艦娘候補生との初遭遇
大和達と共に軍学校入りを果たした戦治郎は今、軍学校の敷地内にあるとある設備を見つける為に、凄まじい焦燥感に駆られながらも、周囲をキョロキョロと見回しながら早足で歩き回っていた……
戦治郎がこの様な事態に陥る少し前、他の教官への挨拶や入学式の打ち合わせを終えた戦治郎は、入学式の準備を手伝う事となった大和達と一旦別れ、受験の時には出来なかった軍学校の見学を独りで行っていたのであった
それにより戦治郎は江田島の軍学校が如何に広大であるかを知り、思わず感嘆の声を上げるのであった。そう、この江田島の軍学校だけでなく、横須賀や舞鶴にある軍学校もそうなのだが、大日本帝国軍が運営する軍学校と言う施設は兎に角広大なのである
何せ軍学校に通うのは提督候補生だけでなく、艦娘候補生や艦娘達の艤装や兵装の修理や改修を担当する整備兵の候補生、更には航空基地設置や仮拠点設置、そして敵拠点に対しての破壊工作などを行う工兵の候補生や、組織の経理や衣類の準備や食事の準備などを担当する主計科の者達までもが通う事になっているのである
その関係もあって軍学校を運営するにあたって必要な施設の数が膨れ上がり、結果として軍学校は巨大な施設となっているのである
そんな広大な軍学校を見学していた戦治郎の身に、緊急事態が発生してしまう……。それは突如として戦治郎に襲い掛かり、襲撃を受けた戦治郎は必死に抵抗を試みるのだが、健闘虚しく戦治郎はそれに屈しある物を解き放ちたいと言う衝動に駆られる様になってしまうのであった……
そう……、戦治郎を襲ったものの正体……、それは尿意……、膀胱に溜まった尿を体外に排出しようとする生理現象だったのである……
これだけならそこまで問題にならないのだが、とある事情によりこの尿意は大いに戦治郎を苦しめる事となるのであった
悲しい事にこの時の戦治郎は、軍学校の内部構造をまだ完全に把握しておらず、軍学校の敷地内にあると言う来客用多目的トイレの場所を知らなかったのである……
ここに来て戦治郎の身体は女、心は男である事が災いする……
もし身体も心も男か女だった場合、本当にすぐ近くにあるトイレへ駆け込む事が出来るのだが、身体が女である以上男子トイレに突撃する訳にもいかず、かと言って女子トイレに突撃するのは男としてどうなのかと思った結果、周囲に自分と同じ様に早くから軍学校にやって来て、軍学校内を見学している候補生と思われる者達がいた事も相まって、戦治郎は目の前にあるトイレに入る事が出来なかったのである……
ここで戦治郎に更なる不幸が襲い掛かる……
何とこの時の戦治郎、軍学校の地図が書かれている校内案内の冊子を、この軍学校の何処かで入学式の準備を手伝っている大和に預けたまま、校内見学を始めてしまったのである……。この時ばかりは、流石の戦治郎も己の迂闊さを呪ったそうな……
一応、この時戦治郎は、周囲にいる者達に多目的トイレの場所を尋ねようとしたのだが、その者達が怪しげな格好をした戦治郎が近付いた瞬間、脱兎の如く逃げ出してしまう為、戦治郎は多目的トイレの場所を自力で探さなくてはいけなくなってしまうのであった……
この様な事情があった為、現在の戦治郎は限界破裂寸前の膀胱を何とか抑えながら、多目的トイレを求めて校内を早足で歩き回っているのである……。もしここで、早く移動をしようと走ってしまおうものなら、戦治郎の膀胱は走った際に発生する衝撃によって、あっけなく決壊してしまう事であろう……。故に、戦治郎は膀胱を下手に刺激しない為に、早歩きで移動しているのである……
それからしばらくの間、凄まじく険しい顔で校内を歩き回った戦治郎は、遂に探し求めていた多目的トイレを発見し、高速すり足歩行で多目的トイレへ接近するのだが……
「……鍵が……、掛かってる……?」
戦治郎がスライド式の扉を開こうとしたところで、扉は戦治郎の手に何かが引っかかる様な感触を伝え、それにより扉に鍵が掛かっている事に気が付いた戦治郎は、思わずそう呟くのであった……
もしこの時、戦治郎の心に余裕があったならば、トイレが空く事をこの場で大人しくと言う選択肢が頭に浮かんだ事だろう……。しかし、今の戦治郎はかなり切羽詰まっており、冷静な判断が出来る状態ではなかったのである……
(鍵が掛かっているのならぶっ壊してでも中に入るっ!そして用を足した後証拠隠滅の為に鍵を即座に修理するっ!!案内冊子こそ大和に預けちゃいたが、工具に関しては今も腰に取り付けている装備格納用ボックスに入れているっ!これならきっといけるはずっ!!!)
