護が発案した作戦にまんまと引っかかり、パニック状態に陥ったイオドの精神攻撃の直撃を受けた護は、異変に気付いて駆け寄って来た翔の魔法によって立ち直ったのだが……
「……まさかI.O.D.が神話生物だったなんて……、とても信じられないッス……」
「そりゃまあ……、神話生物がネトゲ廃人……、いや、この場合ネトゲ廃神か?って細けぇ事なんざどうでもいいわ、ネトゲに没頭してるなんて普通考えられねぇからな……」
自身に精神攻撃を仕掛ける直前に発せられた、旧支配者の1柱であるイオドの悲鳴の様な声から、イオドが自分のネトゲ仲間であるI.O.D.である事を確信した護はガックリと項垂れながらこの様な事を呟き、それを聞いたシゲは護をフォローするかの様に、この様な言葉を口にするのであった
「取り敢えず、護の友達がイオドさんだった事が分かった訳なんだけど……、これからどうする?」
「どうするもこうするも、神話生物であるイオドをこのまま野放しにする訳にはいかねぇ、イオドと行方不明事件との関連性をハッキリさせて、必要だったらこれ以上近隣に被害を出さない様にする為にも、ここでイオドを始末するしかねぇだろ」
護とシゲのやり取りを聞いていた翔が、話を先に進める為に2人に向かってこの様に尋ねたところ、精神攻撃によって見たくもなかったものを見せられた事を根に持つシゲが、その表情に怒りの感情を滲ませながらこの様に答える
するとイオドと仲が良い護は、シゲの発言を聞くなりギョッとしながら顔を上げ……
「そう簡単に殺すとか言うのは止めて欲しいッス!あれでも自分のネトゲ仲間なんッスからっ!きっとイオドの方にも事情があるはずッスから、先ずはそれを聞いてからイオドをどうするか考えるべきだと思うッス!」
まるで害獣を駆除するかの様にイオドを始末すると言うシゲに向かって、護は必死になってこの様な言葉を口にするのであった
そんな護に対してシゲが、イオドの話を聞いてから、彼をどうするか判断するとキチンと言っている事を指摘、それによって先程の件で護がかなり動揺しており、まともに話が聞ける状態ではない事が露呈してしまうのであった……
さて、護とシゲがこの様なやり取りをしていると、ふと頭の中にとある疑問が浮かんだヴェルが、何気なくシゲ達に向かってこの様な事を尋ねる
「そう言えば、幾らここの家主が避難勧告の関係でここから離れているからと言って、このまま無断で屋敷の中に入ったりしたら、私達は住居侵入罪に問われるのではないか?」
「それについては問題無いっ!」
ヴェルが質問を口にした直後、シゲ達の代わりにゾアがこの様に答え、その理由について話し始めるのであった
確かに普通ならばこのまま護達がこの屋敷に入れば、護達は住居侵入罪で警察にしょっ引かれる事になるのだが、この屋敷の中にイオドがいる事が判明した今、護達……、厳密に言えば翔達には、この屋敷に入る権利が与えられる……、いや、権利を与えられるどころか、この屋敷に入ってイオドを如何にかしなければならないと言う義務が発生するのである……
何故そうなるのかと言えば、ミッドウェーでの一件で日本海軍内に神話生物の存在が知れ渡り、横須賀の乱の後に翔達がゾアを連れて横須賀鎮守府にやって来た事と、大会議の時にクトゥルフとクタニド、更にはバステトにヴォルヴァドスにイダー=ヤアーにクティーラまでもがやって来た事で神話生物が本当に存在する事が証明されただけでは留まらず、既に神話生物が日本に侵入しており日本での生活を満喫している事が判明、それによって海軍だけでなく陸軍も含める日本帝国軍は、神話生物がどれ程の脅威であるかを彼等の口から直接思い知らされ、そんな神話生物と対峙する様な事態になった場合を想定し、海軍と陸軍は共同で『神話生物対策本部』なるものを新たに設置する事にしたのである
この『神話生物対策本部』とは、日本国内で神話生物関連の事件や事故が発生した場合、その事件に関しては警察以上の権限を持つ事となり、事件の捜査と解決を行う組織となっているのである
ここまで話せば既に気付いている方もいると思う……、そう、この組織はクトゥルフが統治するルルイエと同盟を結んでいる翔をトップに据えており、メンバーの中には大会議の後ルルイエの親善大使をやる事になったゾアや、翔の指名で加入する事となったクトゥグアの力の一部を保有するシゲや、格闘戦ならばクトゥルフと互角に渡り合える空がいるのである
