戦治郎の手によって中国地方から雨雲が退けられた次の日……
「え~皆さん、今日の授業お疲れ様で~す!」
その日の軍学校の授業が全て終わった後、整備科実習棟のすぐ傍にて、戦治郎はロードトレイン砲製作に参加する為にこの場に集まった者達に向かって、拡声器を手に声を張り上げながらこの様な言葉を掛ける
それに対して整備科の者達は元気一杯に返事を返してみせるのだが、工兵科の者達は明らかに困惑しながら、まるで蚊の鳴いている様な、弱々しくか細い声で返事をするのであった……
「なんか工兵科は元気ねぇな~……、疲れてんのかやる気ねぇのか分かんねぇけどよ……。まああれだ、そんなおめぇらに一発で元気が出る情報をおせぇてやんよっ!」
そんな工兵科の者達の様子を見た戦治郎が、この様な言葉を発すると忽ち騒めきが発生し、それを確認した戦治郎はニヤニヤしながら元気が出ると言う情報を口にする
「いいか?聞いて喜べ?何と今回の作業……、艦娘科からも希望者が来ていて、おめぇらと一緒に作業する事になってんだっ!!」
戦治郎がそう言い放ったその直後、今度は整備科の者達だけでなく工兵科の者達の方からも、まるで先程の弱々しい声が嘘だったかの如く、軽く地を揺らす程の大歓声が上がったのであった
「うっわぁ……、男って単純……」
「そう言ってやるな、男とは誰しも女にいいところを見せたい生物なんだ」
「そうだそうだ!男は何時だって女にモテてぇんだよっ!!って言ってて悲しくなってきたぞこん畜生っ!!!」
戦治郎の一言によって沸き立つ野郎共を見て、やや引き気味に鈴谷がこの様な言葉を口にしたところ、予め戦治郎から受け取っていた作業服に袖を通した磯風が、鈴谷に向かってこの様な言葉を掛け、戦治郎から話を聞き興味本位で今回の作業に参加する事にした毅が、男の立場でそう続くのであった
因みに、鈴谷と毅も磯風と同じく、事前に戦治郎から作業服を受け取っており、今はそちらの方に着替えている
尚、戦治郎は毅だけでなく紅葉や勉にもこの話を持ち掛けていたが、紅葉はそう言った作業は柄ではないと言って、勉は自分の体力ではとても作業に追いつけないと言って、戦治郎の誘いを断っていたのであった
「おっしゃ!おめぇら元気出たなっ!?んじゃあ早速今日の作業の予定について説明していくぞっ!って事で大和教官、お願いします」
さて、作業参加者達の士気が上がった事を確認した戦治郎が、自身が立つ位置から少し離れた所に設置された、野外でも鮮明に見える様に戦治郎が改造を施したプロジェクターと、それが接続されたタブレットが乗った机の傍に置かれた椅子に腰掛ける、作業服姿の大和に向かってそう言うと、大和は戦治郎の指示に従って戦治郎の後方にあるスクリーンに、タブレット内に保存されているロードトレイン砲の設計図と、ロードトレイン砲を格納する、ロードトレイン砲専用の格納庫の設計図を映し出すのであった
その後戦治郎は、整備科の者達にロードトレイン砲のパーツと、組み立ての際使用する機材の作製を、工兵科の者達には格納庫の建築を指示するのだが……
「本当は格納庫を建てる時に使用する、重機の類も作る予定だったんだが……、そこまでやってると時間が掛かるって事でな……」
その最中、戦治郎は工兵科の者達に向かって、本来は作業に使用する重機から作る予定だった事を、後頭部をバリバリと掻きながら、残念そうな表情を浮かべながら告げるのであった……
それを聞いた工兵科の者達が、そんなところからやるつもりだったのかよ……、と言った様子で思わずドン引きしていると、突然整備科実習棟の中から複数のエンジン音が聞こえ始め……
「そう言う訳で、整備科の教官達と協力して、予め作っておいた重機達がこちらです」
戦治郎のこの発言と共に実習棟のその大きな扉が開かれ、中から整備科の教官達が操縦する重機の群れが姿を現し、それを見た工兵科の者達は、思わず言葉を失い愕然としてしまうのであった……
そう、この重機達は戦治郎が先程言った通り、戦治郎が宝くじを当ててから鈴谷が軍学校に復帰するまでの間に、整備科の教官達と協力して作り上げた、安心と信頼と実績のある長門屋印の重機なのである
