磯風達との出会いからしばらく経過し5月中旬辺りになった頃、戦治郎は大和から聞いた榛名の事が気にかかり、今の自分に出来る限りの方法で榛名について調べていた
それにより榛名は戦治郎達がよく知るゲームに登場する榛名そのものであり、大和が言っていた様に座学に関しては優秀な成績を収めており、遠巻きに観察していても素行に関しては全く問題が無い事が分かったのであった
ただ、1つだけ気になった事があった……
それは戦艦艦娘と駆逐艦艦娘による合同実習の際、戦治郎達から榛名の事を聞いていた磯風達が、彼女と組んで行われた演習の際に見たと言う彼女の砲撃スキルについてである
磯風達が見た限り、榛名の砲はしっかりと相手を捉えていたそうなのだが、実際に砲撃すると撃ち出された砲弾は相手からかなり離れた位置に飛んでいき、まともに相手に当たっていなかったのだとか……
それを見ていた磯風達や戦艦艦娘達の教官である大和が、艤装の整備不良の可能性があるのではないかと榛名に尋ねたところ……
「いえ、これはきっと榛名が未熟だから、上手く艤装を扱えていなかった事が原因だと思いますっ!」
榛名はそう言って磯風達や大和の話を碌に聞かず、不良があると思われる艤装のまま演習に参加し続けたのだとか……
因みに演習の結果に関してだが、それは磯風達の必死のフォローもあったおかげか、戦績は何とか及第点に到達したそうだ
(話聞いてる限りだと、恐らく何らかの原因で砲身が曲がってるんだろうな……。まあこれは実際見てみねぇ事には何ともってとこだな……)
戦治郎が調査結果を思い返しながらこの様な事を心の中で呟いていると……
「説明は以上だっ!何か質問はあるかっ!?」
不意にこの様な声が聞こえ、その声で思考を中断した戦治郎は慌てて声がした前の方へと顔を向けると、そこには整備科の教官である男性と、戦治郎達のクラス担任である香取が並んで立っていたのであった
そう、現在戦治郎達提督候補生達は、整備兵候補生達と合同実習を行っているのである
今回の実習では整備兵候補生達と協力し、いつか提督候補生達と合同実習を行う事となる空母艦娘候補生が使用する艦載機の艦戦を1つ作る事となっているのであった
具体的な実習内容がどうなっているのかと言えば、先ずは提督候補生達がどの様な艦載機を作るのか、決められた資源を艦載機を作る際にどのくらい使用するのかを決定し、その指示を聞いた整備兵候補生達が指示通りに艦載機を作り、艦載機が完成すると整備科の教官のチェックを受けた後、呉鎮守府から来てもらったベテランの艦載機妖精さんに作った艦載機に乗ってもらい、実際にフライトしてもらう様になっているのである
今回の実習でのポイントは、艦載機を作る際に如何に資源の消費を抑えたかと作られた艦載機のグレード、そして実際に飛ぶ事が出来るかと艦載機の乗り心地の4点となっている
因みにグレードと言うのは、要はその艦載機が下位の物か上位の物かである。一応作る艦戦に制限は無いのだが、この時点での整備兵候補生達は、九十六式と零式21型の作り方くらいしか教えられていない為、この実習では九十六式が下位、21型が上位と言う判定となっている様である
(さってっと……、以前の過ちを繰り返さない為にも、ここでいっちょ質問しとくか……)
考え事をしながらも教官の話を聞いていた戦治郎は、磯風達との実習の時の事故を思い出しながら内心でそう呟くと……
「はいっ!!!質問ですっ!!!」
それはそれは元気一杯にそう言いながら、右手を天を穿つかの如く真っ直ぐに、そして勢いよく上げ、整備科の教官から発言の許可を貰うと……
「え~……、今回の実習ですが~……、提督候補生が整備兵候補生の手伝いに入るのはアリですか?」
この様な事を教官に尋ね、それを聞いた教官と戦治郎の周囲にいる者達はキョトンとした表情を浮かべ、我に返った教官がそれに許可を出すと、戦治郎は何かを企んでいるのかフェイスベールの下でニヤリと笑みを浮かべながら、教官に礼を言うのであった
因みに、提督候補生が整備兵候補生の手伝いをする事は、生徒達には伝えられてはいないのだが、軍学校側は推奨していたりするのであった
言うのも、この実習の隠し評価点の中には、如何に提督候補生と整備兵候補生が互いの認識を一致させて仕事内容を理解し合い、上手く連携を取る事が出来るかどうかと言うものも存在しているのである
