軍学校の入学式から時が経ち、咲き乱れていた桜もその花びらを散らし終え、新緑の葉を身に纏う5月になった頃、軍学校の提督科ではクラス替えが行われていた
入学からたった1ヶ月で一体何があったのか?それは単純に軍学校のそれはそれは厳しい訓練に追いつけなかった提督候補生達が、軍学校側から叩き出されたり、泣く泣く自主的に退学を届け出たり、隙を見計らって夜逃げする様に脱走した事が原因である
さて、その訓練がどれ程厳しいのかと言えば、候補生達はマルヨンマルマルに総員起こしをかけられ、急いで身支度を整えるとグラウンドに集合し、先ずは教官による服装のチェックを受けるのである。そしてそれで服装の乱れを教官に見つかると、候補生達全員が連帯責任としてその数の10倍の回数ほど腹筋、背筋、スクワット、腕立て伏せを1時間以内にやり遂げる羽目になるのである
そしてそれが終わったら今度は1時間以内にグラウンドを30周ほど走らされ、時間内に完走出来た者達はマルロクマルマルまでにシャワーを浴びるなりして汗を流した後、ようやく朝食にありつく事が出来、それを終えると候補生達は教室へ向かい教官が来るまでに授業の準備を整えてから授業を受ける事となっているのである
尚、もし時間内にこれらの訓練を達成出来なかった場合、その者達は朝食を食べる事さえ許されず、汗臭い姿のまま授業を受ける羽目になっていたりするのであった……
その結果、この生活に耐えられなくなった、或いは追いつけなくなった者達が次々と脱落していき、入学式の時は200人もいた提督候補生達は、今ではその半分である100人ほどにまでその数を減らしてしまっていたのである
こう言った事情があった為、提督科ではクラスの統合を目的としたクラス替えが行われ、その関係で戦治郎達のクラスに紅葉がやって来たのであった
因みにこれによって空になった教室は、現在授業で使用する資料や教材を置いておく倉庫として利用されていたりする
又、脱走した候補生が寮に置いて行った私物に関しては、預かり期間など設ける事無く、問答無用で処分されている。そんな理由で軍学校が脱走した候補生達の私物を、業者に引き取ってもらって処分する光景を見ていた候補生達は、脱走だけはしない様にしようと固く心に誓うのであった
「まあ、この程度の訓練で音を上げてたら、提督なんてやってらんねぇよな」
「んだんだ、海軍の拠点に勤務する事になる提督は、深海棲艦から拠点を襲撃される事もあっからな~。実際、ラバウルはそれで完全に更地にされてっし、那智教官が所属するトラック泊地も、通常の深海棲艦と転生個体に同時に襲撃された事あるらしいし、あの源中将も泊地を襲撃しに来た転生個体を返り討ちにした事で、今の地位にいる訳だかんな~」
こうしてクラス替えが行われE組と合併したA組の教室では、毅と戦治郎が休み時間中にこの様な会話をしていた
「戦治郎さん?アナタ何でそんな事知ってんの?普通の候補生は、海外の泊地なんかの事情なんて分かんないと思うんだけど……?」
「何言ってんだ紅葉、提督たるもの日本国内の事情だけでなく、海外の事情に対してもアンテナ立てておくべきだぞ?もしかしたら俺達の内の誰かが、海外の拠点に着任する可能性だってあるんだからな」
「それは……、まあそうだけど……」
そんな中、戦治郎達の話を聞いていた紅葉が、戦治郎の発言に反応してこの様な事を尋ねると、戦治郎は紅葉に対してこの様に返答し、それを聞いた紅葉は呟く様にしてこの様に言葉を返した後、黙り込んでしまうのであった
「あ~……、それはそうと、今日は遂に合同実習が行われるんだよな~」
そんな紅葉の様子を見た毅が、話題を変えるべく今日初めて行われる事となる、艦娘候補生達との合同実習について触れるのであった
毅が言う様に、4月の間は候補生達の基礎能力を高める為に合同実習は行われず、それぞれの学科に必要なスキルや知識を身に付ける為の授業が中心となっていた為、戦治郎達候補生にとっては今日が初めての合同実習となっているのである
「そういやそうだったな、確か今日は駆逐艦の候補生達との合同実習なんだったか」
「合同実習……、確か次の授業だったわよね……?一体どんな授業になるのかしら……?」
毅の言葉を聞いた2人が思い思いに言葉を口にした直後、休み時間の終わりを告げるチャイムが教室内に響き渡り、それを耳にした3人は準備を整えるとホームルームの際香取から聞いていた、合同実習が行われる予定となっている艦娘候補生達が訓練の際使用する屋内プールへと足を運ぶのであった
