戦治郎達がイクを仲間に引き込もうと画策している頃、戦治郎達よりも早く横須賀鎮守府を発ち、長門屋鎮守府建設予定地である佐賀県は鹿島市にある七浦干拓に到着した空達は、目の前に広がる光景を目の当たりにすると……
「荒れた畑だらけだな……」
「まあ、海岸沿いは深海棲艦に襲われる危険性があるからな、この畑の持ち主だった連中は泣く泣く畑を手放したんだろうよ」
「まあそうだろうな……、命あっての物種だからな……」
皆の心境を代弁する様に、空と輝と光太郎がこの様な感想を口にするのであった
空の発言に反応した輝が言う様に、この場所は有明海の一部を干拓して作られた土地である為、目と鼻の先に有明海が広がっているのである。もしも農作業中やこの地で開催されている鹿島ガタリンピックの最中に、住民やイベント参加者が深海棲艦に襲われてしまえば一溜まりもないと言う事で、事態を重く見た鹿島市はガタリンピックの開催を安全が確認されるまでの間中止し、農家の者達には畑を手放し安全な場所に避難する様にと勧告を出し、それに従った農家の方々は、泣く泣く畑を手放し内陸部の方へと避難したのである
又、避難勧告を受けたのは何も農家の方々だけではない、有明海は海苔の名産地であり、その生産量は日本一を誇っているのである。そう、その海苔の養殖に携わっている漁業関係者達も避難勧告を受け、悔し涙を流しながらこの地を去って行ったのである
こうして深海棲艦によって内陸部に避難した者達が、何とかして自分達の故郷を取り戻して欲しいと言う願いを込めて嘆願書を作成、その事を知った鹿島市や鹿島市の漁協も協力する為にその嘆願書に職員全員で署名し、その嘆願書は鹿島市市長の手で大日本帝国海軍の元帥の下に届けられるのであった
そうして嘆願書を受け取った元帥は、最初は佐世保鎮守府に有明海の奪還と警護を指示するのだが、赤城達の活躍により何とか有明海の奪還に成功はしたものの、大規模作戦参加などで忙しい佐世保鎮守府だけでは継続的に有明海を警護するのは難しい、出来ても予備戦力を良くて2週に1度、最悪月1くらいの頻度で派遣するのが関の山と言う連絡を受けるのであった
その事を元帥が鹿島市に伝えたところ、それではまだ不安が残るから如何にか対策して欲しいと頼まれ、更にその頃になってプロフェッサーの支援により桂島の提督が台頭し始め、海軍全体がその対策の為慌ただしくなってしまい、折角鹿島市が農家の方々と交渉し、畑の補償をする代わりに畑を海軍に譲渡してくれる事で鎮守府を建てる土地が確保出来たにも関わらず、鎮守府建設に一向に着手出来ずにいた元帥は頭を抱える羽目になったのだった
そんな中、世界規模で深海棲艦や転生個体を打倒して来た戦治郎が、元帥にとって目の上のたんこぶであった桂島泊地の制圧を手土産に、横須賀鎮守府に現れるなり提督になりたいと申し出て来たのである
それを聞いた元帥はこれは天の助けであると受け取ると、戦治郎に七浦干拓に鎮守府を建設出来れば好きに使っても良いと約束し、軍学校に行く事になった戦治郎はそれを聞くなり空と輝に相談し、空達は戦治郎が軍学校を卒業するまでの間に、その地に立派な鎮守府を建てて、提督となった戦治郎を迎え入れる事を約束するのであった
「さぁて、取り敢えず目的地に着いた事だし、早速仮拠点作っちまうかっ!!!」
「か、かか仮拠点の方は、ぼぼぼ僕と輝さんでや~っておきますので、みみ、皆さんはひひ輝さんとそっ空さんが書いた、ちち鎮守府のせっせせ設計図をみみみ見てよ~くあ~たまにいい、入れてて下さいね」
「承知した、そちらはお前達に任せた。では俺達は仮拠点が出来るまでの間、設計図の内容を頭に叩き込んで作業手順の確認を行うぞ」
