戦治郎が全く想定していなかった形で、瑞鶴と接点を持った上に、彼女を自主練のメンバーに加える事となってからしばらく時間が経過したところで、ちょっとした問題が発生してしまった……
打倒空を掲げる瑞鶴が、戦治郎から空の実力の一部を聞いた事で焦りを覚え、自主練の日はミッチリとトレーニングを行い、それからしばらくの間はガッツリ身体を休めると言う戦治郎の方針に異を唱える様になり、遂には自主練が休みの日にも、瑞鶴が以前戦治郎を呼び出したあの浜辺で独りでトレーニングを行う様になってしまったのである……
「まあ、こうなるわな……」
瑞鶴を鍛える約束をした際、自分の方針に文句を言わない様にと言っていた戦治郎は、瑞鶴と約束を交わした浜辺にある岩陰に身を隠しながら、必死になって自身の身体を虐める瑞鶴の背中に視線を向けながらそう呟く。如何やら戦治郎は、瑞鶴から空の実力を尋ねられた時、こうなってしまう事をある程度予想していた様である
大学時代、剣術の道場と資格取得、更には技術力向上の為のリサイクルショップでのバイトと並行して、空と悟と共に最先端の技術を取り入れた義肢の研究をしていた戦治郎は、人体についての知識を深めると共に、義肢にも鍛えれば強くなる機構を組み込む一環としてスポーツ医学を学んでおり、この時に学んだ知識をフル活用してトレーニングの内容やスパンを考え、自主練に参加する者達全員が効率よく身体を鍛えられる様にしていたのだが、戦治郎から空の実力の片鱗を聞かされた事で焦りを覚えた瑞鶴からしたら、戦治郎が考えたトレーニングメニューはじれったく感じるだろうと思い、戦治郎は瑞鶴に予め文句を言わない様にと言っていたのだが……
「本当は瑞鳳が言った様に、メンタルケアからやる予定だったんだが……、メンタルケアとトレーニング参加の順番が入れ替わった上に、護の奴が変な気起こしちまったせいで、予定がガッツリ狂っちまったなぁ……」
戦治郎の存在に気付かぬまま、オーバーワーク気味のトレーニングを続ける瑞鶴を見守っていた戦治郎は、そう呟くと瑞鶴に気付かれない様細心の注意を払いながら、気配を消して自室に戻る為に移動を開始するのであった……
「大和~、今戻ったぞ~」
「あっ提督、丁度いいところに!」
そうして瑞鶴の様子を見に行っていた戦治郎が、大和が待つ自室に戻って来ると、大和はそう言いながら戦治郎の下へと駆け寄って来て……
「たった今、護さんから連絡が入りましたよ。何やら提督に伝えたい事があるらしいのですが、それをメールにすると文章量が凄まじい事になってしまうと言う事で、今はノートPCのボイスチャットに接続して、そちらで待ってもらっています」
「何っ!?」
大和が戦治郎に用件を伝えると、戦治郎はそう返事をするなり、待ってましたと言わんばかりに、テーブルの上のノートPCに飛びつくのであった。実のところ戦治郎は瑞鶴と知り合った日の朝に、護にメールで連絡を入れてある物を送って欲しいとお願いしていたのである
そして戦治郎のお願いを聞いた護が、何故それが必要なのかについて戦治郎に尋ね、戦治郎が瑞鶴を助ける為に必要だと言ったところ……
『そう言う事なら了解……、と言いたいところなんッスが……、アレは出来損ないッス、ゲーム好きらしい瑞鶴にはまだプレイさせられないッス。だからもうしばらく待ってて欲しいッス、そしたら今より進化した本物のアレを瑞鶴にプレイさせてあげられるッス』
護はこの様な内容のメールを戦治郎に送った後、問題のブツを完成させる為の作業に集中し始めたのだろうか、いくら戦治郎がメールを送っても反応しない様になってしまうのであった……
「待たせたなっ!!!」
『おっせぇッスよシャチョー、こんな時間に一体何やってたんッスか?』
問題のブツの完成を待ちわびていた戦治郎が、ノートPCに内蔵されたマイクに向かってそう話し掛けると、護は呆れた様子で戦治郎にこの様に尋ね、戦治郎が瑞鶴の様子を見に出ていた事と現在の瑞鶴の様子を護に説明すると……
『こりゃ急いで正解だったッスね……、とりまブツのデータをそっちに送るッスから、なるべく容量のデカイROMにブッ込んで欲しいッス』
護は真剣な表情を浮かべながらこの様な言葉を口にし、それを聞いた戦治郎は護の指示に従って、予め準備しておいたDVD‐ROMに送られて来たデータを記録し、確認の為に問題のデータを動かしてみるのであった
その最中、2人は要所要所で質疑応答を繰り返し、戦治郎がその内容をメモに纏めており、話の内容が気になった大和が戦治郎のメモを横から覗き見てみたのだが、そのメモには専門用語が殴り書きで書かれており、とても大和には理解出来ない様な代物となっていたのだとか……
尚この時……
『護ー!腹が減ったンゴー!そう言う訳でピザをっ!それも以前大敗を喫したシカゴ風ピザを要求するンゴー!』
護の背後から戦治郎にとっては聞き慣れない声が聞こえていたのだが、まあこれは大した事では無いだろうと考えた戦治郎は、その声を無視する事にするのだった……
「……流石護よのぅ……、パーフェクトな仕事だわぁ……。新規追加分の奴のテクスチャーやギミックはこっちで仕上げるとして、これなら瑞鶴もきっと満足してくれるだろうよぉ」
『お褒めに預かり恐悦至極……とか言ってる場合じゃないッス、問題が無い様ならば、サッサとそれを瑞鶴のところに持って行くッスッ!!さあハリーハリーッ!!!』
