嬉野市の地下に広がる空間で、幾多の罠を掻い潜って来た空が、巣作りをするアトラク=ナクアを発見した訳なのだが……
(この間は本当に酷い目に遭ったです……、まさか故郷を捨てた先でも人間に襲われるなんて、予想外も甚だしいです……。あぁ……、何時になったら小生達に平穏が訪れるです……?)
当のアトラク=ナクアは内心でこの様な事を呟きながら、巣作りの手を休める事無くこの日本にやって来た経緯を思い出すのであった……
さてこのアトラク=ナクア、元々はツァトゥグァ達と共にグリーンランドの地下で、ツァトゥグァの策で予め準備しておいた嘘の伝承を信じ、地下空間には立ち入らない様にしていたグリーンランドの人々に干渉しない様に注意しながら、それはそれは平穏な毎日を過ごしていたのである
しかし、その平穏はある者達の侵略行為によって、音を立てて崩れ去ってしまうのであった……。そう、現在グリーンランドに本拠地を構えるアビス・コンダクターである……
シスター・エリカ率いるアビス・コンダクターが、駆率いる変態軍団を取り込んだ後、大所帯になった事を機会に何処かに本拠地を構えるのはどうだろうか?と言うアルバートの提案で本拠地を構える事となり、多少クトゥルフ神話を嗜んでいた駆からグリーンランドの方に邪神が眠っている可能性があると聞いたエリカは、グリーンランドに本拠地を構える事を決定し、グリーンランドに向かうと国民全てを邪教徒認定して皆殺しにしてグリーンランドを制圧してしまったのである……
その後、エリカ達はツァトゥグァが作った嘘の伝承が記された石碑を目にすると、この場所に邪神がいる事を確信し、邪神達とコンタクトを取る為に、大量の兵を引き連れて地下空間に足を踏み入り、地上で起こった出来事について話し合うツァトゥグァとアトラク=ナクアと遭遇すると、エリカは2柱の姿を見るなり感涙してその場に崩れ落ち、アルバートは禍々しい姿をした2柱に鋭い視線を向けて警戒し、駆は途轍もなく怯えた様子でアルバートの影に隠れ、恐る恐ると言った様子で2柱の様子を窺うのであった……
それからしばらくしてようやく落ち着いたエリカが、エリカ達を訝しむ様に見つめる2柱に挨拶を交わし、是非とも2柱を崇拝させて欲しいと申し出るのだが、2柱はそれを即座に拒否するのであった……
先ずアトラク=ナクアだが、彼は普段から兎に角誰にも邪魔されずに、静かに巣作りをしたいと考えている為、地上でドンパチして自分の集中力を切らせる形で作業の邪魔をしたエリカ達に怒りを覚えており、エリカの申し出を耳にするなり心底嫌そうな表情を浮かべながら、その申し出を断ったのである
次にツァトゥグァだが、彼は自分の信者に対しては手厚く加護する、比較的温厚な旧支配者なのだが、如何せん彼は痴呆や病気などとは非常に縁が遠いものの、玄孫がいる程の老体で若かりし頃の様に機敏に動けなくなっており、いい加減そろそろ引退して隠居して静かな老後を過ごしたいと考えており、旧支配者として長い時を経た事で蓄積された経験や知識から来る勘により、彼女達と関わると碌な事にならないと察した為、彼女達の申し出を断ったのである……
こうして2柱から拒絶されたエリカは、まるでこの世界に絶望したかの様な表情を浮かべ、俯きながら再びその場に崩れ落ちてしまうのだが、ほんの僅かに間を空けた後、不気味な笑い声を上げながら立ち上がり……