その後、戦治郎が作業参加者達に質問が無いか尋ねたところ、2本の腕が天に向かって真っすぐ伸ばされ、それを確認した戦治郎は先ずは見知った顔である鈴谷の質問に答える事にし、鈴谷に質問の内容を尋ねるのであった
「整備科と工兵科の作業内容は分かったんだけど、センジローさんは鈴谷達艦娘科の作業内容は言ってないじゃん?鈴谷達は一体何したらいいのさ?」
「ああスマンスマン、そういや艦娘科と提督科の参加者の作業内容言ってなかったな。先ず艦娘科だが、鈴谷は提督科の参加者達と一緒に工兵科の補助頼む。んで磯風と……」
鈴谷の質問を聞いた戦治郎が謝罪の言葉を述べた後、質問の答えを口にするのだが、その途中で戦治郎は一度言葉を区切って、とある人物の方へ一瞬だけチラリと視線を向ける……。その視線の先には鈴谷とは別に、質問をする為に挙手をしていた作業服を身に纏った、戦治郎がこちらの世界に来てから初めて目にした、祥鳳型軽空母の2番艦である瑞鳳の艦娘候補生の姿があったのであった……
さてこの瑞鳳だが、如何やら軽空母の教官であり、鹿屋基地所属の祥鳳の実の妹らしく、祥鳳からロードトレイン砲製作の話を聞いて、作業への参加を申し出て来たのである
尤も、祥鳳からこの話を最初に聞いた時、瑞鳳はそこまでこの作業に興味を持っていなかったのだが、作業を取り仕切っているのが戦治郎であると聞くや否や、手のひらを勢いよく引っ繰り返して作業への参加を決意したのだとか……
何故瑞鳳はこの様な行動に走ったのか……、それは彼女が大の艦載機マニアで、戦治郎が日本海軍に紫電改四をもたらした張本人である事を、軍学校に入学する前から何処かで聞きつけていたらしく、彼女はそんな戦治郎ならば紫電改四よりも凄い艦載機が作れるのではないか?と思い、戦治郎との接点を作る為にこうして作業に参加する事にしたのである
因みにそんな瑞鳳は、驚くべき事に龍驤とそこまで背丈が変わらないにも関わらず、航空工学に強い大学をしっかり卒業しており、機械作りに関する知識や技術を少なからず持っていたりするのである
「……磯風と瑞鳳は、俺や整備科の連中と一緒に、ロードトレイン砲のパーツ作りすんぞ。っとまあ鈴谷の質問の答えはこんな感じだが、これでいいか?」
「うへぇ……、建築作業か~……、こりゃシンドそうだね~……。っとりょ~か~い、学費の為にも、鈴谷頑張っちゃうよ~!」
これまで面識が無かった瑞鳳に気を取られていた戦治郎が、我に返るなり言葉の続きを口にしたところ、それを聞いた鈴谷は刹那の間だけゲンナリした様子を見せるのだが、すぐさま気を取り直すとその表情を引き締め、戦治郎に向かってこの様に言葉を返すのであった
「よしよし、気合十分って感じだなっ!っとぉ、そういや瑞鳳も挙手してたな。んで瑞鳳や、おまえさんの質問とは何ぞや?」
鈴谷の返事を聞いた戦治郎は腕を組んでウンウンと頷いていると、瑞鳳も挙手していた事を思い出し、今度は瑞鳳に向かって質問の内容を尋ねるのであった
「えっと、そのロードトレイン砲には、艦載機を搭載させるの?」
「OK、おめぇの艦載機にかける情熱はよぉっく分かったっ!けど残念ながら、ロードトレイン砲には艦載機を格納する格納庫も、艦載機を発着艦させるカタパルトも付けませんっ!今回俺達が作るロードトレイン砲は、あくまで移動可能な砲台ですっ!!!」
戦治郎に当てられた瑞鳳が、その目をキラキラと輝かせながらこの様に尋ねると、戦治郎は自身の両腕で×印を作りながら瑞鳳の問いに答え、それを聞いた瑞鳳は心底残念そうな表情を浮かべながら戦治郎に礼を言うと、ガックリと肩を落とすのであった……
その後、戦治郎が再び質問が無いか尋ね、誰も挙手する様子が無い事を確認すると……
「それじゃあ早速作業を開始しますかねっ!今日が作業の初日、初日は平穏無事に終わらせたいところなので、安全作業を心得ていきましょうっ!!それでは安全確認っ!!ゼロ災でいこう、ヨシッ!!!」
戦治郎はそう言って話を締め括った後、指差呼称をする動作をしながら力強く声を上げ、それを見聞きしていた整備科と工兵科の参加者達も、それに倣う様に戦治郎と同じ様な動作をしながら力強く声を上げ、それが合図となって参加者達はそれぞれの持ち場に移動を開始し、割り当てられた作業を始めるのであった