※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

493 / 655
鈴谷、褒められて伸びるタイプなんです

ロードトレイン砲の布都御魂の製作開始からしばらく経ち、6月の中旬から下旬に移り変わろうとする頃には、布都御魂の製作も大詰めを迎える事となるのであった

 

戦治郎達は6月の上旬中に格納庫の建築を終了させ、作り立ての格納庫に自作した布都御魂の組み立てに必要な機材の搬入し終えると、すぐさま布都御魂の製作に取り掛かった訳なのだが、これが少々時間を食ってしまったのである

 

まあ普通に考えれば布都御魂の製作の作業速度はこれでも恐ろしいくらい早いのだが、自分と同じく転生個体であるが故、人間よりも身体能力に優れた通常の深海棲艦達よりも、圧倒的にスペックを上回っている空達との作業に慣れ過ぎて、多少感覚が麻痺して来ている戦治郎には、この作業速度は少々遅く感じられるのであった

 

そんな戦治郎とは裏腹に、作業に参加する者達は戦治郎の作業ペースに置いて行かれない様にと、戦治郎の作業方法などを見聞きして学び、その技術を己のものにして作業効率を爆発的に上げ、何とか戦治郎の作業ペースに喰らいついていくのであった

 

一体何が彼等をそうさせたのか……?それは彼等が持つ絶えない向上心と、技術屋としてのプライドが、戦治郎の作業ペースに置いて行かれる事を、それによって戦治郎の技術をモノにするチャンスを失う事を良しとしなかったのである。故に彼等は戦治郎から技術を盗む為に、技術屋としての矜持を守り抜く為に、必死になって戦治郎の作業ペースに追いつこうとしたのである

 

因みにこれは整備科の者達だけでなく、工兵科の者達も同じ気持ちであったそうだ。彼等は戦治郎は機械関係に関してはプロフェッショナルなのだろうが、土木建築に関しては素人であるだろうと思っていたのだが、生前は必要な時は輝の作業を手伝っていた関係で、土木建築にも多少の知識と技術を持ち、更にはクロエの提案によって通常の転生個体を上回る身体能力を持った、特別仕様の転生個体となった戦治郎は、彼等の想像を超える速度で、彼等のプライドを刺激するかの様に、サクサクと作業を進めてみせたのである……。故に工兵科の者達は、戦治郎に対する評価を改めると同時に、専門家であるはずの自分達が、戦治郎には負けてはいられないとばかりに対抗心を燃やし、最初は戸惑っていた彼等も、今は作業に真剣に打ち込み始めたのである

 

尚、そんな工兵科の者達の今の主な作業と言えば、長門屋印のフォークリフトに乗って荷物の運搬をしたり、布都御魂のパーツを吊り下げた天井クレーンの操作など、機械操作などを担当していたりする

 

さて、こうして作業の中で切磋琢磨する整備科と工兵科の者達に混じって、作業に参加している鈴谷達艦娘候補生達と、戦治郎と同じ時を過ごそうと、作業参加を決意した大和は一体如何しているかと言うと……

 

「戦治郎さん、ここの溶接が終わったぞ」

 

「センジローさ~ん、ちょっちこっち来てもらっていい~?」

 

「提督、工兵科の方々の方から、部品の搬入が完了したと言う報告が来ています」

 

布都御魂専用の格納庫が完成してからは、整備科の作業に合流する事となった磯風と鈴谷は、最初の方こそ慣れない作業に苦戦していたものの、戦治郎がつきっきりの指導を行い、2人が教えた事を上手く出来た時はしっかり褒めていた事もあってか、今ではすっかり現場に順応し、こうして整備科の者達と協力して順調に作業を進められるほどに技術者としての腕を上げており、秘書艦としてのスキルに秀でていた大和は、戦治郎の指示で現場に出ている都合、作業場全体の管理にまで手が回らなくなってしまっている戦治郎の代わりとして、作業場の管理を行っていたのであった

 

尚、ロードトレイン砲製作開始当初から、整備科の者達と作業をしていた瑞鳳は、持ち前の技術や知識もあった為か、すぐに整備科の者達と打ち解け、彼等と艦載機談義などをしながら作業に打ち込んでいた

 

因みに磯風と鈴谷に関してだが、彼女達は先ず最初に工兵科の者達と共に格納庫の建築に携わった関係で、瞬発力と持久力を兼ね揃えた桃色の筋肉を手に入れる事に成功し、更に作業によって足腰が強くなった事で、重心を安定させて砲撃が出来る様になっており、更に更に今度は精密さが重要になって来る整備科の作業に参加した事で、かなりの精度を誇る射撃や砲撃を可能とする視力を手にするのであった

 

これにより磯風は、戦治郎同様刀による接近戦と精密な射撃を使いこなせるオールラウンダーな駆逐艦艦娘となり、後に長門屋鎮守府に着任しその戦闘能力を披露した際に、長門屋鎮守府の面々からちっこい戦治郎が来たなどと言われ、着任早々航改二となる事となる鈴谷は、艦載機による航空戦や敵艦への爆撃で、その能力を遺憾無く発揮して見せ、長門屋鎮守府の空母勢の関心を集める事となるのであった

