不知火です、本日を以って転生深海棲艦でしたか……それと艦娘の混成艦隊へ所属する事になりました。そんな不知火ですがもうダメかもしれません……
「は~い、皆お疲れ様~♪」
剛さんのその発言で剛さんとの演習が終わり、参加した艦娘全員がノロノロと浜辺へあがり摩耶さんと木曾さんははしたないですが大の字に寝転がり神通教官改め神通さんも膝をつき、不知火、陽炎、天津風もへたり込んでしまいました。尤もそうなっても仕方ないと不知火は思うのです……
まずは艦載機での空襲から始まり先制魚雷を撃ち込まれ、砲雷撃戦ではこちらの砲弾は剛さんが手に持ったライトマシンガンで悉く撃ち落とされた挙句一気に間合いを詰められ砲撃と雷撃と爆撃と打撃の四重奏で不知火達は剛さんたった1人に翻弄され続けました……。この人は何でこんなに強いのでしょうか……
「いくら何でも強過ぎだろ剛さん……、あたしの対空射撃がかすりもしないなんて……」
「いくつかヒヤリとしたのはあったんだけどね~、もっと練習したらきっと当てられるようになるはずよん♪」
剛さんはそう言っていますがかなり手を抜いていたのではないだろうかと思います……
「魚雷をいつ発射してるのか全く分からなかったぞ……」
「簡単に気付かれない様にしっかり隠しておいたからね~、こういうのは搦め手として使うのが一番なのよん♪」
木曾さんが言っている通り、剛さんがいつ魚雷を発射していたのか全く分かりませんでした……、不知火に至っては先制魚雷が直撃しましたし……
「摩耶さんの指導をしている時から只者ではないと思っていましたが……、まさかこれほどとは思ってもみませんでした……」
肩で息をしながら神通さん、演習前に神通さんから教官や先生と呼ぶのを止める様に言われました。今日からは教導艦と訓練生ではなく共に戦う仲間として扱いたいからだそうです。
「この身体になってから妙に力が湧いて来ちゃうのよね~、そのおかげか砲弾撃ち落としなんて芸当が出来るようになっちゃった☆」
さっきの演習では砲弾の撃ち落としなんて事をやっていましたが、こちらも恐らく手を抜いていたのでしょう、本気だったらもしかしたら砲門をピンポイントで狙撃出来るのではないのでしょうか……?考えるだけで恐ろしい……
「一気に間合い詰められたと思ったら次の瞬間には空見上げてたし……、剛さんも何か武術をやっていたんですか……?」
「軍にいた頃にアメリカ陸軍格闘術をやってたわよん、後はプロレスが好きだったからそっちの技もちょっとだけね☆」
質問した天津風が驚いていました、と言うか他の皆さんも驚愕しているようですが……、もしかして皆さん剛さんが過去に軍にいたのを知らなかったのでしょうか?
「道理で銃火器の扱いに慣れてると思ったッスよ……、階級はどのあたりだったんッスか?」
ランニングの後に不知火達の艤装を持って来てくれた工廠組の内の1人……、護さんでしたか……?その人が剛さんの階級について質問します、そう言えば不知火達もそこは聞いていませんでしたね……
「頑張って頑張って准将まで昇進してたわね~、懐かしいわ~……、まあ色々あって辞めちゃったんだけどね~……」
\ふぁっ!!!/
これは不知火含めて皆驚いています、一体何があって軍を辞めたのでしょうか……?確か奥さんの事が物凄い割合を占めていると言っていたような……
「剛さん、貴方そんな事1文字も履歴書に書いていませんでしたよね……?どうしてそんな大事な事を隠していたんですか?」
「だってそんな事書いちゃったら皆怖くなって縮こまっちゃうんじゃないかしら~?って思ったからよん、ただでさえ見た目が怖かったんだから昔の肩書で更に追い撃ちかけるなんて忍びないわ~」
空さんが問い詰めるもヒラリと躱す剛さん、不知火には剛さんがその話題にあまり触れて欲しくなさそうに見えたのは何故でしょうか……?
