※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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研修1日目

翌日、戦治郎はいつもの様に総員起こしが掛けられるより早く起床し、日課の朝練を終えてシャワー室で汗を流し、総員起こしのラッパの音で起きて来た大和達と合流すると食堂で朝食を済ませた後、これから訓練があると言う瑞鶴と別れると、戦治郎と大和、そして時間通りに出勤して来た毅の3人は、先日大淀大将から説明された通り執務室へと向かうのだった

 

戦治郎達が執務室に向かった頃には既に大淀大将と彼の孫であり秘書艦である大淀、そして舞鶴鎮守府に所属する艦娘の、各艦種の筆頭と思わしき艦娘達が執務室に集合しており、戦治郎達は挨拶を済ませるとすぐに執務机の前に整列する舞鶴の艦娘達の後方につき、静かに大淀大将の言葉に耳を傾けるのであった

 

そうして大淀大将の口から本日の予定が所属艦娘達と戦治郎達に伝えられると、艦娘達はゾロゾロと執務室を退室し持ち場へ向かい始め、執務室には大淀大将と大淀、そして戦治郎達の5人だけが残り……

 

「では、彼女達の準備が整い次第、こちらも予定通り始めるとするか」

 

「「はいっ!!」」

 

大淀大将が提督候補生である戦治郎達に向かってそう言いながら立ち上がり、執務室とは別に存在する司令室に向かって移動し始めると、戦治郎と毅は短く、そして力強く返事をし、その後を追って移動を開始するのであった

 

その後戦治郎達は、司令室にて舞鶴~小樽間を航行する輸送船の護衛任務に就く艦娘達に対して、真剣な表情を浮かべながら指揮を執る大淀大将の様子を見学し、疑問点があればすぐさま大淀大将に質問し、その返答を聞くと即座にメモにペンを走らせると言う行為を幾度となく繰り返すのであった

 

尚この時……

 

「う~ん……、この程度の任務だったら、軽巡と駆逐の艦娘だけで如何にかなるのではないでしょうか……?」

 

国内での輸送船護衛任務であるにも関わらず、軽空母や重巡の艦娘まで任務に参加させる大淀大将に対して、教本から得た知識を基に毅がこの様な質問をしたところ……

 

「少し前だったならば、それで良かったのだがな……」

 

大淀大将はそう言った後、戦治郎の方へと視線を向ける……。その様子を見た戦治郎は、大将が転生個体について話そうとしているのではないか?と勘付き、了承の意思を伝える為に大将に向かって静かに頷いて見せると、大将もまた戦治郎に向かって静かに頷き返し……

 

「君達は転生個体と言うものを知っているかね?」

 

大将はそう言って毅の質問に答える為に転生個体の存在について話し始め、それを聞いた毅の不思議そうな表情は、見る見るうちに青褪め引き攣っていくのであった……

 

因みに大淀大将が毅に話した内容は、南方海域で発生した転生個体絡みの問題が中心となっており、食人鬼ヌ級ことNと絶対平和党党首のナ級の七瀬の所業を聞かされた毅は、想像を絶する恐怖に顔面蒼白になる事しか出来なかったのである……

 

「この転生個体と言うものは、我々が知る深海棲艦同様そこらを徘徊している事があるらしく、最悪の場合日本近海でも遭遇する可能性があると言う報告を受けている……。こういった事情がある為、例え簡単な輸送任務であったとしても、任務にあたる艦隊にはある程度戦力を持たせなければいけない状況になっているのだよ……」

 

「尤も、それも相手によっては只の時間稼ぎにしかならない場合もあるらしく、転生個体の中には地図の書き換えが必要になる程の力を持つ者や、常識では考えられない様な攻撃手段を持つ者もいると聞いています……」

 

「軽空母や水母を艦隊に加えている理由の1つは、そう言った強大な力を持った転生個体を速やかに発見し、相手に気付かれる前に即座に撤退、そして艦載機から得た情報を確実に持ち帰り、この事実を大本営に正確に報告出来る様にする為なのだよ……」

 

「な、成程……、そう言った事情があったから、この様な艦隊編成になった訳なんですね……。勉強になります……」

 

大淀大将が話を締め括ろうとしたところで、秘書艦の大淀がこの様な補足入れ、それを聞いた大将がこの様に言葉を続けると、毅は相変わらず顔色を悪くしたまま、この様に返答するのであった……

 

尚この話の最中、自然災害を自在に操れると言う常識外れな能力を持つ戦治郎は、表には出さなかったものの、内心では汗だくになりながら毅から目を逸らして口笛を吹き、そんな戦治郎の心境に気付いた大和は、戦治郎同様内心で苦笑していたのであった……

 

その後、輸送任務は特に問題無く完了し、輸送任務に参加した艦娘達が帰投すると、大将は今度は鎮守府近海の哨戒用の艦隊を、先程輸送任務に参加した艦娘達以外の艦娘で編成し、再び彼女達を混沌渦巻く海へと送り出す。大将はこれらを昼食時になるまで繰り返し、任務を確実にこなしていくのであった

 

 

 

「……何か現場の状況と教本の内容が、全然噛み合ってねぇよな……?」

 

大将の仕事の見学が終わり、昼食時と言う事で戦治郎達は午前中の訓練を終えた瑞鶴と合流し、食堂で話を弾ませながら昼食を摂っている中、不意に毅がこの様な事を零した

 

「多分教本が出来上がった頃に穏健派や転生個体の話が出て来て、その件を教本に載せられなかったのかもしれねぇな。まあ、穏健派については追加冊子でガッツリ触れてあったが……」

 