データの確認を終えた戦治郎が護にその出来の感想を伝えると、護はこの様に返答して戦治郎にそのデータを早く瑞鶴に渡す様急かして来るのだったが、時間が時間と言う事で、戦治郎は興奮する護を落ち着かせた後、明日には追加分の作業をしっかり終わらせて、必ず瑞鶴にこのデータを渡すと約束しボイスチャットを終了させると、すぐさま作業を開始するのであった
こうして護からもらったデータを仕上げた戦治郎は、次の日の放課後に瑞鶴の身柄を確保すると、問答無用で自室に連れ込み、突然の出来事に驚きながらもぶうたれる瑞鶴を無視して、テーブルの上にPC用ゲームコントローラーが接続されたノートPCを置き、今朝方完成させたデータが入ったDVD-ROMをセットすると、ノートPCにその内容を読み込ませるのであった……
「何これ?まさかアンタ……、私にゲームでもさせようって言うの……?」
「その通りでございます~!」
「はぁ……、あのねぇ……、私はトレーニングで忙しいの、その辺はアンタも……」
「まぁまぁまぁ~、文句は後でクソ程聞いてやっから、取り敢えずコレやってみてくれっ!」
余りにも強引な戦治郎に苛立ちを覚える瑞鶴と、何としてでもこのゲームを瑞鶴にやらせたい戦治郎が、この様なやり取りを交わしている内に、PCがDVD-ROMの読み込みを完了させ、PCのディスプレイには『
そのロゴを見た瞬間、瑞鶴の身体はピクリと震えて反応し、そこまで言うならと仕方ないと言った様子でコントローラーを手にすると、戦治郎から操作を教えてもらうなり、すぐさまこのゲームを開始するのであった……
それから数時間後……
「くあああぁぁぁーーーっ!!!もうちょっとだったのにいいいぃぃぃーーーっ!!!次こそはあああぁぁぁーーーっ!!!」
スッカリこのゲームの虜となってしまった瑞鶴は、戦治郎の目論見通りトレーニングの事など綺麗さっぱり忘れ去り、護が作り上げたこのゲームに没頭するのであった……
さてこのゲームだが、これは戦治郎達が横須賀にいる頃、ある程度資格を取得して暇になった護が、某同人イベントに参加する為に作っていたロボットアクションゲームであり、それは生前戦治郎と空が護と出会う切っ掛けとなり、あのリチャードまでもを熱狂させた、護がサークル主を務め、後に戦治郎と空が参加する事となった同人サークルである『ハグルマ工房』から出ていた『ギアシリーズ』と言うロボットアクションゲームの続編、最新作にあたる作品なのである
因みにこのアビス・ギアと言う作品のテストプレイには、生前からのシリーズのファンである穏健派連合代表のリチャードも参加しており……
「ストーリーは相変わらずヘッポコだけど、音楽MOD導入で好きな音楽を流しながらプレイ出来る様になったのはいい改善だね。ゲームエンジンやゲームのバランスに関してかい?それに関しては僕から言う事は何も無いね、何せ文句の付け所が一切無く、これ以上素晴らしいものは存在しないと言い切れるほどの完成度なんだからねっ!」
護から渡されたベータ版をプレイした後、この様なコメントを寄せてくれていたりするのであった
戦治郎が瑞鳳から瑞鶴がゲーム好きであると聞いた時、どういったジャンルが瑞鶴の好みなのかについて瑞鳳に尋ね、その回答を聞くなりこれなら瑞鶴もドップリハマり、トレーニングの事など忘れてしまうだろうと確信し、戦治郎は瑞鶴のオーバーワーク気味のトレーニングを止めさせる為に、護にこのゲームをこちらに送る様お願いしたのである。その結果は、ご覧の通りである
それからしばらく時間が経過したところで、就寝時間が迫って来ていた為、戦治郎は瑞鶴にストップをかけ、瑞鶴にこのアビス・ギアの感想を聞いたところ、概ねリチャードと同じ感想を述べるのだが……
「後、ロボットのテクスチャーや背景とかオブジェクト、ロボット同士の戦いに巻き込まれて逃げ惑う人達のモーションとか、こっちのロボットの動きや風の向きに合わせて揺れる木とか、細かい所まで拘ってるのがホント凄かったわっ!そうそう、細かい所って言ったらロボットが攻撃する時のミサイルポッドとかの可変ギミックッ!!あれもとんでもなく細かい所まで作り込まれてて、すっごく衝撃的だったわっ!!!ここまでやるとか、これ作った人変態なんじゃないの?って……、ああ、変態って言っても良い意味でねっ!!」
瑞鶴は如何やら背景やギミックの細かさも気に入った様で、やや興奮気味に早口になりながらこの様な感想を口にするのであった
こうして瑞鶴を護のゲームの虜にする事に成功した戦治郎は、自分達のトレーニングが休みの日だけこのゲームを貸してあげる事を瑞鶴と約束し、これによって瑞鶴はオーバーワーク気味のトレーニングを止め、トレーニングが休みの日は部屋に籠ってゲームに没頭する様になるのであった
因みにこのゲームが記録されたDVD-ROM、戦治郎が既にコピーガードを仕掛けている為、瑞鶴がこのゲームを戦治郎から借りた際、いつでもプレイ出来る様にデータを自前のPCにダウンロードする事は不可能となっていたりする
又、瑞鶴が特に気に入っていたこのゲームの背景やオブジェクト、ロボットのギミックに関してだが、主にロボットのギミックとテクスチャーは戦治郎が担当しており、背景やオブジェクトは瑞鶴の因縁の相手であるあの空が担当していたりするのだが、この事実は瑞鶴が長門屋鎮守府に着任するその時まで、彼女に知られる事は無かったのだとか……