さて、空達のやり取りから間もなく、輝がそう言って自身の艤装から仮拠点建設用の建材を取り出し始めると、藤吉が残りのメンバーに対してそう言い残して、輝の方へと駆け寄り輝の手伝いを開始する。そんな藤吉の言葉を受けた空が、残りのメンバーに向かって指示を出しながら手にしたタブレットを操作し、輝と空が皆の要望を聞いて回ってその内容を纏め上げ、協力して書き上げた長門屋鎮守府の設計図を表示させると、それを確認する為に残ったメンバーがゾロゾロと空の下に集まり始めるのであった
そのメンバーの中に、悟、太郎丸、弥七の姿は何処にも無かった……
そう、彼等は資格取得の為に横須賀に残り、今も研修医として現場で働いていたり、勉学に励んでいるのである
長門屋鎮守府専属の軍医になろうとしている悟は兎も角、何故太郎丸達まで資格取得の為に残ったのかと言えば、それは彼等が取得しようとしている獣医の資格が大きく関わっているのである
太郎丸と弥七が獣医を目指す事となったのは、空達が皆に要望を聞いて回っていた時、弥七が安定して良い肉を供給出来る様に、鎮守府の敷地内に牧場を作りたいと言い出した事が切っ掛けとなっているのである
この時に空がその場合、身内に獣医がいれば作業が捗るだろうと零したところ、その呟きを耳聡く聞いていた弥七はだったら自分が獣医になると言い出し、空が獣医には臨床獣医師と行政獣医師がある事を弥七に教え、その両方を取るつもりなのかと尋ねたところ、弥七は太郎丸を巻き込んでそれぞれの獣医師の資格を取る事を宣言したそうな……
尚、この件に巻き込まれた太郎丸だが……
「ご主人様に美味しいお肉が提供出来るなら、僕はそれで構わないよっ!それに僕は色んな動物と会話が出来るから、獣医になったらこの力をフルに活かせるだろうからねっ!」
そう言って、獣医になる事を了承していたりする
こうして、弥七は検査のエキスパートを、太郎丸は治療のエキスパートを目指して、獣医になる為に横須賀に残り勉学に励んでいるのである
因みに、本来獣医になるには6年もの間大学に通った上で、資格取得試験に合格する必要があるのだが、この世界では例の資格取得の難易度緩和の関係で、人間の医師と同じく試験の合格と2年の実務経験で取れる様になっているのだとか……
一応、最初は獣医師の資格もペーパーテスト1つで取得出来る様になる予定だったのだが、幾ら法で動物が物に分類されるからとは言え、これは流石に動物の命を軽視し過ぎなのではないかと言う意見や、獣医師は病原菌や毒物の国内侵入を防ぐ検疫に関わる都合、今まで通りでいいのではないかと言う意見が出た為、折半案としてこの様な形になったのである
この様な理由で横須賀に残った3人が、無事に必要な資格を取得し空達と合流するのは、来年の3月下旬辺り、空達が新しい仲間を1柱加えながら鎮守府を完成させ、戦治郎達が軍学校を卒業し長門屋鎮守府にやって来る少し前くらいになるのであった
「おっしゃっ!!!仮拠点出来たぞーっ!!!」
そうこうしている内に、輝達が本日長門屋のメンバーが寝泊りする仮拠点をあっという間に完成させ……
「よし、ならば俺達はすぐに仮拠点で作業服に着替え、予定通り地盤強化工事に取り掛かるぞ」
\応っ!!!/
輝の言葉を合図にして、空が長門屋のメンバーに指示を出すと、指示を受けたメンバーは先程輝が建てた仮拠点の中に入ると着替えを済ませ、すぐさま長門屋鎮守府建築の為に必要な作業を開始するのであった
こうして、長門屋のメンバーだけで1年以内に長門屋鎮守府を完成させると言う空達の戦いは、干拓によって作られた事で地盤が緩く建物を作る事に不向きなこの土地を、鎮守府建築に耐えられる土地に作り変える事からスタートするのであった