 

さて、こうして作業が順調に進んでいると、夕食の時間になったのか浜風達が主計科の者達と共に姿を現し、作業参加者達に食事を配給し始めるのであった

 

「センジローさん、ちょっといいかな?」

 

浜風達から食事を受け取った戦治郎が、磯風達と共に食事を始めようとしたその時、不意に鈴谷が戦治郎に向かって声を掛ける

 

「んぁ?どったよ鈴谷?」

 

「いや、ちょっと気になる事があってね」

 

浜風達が作ったおにぎりにかぶりつこうとしていた戦治郎が、鈴谷の声に反応してキョトンとしながらそう尋ねると、鈴谷はこの様に返した後、意を決したかの様な表情を浮かべた後、改めて戦治郎に向かってこの様な質問するのであった

 

「センジローさんと鈴谷ってさ、この布都御魂だっけ?これ作り始めるまでは碌に話もした事もないし、顔すら知らなかった様な関係だったじゃん?なのに何でそんな鈴谷の為にここまでしてくれるの?熊野から聞いたんだけどさ、この布都御魂ってさ、当初はセンジローさん1人でも作れるサイズで、ここまで大規模な作業を必要としない物になるはずだったんでしょ?それを鈴谷の事知ってから、予定を変更してこんな大規模な作業にしたって言うじゃん?如何してセンジローさんは、そこまでして鈴谷の事助けようとしてんの?それがちょっち気になってさ~……」

 

「ああ~……、その事な~……」

 

鈴谷の質問を受けた戦治郎は、バリバリと後頭部を掻きながらそう呟くと、鈴谷に自分が何故赤の他人であったはずの鈴谷を助けようとしているのかについて、ゆっくりと話し始めるのであった……

 

切っ掛けは困っている那智から頼まれたからであった事から始まり、調べを進めていく内に、名前こそ伏せたが鈴谷が立たされている状況が、ネグレスト被害者であったシゲと重なる部分があった為情が湧いた事、合同実習で知り合った事で戦治郎に身内認定された熊野が、鈴谷の事で思い悩んでいる事を知った事で、身内である那智と熊野を助ける為に鈴谷を助ける事を決定した事を、戦治郎は嘘偽りなく鈴谷に正直に告げた後……

 

「そして何よりも……、あの病気で死ぬ人間を、俺がどうしても見たくなかった……。だから俺は、自己満足の範疇になっちまうかもしんねぇけど、鈴谷がまたあの病気で苦しまなくて済む様に、こうしてその原因となった金銭問題を解決して、鈴谷の事助けようとしたんだが……。迷惑だったか……?」

 

何時になく真剣な表情を浮かべながら、戦治郎はそう言って鈴谷の質問に対しての返答を締め括るのであった

 

そんな戦治郎を見た鈴谷の頭の中に、一瞬何故戦治郎は病気の話が出るや否や、これまでにないくらい真剣な表情を浮かべながら、やけに重苦しい雰囲気を纏いながらこの様な事を口にするのだろうか?と言う疑問が浮かんだのだが、それも戦治郎が本気で鈴谷を助けようとしていた事実を知った事で、妙に高鳴り始めた胸の鼓動のせいで有耶無耶になってしまうのであった

 

因みに、戦治郎の真剣な表情と言葉を見聞きした大和は、それが自分に対して向けられたものではないと頭の中で分かっていながらも、そのカッコよさに思わずウットリしていたのだとか……

 

「いやいやっ!そんな迷惑とか有り得ないしっ!センジローさんのおかげで、鈴谷はこうして熊野と一緒に艦娘候補生続けられてる訳だし、寧ろ鈴谷はセンジローさんにめっちゃ感謝してるしっ!」

 

それからしばらく間を空けて、大和と共に真剣な表情を浮かべる戦治郎に見惚れていた鈴谷は、我に返るなり慌てた様子でこの様な事を口にし、その後改めて戦治郎に感謝の言葉を述べるのであった

 

「そっか、ならこうして行動起こした甲斐があるなっ!っとぉ、そんな事言ってたら折角の飯が冷めちまう、ってな訳でチャッチャと飯食って、食後の休憩挟んだ後に作業の続きやんぞ~!」

 

それを聞いた戦治郎は、この様な言葉を口にした後、鈴谷達に早く食事を終わらせる様に促し、食事を終わらせると宣言通り食後の休憩を挟んだ後、布都御魂製作作業を再開させ、遂にロードトレイン砲布都御魂を完成させるのであった

 

因みに食事の後の作業中、やけにやる気になっている鈴谷を見た戦治郎が、やる気になっているのはいい事だと、鈴谷を褒めたところ……

 

「鈴谷褒められて伸びるタイプなんです。だからうーんと褒めてね!」

 

鈴谷はそれはそれは眩しい笑顔を浮かべながら、戦治郎に向かってこの様に返答し、その言葉が嘘ではない事を証明するかの様に、鈴谷は無理をしない範疇で、これまで以上に効率的に作業をこなしだしたのだとか……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。