護が作ったゲームのおかげで、瑞鶴にオーバーワーク気味のトレーニングを止めさせ、しっかりと休養を取れる様にすると同時に、ゲームをする事によって彼女の中に溜まったストレスを発散させられる様になってからしばらく経ったある日の事である
その日戦治郎はこれまで知り合った艦娘候補生達と共に、いつもの砂浜で格闘術に関するトレーニングを行っていたのであった
そのトレーニングの内容についてだが、戦治郎が艦娘候補生の誰かと1対1の組手を行い、戦治郎が艦娘候補生から1本取れば、負けた艦娘候補生は次の対戦希望者と交代し、もし艦娘候補生が戦治郎から1本取る事が出来れば、次の日の昼食の際、勝った艦娘候補生は戦治郎の奢りで食事かデザートのどちらかを選んで食べられる様になっているのだとか……
因みに今までの戦績だが、護身術として幼少の頃から合気道を習っていた熊野が3回、やんちゃしていた頃に身に付けた喧嘩殺法で勝負に出た霧島が2回、戦治郎が油断していた隙を見事に突き、腕に関節技を極める事に成功した浜風が1回、戦治郎から勝利をもぎ取っていたりする
それはそうと、この日最初の挑戦者は打倒空に燃える瑞鶴であり、彼女は空が空手の金メダリストである事を翔鶴から聞いていた為、もし空に挑むのならば同じ土俵で戦うべきだと判断し、過去に空と同じ空手道場に通っていた戦治郎に教えを乞い、たった数日の間に空手の基礎を完全に身に付けてみせたのであった。この瑞鶴の教えれば教えるほど、水を吸うスポンジの様に教えた事を習得して行く覚えの早さには、流石の戦治郎も驚きを隠せなかった様で、上手く彼女を育成する事が出来れば、翔鶴以上の実力を持った空母艦娘になるのではないか?と思うほどだったのだとか……
まあ尤も、そんな瑞鶴でもキャリアの差を埋める事は出来なかった様で、この時の組手では、繰り出した突きを戦治郎に綺麗に捌かれ、カウンター気味に打ち出された戦治郎の突きで1本を取られてしまい、次の挑戦者である鈴谷と交代する羽目となるのであった……
「くあーっ!戦治郎さんから全っ然1本が取れないっ!!私に空手教える前、ブランクがあるとか言ってたの、あれ絶対嘘でしょーっ!!!」
組手の前に行ったランニングによる肉体疲労と、組手の際に戦治郎が放っていた威圧感が原因で蓄積した精神疲労からか、瑞鶴は浜辺に大の字になる様に寝転ぶと、天に向かってそう叫ぶのであった
「残念だったな瑞鶴っ!おめぇに空手仕込んでる間に、感覚取り戻しちまったみたいだわっ!!」
如何やら先程の瑞鶴の叫びが耳に入ったのか、戦治郎は鈴谷の相手をしながらこの様な言葉を口にし、それを聞いた瑞鶴は、心底悔しそうな表情を浮かべながら、戦治郎の方へ恨めしそうな視線を向けるのであった
っと、その時である、瑞鶴の視界の中に映る握り拳ほどの大きさの砂の小山が、不意にピクリと動いたのである
突如として動いた砂の小山の事が気になった瑞鶴が、砂浜に寝そべっていた身体を起こし、這う様にしてそれに近付いた後、その砂の小山にやや警戒しながら、ゆっくりと砂山を手で崩してみたところ、何と砂山の中からフライトスーツを身に纏った、何処か自分とよく似た顔をした妖精さんが姿を現したのであった
「え……っ!?何でっ?!」
その事実に気付いた瑞鶴は驚きの余り声を上げながらも、件のパイロット妖精さんを急いで拾い上げて彼女の安否の確認を開始、それによりこの妖精さんが、かなり弱っている事が発覚するのであった
それから大して間も空けず、瑞鶴の声に反応しそちらへ視線を向けていた戦治郎と艦娘候補生達が、一体何事か?と言った様子で瑞鶴の下へと集まり出し、瑞鶴からパイロット妖精さんを発見した経緯とパイロット妖精さんの容態を聞いた戦治郎は、すぐさま艦娘候補生達に指示を出し、戦治郎は妖精さんの第一発見者である瑞鶴と共に医務室へと向かい、残った艦娘候補生達は戦治郎の指示に従い、戦治郎が妖精さんの格好からきっとこの砂浜の何処かにあるだろうと予想したある物や、先程の妖精さん以外にも砂浜に埋まっているかもしれない妖精さんを探し始めるのであった
こうして砂浜で探し物をしていた艦娘候補生達は、浜辺のすぐ傍の浅瀬で戦治郎があるだろうと予想していたそれを発見、着ている服が濡れる事を一切気にせずに、浅瀬に沈んでいた零戦53型を回収するのであった
