※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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瑞鶴と零戦虎徹

飛行するポリプと戦闘を開始した戦治郎達……、そしてそんな戦治郎達の姿を瑞鶴は茂みに身を潜ませて窺っているのだが、何故彼女がこの場にいるのだろうか……?

 

それを説明するには、少しだけ時間を遡る必要がある……

 

岩本妖精さんの一件で、その日のトレーニングが普段よりやや早めに終わってしまった関係で、少しだけ空き時間が出来た瑞鶴は、戦治郎からゲームを借りる為に戦治郎がいるであろうと思われる、教官用の寮の大和の部屋へと向かっていた

 

艦娘候補生用の寮から出る際、寮長に対して教本を用いての自習中、解き方が分からない問題があった為、空母艦娘の教官である赤城に解法を聞きに行くと、嘘をついて寮を出た瑞鶴は、今日こそはあのゲームのノーマルモードをクリアしてやると考えながら、所々に設置された照明によって照らし出された教官用寮までのびる道を歩いていたのだが、ふと視界の隅で動く小さな影を見つけると、思わずそちらに視線を向けるのであった

 

その小さな影は何処かを目指し、足を引きずる様にしてゆっくりと瑞鶴が来た方角へと進んでいくのであった

 

そしてその影が照明の下に辿り着き、その正体が明らかになると、瑞鶴は驚きの表情を浮かべるや否や、慌てた様子でその影の方へと走り出すのであった

 

その影の正体とは、トレーニング中に瑞鶴が浜辺で発見し、医務室に連れて行ったはずのあの岩本妖精さんだったのである……

 

医務室で軍医から、岩本妖精さんはかなり危険な状態であった事を教えられていた瑞鶴は、全身の至る所に包帯を巻き付けた岩本妖精さんの下へ駆け寄ると……

 

「何やってるのよ貴女っ!?ダメじゃないっ!軍医の先生が言ってたでしょっ?!今日は安静にしときなさいってっ!!」

 

ボロボロになっている岩本妖精さんを拾い上げ、岩井妖精さんに向かってそう叱責し、彼女を医務室に連れ帰ろうとするのだが……

 

「痛っ!?」

 

岩本妖精さんは瑞鶴の手の中で大暴れした挙句、彼女の手を噛み付いて拘束から逃れようとしたのである。これには瑞鶴も驚き、手から伝わる痛みに思わずその手の力を緩めたところ、その隙を突いて岩本妖精さんが瑞鶴の手から脱出、地面にベシャリ!と落下した後、歯を食いしばりながら立ち上がり、目的地に向かって歩き出そうとするのだが、我に返った瑞鶴の手によって、岩本妖精さんは再び捕まってしまうのであった……

 

その後、瑞鶴は岩本妖精さんから事情を聞こうとするのだが、如何せん彼女には妖精さんの言葉が分からない為、岩本妖精さんがボディーランゲージを交えて事情を話しても、その内容を理解する事が出来なかったのであった……

 

それからしばらくして、岩本妖精さんの話が理解出来ない瑞鶴と、話を理解してもらえない岩本妖精さんの双方が、困り果てながらどうしたものかと考えていると、不意に2人の耳に2人分の足音が聞こえ、それを聞いた瑞鶴が時計を見て時間を確認し、今の時間が当番制で見回りをする教官達が見回りを開始する時間である事に気付くと、急いでその身を隠し、今日の見回り担当の教官をやり過ごそうとするのであった

 

それから大して間も空けずして、瑞鶴が隠れている場所のすぐ近くを、整備科実習棟に艤装を取りに向かっている大和と綾波が、小走りになりながら通り過ぎていくのであった……

 

この時瑞鶴は、2人の表情が真剣そのものであり、とても見回りをしている様な感じでは無かった事に気付き、あの2人は一体何をしようとしているのかについて思考を巡らせようとするのだが、それも岩本妖精さんのとある行動によって中断せざるを得なくなるのであった……

 

岩本妖精さんが一体何をしたのか……?その内容は言葉にすると大した事では無い様に思えるが、パイロット妖精さん達からしてみれば、今後の人生を大きく左右するほどの、かなり大変な事なのであった……

 

瑞鶴の手の中にいた岩本妖精さんが、唐突に瑞鶴に向かって敬礼をしたのである。その直後、瑞鶴の脳内及び視界一杯に艦戦の運用に関わる情報が津波の様に押し寄せ、これにより情報を処理し切れなくなった瑞鶴の脳が、頭痛と言う形で悲鳴を上げ始め、瑞鶴は突如として襲い掛かって来たその激痛に耐え切れず、思わず両膝を突いて片手で頭を押さえ、苦悶の表情を浮かべながら呻き声を上げる……

 

「ハァ……、ハァ……、な、何よこれ……?」

 

それからしばらくして、頭痛が収まった瑞鶴が、肩で息をしながらそう呟くと……

 

「日本海軍的に言えば、今のは契約の儀って奴ね」

 

不意に瑞鶴にとって聞き慣れない声が、それに返答する様に聞こえて来るのであった。それからすぐ、瑞鶴が声の主を探す様に辺りを見回すも、そこには瑞鶴達以外の姿は無く……

