「とまあ、戦艦艦娘候補生の間で発生していたいじめ問題は、こんな感じで解決したんだわ」
榛名のいじめ問題が解決した日から数日経過したある日の昼休み、食堂で毅、紅葉、勉、そしてこの問題に関わった
因みに今回のいじめ問題だが、事件解決した翌日に開かれた緊急全校集会にて、被害者の名前を伏せながら、校長の口から生徒達に対して説明がなされ、それが終わると校長はすぐさま校長室に戻り、日本国内の軍学校の校長達全員と軍学校専用の通信回線を用いての緊急会議を開いて今回のいじめ問題について話し合い、その中で他の学科や他の軍学校でも似た様な問題が密かに発生しているのではないか?と言う疑惑が浮上すると、即座に調査を開始したんだそうな……。その結果、流石に今回ほどの規模ではないものの、他の軍学校の方でも似た様な問題が発生していた事が発覚し、軍学校の校長達はその問題の解決の為に奔走する事となるのであった……
「そんなくっだらない事で、人1人殺しかけたって言うの?ホントそいつらバッカじゃないの?」
「俺もそう思いますわ~、しかも俺達が愛情と情熱を注いで整備してる、艦娘の艤装で人殺しやろうとしてたってのが、マジで気に食わないわ~」
「あの時の校長も言ってたけど、何であんだけの数の人間を統率出来るだけのスキルがありながら、こんなアホみたいな事やったのか、マジで理解出来ねぇわ」
戦治郎の話を聞いた紅葉が、呆れ返った様子でこの様な言葉を口にすると、それに同意するかの様に栄と米倉が腕を組んでウンウンと頷き、紅葉の言葉に続く様にしてこの様な事を口にするのであった
「問題の切っ掛けに対しての感想は、俺も紅葉と全く同じなんだが……、その……、何だ……、戦治郎が思いついたって言う報復が、とてもいじめに対しての報復って言うには、ちょいやり過ぎの様な気がすんだが……」
「それは僕も思ったよ……、多額の借金を背負わせた上に、返済方法も合法的なものは全て不可能にするとか……、ちょっと犯人達に同情しちゃうかな……」
紅葉達の言葉の後、彼女達と共に戦治郎の話を聞いていた毅が、話の内容にドン引きしたのか引き攣った表情を浮かべながらそう言うと、それに同意する様に勉がやや暗い表情を浮かべながら、この様な言葉を口にするのだが……
「あの手の輩には、このくらいやんのが丁度いいんだよ。ああいうのはな、自分が悪い事してるって自覚が無く、今の境遇になったのは被害者のせいだー!って決めつけて、塀の中から出て来ると報復しにやって来るって相場が決まってんだよ」
「やけに実感がこもった言葉ですね~……、戦治郎さん、もしかして過去に何かあったんです?」
勉の言葉を聞くなり、戦治郎は不機嫌そうな表情を浮かべながら、そう言って勉達の同情をバッサリと切り捨て、それを聞いた椎名が少々驚きながら戦治郎に向かってそう尋ねると、戦治郎は不快そうにこれ以上詮索すんなと釘を刺し、以降このテーブルの誰もがその話題に触れようとはしなかったのであった
(ったく……、今のであのヤク中DV糞親父の事思い出しちまった……。あん時はマジでビビったわ……、あの野郎まさか刑務所から出て来るなり、真っ直ぐ天音の事狙って来やがったからな……)
そんな中、戦治郎は不快そうな表情を浮かべたまま、過去に起こった出来事を思い出すなり、内心でこの様な事を呟きながら舌打ちするのであった
戦治郎が言うヤク中DV糞親父とは、戦治郎の父である総一の再婚相手であり、横須賀鎮守府の飛龍とそっくりな容姿をした継母、龍美の元夫の事である
その人物は無職でありながら違法な薬物に手を染め、龍美の収入の殆どを薬物の購入とギャンブル、そして風俗に行く為に使い、ギャンブルや風俗で当たりを引けなかった日は、決まって龍美や自分と血の繋がった娘である奏と天音に暴力を振るい、時にはクスリの勢いに乗ってまだ幼い自分の娘に性的暴行まで行い、溜まった欝憤を晴らす様な日々を送っていたのだとか……
龍美が言うには、その男は元々は真面目な会社員で、仕事の関係で龍美と知り合い、何度か交際を重ねてゴールインしたらしいのだが、長門コンツェルン直属の会社に勤めていた龍美の給料が、自分より明らかに多い事が分かると、男としての自信を無くしてしまうと今まで勤めていた会社を辞め、この様な体たらくになってしまったのだそうな……
