整備科実習棟で霧島の口から事の真相を知った戦治郎は、その日の授業が全て終わった後、教官寮に戻って来た大和にこの事を報告すると、部屋の中央に設置された食卓で今日の課題をちゃっちゃと全て終わらせると、例の砂浜で自主練をしてくると大和に伝えて竹刀が入った包みと、同じく包みに包んだ大妖丸を背負って部屋を出るのであった
因みにこの部屋には戦艦艦娘達の教官である大和が、次の日の授業の為の予習をする為のデスクがあり、大和は戦治郎にそのデスクを使って勉強する様に勧めていたのだが、戦治郎は流石にそれは大和に悪いと言って、食卓を使って勉強をしていたのであった。これに対して大和は、内心で戦治郎に気を遣わせた事にちょっぴり罪悪感を感じながらも、戦治郎の気遣いに盛大に感動していたのだとか……
「偶には大妖丸も振ってやらねぇと、機嫌損ねちまいそうだからな~……。それに俺の方も感覚忘れっちまいそうなのが怖いんだよな~……、何時何処で何が起こるかなんて、超強力な神話生物でもなけりゃ分かんねぇだろうからな~……。って事で、今日は大妖丸で素振りするぞいっ!!」
そんな事を呟きながら、時間がある時に剛からコツを教えてもらって体得したスニーキング技術を行使し、何処ぞの蛇の如く誰にも見つからない様にその身を隠しながら、戦治郎は例の砂浜へと歩みを進めていたのだが……
(……砲撃音?にしては音が小さい……。ああそっか、長門達が言ってた夜間訓練用のサイレンサー使ってんのか……、って、この音……、砂浜の方から聞こえてね……?)
その途中で、目的地の方角から微かに砲撃音が聞こえた事で、戦治郎は怪訝そうな表情を浮かべながらこの様な事を内心で呟き、この音の発生源を確認する為に足音を立てない様に注意しながら、例の砂浜へ向かうのであった
そうして砂浜に辿り着いた戦治郎が、岩陰に身を隠して顔だけ出して砲撃音がする方角へ視線を向けたところ、そこには海上に浮かべたターゲットに向かって、必死になって砲撃する榛名の姿が確認出来たのであった
(ありゃ榛名じゃねぇか……、確か艦娘の自主練は……、いや、そんな事はどうでもいいか、それよりも榛名が砲撃の自主練してるって事は、成績不振の事気にしてるって事か……?)
榛名の姿を見つけた戦治郎は、内心でこの様な事を呟きながら、榛名の様子を注意深く観察するのだが……
(磯風達が言ってた通り、狙いは悪くねぇな……。ただ、発射した砲弾が真っ直ぐ飛んでねぇ……、こりゃまた細工されたか……?)
榛名が発射した砲弾が、ターゲットから大きく外れて海に着弾する様子を見ると、戦治郎はこの様な事を心の中で呟くのであった
それからしばらくの間、戦治郎は榛名の様子を窺っていたのだが、榛名は撃っても撃っても一向にターゲットに砲撃が当たらない事に苛立つ様子も見せずに、只管ターゲットに向かって砲撃を繰り返すのであった……
(ああもうっ!!見てらんねぇよちきせうっ!!!)
そんな榛名を見ている事が耐えられなくなったのか、戦治郎は内心でそう呟くと岩陰から出ると榛名の方へと歩み寄り……
「お嬢ちゃ~ん、こんな時間に精が出るね~」
榛名に向かって、この様な言葉を掛けるのであった
それによって戦治郎の存在に気付いた榛名は、そちらに顔を向けると驚きの表情を浮かべながら硬直し……
「えっと、貴方は……?」
戦治郎に向かってこの様に尋ね、それを聞いた戦治郎が自分は大和からの情報で一方的に榛名の事を知っていて、榛名は自分の事など一切知らないであろう事に気付いて、自身を見て驚く榛名に対して自己紹介をしたところ、榛名は戦治郎が此処の提督科の生徒であると分かると慌てた様子で自己紹介して返すのであった
こうして互いに自己紹介を終えたところで、戦治郎が改めて榛名に何をしているのか尋ねたところ、榛名は自分は砲撃が苦手で狙った的に上手く当てる事が出来ず、それが原因で軍学校を辞めなければいけなくなる可能性がある為、それを回避する為にこうして自主的に練習しているのだと答えるのであった……
この時戦治郎は、自分が榛名にこの話を振ったその瞬間、榛名の身体が戦治郎の言葉に反応して本当にほんの僅かに、ピクリと震えたところを見逃さなかった……
(この反応……、もしかしたら榛名は、自分がどの様な立場にいるか気付いてるのか……?だったらキャシーもびっくりのとんでもねぇ女優だな、何せ血の繋がった双子の妹まで、自分はこの件に気付いていませんよ~ってな具合に、上手く騙せているんだからな……。まあ尤も……、空との繋がり目当てにやって来た、長門屋のバイト希望者ちゃん達相手に、幾度となく面接してきた俺や空にはその手は早々通じないがな……っ!)
