勘違いの結果知り合った勉と別れた後、戦治郎と毅は自分達の面接が行われる予定となっている会場へ向かい、自分達の番が来るまでの間、会場に設けられた待合室でシミュレーター試験の際のお互いの編成と戦術について話し合いながら、自分の受験番号がアナウンスされる時を待っていたのであった
その途中、待合室内にアナウンスが流れ、読み上げられた番号の中に毅の番号があった事を確認すると、戦治郎は毅とグータッチを交わしながら彼にエールを送り、その背中を見送るのであった
その後間もなくして、アナウンスで戦治郎の受験番号が読み上げられ、独りになった事で好奇の目の集中砲火を浴びていた戦治郎は、独り気合を入れながら待合室を後にし、自分が面接を受ける事となる教室へと真っ直ぐ向かい、教室の前に置かれた待機用の椅子にどっこらしょと呟きながら腰掛けると、その直後に教室の扉が開いて中から1人の男性が姿を現し……
「……ふん」
長身で細身、視力が悪いのか眼鏡をかけたその男性は、椅子に腰掛けている戦治郎を一瞥すると、まるで戦治郎の事を馬鹿にする様に鼻を鳴らした後、スタスタとこの場を立ち去っていくのであった……
(何だあいつ……、人の顔見るなり鼻で笑いやがって……、クッソ感じ悪い奴だな……)
そんな仕打ちを受けた戦治郎が、もしかしたら呟きを教室内の面接の試験官に聞かれるかもしれないと言う可能性を考慮し、誰にも聞こえない様に内心でそう呟いた瞬間
「次の方、どうぞ中の方へ」
先程男性が出て来た教室から、香取型練習巡洋艦の2番艦である鹿島が姿を現し、そう言って戦治郎に教室に入る様に促すのであった
こうして呼ばれた戦治郎は、それはそれは元気よく返事を返し、面接のマナーに則って教室内に入り、面接官の指示に従って教室内に設置された受験者用の椅子に腰を掛けるのであった
(燎が言った通り、面接官は軍学校の人間ではなく、中国・四国地方に拠点構えてる提督の皆様方か……、大方自分の補佐官にして育成する候補生を品定めしに来たってとこだろうな……)
面接官の顔ぶれを見るなり、彼等の視線を浴びる戦治郎は内心でそう呟く
何故戦治郎が彼等が提督であるかを知っているのかと言えば、横須賀で受験勉強をしていた時に、今後関わり合いになる可能性があるかもしれないと言う事と、面接官が軍学校近辺に拠点を構えている提督で、彼等の功績を調べて面接の時にそこを煽てると良いと言う燎のアドバイスを受けて、江田島の近辺にある拠点の提督の事をとことんまで調べた為である
その後、面接官である提督の内の1人が、戦治郎の名前を聞くよりも早く、何故提督になろうとしているのかと言うテンプレの様な質問をして来て……
「私が提督になろうとしている理由は、友との約束を果たす為、家族の様な仲間達が安心して暮らしていける世界を作る為、そして……、カルメンやアビス・コンダクター、エデンと言った悪意ある転生個体をこの世界から完全に排除し、この世界をあるべき姿に戻し、人類も深海棲艦も、神話生物達もこれまでの様に過ごせる様にする為です」
質問を受けた戦治郎は、そう言って早速切り札を切るのであった
戦治郎の返答を聞いた瞬間、教室内が突如として騒めき出す。それもその筈、転生個体については燎から日本全土に伝えられたのだが、神話生物についての情報は国民の混乱を避ける為に日本では日本帝国軍内だけに留められ、外部にその情報を漏らさない様に緘口令まで敷かれているのである
尤も、現在九州地方の提督志望者の面接を行っている兼継が提督を務める佐世保鎮守府の近辺では、文月によってヴルと名付けられたヴルトゥームが、おつかいの為に文月と共に商店街などに出没し、緘口令の事を知らない文月が周囲にヴルの事を紹介して回った事から、ヴルが火星からやって来た神話生物であり、佐世保鎮守府のマスコットであり、佐世保の守護神と認知されてしまった関係で、既に手遅れと言った状態になっているのだが……
それはさて置き、普通の受験者ならばまず知らないであろう事を、彼等の目の前にいる怪しげな格好をした受験者が口にした……。何故この者はこの事を知っているのか……、この者は一体何者なのか……。戦治郎の言葉を聞いて騒めく提督達が、その発端となった戦治郎に興味を示し……
