「大黒丸って何だよ……?まるで漁船の名前みてぇじゃねぇか……」
「もうちょっとこう……、カッコイイ名前はなかったのか……?」
「これは流石に……、私的にもちょっと……」
空の口から件の工作戦艦の名前を聞いた摩耶達が、名前のカッコ悪さに思わず不平を漏らすのだが……
「ああ~……、おめぇらの気持ちはまあ分かる……、分かるんだが……」
「摩耶さん達が思っている以上に、この名前は考えて付けられているみたいなんだ」
「多分大黒丸の名前の由来を聞いたら、ビックリするんじゃないッスかね~?」
それを聞いたシゲが苦笑しながらこの様に答え、それにシゲ同様苦笑を浮かべるヴェルがこの様に続き、更に護がニシシと笑いながらこの様な言葉を口にするのであった
工廠組のこの言葉を聞いた摩耶達が、それは一体どう言う事だ?と言わんばかりに不思議そうな表情を浮かべていると……
「ふむ……、如何やら摩耶達は大黒様がどの様な神なのであるか、よく分かっていない様だな……」
「大黒様って言えば、七福神のアレだろ?あの神様ってスゲェ神様なのか?」
「俺は精々金運の神様ってくらいにしか思って無いが……、実際のところはどうなんだ?」
顎に手を当てて考え込む様な仕種をする空がこの様な事を言い、それを聞いた摩耶と木曾は相変わらず頭に疑問符を浮かべながら空に向かってそう尋ねると……
「いいだろう、ではお前達にこの大黒様がどの様な神であるか、そしてこの船の名前に込められた戦治郎の願いについて、俺から説明しよう」
空はこの様に返答した後、大黒様とはどの様な神なのかについて話し始めるのであった
さてこの大黒様だが、恐らく多くの者が七福神の内の1柱で、食物と財福の神様、豊穣の神様として知っている事だろう。しかしこの神様、実際のところかなり色々な事を司っている神様である事を知っていただろうか?
先ずこの神様は、神仏習合の際とある2柱の神様が習合して誕生した神様である
では、一体どの神様とどの神様が習合したのかと言うと、実はどちらの神様もかなりの大物で、その名は大国主神と大黒天と呼ばれている
大国主とはどの様な神様であるかと言えば、この神様は日本神話に登場する葦原中国を作った国津神の最高神であり、あの出雲大社に祀られている神様である
そんな彼には祟り神としての側面もあるのだが、それが転じて病を封じる神、医療を司る神様になっているのだそうな
事実、彼は国作りの際人々に農業や医術を教えて社会を作っており、それ以外にも彼には彼が医療の神である事に説得力を持たせる様な、とある有名エピソードがあるのである。そう、それは『因幡の白兎』の事である
この話は酷く大雑把に言えば、白兎が島を渡る際に騙して利用した
そんな優しい大国主だが、国譲りと言う話では天津神の最高神である天照から、国を譲る様にと要請された際対話と武力による交渉を行い、最終的には彼が出雲大社の修繕を条件に出し、それを天津神側が呑んだ事で彼は葦原中国を天津神に譲り、彼自身は常世の主となったのだそうな……
さて、こんな凄い神様と習合された大黒天だが、そんな彼は一体どの様な神様なのであろうか?
