合同実習の際戦治郎とチームを組んだ3人の整備兵候補生達の案内を受け、整備科の実習棟に辿り着いた戦治郎は、実習棟内に足を踏み入れると大和から以前教えてもらった榛名の学生番号が書かれたハンガーを探し、それを発見、榛名の艤装が格納されている事を確認すると、すぐさま榛名の艤装をハンガーから取り出し、艤装に異常が無いかを確認する為に驚くべき速度でオーバーホールし始めるのであった
この時、戦治郎が突然作業を始めた事に整備兵達はとても驚くのだが、それもほんの僅かな間だけで整備兵候補生達は即座に懐に入れていたメモとペンを取り出すと、戦治郎の一挙手一投足を見逃すまいと目を見開いて観察を始め、これはメモしておくべきだと思った点があった場合、すぐに戦治郎に質問しその返答を聞くとメモにペンを走らせるのであった。如何やら彼等は普段はチャラチャラしているが、機械いじりに関する情熱は本物の様である
尚、その際戦治郎は榛名の艤装の異常を見つける事に集中していた為か、整備兵候補生達の質問に対してかなりぶっきらぼうに答えていたりする
(念の為オーバーホールしてみたが……、あいつらが昼休み前に整備していた関係か、異常は見当たらなかったな……。でもまあ、この時間帯には艤装は整備されている状態であるって事が分かっただけでも収穫ってとこだな……)
榛名の艤装に異常が無い事を確認し終えた戦治郎は、これまたとんでもない速度で、そしてとても鮮やかな手つきで榛名の艤装を組み直すと、戦治郎の仕事振りに思わずうっとりする整備兵候補生達そっちのけで、この様な事を内心で呟くのであった
さて、戦治郎が独りそんな事を考えている間に、整備兵候補生達は我に返り……
「艦載機だけでなく艤装までお手の物とか……、戦治郎さんマジやべぇわ……」
「ホント、俺達はこの人とチーム組めて良かったな……。実習の時と言いさっきの艤装オーバーホールと言い、この人から学べる事多過ぎて笑いが止まんねぇぜ……」
「そういや実習の時、他の連中は方針固める話し合いの時に意見の違いから提督候補生と殴り合いの喧嘩やったり、機械いじりの『き』の字も知らん様な提督候補生の指示で、資源ケチりまくってまともに飛べない九十六式作らされる羽目になった奴らがいたり、21型作ろうとしてしくじりまくって資源溶かした奴等もいたらしいな……」
「他にもこれくらいなら自分にも出来るだろうって思った提督候補生が、余計な事して大怪我したって聞いたぜ……」
「俺達って冗談抜きで恵まれてたんだな……、俺さ……、正式に整備兵になったらこの人のとこに着任してぇわ……」
「俺も、この人になら付いて行ってもいいわ……」
「同感だ……」
3人でこの様なやり取りを交わしていたのだとか……
尚、彼等の願いは天には届かず、戦治郎に鍛え上げられた彼等は優秀な成績を叩き出して軍学校を卒業した後、横須賀鎮守府に着任する事となるのであった……
「おめぇら、ちょっちいいか?」
「「「はいっ!!!何でしょうっ!!?」」」
その直後、先程考え事をしていた戦治郎が、不意に整備兵候補生達3人に声を掛け、それを受けた3人が即座に返事を返したところ、戦治郎は今度は廃材置き場の場所が何処なのかを尋ね、それを聞いた3人はキビキビした動きで戦治郎を今度は廃材置き場に案内するのであった
「此処です戦治郎さんっ!此処が廃材置き場になってますっ!!」
「案内サンキュー、んで、此処にはチェックシートとかねぇか?今日は廃材をこれくらい入れました~とか記入する奴」
「ちょいと待ってて下さいっ!すぐ持ってきますっ!!」
廃材置き場に辿り着いた戦治郎が、廃材の数を確認する為の記録などが無いかを整備兵候補生達に尋ねたところ、3人の内の1人がそう言って記録帳を取りに走り、戻って来た彼からクリップボードに挟まれた正の字が幾つも書かれたチェックシートを受け取ると、戦治郎はその内容にザっと目を通し……