その事が原因で、龍美は日を追うごとに精神的に弱っていき、そんな龍美の様子に気付いた当時今の兼継と同じ様に、長門コンツェルンの総帥であった正蔵の下で経営者としてのイロハを仕込まれながらも、通常の会社員と同じ業務に従事していた龍美の上司であった総一が、彼女の悩みを聞き出す為に彼女を飲みに誘い、それ以降総一は彼女の悩みを吐き出させる為に、頻繁に龍美を飲みに誘う様になるのであった
そんな事を何度かやっていると、龍美の娘である天音が龍美の帰りが遅い事を心配する様になり、遂には龍美を尾行して総一と共に居酒屋から出て来る龍美の姿を発見、以後天音は、龍美と総一の関係を調べる為に、龍美を尾行する様になったのだとか……
そんなある日、天音がいつもの様に龍美を尾行していると、偶々空手道場帰りの戦治郎と空がそんな天音の姿を目撃し、不審に思って思わず声を掛けたのだとか……
その後、天音の話を聞いた戦治郎が興味本位で天音の尾行に参加し、龍美と一緒にいる男が自分の父親だと知ると、それ以降戦治郎も天音の尾行に参加する様になり、それが切っ掛けとなって戦治郎、空、天音の3人はよくつるむ様になったのであった
その後、ひょんな事から戦治郎と空が天音達に対して日常的に行われているDVに気付き、戦治郎達は戦治郎の兄弟である命や理紗、更には総一や正蔵まで巻き込んでこの問題の解決の為に奔走し、戦治郎達が相当な無茶をして入手した薬物が正蔵の手に渡ると、トントン拍子で事が進んで行き、最後は総一の手で龍美達は助け出され、龍美の夫は警察に逮捕され刑務所送りとなり、様々な手続きを済ませた後、この事が切っ掛けとなって総一と龍美は結ばれ、2人の間に兼継が生まれる事となったのだった
それから時が経ち、戦治郎達が高校に通う様になったある日、戦治郎、空、天音、そして輝の4人が学校から帰宅していると、彼等の目の前に突然男が飛び出して来て……
「お前さえいなければあああぁぁぁーーーっ!!!」
この様な事を叫びながら天音に向かって一直線に走って行き、その手に持った包丁を突然の出来事に動揺して固まってしまった天音の腹に突き立てようとするのだが、それに即座に反応した戦治郎達3人が男の前に立ち塞がり、目にも留まらぬ速度で同時に男を攻撃、見事男を撃退したところで、輝を除く3人が男の顔を見て思わず絶句してしまう……。そう、その男は龍美の元夫であり天音の元父親だった、あのDV男だったのである……
如何やらこの男、刑務所から出所するなり、自分が逮捕される切っ掛けを作った天音に対して報復しようと考え、天音の所在を調べ上げるととある店から包丁を盗み出し、この様な犯行に及んだのだとか……
これ以降、戦治郎と空はこの様な事が二度と起こらない様に、犯罪者に対しては情け容赦など一切せず、徹底的な仕打ちを施してその心を折り、報復など考えさせない様にする事を心に誓うのであった……
(あぁクソッ!!!あの野郎の事思い出したら、途端に飯が不味くなったっ!!!この感情、一体どうしてやろうか……っ!?)
嫌な事を思い出した戦治郎が、内心でそう毒づいていると……
「あ、あの……っ!」
不意に戦治郎にとって聞き覚えがある、やや緊張が混ざった声が聞こえ、戦治郎がそちらに顔を向けてみたところ、そこにはいじめ問題の被害者であった榛名と、その双子の妹である霧島の姿があったのであった
「おお、榛名と霧島じゃねぇか。おめぇらも今から飯か?」
「はい、それで空いてる席がないか探していたところ、偶々戦治郎さんの姿を見つけたので、良かったら相席させてもらおうかと思いまして」
榛名達の存在に気付いた戦治郎が、嫌な気分を振り払おうとブンブンと頭を振った後、笑顔を浮かべながら榛名達にそう尋ねたところ、2人分の食事が乗ったトレイを手にした霧島が、戦治郎の問いに対してこの様に返答するのであった
それを聞いた戦治郎が、毅達に榛名達の同席の許可を求めたところ、毅達はすんなりと許可を出し、それを聞いた霧島は毅達に向かって礼を述べた後、戦治郎の対面の席となる提督組の3人が座っている方の席へと座り、榛名はやや遠慮がちに戦治郎の隣の席に腰を下ろし、その頬を少々紅潮させるのであった……
(おぉぅ、榛名は俺の隣に来るか……。って、んん~?)