因みに、移動中の戦治郎の周囲には毅と紅葉の姿しか無く、他の候補生達は戦治郎達からかなりの距離を取り、チラチラと戦治郎達の方を盗み見ながら、戦治郎達に聞こえぬ様ヒソヒソと小声で会話をしながら、目的地へと向かっていたのだった。そんな他の候補生達の様子を見ていた毅と紅葉は……
「あいつら、相変わらず戦治郎の事警戒してやがんな~……」
「まあ格好は怪しいし、入学初日から香取教官に牙剥いたりしてたら、こうなるのも仕方ないとは思うけど……」
「直接話してみっと、良い奴だって分かるモンなんだがな~……」
「寧ろあんな態度取ってる方が、攻撃対象になりかねないって分からないものなのかしら?」
戦治郎を挟んでこの様なやり取りを交わし、それを聞いていた周囲の態度のせいでほんのちょっぴり傷心していた戦治郎はと言うと……
「OK、俺はそんなお前達が大好きだ」
思わずこの様な言葉を口走り、それを耳にした2人は戦治郎に対して笑顔を向けるのであった
さて、そうしている間に戦治郎達は目的地に到着し、整列して提督サイドの教官と駆逐艦サイドの教官である綾波から実習の説明を受けると、すぐさま自分達のパートナーとなる駆逐艦の艦娘候補生探しを始めるのであった
この時、毅と紅葉はすぐにパートナーとなる艦娘候補生達を見つける事に成功するのだが、戦治郎の方はその格好や校内に広がった戦治郎ヤンキー説と言う噂のせいで、艦娘候補生達にかなり警戒されてしまい、戦治郎のパートナー探しは難航してしまうのであった……
さてどうしたものか……、パートナー探しが上手くいっていない戦治郎が、内心でそう呟きながら解決策を思案し始めたところで、突然この屋内プールの入口の扉が勢いよく開かれ……
「「「すみませんっ!!遅くなりましたっ!!!」」」
そこから姿を現した3人の駆逐艦娘候補生達が、同時に頭を下げながら謝罪の言葉を口にするのであった
そんな3人を見た綾波が、彼女達に遅れて来た理由を尋ねてみたところ、如何やら3人の内の1人が緊張の余り調子を崩し、残りの2人がその候補生の調子が戻るまで看病していたところ、授業に遅れてしまったのだとか……
「あの……、大丈夫ですか?そう言う事なら無理せず休んでいても……」
「いえ、それには及びません。何せ磯風達はこの日が来る事を待ち望んでいましたので……」
彼女達の事情を聞いた綾波が、彼女達に対して心配そうにそう言ったところ、恐らく調子を悪くしてしまった本人であろう陽炎型駆逐艦の12番艦の磯風がこの様に返答し、そんな彼女に心配そうな表情を向ける陽炎型駆逐艦11番艦の浦風と、陽炎型駆逐艦13番艦の浜風は、磯風の言葉に同意する様に静かに頷くのであった
その後、また体調が悪くなったらすぐに報告する様にと、教官である綾波が彼女達に釘を刺し、それを聞いた磯風達が了承した意思を伝える為に、綾波に向かって力強く返事をしながら敬礼、その様子を見た綾波は遅れて来た彼女達に改めて実習の説明を行ったのであった
(あの磯風……、ホント大丈夫なんかね~……?)
その様子を見ていた戦治郎が内心でそう呟いていると、不意に磯風と目が合い、戦治郎の視線に気が付いた磯風は戦治郎の方へ微笑みを向けると、綾波の説明が終わると同時に浦風と浜風を連れて戦治郎の方へと歩み寄って来るのであった
そして戦治郎の前に立った彼女達は、戦治郎に向かって敬礼すると……
「貴方が戦治郎さんだな、陽炎達から話は聞いている」
「陽炎達を助けてくれた事、本当に感謝しています」
「まあ細かい話は後にして、今回の実習、ウチらと組んでくれんか?」
戦治郎にだけ聞こえる声量で、戦治郎に向かってそれぞれ思い思いの言葉を口にした後、戦治郎のパートナーになる事を申し出たのであった
それを聞いた戦治郎は彼女達の申し出を快諾、こうして戦治郎は磯風達とチームを組み、合同実習に臨むのであった
因みにこれは作戦会議中に磯風達から聞いた事だが、如何やら彼女達は陽炎達と同じ孤児院の出身らしく、陽炎達が里帰りした際に彼女達から戦治郎の事を聞いた様で、先程磯風が緊張の余り体調を崩した原因は、今回の合同実習でどんな苦しい状況も引っ繰り返し、陽炎達を導いて日本まで無事に連れ帰った戦治郎と組めるかもしれないと思ったからなんだそうな……。これを聞いた戦治郎は、思わず苦笑いを零したのだとか……