戦治郎達の江田島入りと空達の鹿島入りから数日経過し、暖かな日差しの中桜の花びらが舞う4月の始め、江田島軍学校では入学式が開催されていた
入学式の会場である江田島軍学校内にある屋内訓練場の中には、今年から軍学校に通う事となる提督候補生以外にも、艦娘候補生や他の兵科の候補生達までもが集まっており、その関係で中学や高校の入学式の様に後方に保護者席が無く、屋内訓練場全面を生徒で埋め尽くせる状況であったにも関わらず、この場に集まった者達は誰もが会場に狭苦しさを感じるのであった
そんな中入学式は恙なく進行していき、軍学校の校長の話と来賓の方々の話が終わると、来賓の方々の話の為に壇上から降りていた校長が再び壇上に上がると、首席入学である戦治郎による答辞が始まるのであった
司会に名前を呼ばれた戦治郎は元気よく返事すると、候補生達の座る席の間に空いたスペースを通って、この式の為に設置された壇上に立つ校長の前に出て、前もって準備しておいた答辞を読もうとするのだが……
(おほ~……、皆の視線が俺に集中するんじゃ~……。これ絶対首席云々よりこの格好に対しての好奇の目なんだろうな~……)
その道中、会場内にいる全員の視線を浴びる戦治郎は、顔を覆うフェイスベールの下で苦笑しながら内心でこの様な事を呟くのであった
実際、戦治郎の予想通り彼に集まる視線の殆どは、軍学校の制服である黒のズボンと同じく黒のホック式短ジャケットを着用した上から、全身をスッポリと覆う黒いチャドルを纏った戦治郎のその姿に注がれており、そんな戦治郎を見る誰もが引き攣った表情を浮かべていたのであった
そんな中、不意に他とは毛色が違う視線を感じ取った戦治郎が、思わずそちらの方へと視線を送ったところ、その先には教官として屋内訓練場の壁際に立って式に参加する大和や綾波、那智や五十鈴と言った戦治郎の事をいる者達の姿があり、戦治郎はその視線が戦治郎に対しての激励であると気付くと、心の中で彼女達への感謝の言葉を述べた後、気合いを入れて校長が待つ壇上へと上がり、背筋をしっかりと伸ばし1度も詰まる事無く大きな声で答辞を読み上げるのであった
因みに、そんな戦治郎の雄姿を映像として残そうと企んでいた大和だが、情報漏洩防止の為に会場にカメラやスマホを持ち込む事を禁じられている事を知ると、ガックリと肩を落とす……と思いきや、こっそりと会場に持ち込んだ戦治郎から貰った護特製通信機に内蔵されたカメラを使用して、答辞を読み上げる戦治郎の姿をバッチリと撮影し、その映像は空達が作り上げた長門屋鎮守府に戦治郎達が到着した際、長門屋のメンバー全員に公開され、その映像の戦治郎と普段の戦治郎とのギャップのせいで、戦治郎が恥ずかしさの余り地面を転がって悶える中、辺りに長門屋のメンバーの爆笑が響き渡る事となるのであった……
こうして戦治郎による答辞が終わり、戦治郎が席に戻った後も滞りなく式は進んでいき、ようやく長かった入学式が終わると候補生達はクラス担任となる教官の誘導の下、各々の教室へと向かって行くのであった
そうして教室に辿り着いた後、戦治郎達提督候補生達は割り当てられた席に着き……
「今日から1年の間、このクラスを受け持つ事になりました、練習巡洋艦の香取です。皆さんが立派な提督となりこの日本の為に、そして世界の為に活躍出来る様指導していきますので、どうぞよろしくお願いします」
戦治郎達のクラス担任となる香取型練習巡洋艦の1番艦である香取の自己紹介を聞き、クラスの大多数の野郎共が彼女の美しさに思わず感嘆の声を上げると……
「尚、もし何か問題がある行動を行った生徒には、厳しく躾をさせてもらいますので悪しからず……」
