佐世保鎮守府の執務室にて、その日の秘書艦を担当していた金剛が、兼継の書類仕事を手伝っていた時の事である
作業中に喉の渇きを覚えた金剛が、何となしに作業前に予め淹れておいた紅茶が注がれたティーカップを手に取った直後、何の前触れも無く、本当に唐突にティーカップの取っ手が取れてしまい、紅茶が注がれたカップは金剛が座っている秘書艦用の机の上に落ち、その中身を机全体にぶちまけ、つい先程まで彼女が手掛けていた書類を紅茶色に染め上げてしまうのであった……
「Oh,shit!!」
「大丈夫か金剛、火傷とかしてない?」
お気に入りのカップが突如壊れてしまった事と、頑張って仕上げた書類が駄目になってしまった事が重なり、金剛が思わずこの様な事を口走った直後、それに即座に反応した兼継が金剛の事を心配してこの様に尋ねる
「ワタシは大丈夫ネー……、でも書類が……」
「なら良かった、取り敢えず駄目になった書類とカップの破片は僕が片付けるから、金剛は新しく書類を出力しておいて」
兼継に声を掛けられた金剛が心底申し訳無さそうに返答したところ、兼継はこの様に返した後、作業を中断して金剛の席へと近寄り、割れたカップと紅茶塗れになった書類を処分し始めるのであった
「うぅ~……、sorryネー……。でも何でこんな突然にTea cupがBreakしたんダロ?」
「こう言うのって、不幸の予兆とかよく言うよね……」
「Unhappyの予兆……、もしかして榛名達に何かあったのカナ?」
「確か金剛の妹さんの榛名と霧島だっけ……?何事も無いといいんだけどね……」
カップが突然壊れた事を不思議がる金剛に対して、カップの破片と駄目になった書類を片付け終えた兼継がこの様に答えると、金剛は自分の妹達の事を思い、心配そうな表情を浮かべながらこの様な事を呟き、それを耳にした兼継も金剛同様不安そうな表情を浮かべながらそう返答するのであった……
兼継達がこの様なやり取りを交わしている頃、整備科実習棟で戦治郎達と遭遇し、彼等を榛名に関する問題の犯人と断定し、問い詰めていた霧島はと言うと……
「うっ……、ぐぅ……っ!」
「霧島ぁ……、幾ら頭に来てるからって、無理矢理はどうかと思うぜ……?」
現在進行形で、戦治郎からパロスペシャル……、それも実際のプロレスリングで使用された、本来の形のパロスペシャルを喰らっていたのであった……
一体何がどうなってこの様な事になったのか……、順を追って説明していこう……
整備科実習棟で榛名の艤装に触れていたと思われる戦治郎達を、榛名の実習関係の成績不振の原因を作っている犯人だと断定した霧島が、戦治郎達に向かって強い口調でこの件を教官達に自供する様言ったところ、戦治郎達は何言ってんだこいつ?と言った調子で容疑を否認。そしてこの様なやり取りを何度も交わしていると、遂に業を煮やした霧島が主犯格だと思わしき戦治郎の腕を掴んで、強引に教官達の所へ連れて行こうと腕を伸ばしたのだが……
「ほいさ~」
直後にその腕をこの様な掛け声を上げる戦治郎に取られ、気が付けば戦治郎に背後を取られたかと思えば、いつの間にか霧島は戦治郎に元祖パロスペシャルをお見舞いされていたのであった……
「うわぁ……、女相手にそれって……」
「戦治郎さん……、幾ら何でも情け容赦無さ過ぎじゃないです……?」
「パロスペシャル……、まさかこんな所に使い手がいるとは……」
そんな戦治郎の様子を見ていた整備兵候補生達が、ドン引きしながら口々にその感想を述べていると……
「いや、つい反射的に……。でもまあ、あのまま掴まっていたら俺ら全員退学処分だっただろうし、霧島もきっとこれで頭冷えてくれると思うから……」
未だにパロスペシャルを続ける戦治郎が、言っている事に少々自信が無いのか、やや震えた声でこの様な返事をするのであった……
「貴方達……、こんな事をして……、只で済むと思っているの……っ!?」
「バレたら不味いのは承知の上よ、ただ、俺達も冤罪で退学処分は勘弁願いたいところなんだわ……」
「冤罪……っ!?まだ白を切るつもり……っ?!」
「いや、残念ながらおめぇの分析は大外れ、俺達はマジでこの件の犯人じゃねぇんだよな~……。って事で霧島よぉ、ちょっち取引しねぇか?」
その後、元祖パロスペシャルによって発生する痛みに耐えながら、背合わせの状態から霧島の両足に足を絡め、そこを支点に立ち上がって彼女の両腕を掴んで背後に回して技を極める戦治郎に鋭い視線を向ける霧島に向かって、戦治郎が取引に応じてくれればこの技を解くと約束したところ、彼女はそれに応じると言った為、戦治郎はパロスペシャルを解いて取引とやらを開始するのであった