「悪ぃけど、この記録と実際の廃材の量が合ってるか確認してぇから、廃材の数数えるのちょっち手伝ってくれ」
整備兵候補生達にこの様なお願いをしたところ……
「「「はい喜んでぇっ!!!」」」
3人は威勢のいい声で返事をし、戦治郎と共に廃材の数を数え始めるのであった
それからしばらくして、廃材の数を数え終えた戦治郎達が、改めてチェックシートの内容を確認していたのだが……
「足りねぇな……、35.6cm砲の砲身が8本ほどなくなってやがんな……」
「ですね……」
「記録のし忘れ……、だったら数が少なくなるか……。って事はこれ書いた奴の数え間違いか……?」
「あ、推進器に使うスクリューも2つ程無くなってますよ?」
チェックシートの記録内容と、戦治郎達が数えた数に差がある事が発覚し、チェックシートを眺めていた戦治郎達はこの様なやり取りを交わしながら揃って不思議そうに首を傾げるのであった
因みに戦治郎達の数え間違いの可能性については、ほぼ無いと言っていいだろう。何故なら戦治郎達は2人1組でこの作業を行い、1人が数え終えた後もう1人が再び数を数え、2人の間に差があった場合、同じ工程を再度行うと言う棚卸の際よく行われる2段確認を行いながら、廃材の数を数えると言うこの作業を行っていたのである。故に戦治郎達が調べた結果にほぼ間違いはないのである
「こりゃ誰かがここから廃材を持ち出してるってのは、ほぼ間違い無い様だな……」
「一体誰がこんな事を……、つか何の為に廃材なんか持ち出してんだ……?」
「もしかして、さっき戦治郎さんが艦娘候補生の艤装いじってたのは、これと関係してるんですかい……?」
「それってつまり……、誰かが此処から回収した廃材を、俺達が丹精込めて整備した艤装に取り付けてるって事か……?」
「まあそんなとこだな……、実は俺な……」
この会話の後、戦治郎が自分が大和の依頼で先程の艤装の持ち主である榛名の成績不振の原因を探っていた事を彼等に打ち明け、食堂で整備兵候補生達からこの件を聞いた時、もしかしたら榛名の艤装に悪さをしている犯人がいるのではないかと思った事を彼等に伝えたところ、静かに戦治郎の話を彼等は自分達が必死になって整備した艤装に悪さしていると思われる犯人に対して激しく憤り、この件の解決の為に戦治郎に喜んで手を貸す事を約束してくれるのであった
尚、何故戦治郎は大和からこの様な依頼を持ち掛けられたのか、戦治郎と大和はどの様な関係なのかについて、整備兵候補生達から尋ねられると、戦治郎は思いつく限り口から出任せを言って何とかその場を凌いで見せるのであった。もしここで本当の事を話し、それから戦治郎の正体がバレる様な事になっては目も当てられない為、戦治郎の事を慕ってくれている大和には悪いが、此処は誤魔化す以外に道は無かったのである……
こうしてやる事をやった上、整備兵候補生達の協力を得る事に成功した戦治郎は、彼等を伴って毅達がいるであろう軍学校の中庭に向かう為に、実習棟の出入口の方へと足を運ぼうとするのだが……
「ようやく尻尾を出したわね……っ!」
戦治郎達の前に1つの影が立ち塞がり、戦治郎達に向かってこの様な言葉を言い放つのであった
「尻尾を出した……?」
「何言ってんだこいつ……?」
「この姉ちゃん、戦治郎さんの知り合いですか?」
「まあ全く知らんって訳じゃねぇが……、この雰囲気……、多分こっちの話聞く気ねぇだろうな……」
問題の人物の姿を見るなり整備兵候補生達はこの様な事を言い、それを聞いた戦治郎は困った顔をしながら、やれやれと言った様子でこの様な言葉を口にする……
「さあ正直に言いなさい、貴方達が榛名の艤装に細工をしていたのでしょうっ!?」
そんな戦治郎達の様子など気にも留めず、件の人物……、金剛型戦艦の4番艦であり、榛名の双子の妹である霧島は、怒りを露わにしながら戦治郎達に向かってこの様な言葉をぶつけるのであった……