直後に香取はこの様に言葉を続け、まるでドライアイスの様に冷たい笑顔を浮かべながら威圧感を放ち始め、その笑顔に恐怖を覚えた候補生達は、それはそれは元気一杯に返事をするのであった
只1人、こいつを除いて……
「Heyカトリーヌ、それだと一部の生徒にはご褒美になるんじゃないです?」
只ならぬオーラを発して候補生達に釘を刺す香取に対して、戦治郎はその威圧感に一切怯む事無く手を振りながら、まるで海外の通販番組に出演する外国人の様なノリでこの様な言葉を掛けるのであった
その直後、教室内の空気が一瞬にして凍り付き、候補生達は驚愕の表情を浮かべながら一斉に戦治郎の方へと視線を注ぎ……
「……今年は躾甲斐のある生徒がいるようですね……」
「応、バッチコイってんだ」
そんな戦治郎に向かって、先程以上の威圧感を放ち始めた香取がこの様な言葉を口にすると、戦治郎は香取の威圧感をも飲み込んでしまう程の気迫を放ちながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてこの様に返答するのであった
そんな2人の威圧感のぶつけ合いに圧倒された周囲の候補生達が、その顔を真っ青にしてオロオロしながらその様子を見ている中、1人の候補生が誰にも気付かれぬ様声を押し殺して笑っていたのであった……
因みに、戦治郎が何故教官である香取に対してこの様な態度を取ったのかと言えば、それは単純に香取の相手に圧をかけて制御しようと言うやり方が気に食わなかったからであったりする……
これにより、戦治郎は提督候補生達からは変わった格好をした優秀な不良と認識され、それと同時に先程の戦治郎のセリフによって、候補生達からの香取の渾名がカトリーヌになってしまうのであった
尚、この事を香取から聞いた大和達は、一部の者達は思わず頭を抱えて唸り出し、一部の者達は話を聞いた直後に表情を引き攣らせ、最早戦治郎のシンパと成り果てた大和だけは……
「流石は大和の提督……、教官を恐れずその様な事を口にするなんて……、そんな豪胆な提督を傍で支える事が出来る大和は、なんて果報者なのでしょう……」
香取の言葉を聞くなりこの様な言葉を呟きながら恍惚とした表情を浮かべ、共に香取の話を聞いていた者達全員をドン引きさせるのであった……
「よう戦治郎、お前入学初日から飛ばしてんな~」
戦治郎と香取のあのやり取りの後、気を取り直した香取が候補生達にこれから1年間の軍学校生活について説明し、休憩を挟んだ後校内を回って軍学校の設備の説明をすると言い残して教室を後にした後、候補生達から遠巻きに注目される戦治郎に向かって話し掛けて来る候補生が現れるのであった。先程のやり取りの中、唯一声を押し殺して笑っていたあの候補生である
「おっ、毅じゃ~ん。おめぇもこのクラスだったのな」
それによりその候補生に気付いた戦治郎は、ほんの僅かに驚きの表情を浮かべた後、この様な言葉を彼にかけるのであった。そう、その候補生とは入試の時戦治郎と行動を共にしていた、あの毅だったのである
「ああ、正直お前と同じクラスで助かったって感じだな。俺、お前と勉以外此処に知り合いいねぇからな……」
「紅葉の事も、時々でいいから思い出してあげて……。ね……?」
「いや……、俺あいつちょいと苦手だし……」
その後、戦治郎と毅はこの様な調子で雑談を交わした後……
「取り敢えず、お前と一緒のクラスなら、退屈せずに1年間過ごせそうだな。改めてよろしくな」
「応、こっちこそよろしくな、相棒」
どちらともなくグータッチを始め、互いに拳をくっ付け合ったままこの様なやり取りを交わすのであった
こうして、戦治郎達の軍学校生活の幕は上がり、戦治郎と毅は無事に提督になれる様、互いに激励し合いながら切磋琢磨する事となるのであった