実際、戦治郎達が桂島の問題を解決するまで、一部の拠点では提督と工廠関係者の間にすれ違いなどが発生し、提督側が工廠側に無茶振りをして工廠関係者達がストライキを起こしたり、工廠関係者が勝手な行動を起こして拠点の資源に大打撃を与えるなどと言う事件が発生したりしていたのだ
こう言った事情がある為、軍学校はこんな事件を起こす様な生徒が出ない様にする為に、提督候補生達が作業に介入し協力し合って実習をやり遂げる事を許可しているのである。尤も、それでも基本提督候補生達に許されているのは、必要な工具を取りに行って整備兵候補生達に渡したり、資源から作り出した部品を持って来たりする程度の雑用までなのだが……
「おらぁっ!!!とっとと14mmスパナ持ってこいっ!!!」
「ウィッス!!!」
実習が始まるなり戦治郎達のチームは、全身を包むチャドルを脱いで作業用のツナギに着替え、顔はフェイスベールから司が準備してくれた防塵性の高い作業用フルフェイスマスクに換装し、頭部に溶接用遮光ゴーグルを装着した戦治郎が主導権を握って艦載機を製作していたのであった……
何故この様な事になったのかと言えば、このチームの方針を決める為の話し合いの時……
「おめぇらよく聞け、他の連中は恐らく九十六式やら21型やらでこの実習を手堅く完遂しようとするだろうよ……。だがっ!!!俺達のチームはそんなみみっちい真似する気はねぇっ!!!俺達は紫電作んぞっ!!!それも改二なんてチャチなモンじゃねぇ……、改四だっ!!!紫電改四を作ってこの実習を完遂すんぞっ!!!」
戦治郎がこの様な事を言い出したのである……
これに対して整備兵候補生達は絶対無理だと、無茶苦茶言うなとそれはもう、猛反発枕も真っ青になるほど猛反発するのだが、戦治郎が横須賀で受験勉強していた頃、気分転換としてプラモデル感覚で作り、どうせだからと書き残しておいた紫電改四の設計図を格納ボックスから取り出し、整備兵候補生達に見せたところ、彼等はアッサリ掌ドリルを実行し、その設計図を書き残した戦治郎に師事を乞いながら作業に取り組む事にしたのである……
因みに戦治郎が横須賀で作った紫電改四だが、それは横須賀鎮守府の主力空母である二航戦の2人に渡され、その後は工廠にて戦治郎が書き残した設計図を基に量産が行われ、現在では横須賀鎮守府の空母系艦娘全員が搭載していたりする……
そうして出来上がった紫電改四は、チェックを行った教官の度肝を抜き、実際にそれに乗ってフライトした妖精さんは、その完成度を絶賛したのだとか……
これにより戦治郎の事はこの実習の後、整備兵候補生達の間に瞬く間の内に知れ渡り、多くの整備兵候補生達が昼休み中に戦治郎の下を訪れて教えを乞う様になり、戦治郎には整備兵候補生達とのパイプが完成するのであった
こうして整備兵候補生達とのパイプを築き上げた戦治郎の下に、ある日少々気になる情報が入って来るのであった
「この学校の艦娘候補生達の艤装は、基本自分達が授業の一環として整備してるんですけど、その時に艦娘候補生達の訓練の結果変形した砲身とか、摩耗したギアと言った故障したパーツが廃材として集められて、ある程度数集まったところで溶鉱炉で溶かして鋼材として再利用されるんですけど、最近その集められる廃材の量が減ってるみたいなんですよね~。んで、それをいつもチェックしてる教官から、整備兵候補生全員が度々注意されるんですよね~……。勝手に持ち出したりするなっ!!!ってね」
この話を聞いた直後、戦治郎は何か引っかかりを覚えるなり、毅達と食事をしている時にやって来た、実習の時にチームを組んだ整備兵候補生の話の最中に、独り思案し始める……
(艦娘候補生達の艤装は、整備兵候補生達が整備している……か……。なら、榛名の件は整備不良が原因ではない……?いやしかし、廃材が減ってるってのがどうも気になるな……。これはちょっち調べる必要があるか……?)
この様な事を考えていた戦治郎は、これは調べた方が良さそうだと思い立つと、急いで昼食を腹の中に収めて毅達に休養が出来たと詫びを入れると、整備兵候補生達にお願いして艦娘候補生達の艤装が保管してあると言う彼等の実習棟へ案内してもらうのであった……