「大将の話聞く限りだと、穏健派より転生個体の方が重要じゃね……?もしそんなのが世界中の海で跳梁跋扈していたら、日本どころか世界のピンチじゃね……?だったら尚の事教本に転生個体について書き記して、多くの提督達に転生個体の事を周知徹底させて、しっかり対策練るべきなんじゃねぇか?」

 

「そりゃぁ……、まぁ……、そうね……」

 

毅の言葉を耳にした戦治郎がそう言うと、毅は納得いかないと言った様子で反論し、それを聞いた戦治郎は……

 

(大将のおかげで、こいつにこの世界の真実について教える日が近付いたな……。まあ、それよりも先に、北上と大井の件を解決しときたいとこだな……)

 

毅に向かって曖昧な返事をしながら、内心では大将に感謝しながらこの様な事を呟いていた

 

戦治郎からしてみれば、毅はアクセル達海外勢や長門屋のメンバー、そして元海賊団のメンバーほど長い付き合いではないのだが、入試からずっとつるんでいる大切な仲間、れっきとした身内なのである。だからこそ、戦治郎は彼にはこの世界の真実を知ってもらい、同期の提督としてこの困難を共に乗り越えたいと考えているのである

 

ただまあこの話題は予備知識や前情報無しで話した場合、衝撃があまりにも大き過ぎるが為、戦治郎は転生個体である自分が毅に真実を伝える事を少々躊躇っていたのである

 

しかしそれも今日までの話、先程大将が転生個体について触れてくれたおかげで、毅はこの世界の実情の一端に触れる事となり、戦治郎が己の正体を毅に明かした上で、転生個体だけでなく神話生物についても話せそうな状況が出来上がったのである

 

故に毅とも肩を並べて戦いたいと思い、今回の件は絶好のチャンスだと判断した戦治郎は、毅に転生個体の事を話した大将に対して感謝の意を示したのである

 

因みに戦治郎がこれをチャンスだと判断した要因には、毅が大将の話を聞いて顔青褪めさせていたにも関わらず、先程のやり取りでは転生個体から逃げようとせず、戦う意志を見せてくれた事が挙げられる

 

尤も、毅に真実を告げる件については、それよりも北上と大井の件の方が優先順位が高いと戦治郎に判断された為、後回しにされてしまう事になるのだが……まあ仕方が無い事である。何せ北上と大井の件は、放置していると舞鶴鎮守府全体に影響を及ぼしかねない上に、最悪北上と大井の双方が心を病んでしまう可能性が考えられるからである

 

さて、そうしている内に昼食の時間が終了し、戦治郎は大将から与えられた鎮守府の中を各自自由に歩き回って改めて見学し、現場の艦娘の声を聞くと言う時間を利用し、工廠にいると思われる北上に接触しようとするのだが……

 

「戦治郎、どうせお前の事だから工廠行くんだろ?だったら俺も付いていっていいか?正直、突然自由に見回って良いって言われても、何処行っていいもんか分からなくてなぁ……」

 

戦治郎が席から立ち上がったところで、不意に毅がこの様な事を言ってくるのであった

 

(うん……、さっきこいつに転生個体やらの話してもいいかなって思ったけどさぁ……、出来れば大将達がいる時にやりたいんよねぇ……。ほら、こう……、事情知ってる大将に俺のフォローを入れてもらったりとかさぁ……)

 

それを聞いた戦治郎が内心でこの様な事を呟きながら、どうしたものかと考えていると……

 

「だったら私と一緒に来ない?この休みが明けたら、提督候補生と空母艦娘候補生の合同実習が解禁される訳でしょ?ならこの機会を利用して、前もって空母艦娘がどんなものか把握しておいて、他の連中より1歩先を歩くのも悪くないと思うんだけど?」

 

「ああ、瑞鶴は午後からも訓練なのか。そうだな……、確かにそれも良さそうだな……、うっし!じゃあお言葉に甘えて、空母艦娘達の訓練を見学すっかっ!!って事で悪ぃな戦治郎、やっぱさっきの無しで」

 

その様子を見ていた瑞鶴が戦治郎に助け舟を出す様に、毅に対してこの様な事を提案をし、それを聞いた毅は戦治郎に詫びを入れた後、瑞鶴の提案に乗り彼女と共に食堂を後にするのであった

 

その際、瑞鶴は食堂の出入口に差し掛かったところで、戦治郎の方へチラリと顔を向け、1度だけ可愛らしくウインクをして見せ、それを見た戦治郎は瑞鶴に返礼する様に、小さくサムズアップして見せるのであった

 

こうして問題を解決した戦治郎は、午後からは舞鶴鎮守府の艦娘達のリクエストで、彼女達に訓練をつける事となってしまった大和と別れ、北上に接触する為に工廠に向かって歩き出すのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、昼休憩が終わり誰もが食堂を後にし、午後の予定に取り組み始めた頃、ようやく忙しさから解放された給料艦の艦娘達が、1つの机に集まって遅めの休憩をとっていると……

 

『次のニュースです、最近頻繁に発生している琵琶湖周辺で発生している行方不明事件の続報です。昨日警察の調べで、新たに3名の行方不明者がいる事が判明し、警察は引き続き行方不明者の捜索を続けている模様……』

 

食堂に設置されたテレビから、この様なニュースが流れ……

 

「最近は物騒ね……、佐賀の方の行方不明事件が解決したところで、今度は琵琶湖周辺で行方不明事件が発生してるし……」

 

「そう言えば琵琶湖周辺って、確かここの由良ちゃんの実家の近くじゃなかったかしら……?」

 

「あら、そうなの?由良ちゃんのご家族がこの事件に巻き込まれてなければいいわねぇ……」

 

ニュースを耳にした給糧艦娘達は、由良の家族の事を心配しながら、この様なやり取りを交わすのであった……

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