アトラク=ナクアが悲鳴の様な声で空に制止を掛けたところ、空は【龍神烈火拳】の構えこそ解かないものの、その場でピタリと動きを止めてアトラク=ナクアをじっと見つめ始め、その様子を目にしたアトラク=ナクアは、ここぞとばかりに自分達がこの日本にやって来た経緯を捲し立て、どうか自分達を見逃して欲しいと命乞いをするのであった
すると空は……
「ふむ……、遺言はそれだけか?」
「うしょでゃでょんでょきょでょーんっ!!???」
アトラク=ナクアに向かって無慈悲にそう言い放つと、己の龍気を高め、両腕に装着したライトニングⅡとテキサスにそれを流し込み、空が『五爪』と呼ぶ5本爪の龍の腕の様な形の龍気を己の腕に纏わせると、アトラク=ナクアに飛び掛からんと深く深く腰を沈め始め、それを見たアトラク=ナクアは、思わず涙を流しながらそう叫ぶ……
そして空が腰を沈めるのを止め、アトラク=ナクアに【龍神烈火拳】を浴びせようと、地面を蹴って間合いを詰めようとしたその刹那……
「やめたげてよぉっ!!?」
突如空の胸から翔の声を発する光の玉が飛び出し、アトラク=ナクアを打ち滅ぼそうとする空の前に立ち塞がるのであった
この光の玉、如何やらテレパシー魔法の魔力を利用して、空の感覚を通して空の状況を見ていた翔が、空達の間に割って入る為にテレパシーの魔法に更に魔力を込める事で、空とアトラク=ナクアの両方に自身の声を届けられる様にした結果生まれた物の様である
「止めるな翔、俺にはこいつが一体何を言っているのか分からなかったが、この様子からきっと命乞いをしていたのだろう……。ならばこれまで俺達がやって来た様に、戦場で命乞いをする者を一切信用せず、背後から襲い掛かって来る可能性を考慮し、自分達の安全を確保する為にその場で叩き潰す……、そうだろう?」
「確かにそうですけど……、でも話を聞いている限り、如何やらこの子達もこの戦争の被害者みたいですし……。折角命懸けで逃げて来た先で、今度は明確に命を狙われるって言うのは流石に可哀想過ぎると思うので、出来れば見逃してあげられませんか?」
「そうすると、こいつらは地下で巣を完成させ、その結果世界が終焉を迎える事となるぞ……?これに関しては、クトゥルフ神話に詳しいお前が知らない訳がなかろう?」
「だったら、巣を作らない事を条件に見逃すと言うのはどうです?」
アトラク=ナクアの命運を左右するやり取りが空と翔の間で交わされ、翔が空に向かってこの様な提案をしたその直後、アトラク=ナクアはビクリと身体を大きく震わせた後、凄まじい速度で顔面蒼白になり、声も身体もカタカタと震わせながらこう呟く……
「ショーシェーちゃちきゃりゃしゅじゅきゅりをちょりあげりゅときゃ……、ショーシェーちゃちにしにぇちょいうでぃしゅ……?きゅうしぇーしゅぢゃちょ思っちぇいちゃやちゅが、一番のきちきゅぢゃっちゃでぃしゅ……。しょうにゃりゅきゅりゃいにゃりゃ、しんぢゃほうがまぢゃマシでぃしゅ……」
先程の翔の提案……、それは食事よりも睡眠よりも、この世界の何よりも仕事を優先する程の極度のワーカーホリックであるアトラク=ナクア達からしてみれば、生き甲斐を奪う事そのものであった為、翔の提案を耳にしたアトラク=ナクアは、この様な反応を見せたのである……
「む、今のは少し分かったぞ、死にたいと言うなら手伝ってやろう」
そんな中アトラク=ナクアの呟きを聞いた空が、介錯せんとばかりに再び攻撃を繰り出そうとしたところで、遂に翔がブチ切れを起こし、空に対しては威圧の眼光を光の玉越しに浴びせ、空が動けなくなった事を確認すると、翔は死を覚悟したアトラク=ナクアの説得を開始するのであった
その後アトラク=ナクアが何とか落ち着き、アトラク=ナクアを始末しない事を条件に、空の拘束を解いたところで、翔と空はアトラク=ナクアは巣作りの代わりとなる作業についてしばらく話し合い、話が纏まったところで行動を開始するのだが……
「よし、行くか」
「うぅ……、ましゃきゃショーシェーが、きょにょようにゃきゃっきょうをしゃしぇりゃりぇりゅちょは……」
今回の件の詳細を地上で待つ作業者達に報告した後、長門屋鎮守府建設予定地に帰還する事となった空は、ひっくり返ったアトラク=ナクアの6本の脚全てを、空中で待機するライトニングⅡにアームで吊るされたテキサスのシザーアームで挟み、その身体を宙吊りにしながらライトニングⅡの上でそう呟き、それを耳にしたアトラク=ナクアは、羞恥心に駆られながらも、心底悔しそうにそう呟くのであった
どうしてこの様な事態になっているのかについては、順を追って説明していこうと思う
先ずアトラク=ナクアの巣作りの代わりとなる作業をどうするかについて話し合った結果、アトラク=ナクア達は先日長門屋鎮守府建設予定地に出来た、空の管轄下にある石油コンビナートでの作業と、地下を掘り進む力を買われて鋼材の自給の為の鉄鉱石の鉱脈探しを担当する事となったのである
ただ、その為にはアトラク=ナクアに長門屋鎮守府建設予定地まで来てもらう必要があるのだが、ここで少々問題が発生してしまったのである……