「さて、お喋りはこのあたりにして皆でご飯にしましょう♪翔ももう保存食作りからそっちにシフトしてる頃合いだと思うからね~☆」
剛さんがそう言って拠点の方へ歩き始めたので、不知火達もそれに従って歩き始めるのでした
食事の後はお風呂に入りしばらく自由時間を楽しんでから就寝となったわけですが、不知火は中々寝付く事が出来なかったので浜辺の辺りを軽く散歩する事にしました
誰もが寝静まった真夜中の静かな浜辺を1人で歩いていると、パシュッ!パシュッ!という音が聞こえてきました。不審に思いそちらへ向かってみると海上に的が設置されていました、その的はものの見事に中央にだけ穴が開いていましたが先程の音から少なくとも2回は発砲があったと思われます。どうなっているのか確認しようと的に近付いたとき
「動くな」
不知火の背後から唐突に人の気配、そして先程の声が聞こえてきました。余りにも唐突過ぎて不知火は思わず硬直してしまいました……
「って、あらやだ不知火ちゃんじゃないの~、こんな時間にどうしたの?」
先程の声が聞き覚えのある声に変わったので振り返ってみれば、そこには剛さんの姿がありました、貴方こそこんな時間に何をやっていたのですか……
「こんばんは剛さん、不知火は中々寝付けなかったので少し散歩していたのです。剛さんこそこんな時間に射撃訓練ですか?」
「そうねぇ、アタシも不知火ちゃんと同じで中々寝付けなくってね~……、それで不知火ちゃんは何か悩みでもあるのかしら?」
どうして分かったのだろうか?少々驚いて剛さんの方を見てみると、彼は不知火に優しく微笑みかけていました
「アタシは人の上に立つ立場だったからそういうのはお見通しよん♪アタシでよければ相談に乗るわよ?」
そう言って尚も微笑みかけてくる剛さん、今ここには不知火達しかいませんので不知火はその言葉に甘える事にしました
まずはこの数日の間に色々な事が起こり過ぎて混乱している事です
ドイツとの交流戦が決まり現地に行ってみれば深海棲艦から襲撃され多くの仲間を失った事、そして不知火の目の前で妹分だった天津風が攫われてしまった事……
「妹分?」
剛さんに尋ねられたので不知火と陽炎、そして天津風との関係を話す事にしました
不知火と陽炎は戦災孤児として施設に引き取られました、父が漁師をしていた為不知火は海辺の小さな町で静かに暮らしていたのですが、ある日漁に出ていた父は海上で深海棲艦に襲われてしまい、母と近くに住んでいた親戚達も父を襲った深海棲艦に町を襲撃され母のおかげで助かった不知火を残して皆殺されてしまいました……
陽炎とは同じ日に施設に引き取られた縁で仲良くなり一緒にいる時間が多かったのを今でも覚えています
そんなある日、施設の正門前に天津風が捨てられていたので施設は天津風を引き取りそのお世話係に陽炎と不知火を指名してきたのです。それからは天津風の事を自分達の妹分として大切にしながらお世話をしていました
「成程、そういう事だったのね~……っとごめんなさい、続きをお願いね」
話の腰を折った事を謝罪し続きを話す様に促す剛さん、唐突に妹分などと言えば気になるのは仕方のない事です、気にしていないと伝えた後に話を続けました
ドイツ海軍に頼み込んで天津風の救助部隊に入れてもらって拠点に向かってみれば拠点は戦治郎さん達に既に制圧され天津風だけでなく神通さんまで救助されている始末、混乱するなと言われても無理がありました……
天津風と神通さんが今すぐに日本に戻るつもりがないというのが更に混乱を加速させ、陽炎と話し合って戦治郎さん達に付いて行く事を決め、その意志を伝え同行するのを許可してもらった後のあの演習で見せつけられた剛さんの強さに追い撃ちをかけられ、トドメになったのは先制魚雷ですぐに中破判定を受けてしまった己の弱さに気付いてしまった事……
「このままでは不知火は皆さんのお荷物になってしまいます……、不知火は一体どうしたらいいのでしょう……?」
「あの演習についてはごめんなさいね~……、ついつい教官やってたときの事思い出してやり過ぎちゃったわぁ……」
そう言って剛さんは不知火の頭を撫で始めました、他人に頭を撫でられるのは何時ぶりでしょうか……
「それにしても強さ……、強さねぇ……、強さって言うのは色んな解釈があると思うんだけど~……」
剛さんはそう言いながら不意にサイレンサーの付いたヘルハウンドを構えると物凄い速度で何度も引き金を引いた後ヘルハウンドを懐に収めるのでした。すると急に何かがこちらへ飛んできたのですが、剛さんはそれを平然と片手で掴み不知火に見せながら話始めました
「こういう強さの事を言っているのなら、最初からこんなに強い人なんて世界中探しても何処にもいないと思うわよ?誰でもみ~んな最初は弱いものなんだからね~、こういう強さは訓練と実戦を積み重ねてようやく手に入るものなんだから今は不知火ちゃんが気にする事じゃないわ♪」
剛さんの手には先程海上にあった的が十字を描くように寸分の狂いなく等間隔で穴が開けられた状態で握られていました
「どうしてもこんな強さが欲しいと言うならアタシがいくらでも教えてあげるわ、不知火ちゃん、どうするの?」
不知火もこのくらい強くなれるのだろうか?皆さんのお荷物になる事なく、それどころか皆さんをしっかりと守れるようになるのだろうか?いや、違うなれるかではない、なるんだ!
「剛さん、ご指導ご鞭撻、よろしくです!」
これが後に長門屋鎮守府の猟犬の申し子とされる【怒髪衝天の不知火】誕生の瞬間である