戦治郎が言う取引とは、ぶっちゃければ只の情報交換である。具体的にそれがどの様な内容であるかと言えば、戦治郎達は榛名の件を知っている霧島が持つ情報を聞き出し、その代わりに戦治郎達も自分達が大和の依頼でその件を追っている事を霧島に伝えた上で、現在戦治郎達が持っている現在の榛名の艤装の状態についてと、廃材置き場から幾つかの廃材が消えていた事に関する情報を霧島に教える事で、戦治郎は彼女をこの事件を解決する為の協力者にしようとしているのである
これにより戦治郎達の誤解は解け、戦治郎達の事を犯人だと決めつけていた霧島は、戦治郎達に向かって謝罪の言葉を述べ、それに対して戦治郎は霧島に突然攻撃してしまった事を深く詫び、お互い此処であった事は水に流す事にしたのであった
さて、これによって戦治郎は1つだけ新しい情報を入手する事に成功したのだった
その内容とは、榛名がクラスメイトから盛大に嫌われ、榛名自身はそれに一切気付いていないのだが、榛名は霧島を除くクラスメイト達から、いじめまがいの仕打ちをされているのだそうな……
何故榛名がその様な仕打ちを受けているのかと言えば、如何やら彼女は入試で霧島と共に実技においても筆記においてもトップクラスの成績を叩き出し、昔やんちゃをしていた事が原因で書類選考の段階で評判があまり良くなかった霧島を差し置いて、艦娘候補生の首席としてこの軍学校に入学したのだとか……
因みに、そんな彼女達をそこまで鍛え上げたのは、他でもない彼女達の実の姉であり、佐世保鎮守府のエース艦娘の1人である金剛である
それが原因で、榛名は他の戦艦艦娘の候補生達の嫉妬の的となり、榛名の普段の遠慮がちで控えめな言動がそんな彼女達の嫉妬心を煽る形となり、結果として彼女達の嫉妬心は怒りに姿を変え、彼女達をこの様な行動に走らせているのだとか……
「最初の頃は教室に置かれていた榛名の教本を隠したり、実習の際大和教官の目を盗んでわざとぶつかって妨害をする程度だったのですが、榛名がそれらの行為が故意に行われている事に気付かず、全く堪えた様子を見せなかった事が彼女達の怒りを更に買う事となり、彼女達の行動は日に日にエスカレートしていき、こうして今の様な状況になっている様なのです……」
「榛名の成績不振の原因は、戦艦艦娘達によるいじめが原因だったか……。んで、おめぇが此処に張っていた理由は?此処に張ってるって事は、榛名の艤装に細工が施されているって事に気付いてるって事だからな。それはどうやって知った?」
「それは……、彼女達が榛名に対しての仕打ちを考えているところを、私が偶々聞いてしまった際、彼女達の中に整備兵候補生の中に彼氏がいる人がいて、その人の彼氏の協力を得て榛名の艤装に細工を施そうと言う話が出ていたので……。私はその現場を押さえて犯人を見つけ出し、この事を学校側に証拠付きで報告し、彼女達に適切な処分を下してもらおうと思っていたのです……」
霧島の話を聞いた戦治郎が、霧島がどういった経緯で榛名の艤装の細工が施されている事を知り、現場を押さえる為に整備科実習棟を見張っていたのか尋ねたところ、霧島は暗い表情を浮かべながらこの様に返答するのであった
「うっわ、俺達の学科の中に共犯者がいんのかよ……」
「これは整備兵の端くれとしては、絶対に許されざる行為ですわぁ……」
「如何やら俺達も、全力を出さざるを得ない様だな……」
霧島の話を聞いた整備兵候補生達が、憤りを露わにしながらこの様な言葉を次々と発していると、それを戦治郎が手で制し……
「OK分かった、よく話してくれたな霧島。おめぇの情報のおかげですぐに犯人を取り押さえられそうだわ、ありがとうな」
この様に、戦治郎は霧島が情報を提供してくれた事に感謝し、礼を述べるのであった
その後、戦治郎が霧島に自分達に協力してもらえないかと頼んだところ、彼女はその提案を快諾し、整備兵候補生達が問題の整備兵候補生の共犯者について探ると言ってきたところで昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響き、戦治郎がその提案を了承した事を合図に、戦治郎達は各自次の授業に備える為に今日の所はこれで解散し、それぞれの教室へ戻っていくのであった