がこの様に返答したところ……
「マジかよっ!?あの2人と知り合いなのかっ?!お前一体何モンなんだよっ?!!」
「何モンって……、俺は只の提督になりたいアルビノおじさんだっての」
戦治郎の返答を聞いた男は、戦治郎に向かって興奮気味に質問し、対して男の様子を見た戦治郎はやや呆れ気味にこの様な返事をするのであった
この時戦治郎は、何故この男に対してこの様な反応をしたのか……。それは戦治郎がこの男も艦娘とお近づきになりたいが為に、提督になろうとしているポンコツ野郎共の仲間だと思ったからである
しかし戦治郎のその予想は、彼と会話を重ねる事で間違いであった事が判明するのであった
それからしばらくの間、彼は大和と武蔵と出会った経緯などに関して戦治郎に尋ね、戦治郎は場の混乱を避ける為に、適当な話をでっち上げて彼に戦治郎と大和達との出会いについて話すのであった
その後、試験まで時間があるからと言う理由で、戦治郎はこの男とアルビノについての話や、他愛もない話をしていたのだが……
「なあ、アンタは何で提督になろうと思ったんだ?」
その最中に、本当に唐突にこの男は戦治郎が提督になりたい理由について、不思議そうな表情を浮かべながら尋ねて来るのであった
「何だ?藪からスティックに」
「何だその表現……、ってんなこたぁどうでもいいや。あ~……いやな、アンタの話聞いてる限りだと、アルビノ体質って大変なんだろ?」
「まあな、アルビノは他の奴より肌がデリケートで、こんな格好せにゃ迂闊に外も出歩けねぇからな……。もし紫外線対策を忘れると、すぐに肌は真っ赤に日焼けするし、皮膚ガンになる可能性がかなり高いんだよな~……」
「そんな大変な身体してんのに、何でアンタはそんな格好までして、提督になろうとしてんだ?」
「ん~……、まあ色んな理由があるんだが~……」
このやり取りの後、戦治郎は彼に対してある程度フェイクを入れながらも、自分が提督になりたい理由を話し始めるのであった
アクセル達との交わした約束の事、長門屋の面子や旅の途中で出会った仲間達の安寧の地を作りたい事、そしてそれを実現させる為に今の海軍を変えたい事……、戦治郎は自身が提督になりたい理由を今日初めて会った男に対して真面目に話し、対する男は真剣な表情を浮かべながら、時にはウンウンと頷いて見せながら、黙って戦治郎の話を聞いていたのであった……
「とまあ、基本的には正義云々は糞食らえで、自分の手に届く範囲の身内を全力で守って、日本や世界はそのついでに守れたら儲けって感じだな」
「そうか……、身内を守る為か……」
こうして自分が提督になりたい理由を話した戦治郎が、冗談めかしながら話を締め括ると、静かに戦治郎の話を聞いていた男は、この様な事をポツリと呟くのであった
その呟きが気になった戦治郎が、自分が提督を目指す理由を話したのだから、今度はお前の番だと言わんばかりに彼が提督を目指す理由を尋ねてみたところ、男から意外と真っ当な答えが返って来た為、戦治郎はこの男に対する認識を改める事にするのだった
彼が提督になろうとしている理由は、艦娘達といい仲になりたいと企むそこらのポンコツ達とは違い、単純にこの日本に住む自分の家族や友人を守る為、大体は戦治郎と同じ様な理由で提督を目指しているのだとか……
話を聞いた限り、如何やら彼は海運関係の仕事に就いていた中学時代の同級生を、物資目的で襲って来た深海棲艦に殺されてしまったらしい……
「おめぇが提督になろうとしているのは、そいつの敵討ちの為なのか?」
「正直、そいつとはそこまで仲良かった訳じゃねぇから、そいつの為に復讐しようって気にはならなかったな。ただ、そいつが死んだ原因を聞いて、もしかしたらそいつ等が日本に上陸して来て俺の家族や友人を手にかけるかもしれない……、そう考えたらすっげぇ怖くなってきたんだ……。特にウチには事故が原因で足が少々不自由な妹がいてな、もしそんな事態になったら、妹は間違いなく逃げ遅れるんじゃないかって思ったんだ。だから俺はそうならない様にする為に、奴等の上陸を阻止する為に提督になろうって考えて、今こうして此処にいるんだわ」
彼の話を聞いていた戦治郎がこの様な質問をすると、彼はそれを否定した後真剣な眼差しで戦治郎を真っ直ぐ見据えながら、この様に言葉を続けるのであった
戦治郎が彼に対する認識を改める事にしたのは、その表情と彼の言葉に籠った思いから、彼が言っている事は嘘偽りが一切無い、本心からの言葉であると感じ取ったからである
「なるほどな~……、何かおめぇとは上手くやれそうな気がするわ」
「奇遇だな、俺もアンタの話聞いた時にそう思ったわ」
その後、戦治郎と隣の席の男はこの様な会話を交わした後に固い握手を交わしながら互いに自己紹介を行い、この試験を突破して提督になろうと約束するのであった
これが後に電撃引退を表明する事となる舞鶴の提督の後継者として舞鶴鎮守府の提督となってヒクイドリ派に加入し、長門屋の戦治郎、横須賀の燎、佐世保の兼継と並び称させる様になる、
それからしばらくすると、試験用紙を手にした教官が教室に入って来た為、戦治郎と毅はお互いを激励し合ってから会話を打ち切り、すぐさま試験に臨む準備を整え、教官から試験の説明や注意事項を伝えられた後、教官の合図と共に試験用紙を開いて問題を確認し、解答用紙にペンを走らせるのであった
こうして、戦治郎が提督になる為の戦いが幕を開けるのであった……