ビスマルクがアクセルとやらとの通信を終えその内容を戦治郎に話したところ、通信用の装置については手配してくれるそうなので、それを受け取るのと恐らく私達が今度制圧する補給拠点の件についての交渉と、フェロー諸島攻略時に協力してくれるドイツ艦娘達の訓練についての話し合いの為に戦治郎は太郎丸と大五郎を連れてビスマルク達ドイツ艦隊と共にドイツへ向かった。太郎丸も連れて行ったのはグラーフとやらだけでは制空権確保が厳しくなるのを懸念したからである
装備の改造や開発で忙しい工廠組を除いたメンバーで戦治郎達の姿が見えなくなるまで見送った後、私達は当初の予定通りこちらの艦娘達のトレーニングを再開するのであった。尚、そのメンバーに陽炎と不知火が追加されていた
「アクセルの奴通信装置タダでくれるとか太っ腹だなおい……って事で俺はちょっくらドイツまで行って通信装置受け取ってくるわ、留守番頼んだ!っと太郎丸と大五郎はすまんが付いて来てくれ!んじゃビス子、案内よろしく!」
戦治郎はそう言って海に駆け出す、太郎丸と大五郎も戦治郎を追いかけ走り出すのだが……
「って、陽炎、不知火、どうした? おめぇらはこっちだろ?」
陽炎と不知火も自分の後に付いて来るものだと思っていた戦治郎は不審に思い2人に声をかける。この2人がヨーロッパに残った理由は既に解決したようなものだから、一緒にドイツへと向かいそこから日本へ帰還するものだと思っていたからだ
「何で私達がそっちになるのよ?」
質問に対してムッとしながら答える陽炎の姿を見て困惑する戦治郎
「不知火達は天津風達と神通教官と共に日本へ帰還という目的を達成していないのでそちらへ付いて行く事は出来ません」
陽炎に続くように不知火が言う、どうやらこの2人は何としてでも天津風と神通を日本に連れ戻したいようだ。それについては会議の後に天津風と神通の2人から直接話を聞いていたはずで、その決意と覚悟は陽炎達にも伝わっているはずなのだが……
「いあ、あいつらは戻るつもりないtt「ああーもう!分っかんないかなー!」う?」
その件について話そうとする戦治郎の言葉を遮って話始める陽炎
「あの2人が今すぐ日本に戻るつもりはないってのは分かってるわよ!だったら私達もそれに付いてくって言ってるのよ!貴方達の最終目標は日本に帰る事なんでしょ?!」
「貴方達の最終目標が日本への帰還、天津風と教官は貴方達に付いて行くと言っています。ならば不知火達もそれに同行すれば不知火達の目的も達成出来る、違いますか?」
成程確かにそうだ、心の中で私は納得する。しかし……
「いやいやいや、確かにそうだが俺らと一緒に行くのは危険過ぎr「天津風は良くて私達がダメなのはどう説明するのよ?」オウフ……」
「それに会議のときに人手が欲しいと言ってましたよね?不知火達では力不足と言うのですか?」
これを言われてしまうともうダメだな……、この2人を受け入れるしかないぞ戦治郎……
それにこの2人も天津風とは形は違うが相当な決意と覚悟をしているのが眼を見れば分かってしまう。自分達は無事逃げる事が出来たが天津風や他の仲間達を見捨てる様な真似をした償い、自分達の無力さを思い知らされた悔しさ、そして助け出された2人を今度こそは何としてでも守り徹そうとする意志、そういった感情がヒシヒシと伝わってくる眼差しだ。そんなものを向けられれば……
「……どうなっても知らんぞ?」
やはり戦治郎が折れた、あいつはそういうのに弱いからな……、その返事を自分達を受け入れると受け取った陽炎達は歓喜の声を上げていた
「ああもう……、剛さん、俺がいない間こいつらも一緒に鍛えててもらえます?」
戦治郎が私に2人の事を頼んで来る、まあそうなるだろうと思っていたので
「分かったわぁ、丁度この後艦娘の皆にはランニングしてもらうつもりだったから陽炎ちゃんと不知火ちゃんも一緒に走ってもらう事にするわね♪あぁ、その前に2人には工廠に行ってリミッター解除してもらわないといけないわねぇ……、アタシが工廠まで案内してあげるから2人は付いてらっしゃい♪他の子は今のうちにしっかり身体をほぐしておきなさ~い☆じゃあ陽炎ちゃん、不知火ちゃん、行きましょう♪」
私はいつも通りオネェ口調で道化を演じながら2人を工廠へ案内する