つまり、この屋敷の近隣で行方不明事件が発生し、問題の屋敷にイオドがいる事が判明した事で、その瞬間から『神話生物対策本部』に所属する翔達に警察以上の捜査権限が与えられる事になり、その関係で翔達は住居侵入罪に問われる心配が無くなったのである。因みに、『神話生物対策本部』に所属していない護やヴェルは、捜査の協力者と言う事で翔達同様罪に問われなくなっているのである
こうしてゾアの話を聞いてヴェルが納得したところで、護達は問題の屋敷の中に入る事を決定し、覚悟を決めると揃って入口を潜り、靴を履いたまま屋敷の中に入る。そして入口から少し進んだところで、廊下に転がるあるものを発見するのであった……
「別府……っ!」
「大丈夫だ……、これくらいなら耐えられる……。泊地にいた頃は、遠征先なんかでもっと酷い物を見た事があるから……」
それを目の当たりにした瞬間、シゲがヴェルの事を心配し、慌てた様子で彼女に声を掛けながらそちらの方へと顔を向けると、ヴェルは少々顔を顰めながらも、自身を心配するシゲに対してこの様に返答するのであった……
そんなシゲ達が発見したもの……、それは何らかの原因で死亡し、死亡からかなり時間が経過してしまった関係で、身体の至る所が腐敗してボロボロなってしまっていたり、何か重量がある物に押し潰され、その状態のまま木製の床に擦り付けられた事で、トーストに塗ったマーガリンの様に押し広げられてしまった人間の腐乱死体であった……
「これは……、身元の確認が必要だね……。さて……、僕らだけで出来るかな……?」
「こう言う事なら、通にも声を掛けておくべきだったッスね……」
さて、腐乱死体を目の当たりにした翔と護は、この様なやり取りを交わしながら、捜査を始める為に手袋を装着したり、タブレットを取り出して行方不明事件の被害者の顔写真を探し始め……
「ならば、我はこの死体達の魂を探すとしよう。恐らくこの近くにいるだろうからな……、発見し次第事情聴取をするぞっ!」
それと同時にゾアがこの様な事を口にするなり辺りをキョロキョロと見回し始め、問題の死体の魂と思われるものを発見すると、そちらへ駆け寄り魂を相手に事情聴取を開始するのであった
それからしばらく時間が経過したところで、翔達による死体の身元確認とゾアによる魂の発狂解除と事情聴取が完了し、ここにある死体と魂全てが行方不明事件の被害者である事と、彼等の死因にイオドが関係している事が判明するのであった……
「こりゃ完全にクロだな……」
「まだッス……っ!まだイオド自身から話を聞いてないッス……っ!自分はイオドの話を聞かない限り、絶対認めねぇッス……っ!!」
翔達の報告を聞いたシゲが、思わずこの様な事を呟いたところ、それを聞いた護がこの様な言葉を口にした後、まるで何かに耐える様に歯を食いしばり、ギリギリとシゲ達にも聞こえる程の歯軋りをするのであった……
その後、護達はそこら中に転がる死体をこれ以上破壊しない様に注意しながら、センサー類をフル稼働させてイオドの居場所を探り、奥に進めば進むほどセンサー類のノイズが激しくなっていく事に気付くのであった……
これは一体どう言う事か?この現象に対して護が疑問を浮かべていると……
「イオド殿は生物の体内で発生する電気信号を感知、その内容を自由に書き換える事が出来るのだが、それの応用で自分自身を途轍もない索敵範囲を持つレーダーの様にして、父上達と共に地球外生命体達から地球を守っていたと、我は父上からそう聞いておるぞ。恐らくむせる君に走ったノイズは、イオド殿が発している妨害電波の影響なのかもしれん……」
「って事は、このノイズが激しくなればなるほど、近くにイオドがいるって事ッスね……」
護の様子から何かを察したゾアがこの様な事を言い、それを聞いた護がこの様な言葉を口にすると、ゾアは恐らく……と返答しながら頷いて見せるのであった
それからと言うもの、護達はノイズの量でイオドが近くにいる事を察知する様になり、最奥の部屋の扉の前でセンサー類が完全にノイズまみれになった事で、その部屋にイオドがいる事を確信、シゲが警戒しながら扉を開いてみたところ、そこにはシゲ達に怯えているからなのか、死体だらけの部屋の隅で生まれたての小鹿の如く、その鱗まみれで粘液まみれの大きな身体を、身体から生えた触手と共にプルプルと震わせる、ゾアの父親であるクトゥルフと同期であるはずのイオドの情けない姿があったのであった……