その様子を見ていた戦治郎が、内心でこの様な事を呟いていると、榛名は戦治郎に一言断りを入れた後、自主練を再開しようと動き出す
「Hey榛名~、もしよかったらおめぇのその訓練とやら、ちょっち見学させてもらってもいいか?」
「えっ?それは別に構いませんが……」
そんな榛名に対して戦治郎が自主練を見学したいと言い、それを聞いた榛名は、大して面白みも無い砲撃の練習を見学したいと言い出した戦治郎の真意が分からず、少々困惑しながらこの様に答えるのであった
「サ~ンキュ☆っとぉほらあれだ、榛名の主観じゃ分からない悪い点を、客観的に見ている俺が気付けるかもしれねぇじゃん?ってな訳で、俺は榛名の訓練を見てみたいって言った訳よ。OK?」
「なるほどっ!そう言う事だったのですねっ!では、今から砲撃を始めますので、もし悪い点を見つけたら、すぐに教えて下さいねっ!」
榛名が困惑している事に気付いた戦治郎が、榛名に向かってこの様な事を言ったところ、榛名は戦治郎の言葉に納得したのか、その表情を明るくしながらこの様に答え、早速戦治郎が見守る中、砲撃の訓練を再開するのであった
(さて……、ぶっちゃけ最初見た時から分かってたんだが、既に榛名の艤装には細工が施されてるな……。って事は、犯人は授業が終わってからすぐ整備科実習棟に向かい、榛名の艤装に細工を施してるって訳か……。これで大体犯行時刻が絞り込めるな……、後はその証拠をどうやって確保するかだな……)
榛名の訓練の様子を眺めていた戦治郎が、内心でこの様な事を呟いていると、不意に榛名の艤装から異音が聞こえ、それに気付いた戦治郎は我に返り
「榛名ストップッ!!!砲撃止めっ!!!すぐに艤装を外せっ!!!」
「えっ!?えぇっ?!」
急いで榛名に向かって砲撃を止める様大声で指示を出し、それに驚いた榛名はやや混乱しながらも戦治郎の言う通りに艤装を外し、榛名が艤装を外した事を確認した戦治郎は、すぐさま榛名の艤装に駆け寄ると、格納ボックスから工具を取り出し即座に榛名の艤装を解体し始めるのであった
只ならぬ様子で自身の艤装を解体し始めた戦治郎を見た榛名が混乱する中、艤装の動力部をバラして中を確認していた戦治郎は、榛名の艤装が発した異音の原因を発見する事に成功するのであった
(まさか砲身や推進部分だけでなく、動力部にまで細工してやがったのかよ……っ!?もしこのまま榛名がこの艤装を使っていたら、動力部が暴走して爆発、最悪その衝撃で榛名が死んで黄泉個体化するところだったぞ……っ!!犯人はどんだけ榛名の事恨んでやがんだよ……っ!?!)
内心で舌打ちしながらこの様な事を呟く戦治郎は、急いで問題の動力部を修理し、そのついでに整備科実習棟から持ち出されたと思われる廃材とすり替えられていた砲身と推進部分を、課題のついでに自前の資源から作っておいたパーツと交換するのであった
「よっし終わったっ!!!榛名っ!!!試運転よろしくっ!!!」
「は、はいっ!!!」
一仕事終えた戦治郎が榛名に向かってそう言うと、榛名は戦治郎の声に驚いたのかビクリと震わせた後、突然の出来事の連撃に少々混乱しながら戦治郎の指示通り急いで艤装を装着し、試しに海上のターゲットに砲撃してみたところ、榛名の砲弾は見事ターゲットのド真ん中に直撃し、ターゲットを粉々に爆砕してみせたのであった
「あ……」
「やっぱりおめぇさんの砲撃が上手くいかなかったのは、艤装の不具合が原因だったな……。この事、色んな奴から指摘されたんじゃねぇのか?」
我に返った榛名が思わず声を漏らすと、その様子を見ていた戦治郎がこの様な言葉を榛名にかけるのであった
「えっと……、あの……」
「誤魔化さんでいい、……砲撃が下手だって嘘付いてた事についても、おめぇさんが受けている仕打ちについてもな」
しまったと言った様子で、何とかこの状況を誤魔化そうと言葉を選ぼうをしている榛名に向かって、戦治郎がそう言い放ったその瞬間、榛名はハッとしながら戦治郎の顔にその双眸を向け……
「どうしてそれを……?」
「俺はおめぇの事気にかけてた大和の頼みで、おめぇの不調の原因を探っていたんだがな、その中で霧島と出会っておめぇが戦艦艦娘候補生達の多くからいじめられてるって既に聞いてんだ。まあ、霧島はおめぇがいじめられている事を、全く自覚していないと思っているみてぇだがな……」
榛名が震える声で戦治郎にそう尋ねると、戦治郎は自分が榛名の事を探っていた事と、榛名がいじめられている事を知っている事を正直に告げる。すると榛名は沈黙し、俯きながら身体を震わせ始め……
「辛かっただろう……、苦しかっただろう……。大丈夫だ、今此処には俺とおめぇしかいねぇ、吐き出したい事があったら吐き出しちまえ。それでおめぇが楽になるってんなら、俺がその全てを受け止めてやんよ」
そんな榛名に向かって戦治郎がそう言うと、榛名は勢いよく戦治郎に飛びつき、声を出して泣き出してしまうのであった……
(よっぽど辛かったみてぇだな……、ったく……、この事件の犯人とやらには、如何やらドギツイお灸を据えてやる必要があるみたいだな……)
飛びついて来た榛名を慰める様に、彼女を優しく包み込んでその頭を撫でる戦治郎は、内心でこの様な事を呟くのであった
そんな戦治郎の左目からは、鬼之型発動時に出現する鬼の文字が浮かぶ赤い炎が、まるで戦治郎の今の心境を表す様に、ガスが切れかかった100円ライターの火の如く、途切れ途切れに噴き出していたのであった……
尚、榛名は戦治郎の胸に顔を埋めていた為、戦治郎の左目の赤い炎には気付かなかった模様……