「その情報を何処で入手した……?君は何者なのだね……?」
面接官である提督の1人が、思わず戦治郎に向かってそう尋ねたところ……
「そう言えば自己紹介がまだでしたね……」
戦治郎はこの様に返答した後、自身の顔を覆うチャドルとフェイスベールを脱ぎ、大きな火傷痕が付いた顔を晒しながら
「私は長門 戦治郎、長門屋海賊団の元リーダーにして、その情報を日本帝国軍にもたらした者です」
戦治郎は提督達を真っ直ぐ見据えながらこの様に言葉を続け、追い討ちをかける様に更なる切り札を切るのであった
次の瞬間、教室内が今まで以上に騒めき始める。何せ彼等の殆どが、遠征の為に南方海域へ送った艦娘達を長門屋海賊団に助けられ、彼女達の報告からその実力を知らされているのである。そんな海賊団の頭目が、現在提督になる為にこうして軍学校の受験に来ている……、その事実を突きつけられてしまえば、彼等が騒めき出すのは当然の事なのである……
そんな中、この場にいる提督の中で最も強面で、威圧感を放っていた柱島泊地の提督が、戦治郎に向かってこの様な事を尋ねる
「君がもし本当に長門屋海賊団の者ならば、横須賀の乱の直前に日本近海で姫クラスの深海棲艦に襲われていた艦娘達を助けていると思うのだが……、心当たりはあるかね?」
「ああ、あの子達ですか……、覚えていますよ。確か体調不良であるにも関わらず、無理して遠征の長距離練習航海に参加して、任務を終えて帰還している最中に体調が悪化して動けなくなっていたところを、ロリータ・コンプレックスの戦艦夏姫の転生個体に襲われていた子達ですよね?」
戦治郎の返答を聞いた柱島泊地の提督は、戦治郎の言葉を肯定する様に静かに頷いた後、周りの提督達が戦治郎の話の内容に驚いて目を丸くする中、腰掛けていた椅子から立ち上がって……
「彼女達が動けなくなった理由、そして彼女達を襲った深海棲艦が転生個体であった事、更に何の転生個体であったかまで答えられるところ、如何やら本物の様だな……。私の部下達を助けてくれた事、心から感謝している……、本当にありがとう……」
そう言って柱島泊地の提督は、面接中であるにも関わらず、戦治郎に向かって礼を言い、腰を45度に曲げて頭を下げるのであった。そう、あの時ロリコン夏姫に襲われていた艦娘達は、彼の泊地に所属する艦娘だったのである
戦治郎達に助けられた彼の部下である艦娘達はこの事を彼に報告し、それを聞いた彼は大切な部下を失わずに済んだ事を心より喜ぶと同時に、どうしても海賊団にこの件の礼が言いたいと思う様になったのである。故に、彼は面接中にも関わらず、この様な行動に出たのである。どうしても戦治郎に礼が言いたいと言う気持ちが、彼をこの様な行動に走らせたのである
その後、柱島の提督の突然の行動に驚いて呆然としていた提督達は、我に返るなり慌てた様子で椅子から立ち上がって南方海域に遠征に出た艦娘達を助けてくれた件について戦治郎に向かって礼を言って揃って頭を下げると、面接そっちのけで戦治郎に対して転生個体や神話生物に関する質問や、海賊団が強い秘訣についての質問を嵐の様に浴びせ、戦治郎がその質問を何とか捌いていると、いつの間にか面接は提督達と戦治郎による雑談会となり、仕舞いには教室内には笑い声まで響き始めるのであった
そんな光景を、鹿島は只々呆然としながら見守っていたのであった……
それからしばらく経ったところで、提督の1人が面接時間が受験者1人辺りに与えられた時間を超過している事に気付き、それを合図に面接と言う名の雑談会は終了し、戦治郎は面接官である提督達に名残惜しそうに見送られながら、面接が行われた教室を後にするのであった……
因みにこの時戦治郎は、提督達から戦治郎が提督になれる様に尽力すると約束され、そのおかげで入試の総合成績1位を獲得し、見事軍学校に入学する事に成功するのだが、この事実を戦治郎が知るのは合格発表が行われた後となり、戦治郎は合格発表までの間、不安に駆られて震えながら日々を過ごす事となるのであった……
尚、各試験の戦治郎の成績だが、面接とボードゲームはぶっちぎりの1位、筆記試験は面接前に戦治郎を鼻で笑った眼鏡の男、後に呉鎮守府の提督となる