「そうだったのですね……、貴方方……、いえ……、お前達は、我らの神聖なる神の名を騙る真っ赤な偽物……、邪神だったのですね……っ!その様な輩を見過ごす訳にはいきません……っ!!今日この場所でっ!!!神の名の下にっ!!!!お前達を滅ぼしますっ!!!!!」
狂気染みた不気味な笑みを浮かべながら、腰に下げていた儀礼用の剣を鞘から引き抜き、その切っ先をアトラク=ナクア達に向けながらそう叫ぶと、彼女の後方に控えていた狂信者達が一斉に攻撃を開始し、彼女達の攻撃を受けたアトラク=ナクア達は、すかさず自分達の眷属達をこの場に呼び集めると、彼女達をこの地下空間から追い出す為に応戦し始め、その日は何とか彼女達をこの場から退ける事に成功するのであった……
だがしかし、邪神討伐に狂うアビス・コンダクターは、毎日の様にアトラク=ナクアとツァトゥグァの連合軍に襲い掛かり、連合軍は日を追うごとに徐々に徐々に追い詰められていくのであった……。その原因は、駆の能力である『ネクロマンシー』にあった……
連合軍との戦闘の中、駆と変態軍団は自軍の戦死者と連合軍の戦死者の死体をかき集め、駆の能力で作り出した死霊兵達も自軍の戦列に加える事で、日に日にその戦力を拡大させたのである……
これにより歳のせいで思う様に動けないツァトゥグァと、若く力はあるものの戦いに不慣れなアトラク=ナクアは、日が経つに連れて強大になっていくアビス・コンダクターに追い詰められていき、遂には家族や眷属達を連れてこの地下空間を放棄する事を決定し、追手を分断する事を目的に、家族が多いツァトゥグァは距離的に近いロシア方面から、追手を多めに引き受ける事にしたアトラク=ナクアは、追手を疲弊させる意味も込めて南からグルっと地球を1周してから、噂で非常に快適に過ごせると言われている日本に向かい、そこで落ち合う約束を交わして行動を開始したのであった……
その後何とか無事にグリーンランドを脱出した2柱は、日本で合流し互いに喜びを分かち合った後、それぞれ気に入った土地に拠点を構え、平穏な暮らしを営んでいたのであった。だが、アトラク=ナクアの方の平穏は、つい先日の出来事によって見事に崩壊してしまったのである……
「見つけたぞ、アトラク=ナクア……ッ!」
そんな彼の平穏をブチ壊しにした張本人である空が、アトラク=ナクアに向かってそう叫んだところ、アトラク=ナクアはビクリと身体を震わせた後、作業の手を止めて恐る恐ると言った様子で声が聞こえた方へと視線を向け……
(ぎにゃあああぁぁぁーーーっ!!!出たですうううぅぅぅーーーっ!!!)
「以前は取り逃がしてしまったが……、今回はそうはいかんぞ……っ!龍神……、降臨……っ!!」
声の主である空の存在を視認すると思わず内心でそう叫び、アトラク=ナクアが自分に恐怖している事を知らない空は、そう言うと以前と同じ様な構えを取り、クロム・ドラゴンに変身しアトラク=ナクアと対峙するのであった……
「俺達の平穏な暮らしの為に、ここで討ち取らせてもらうぞっ!!!」
それから大して間も空けずに、空はそう叫びながら翼状のバーニアを吹かしながらアトラク=ナクアに突撃し、拳を浴びせようとするのだが……
(うひいいいぃぃぃーーーっ!?こっち来んなですうううぅぅぅーーーっ!!!)