その問題とは空が地下に潜った後、嬉野市市長から市民の不安を拭い去る為に、アトラク=ナクアがいなくなった事を市民に伝える為に、始末し終えたアトラク=ナクアの死骸を持ち帰って欲しいと言う追加注文が入っていたのである
因みに持ち帰ったアトラク=ナクアの死骸の処理は、空達の方に一任するとの事だった
これが無ければアトラク=ナクアは部下達を引き連れ、地下を掘り進んで長門屋鎮守府建設予定地に向かう事が出来たのだが、報告の関係でそれが許されない状況となってしまっている為、アトラク=ナクアは部下達には地下を掘り進んで長門屋鎮守府建設予定地に向かってもらい、アトラク=ナクア自身は空の報告が終わるまでの間、地上では市の役員の目を欺く為に、死んだふりをする羽目になってしまったのであった……
こうして死んだふりをするアトラク=ナクアを、空が長門屋鎮守府建設予定地に連れて行く事になったのだが、その運搬方法で少々揉める事となった
翔とアトラク=ナクアはアトラク=ナクアの運搬の際、空の艤装にアトラク=ナクアを格納して丁重に扱って欲しいと考えていたのだが、それに対して空がそれでは役員に変な勘繰りをされる可能性があるのではないか?と言う意見を出した為である
その後空達が話し合いを重ねた結果、多少死んだふりをするアトラク=ナクアを雑に扱った方が、市民や役員をアトラク=ナクアが本当に死んでいると思い込ませる事が出来、警戒の目を掻い潜り易くなるだろうと言う空の意見が通り、アトラク=ナクアの運搬方法は空の提案に沿う形に、ライトニングⅡに吊るして運搬する事になるのであった
こうしてアトラク=ナクアの新しい仕事と運搬方法が決定し、空は地上に戻る為にアトラク=ナクアが吊るされたライトニングⅡに搭乗すると、地上に向けて【弐式活殺破邪法】を放って天井に大穴を空け、その穴を通って地上に帰還するのであった
尚その際、幾度となくアトラク=ナクアの身体が壁に叩きつけられたり、壁に擦り付けられていたりしていたのだが、空はその事を一切気にせず一直線に地上に向かって飛行したのだとか……
そうして地上に戻った空は空中で変装と艤装のカモフラージュを済ませると、嬉野市の役員達が待機していると言う場所へ向かい、この事を何処かで聞きつけてやって来た地元のテレビ局や新聞記者達がアトラク=ナクアに群がる中、内容の一部にフェイクを入れながら役員達に地下での出来事を報告すると、死骸の処理はこちらでやっておくと告げるなり、そのままライトニングⅡに乗って鎮守府建設予定地に帰還するのであった
そして空が建設予定地に帰還すると、恐らく自身の艤装の中で保管していたものであろう大量の塩を携えた翔とゾアが空達を出迎え、空がアトラク=ナクアの拘束を解除するや否や、翔は鼓翼を抜いて呪文の詠唱を開始する。するとどうだ、翔が準備した塩は翔の詠唱に呼応する様に次々とアトラク=ナクアの顎と両前脚があった箇所に集まり始め、それは見る見るうちに空に破壊されたはずの顎と両前脚の形になっていくのであった
「翔、その魔法は……?」
「この魔法は真・ネクロノミコンにあった、死者蘇生の魔法の応用ですね。流石にずっとボロボロのままって言うのは可愛そうだからって事で、空さん達を待っている間にゾアと一緒に即興で作ったんですよ。本当は悟さんにお願いしたかったんですけど……、悟さんは今此処にはいませんからね……」
「我は魔法を使うのは苦手だが、知識についてはそれなりに持っていると自負しているからなっ!その知識を最大限に活かして翔のサポートに回ったのだっ!」
「はぇ~……、即興で魔法を作るとかすっごいでぃしゅ……。って言うか、そこにいるのはクトゥルフさんのところのガタノトーアでぃしゅよね……?旧支配者を従えているとか、そこのそいつはとんでもない奴なんでぃしゅねぇ……」
先程翔が使った魔法に驚いた空が翔に魔法の事を尋ねたところ、翔は苦笑しながらこの様に答え、それにゾアが何処か自慢げに続き、復元された部位の感覚を確かめていたアトラク=ナクアは、このやり取りを聞くなり思わずこの様な言葉を口にするのであった
尚、アトラク=ナクアの発音に関してだが、如何やら空に顎を破壊されてから日が経った関係で変な癖がついてしまった様で、結局顎が復元された後も発音はこんな調子になってしまうのであった……
こうしてアトラク=ナクアに関する一連の事件は解決し、アトラク=ナクアは自身を徹底して打ちのめした空に服従する形で長門屋に加入する事となり、その正体を隠す為に空から『エイブラムス』の名前と、ポケモンのイトマルの姿を与えられ、休憩も食事もせずに仕事に没頭する事を上司である空に叱られながらも、長門屋鎮守府の敷地内にある石油コンビナートや、鋼材確保の為の地下探索、そして後にシゲ達が発見する事となるボーキサイトの鉱脈での採掘作業に、精を出す毎日を送る事となるのであった
因みにアトラク=ナクアは、最初は空の部下になる事を非常に嫌がり、自身が失った部位を復元してくれた翔の下で働きたいなどと言い出したのだが……
「申し訳ないけど食品衛生の都合で、食堂に蜘蛛はNGなんだ……」
「それにお主、口から毒液を吐けるのであろう?なら尚の事厨房には入れられないのだ……」
翔にアッサリ断られて、更にゾアに追撃されてしまうのであった……