それから後も艦娘候補生達は、艦載機や埋まった妖精さんがいないかを確認する為に、浜辺中を歩き回ってあちこち調べ回るのだが、結局発見出来たのは先程発見し回収した零戦53型だけだった様である……
一方、妖精さんを医務室に連れて行った戦治郎達はと言うと、医務室に辿り着くとすぐさま瑞鶴が軍学校専属の軍医に事の顛末を話し、話を聞いた軍医が瑞鶴から弱った妖精さんを受け取って診察を開始、そして妖精さんが思った以上に衰弱している事を知った軍医は、大急ぎで妖精さんに適切な治療を施し、現在妖精さんは医務室にある妖精さん用のベッドに横たわり、戦治郎と瑞鶴は心配そうに妖精さんの様子を見守っていたのであった……
「もうちょっと発見が遅れていたら、この子は手遅れになっていた……、か……。ホンっトこの子に気付けてよかったわ……」
「それに関しては、マジで瑞鶴お手柄だわ……。ってか、この岩本妖精さんは何であんなとこに埋まってたんだ……?」
瑞鶴が安堵の息を吐きながら呟く隣で、戦治郎はこの様な言葉を口にしながら、その顔に心底不思議そうな表情を浮かべる……
因みにこの妖精さんの治療中、戦治郎が妖精さんの身元を確認する為に、彼女が着ていたフライトスーツを調べた事で、この妖精さんがエースパイロット妖精さんの1人である、岩本妖精さんであった事が発覚している
それからしばらくの間、戦治郎と瑞鶴が岩本妖精さんが埋まっていた理由に関して、互いに推論を出し合っていると、岩本妖精さんが目を覚まし、戦治郎達の方へと視線を向けると、大きく目を見開いて驚くと同時に、何かから逃れようとしてベッドから転げ落ちるのであった……。その様子を見た戦治郎は……
(あ~……、妖精さんだったら、顔隠してても俺が深海棲艦だって事が、気配で分かんのか……)
内心でこの様に呟くと、フェイスベールの下で苦笑を浮かべるのであった……
その後、戦治郎達は何とか妖精さんを落ち着かせ、戦治郎が敵ではない事をしっかりと伝えた後、妖精さんの身に一体何があったのかについて尋ねるのであった
この時、ハンマー妖精さんと情報交換した関係で、妖精さんの言葉が分かる様になっている戦治郎が主体となって、岩本妖精さんから事情を聞くのだが、岩本妖精さんが話を進めるに連れて、戦治郎はその表情を真剣なものへと変化させていくのであった……
そんな戦治郎の様子が気になった瑞鶴が、戦治郎に話の内容を尋ねてみたところ……
「いや、如何やらこの岩本妖精さん、訓練中に機体の操作ミスやらかしたらしくてな、何とか修正加えて復帰しようとしたみてぇなんだが、それも駄目だったらしく、遂には俺達がいつも使ってる浜辺近くに墜落しちまったみてぇなんだわ。んで、墜落の際の負傷で気絶して、数日間あそこで寝てたらしいわ」
戦治郎はこの様に返答するのだが、その目が一切笑っていなかった為、瑞鶴は戦治郎が嘘をついていると勘付くのであった……
その後、戦治郎達は岩本妖精さんの事を軍医の先生に任せ、浜辺に戻ると他の艦娘候補生達から報告を聞き、それから戦治郎は今日のトレーニングはトラブルがあったからここまでと言って、やや強引にトレーニングを終了させ、艦娘候補生達に自室に戻る様にと指示を出すのであった
こうしてトレーニングを終わらせた戦治郎は、自室に戻る前に向かいの部屋の綾波を呼び、綾波と共に自室に戻った戦治郎は大和にも声を掛け、今日の出来事について2人に向かって話し始めるのであった……
「今日候補生達とトレーニングしてたんだが、その最中に瑞鶴が浜辺に埋まっていた岩本妖精さんを見つけたんだわ。んで岩本妖精さんから話を聞いたんだが、如何やらこの岩本妖精さんがいた島……、神話生物に占拠されちまったみてぇなんだわ……」
戦治郎が大和達に対して、医務室で岩本妖精さんが本当に言っていた事を話し、それを聞いていた大和達はその表情を即座に引き締め、戦治郎の次の言葉を待つ……
「……その表情から予想出来てると思うが……、直ちに準備して岩本妖精さんがいた島行くぞ。恐らくこの軍学校の中で、神話生物と真っ向からやり合えるのは、ゾアを見慣れている俺達くらいしかいねぇだろうからな……っ!」
「「了解っ!」」
ほんの僅かに間を空けた後、戦治郎が大和達に向かってそう言うと、大和達はハッキリとした声で返事をし、すぐさま整備科実習棟に艤装を取りに向かうのであった……
この時大和と綾波は、この問題に完全に気を取られていた為、艤装を取りに行く自分達の姿に視線を送る、2つの影の存在に気付けないでいたのであった……