尿意のせいで冷静さを欠いた戦治郎は、内心でそう呟くと現在掴んでいるトイレの扉の取っ手を強く握り締め……
「じゃっしゃあああぁぁぁーーーっ!!!」
気合の掛け声と共に勢いよく扉をスライドさせて、戦治郎は扉の取っ手と鍵を破壊して扉を開く事に成功するのであった
こうして戦治郎はトイレの扉を開くのだが、ここで少し考えてみよう。何故トイレの扉に鍵が掛かっていたのかについて……
まあ普通ならそんなに考えなくても分かる事だ、トイレの扉に鍵が掛かっていると言う事は、そのトイレは誰かが現在使用していると言う事だ……。つまり、先程戦治郎が鍵を壊してまで入ろうとしたトイレには……
「……へ?」
当然の事ながら、トイレの中には艦娘候補生と思われる青い長髪をトリプルテールにした女性が入っており、突如トイレに入って来た戦治郎を見るなり、洋式トイレに座っていた女性は思わずこの様な声を上げ、呆然としてしまうのであった……
「……あっ」
その声を聞いた事でようやく冷静さを取り戻した戦治郎は、見る見るうちにその顔を真っ青にしながら間抜けな声を上げ……
「失礼しましたあああぁぁぁーーーっ!!!」
「きゃあああぁぁぁーーーっ!!!」
謝罪の叫びと共に戦治郎が扉を閉めた直後、トイレの中から女性の……、巡潜乙型潜水艦の3番艦の伊19、通称イクの艦娘候補生の悲鳴がトイレの扉を震わせるのであった……
因みに、この多目的トイレは防音性が非常に優れており、扉をしっかり閉めておけば外からの音も、トイレの中の音も完全シャットアウト出来る様になっている。その為、イクの悲鳴は咄嗟に戦治郎が扉を閉めた関係で、ひしゃげた扉の取っ手を手にしていた事で骨伝導で悲鳴が聞こえた戦治郎以外の誰の耳にも届く事は無く、戦治郎はイクに全身全霊全力全開の謝罪を行ってイクから何とか許しを得ると、即座にトイレの鍵と取っ手の修理を行って証拠隠滅を図り、この事件を闇に葬り去って無かった事にするのであった……
こうして戦治郎が江田島の軍学校で初めて遭遇した艦娘候補生のイクは、戦治郎と協力して無事に軍学校を卒業し、護が長門屋鎮守府が稼働し始めたその日に瑞鶴目当てで空母レシピで建造を行った結果、同期の瑞鳳が長門屋鎮守府に着任する事となった事を知ると、その場に居合わせた神風と共に元帥に直接交渉を行い、見事元帥から許可を得ると瑞鳳達と共に稼働2日目の長門屋鎮守府に着任するのであった
因みに、イクはある事情でガチギレした悟の戦いを目の当たりにし、その戦いの壮絶さにより悟に対して軽いトラウマを抱える事となるのだが、そのトラウマを植え付けた張本人による治療の結果、トラウマは苦手意識程度にまで抑えられる事となるのだが、これらの出来事は如何やらまだまだ先の話になりそうである……