自身の隣に座って来た榛名を見た戦治郎は、榛名が何かを大事そうに抱えている事に気付き、思わず内心でこの様な事を呟きながら、榛名の腕の中にある物を注視し……
「榛名、おめぇが大事そうに抱えてるソレ……、もしかして弁当か?」
「え?!あの……、えっと……」
「流石戦治郎さん、すぐに気付いてくれましたね。それは榛名が戦治郎さんにと、感謝の気持ちを込めて作ったお弁当なのですよ」
「ちょっとっ!?霧島っ?!」
榛名が抱えている物が可愛らしいお弁当箱である事に気付くと、戦治郎は榛名に向かってこの様に尋ね、それを聞いた榛名が慌てた様子で、しどろもどろになりながら返事をしようとし、その様子を見かねた霧島が代わりに戦治郎の問いに答えると、榛名は更に慌てた様子で霧島を咎めようと声を上げるのであった
「感謝の気持ちって……、まさか……」
「シッ!今聞く事じゃないでしょっ!?」
霧島の先程の言葉を聞いた毅が、この榛名がいじめ問題の被害者なのではないか?と思い、思わず榛名に質問しようとするのだが、榛名の様子を見て何かを察した紅葉が、小声でそう言いながら毅を威圧して黙らせるのであった……
「おぉぅ、まさか俺の為に作ってくれたのか……」
「はい……、最初はそのつもりだったんですけど……、見たところ戦治郎さんは、既に何かを食べている様なので……」
「ああ、大丈夫大丈夫っ!俺まだ全然食えっからっ!!ってな訳で、その弁当くれっ!!!」
戦治郎と榛名がこの様なやり取りを交わし、戦治郎が榛名の弁当を受け取ろうと腕を伸ばしたところ、榛名は戦治郎は無理をしようとしているのではないか?と思い、弁当を渡すべきかどうか戸惑っていたのだが……
「榛名さん……、だったっけ?安心していいわよ?そいつホントに食べるから」
「戦治郎さんはいつも3人前くらい、ペロッと食べちゃうからね……」
「確かにそのくらい食ってますわな……、初めて一緒に食事した時、きつねうどんと焼き魚定食をオカズに親子丼食ってた様な……」
「しかも全部大盛りとかな……、正直あの時は引いたわ……。まあ、今じゃもう慣れちまったけどな」
榛名に助け舟を出す様に紅葉がこの様な事を言い、それに勉、米倉、毅がこの様に続き、それを聞いた榛名は戦治郎の食事量に驚きながらも、少し安心した様子で戦治郎に弁当を手渡し、榛名から弁当を受け取った戦治郎は、注文していたカツ丼そっちのけで榛名の弁当を食べ始めるのであった
正直なところ、嫌な事を思い出したせいでカツ丼の気分じゃなくなってしまった戦治郎にとって、榛名の弁当は口直しに丁度良かったのである。なので戦治郎は、榛名らしい可愛らしい盛り付けがなされた弁当を、それはそれはよく味わって食べ、それを食べ終えるとすぐさま残ったカツ丼の処理を開始し……
「ごちそうさんっ!榛名の弁当、美味しかったぞっ!!」
「あ……っ、ありがとうございます、お粗末様です♪」
全てを食べ終えた戦治郎は、そう言いながら空になった弁当箱を榛名に返し、それを聞いた榛名は少し間を置いた後、心から嬉しそうな笑顔を浮かべながらこの様に返事をし、その様子を毅達とABCトリオ、そして霧島はニヤニヤしながら眺めていたのであった
その後、9人で他愛もない話をしていると……
「そういや、今度の合同実習は戦艦艦娘とだったな……」
話の途中で、ふと思い出した様に毅がこの様な事を口にし……
「そう言えばそうでしたね……、ところで戦治郎さん、戦治郎さんは既に誰かと組む予定などはありますか?」
「いや~?つか、基本あれって当日に訓練場で組むかどうか決めるだろ?」
それを聞いた霧島が、不意に戦治郎にこの様な質問をし、戦治郎はこの様に返答する
「確かにその通りですが、こうして此処には戦艦艦娘候補生と提督候補生がいるのですから、今の内に決めておくのもいいのではないかと思ったのですよ」
「まあ、道理っちゃ道理か……」
戦治郎の言葉に対して霧島がこの様に答えると、戦治郎は納得した様子でこの様な言葉を口にする。するとその直後……
「あの、戦治郎さん……」
「どったよ榛名~?」
「その……、もし戦治郎さんが良ければですが、合同実習の時、榛名と組んでもらえないでしょうか……?」
「マジで?いいの?」
榛名が戦治郎と組みたいと申し出て来て、それを聞いて驚いた戦治郎が、思わず榛名にそう尋ねると……
「はいっ!榛名は大丈夫ですっ!」
榛名は笑顔でこの様に答え、戦治郎と榛名が次の合同実習の時組む事が決定し、合同実習当日、戦治郎は海賊団時代の経験と横須賀鎮守府で培った知識をフル活用して榛名に指示を出し、その指示を受ける榛名は、佐世保鎮守府のエースである金剛から仕込まれた技術と天性のセンスでその指示に見事に応えてみせ、ジャンケンの結果霧島と組む事となった毅とぶつかるまでの間、榛名無双と言われるレベルで相手を圧倒し、毅達との戦いでは互角の戦いを展開した後、戦闘中に出来た霧島の僅かな隙を突き、戦治郎達のペアは何とか勝利を収めるのであった