 

「こっちよ、貴女の手の中」

 

この声を聞いた直後、瑞鶴は自身の手の中にいる岩本妖精さんの方へ視線を向け、そんな瑞鶴の様子を見た岩本妖精さんは、やれやれと言った様子で肩をすくめてみせるのであった……

 

そう、先程彼女が瑞鶴に向かって行った敬礼は、ハンマー妖精が戦治郎達の額に自分の額を当てた事や、給糧妖精さんが翔の頬にキスをした事と同じ……、日本海軍では契約の儀と呼ばれ、戦治郎達からは情報交換と呼ばれている行為だったのである

 

この行為が日本海軍で契約の儀と言われている理由についてだが、それは日本海軍の中で情報交換が行われた事例が、空母艦娘とパイロット妖精さんとの間で交わされたものしか無く、しかもパイロット妖精さん達の場合、この行為はその艦娘の専属パイロットになり、残りの生涯を共にすると言う意思表示を含む、かなり重い内容となっていた為、この様に呼ばれる様になったのである

 

さて、契約の儀の事を授業で習っていた瑞鶴が、どうして自分と契約を交わしたのかについて、岩本妖精さんに向かって尋ねてみたところ、岩本妖精さんは非常事態だったからと返答した後、言葉が交わせる様になったからと言って、改めて自分が何処に向かおうとしていたのか……、そしてその理由……、自身の棲み処の現状について話し始めるのであった……

 

それを聞いた瑞鶴はしばらくの間絶句し、我に返るなりある事を思い出す。そう、戦治郎が医務室で瑞鶴に行った、岩本妖精さんの事情説明である。あの時戦治郎が言った事と、今し方岩本妖精さんが話した内容は、それはもう全く別物と言って良いくらい違っていたのである。これに気付いた瑞鶴が、何故戦治郎は自分に嘘をついたのか?と疑問を抱いた直後、情報交換した事である程度瑞鶴の考えが分かる様になった岩本妖精さんが、その疑問の答えを口にする

 

「あの人……?うん、ややこしくなるから取り敢えず人で。あの人が貴女に嘘をついた理由だけど、如何やらあの人……、あの化物達とやり合うつもりよ……。んで、その戦いに貴女を巻き込まない様にする為に、ああして嘘をついたんだと思う……」

 

「何でそんな事が分かるのよ?」

 

「私の話を聞いた後の、あの人の顔を見たら分かるわ。だってあの人のあの表情……、艦載機に乗り込んで戦場に赴く私達の顔と同じ……、戦士の顔だったんだもの。それに、あの表情を浮かべてからのあの人が放っていた気配……、あれは相当な修羅場を幾度となく潜り抜けて来た、本物の猛者だけが放てるレベルのものだったわ……」

 

瑞鶴と岩本妖精さんはこの様なやり取りを交わし、岩本妖精さんの話がまだ信じられずにいた瑞鶴は、岩本妖精さんの棲み処がある島に向かうであろう戦治郎達の後をつけ、事実をこの目で確認する事を決意するも、岩本妖精さんに止められてしまう……。だが……

 

「貴女が乗って来た艦載機なんだけど、損傷が酷過ぎるから明日オーバーホールするって戦治郎さんが言ってたわよ?そうなると貴女、棲み処に戻る為の艦載機が無いって事になるわよね?ってな訳で取引しない?私の艦載機を貴女に貸す代わりに、私の同行も認めるって感じでね」

 

瑞鶴は岩本妖精さんの艦載機が使い物にならない状態である事を告げた後、岩本妖精さんにこの様な取引を持ち掛け、泳いで島に戻る訳にもいかない岩本妖精さんは、渋々と言った様子で瑞鶴の取引に乗る事にし、こうして交渉が成立した瑞鶴は、艤装を装着して整備科実習棟から出た大和達の姿を確認した後、整備科実習棟内に侵入して自身の艤装を装着すると、岩本妖精さんに戦治郎からもらった言霊式零戦53型を渡してから、大和達の後を追って岩本妖精さんの棲み処があると言う島に向かうのであった……

 

この様な事があった為、瑞鶴はあの場に存在し、ポリプの姿から来る恐怖と、戦治郎の正体を知った事から来る混乱で、軽くパニックを起こす羽目となるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさかこんな事件が発生してたなんて……、しかもあれって、以前あの子が言っていた奴よね……?ホント、見回り中に大和さん達や瑞鶴の事に気付いて正解だったわね……。っとそれよりも、戦治郎さんも水臭い……、って、そう言えばウチにあの子がいるって事、戦治郎さんに伝えてなかったわね……。そう考えたら、声が掛からなかったのは当然か……。それは兎も角、あの子が作ってくれた武器、役に立ってくれそうね……っ!」

 

瑞鶴よりも更に離れた場所で、瑞鶴達とは別に、大和達へ視線を向けていたもう1つの影の主は、そう呟きながら手にした武器を構え、戦場へ向かって走り出すのであった……

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