アトラク=ナクアは心の中で号泣しながらそう叫び、バックステップで空の拳を躱すなり、空にしこたま殴られた事で変形してしまった口から、糸で捕らえた獲物に注入して相手を弱らせる毒液や、獲物の身体をドロドロに溶かす消化液を、弾丸の様に吐き出して応戦するのであった
それを見た空は、すかさずバーニアの向きを変えて毒液を回避すると……
「やはり毒液を吐くか……、まあお前が蜘蛛である以上、そう言う攻撃もしてくるだろうと予想はしていたさ……」
蜘蛛の食事方法について知っていた空は、そう言いながら腕に取り付けたブレスレットを掲げ、その中に格納していた此処に来る前に妖精さん達が仕上げてくれていたあるデバイスを出現させ、それを手に取ると腰のベルトのバックル部分に取り付けるのであった
アトラク=ナクアがそんな空を警戒しながらしっかり見据えていると、空は徐にブレスレットからUSBメモリーの様な物を抜き出し、それを先程腰に取り付けたデバイスにあるスロットに上から差し込んだ。すると……
≪クロム!≫
デバイスから突如合成音声の様な女性の声が鳴り、それにアトラク=ナクアが思わず驚いていると、空は今度は右脚のふくらはぎ辺りから先程と似たUSBメモリーの様な物を抜き出し同じ様にデバイスに、先程のメモリーと隣り合う様に差し込む……
≪ニッケル!≫
直後にデバイスからはこの様な音声が鳴り、アトラク=ナクアが訝しみながらその様子を見ていると、空は腰のベルトから真っ赤なシリンダーを取り出し、それをデバイスの右側部に空いた穴に勢いよく差し込んで見せるのであった
≪アイアン!クロム!ニッケル!シンタリング……スタートッ!!≫
その直後、デバイスからこの様な音声が鳴るなり、空の身体が赤熱した様に真っ赤になっていき、突然の出来事にアトラク=ナクアが動揺していると空の身体の赤熱が収まり、赤熱後の空の身体はクロム鋼の様な銀色から、ステンレス鋼の様な銀色に変わっていたのであった……
≪コンプリート!アロイ・ドラゴン!ステンレス!≫
最早理解が追い付かず呆然とするアトラク=ナクアを余所に、音声は空のフォームチェンジ完了を知らせる様に鳴り、それが鳴り終えるなり空は再びアトラク=ナクアに突撃を仕掛け、我に返ったアトラク=ナクアは急いで空に毒液を吐きかける……
この時アトラク=ナクアは、この毒液もどうせ避けてしまうのだろうと思っていたのだが、何と空はこの毒液を真正面から浴びてしまうのであった。これにはアトラク=ナクアも驚き、何故空が毒液を回避しなかったのかが分からず若干混乱しながらも、これなら勝てるのでは……?などと思った次の瞬間、アトラク=ナクアの左前脚に衝撃が走る……
何事か?そう思ったアトラク=ナクアがそちらに視線を向けたところ、そこには毒液でその身体の表面をしっとりと濡らした空が、右腕でアトラク=ナクアの左前脚を抱え込んでおり……
「良い事を教えてやる、鉄にクロムとニッケルを混ぜ合わせて作るステンレス鋼は、腐食に非常に強いんだ……。蜘蛛であるお前が、この様な攻撃をしてくるであろうと考えた俺は、この『アイアンシンタリンガー』によるフォームチェンジで、己を更に強化すると同時に、お前の毒液に対応する事にしたのだ……っ!」
空はそう言いながらアトラク=ナクアの左前脚をギリギリと締め上げ、その痛みに耐え兼ねたアトラク=ナクアはやぶれかぶれになりながら、右前脚の爪で未だに左前脚を締め付ける空を切り裂こうとするのだが、空はそれに即座に反応して見せ、その右前脚さえも掴んで抱え込み、ギチギチと外骨格が軋む程に強力に絞め上げ……
「ふんっ!!!!!」
遂には空は気合いの声と共にアトラク=ナクアの顔面に蹴りを叩き込み、その勢いと腕力の合わせ技で、アトラク=ナクアの両前脚を根元から引き千切ってしまうのであった。その直後、アトラク=ナクアは恐ろしく甲高い声で悲鳴を上げ、それを聞いた空がトドメを刺す為にライトニングⅡとテキサスを両腕に装着し、【龍神烈火拳】を放とうとしたその時である……
「ちょっ!ちょっちょまっちぇふぉすぃいでぃしゅっ!!!」
恥や外聞、旧支配者としてのプライドなど、ありとあらゆるものもかなぐり捨てたアトラク=ナクアは、先程の蹴りで更にグチャグチャになった口をモゴモゴと動かし、空に制止の声を掛けるのであった……