妙にハイテンションになっている工廠組に陽炎と不知火の艤装を渡して浜辺に戻る途中、陽炎が私に質問してきた
「剛さんってそんな口調していますけど……、その……そっち系の人なんですか?」
やはりこの口調の事か……、私にはその気はないので正直に答えておくとしよう
「この口調は皆を和ませる為にやってるつもりだからアタシはその気はないわよぉ?自分の事も男ってしっかり自覚してるしね☆」
「そう……なのですか……」
不知火も疑っていたようだな……、まあ仕方がない事だ……
「この口調で話し始めたのは軍のお仕事を辞めた後だったわねぇ、身長2mクラスで体重も120kgオーバー、体脂肪率1ケタの男とか見るからに怖いじゃない?」
「ぶぼっ!」「えぇ……」
陽炎が吹き出し不知火が引いている……解せぬ
「見た目がこんなだからアタシを見る人皆怖がっちゃうからねぇ、それを和らげる為にこの口調を始めたのよ♪まあ、クセになっちゃったあたりで戦ちゃんにその体格でその口調は余計怖いって指摘されちゃったんだけどねぇ……」
「そりゃそうよ……、筋肉ムキムキの巨人がオネェ口調で話すとかちょっとしたトラウマになるわよ……、女の子とか寄り付かなそう……」
む、これは少々失礼ではなかろうか、ならば現実というものを教えておこうではないか
「あら、アタシこれでも結婚した事あるのよ?」
「「えっ!!!」」
そんなに驚かなくてもいいではないか……、そんなに意外だったのだろうか……?
「歳も今45くらいだし結婚くらいしたわよぉ、子宝には恵まれなかったし妻には先立たれちゃったけどねぇ~……、軍を抜けたのも8割はこのあたりが理由だったりするのよねぇ~……」
話を聞いた2人の表情が凍り付く……いかん、やはりこの話はするものではないな……、空気が重くなるし私自身も悲しくなる……、無意識の内に懐のハンドガンを引き抜き見つめる……
「? そのハンドガンは?」
私がハンドガンを見つめている姿を不思議に思ったのか先程のショックから立ち直った不知火が尋ねる
「この子? この子は『ヘルハウンド』って名前のアタシの最高の相棒よ、何故この世界にあるのかは分からないんだけどねぇ……」
「それってどういう事?ハンドガンなんて色々種類あるでしょ?」
陽炎がそう思うのは仕方ない、しかしこのハンドガンがこの世界に存在する事そのものがそもそもあり得ないはずなのだ、何故なら……
「このハンドガンは兵器開発に携わっていた亡き妻が当時軍人だった私の為だけに設計開発したものなのだ……、この拠点の武器庫でこいつを見つけたときは正直本当に頭がおかしくなりそうだった……、何故こいつがここにあるのかと……な……」
陽炎と不知火は驚愕し言葉を失っている……、こちらの事情は2人にも話しているのでこの出来事の異常性は理解出来るはずだからな……
「「剛さん……、普通の話し方も出来るんですね……」」
驚いてる理由そこかよっ! 最初に皆を和ませる為にわざとやってると言ったではないか!……っといかんいかん、冷静にならねば……
「話し方は兎も角、あれじゃないですか? 自分も力になりたいから大切な持ち主のところに一緒に飛んできた~って感じで」
「戦治郎さん達のペット達という例もありますからね、もしかしたらその可能性もあるかもしれませんね」
陽炎と不知火はどうにかして良い方向に持っていこうとしているが、私はどうしてもそう考える事が出来なかった……、ヘルハウンドの事を考えるとどうしても嫌な予感がしてしまうのである……
「っと、このあたりでこのお話はお仕舞~い☆摩耶ちゃん達を待たせちゃってる事だしそろそろ急いで浜辺に戻りましょ♪……2人共ありがとう」
予感の事は取り敢えず置いておく事にしてそろそろ向こうへ戻るよう2人に促す、最後の礼は聞こえないくらいに呟いた
「2人が簡単に沈まないようにする為にしっかり鍛えてあげるから、頑張って頂戴ね♪」
私の言葉に2人は引き攣った表情で返事をして浜辺へ駆けだして行った、ついつい教官をやってた時のオーラをぶつけてしまったのが原因だろう……、まあそれで真面目にトレーニングしてくれればいいか
私はヘルハウンドを懐に戻し2人の後をゆっくりと追うのであった