正直なところ、この大黒天も大国主に負けない……、それどころか場合によっては大国主を凌駕しかねない凄まじい神様だったりする……
この大黒天は仏教において財福を司る守護神として日本に伝えられたのだが、実際には軍神及び戦闘神としての側面も持ち合わせた、軍人となった戦治郎達にとってはかなりありがたい神様なのである
そんな大黒天だが、なんとヒンドゥー教のある神様の化身、或いはその異名だと言われている……。その神の名はシヴァ、ヒンドゥー教の中で最も影響力を持つ3柱の神の内の1柱で、破壊神として多くの者に広く知られているあの神様である
尤も厳密に言えば、大黒天はマハーカーラと言うヒンドゥー教の神様の事のなのだが、そのマハーカーラがシヴァの化身と言われている為、空は話がややこしくなる事を回避する為に、大黒天=マハーカーラ=シヴァとして摩耶達に説明していたのであった
破壊神と聞くと物騒なイメージしか無いが、何かを創造するにあたって破壊とは必ず付き纏うもの、言ってしまえば破壊と創造は表裏一体、絶対に切り離す事が出来ないものであり、破壊神であるシヴァは何かを創造する際、それはそれはとても重要な役割を果たす存在なのである
「さて、ここまで話した訳だが……、何か質問はあるか?」
大黒様について説明していた空が、区切りがいいところで摩耶達に向かってこの様に尋ねるのだが、肝心な摩耶達は予想外の内容に思わず驚愕し、呆然としていたのであった
何せ、今まで宝船の上でワチャワチャしてるくらいの認識しか無かった大黒様が、実際はとんでもない神様同士が合わさって生まれた神様だったとは、摩耶達には全く想像出来なかったのである。故に彼女達の反応も致し方無いものなのである
「……質問はないのだな?ならば続けるぞ、……と言っても、後は戦治郎がどう言った理由でこの船に大黒丸と付けようと思ったのかについてだけなんだがな……」
そう言って空は、戦治郎がこの船にこの様な名前を付けた経緯について話し始める
戦治郎はこの船に名前を付ける前に、空達に向かってこの様な言葉を口にしていた
「俺達がやんなきゃなんねぇ事っていっぱいあるよな?深海棲艦から自分達の生活を守るついでに日本……いや、この世界に暮らす人々を守る、荒れに荒れた海軍内の平定に転生個体が湧く原因を叩き潰すとかな。俺はこの船が完成すれば、それがきっと出来ると、そう思ってるんだわ。そこで、俺はそんな期待が掛かっているこの船に、大黒丸って名前を付けてぇんだわ。大国主の様に海軍の連中を上手く纏め上げ、傷付いた艦娘達を因幡の白兎の話の如く助け、いっぺん死んだにも関わらず転生個体として蘇って暴れ回る連中を、シヴァの如く徹底的に叩き潰してあの世に送り返して、二度とこの世界に来れない様にする。そうして平和になった世界で色んなモンを作って、豊かな生活を送れる様にって願いを込めてな。まあ漁船みてぇでカッコわりぃ名前だが……、どうだ?」
この話を聞いてしまった空達には、名前がカッコ悪いから嫌だと言う気は湧いてこず、寧ろそこまで深い意味があるならいいだろうと戦治郎の提案を全面的に肯定した結果、この巨大な三胴工作戦艦の名は大黒丸となったのであった
「これが大黒丸の名前の由来だが……、まだ不服か?」
話を終えた空が、未だにポカンとする摩耶達に向かってそう尋ねたところ、その声で我に返った摩耶達は勢いよく首を左右に振って見せた後、そう言う事なら大黒丸でいいと、寧ろ大黒丸の方が相応しいと、口を揃えて言い始めるのであった
「ところでこの船、やっぱり光太郎さんが操縦するんですか?」
そんな中、ふと頭の中に疑問が浮かんだ阿武隈が、空に向かってそう尋ねたところ、空は阿武隈の言葉を否定する様に首を左右に振り、この様に言葉を続けるのであった
「いや、この船は基本的には大五郎の意思で動く様になっている。大黒丸には大五郎の兵装であるハコを発展強化させた物と言うコンセプトもあってな、中央の艦橋から伸びるケーブルを大五郎に接続する事で、この船と搭載された兵器類は大五郎の思い通りに動かせる様になっている」
「一応、アニキが大五郎連れて戦闘に参加する事になった時に備えて、艦橋にある司令室でおめぇらでも操縦出来る様にはしてあるぞ」
「その際は艦長であるシャチョーや艦長代理が持つ専用のキーと、指紋認証が必要になるッス。まあ盗難防止の為ッスね」
「艦長代理については、後日空さんの方から連絡があると思うから、それまでしばらく待っててもらえないかい?」
阿武隈の質問に対して工廠組が順にこの様に返答したところ、思い掛けない返答を聞いた阿武隈達は、再び驚愕しポカンと口を開けたまま呆然としてしまうのであった……
因みにヴェルが言った通り、後日艦長代理が空の口から発表され、誰もが恐らく艦長代理筆頭となるであろうと予想していた大和を差し置いて、戦治郎と絡む機会が艦娘の中で最も多く、戦治郎から様々な事を学んでいた木曾の名前が真っ先に呼ばれ、名前を呼ばれた木曾は流石に予想外だったのか、辺りに響き渡る程の大きさの驚愕の声を上げたのだとか……