戦治郎は無事に北上と接触する事に成功し、予定よりもあっさりと北上に足の後遺症の治療を受けさせる事を承諾させ、休み期間中に横須賀にある悟の勤務先の病院に向かい、メモを渡した直後に戦治郎が書き上げた、北上が戦治郎の知り合いである事を証明する為の手紙を悟に渡し、悟の指示に従って治療を受ける様にと、北上に治療を受けるまでの手順を説明した後、工廠に入った際に工作艦娘と交わした約束を果たす為に、工廠にいる艦娘や妖精さん達を呼び集め、手持ちの言霊式ネームド艦載機の設計図をそこかしこに広げて言霊式ネームド艦載機の作り方を教えていた頃、佐世保鎮守府ではある艦娘の改修作業が行われていたのであった……
「休み期間を利用して鎮守府の様子を見に来てみれば……、まさか私の改二改修を行ってもらえるとは……。提督、本当にありがとうございます!」
佐世保鎮守府の執務室にて、先程佐世保鎮守府の工廠で改二改修を終えた赤城は、執務机で金剛と共に書類作業に打ち込む兼継に向かって、心の底から湧き上がる感謝の気持ちを言葉にしながら、深々を首を垂れるのであった
「喜んでもらえて嬉しいよ、ただまぁ……」
「……?如何なさったのですか?」
赤城から感謝の言葉を貰った兼継は、作業の手を止めて赤城の方へと向き直り、最初こそは笑顔で返事をするのだが、途中から少々複雑そうな表情を浮かべながら続きの言葉を言い淀み、そんな兼継の様子見ていた赤城は、思わず不思議そうな表情を浮かべるのであった……
「赤城の改修なんデスガ、実はもう1段階改修可能みたいなんデース」
「えぇっ!?改二以上の改修があるのですかっ?!」
そんな2人の様子を見ていた金剛が、じれったさを感じたのか兼継が口にしようとしていた言葉を代わりに口にし、それを耳にした赤城は驚愕の表情浮かべながら兼継にそう尋ねるのであった
「実はそうなんだ……、ただそれをやってしまうと、少々厄介な事が発生する可能性があってね……」
「厄介な事……、ですか……?」
「YES、赤城をもう1段階改修すると、赤城は普通の空母からから夜間作戦空母と言う空母に変わってしまうみたいデース」
赤城の問いに答えようとした兼継が慎重に言葉を紡いでいると、厄介事と言う単語が気になった赤城が再び不思議そうな表情を浮かべ、その直後に今度は赤城がいない間に一足先に改修を終え、改二丙となった金剛が厄介事の原因となる部分について口にするのであった
そんな金剛の言葉を聞いた赤城が、夜間作戦空母なる聞き慣れない単語に困惑していると……
「夜間作戦空母と言うのは、専用の艦載機を搭載する事で、夜戦の時も艦載機を用いて相手を攻撃出来る空母の事なんだ。で、これの何が問題かって言うと、赤城が夜間作戦空母って聞いて不思議そうな表情してた事から分かる事なんだけど……、この世界には赤城改二戊どころか、赤城改二や金剛改二丙のデータすら存在してないんだ……」
兼継は赤城に夜間作戦空母の説明をした後、兼継や金剛が言う厄介事について詳しく話し始めるのであった……
そう、本来この世界には改二改修用のデータが10種類あるか無いかぐらいしか存在しておらず、戦治郎達がこの世界に転生個体として転生し、西方海域あたりで長門達と接触した際に彼女達に情報提供した事で、ようやく2017年12月11日に実装された多摩改二までのデータが、この世界に出回り始めたと言う状況だったのである
なので戦治郎達が亡くなった2017年12月24日以降に実装された改二改修用のデータや、一部の兵装のデータは本来この世界には存在していないはずなのだ……。にも拘らず、兼継は2019年4月22日に実装された金剛改二丙や、2019年5月21日に実装された赤城改二の改修を平然とやってのけたのである……
これは一体どう言う事かと言うと……
「……例の提督のお兄さんが遺したと言う、『へっどまうんとでぃすぷれい』と言う物のおかげ……、ですか……?」
ここまで兼継の話を静かに聞いていた赤城が、真剣な表情を浮かべながら兼継にそう尋ねたところ、話をしていた兼継はそこで一旦言葉を切り、赤城の言葉を肯定する様に静かに頷いて見せた後、続きを話し始めるのであった……
そう、兼継は戦治郎達とは違い、生前戦治郎達が作り上げ、ちょっと早めのクリスマスプレゼントとして兼継に送ったHMDが引き起こす不思議な現象を用いる事で、この艦これの世界と自分が本来存在している世界を、生きたまま魂だけで自由に行き来する事が出来るのである
つまり、兼継はこの世界で唯一、リアルタイムで更新されるゲームの艦これの最新情報を、この世界にもたらす事が可能な存在なのである……っ!
そしてこれこそが、兼継達が言う厄介事の原因なのである
先程も言った通り、この世界の改二事情は多摩改二で止まっているのだが、今の兼継は2019年8月8日に実装された、海風改二までの情報を持っているのである
改二となった艦娘は、従来の艦娘よりも強力になっていたり、利便性が大幅に向上したりする為、戦況を大きく変化させ、こちらが有利な状況を作り易くしてくれる。故にこの世界の多くの提督達は、恐ろしい程に改二に関する情報に過敏になっているのである。まあ、こちらの世界はゲームではなく、実際に戦争と言う命の駆け引き行っている為、所属艦娘達を無残に失わない様にする為に、提督達が改二情報に過敏になってしまうのは仕方が無い事である……
さてそんな中、本来この世界に存在しない改二情報を持つ兼継の存在が、海軍内で広く知れ渡ってしまうとどの様な事が起きるかと言えば、誰もが改二情報を求めて佐世保鎮守府に殺到し、その対応のせいで佐世保鎮守府の運営や艦隊運用に支障が出てしまう事だろう……
更にその騒動の中、旧支配者であるヴルの存在が佐世保鎮守府にやって来た提督達にバレる様な事になれば、最悪大パニックが発生してしまう可能性まで考えられる……
そしてこれは最悪中の最悪の事態になるが、この提督の群れの中に過激な思想を持つ者が混ざり込み、どさくさに紛れて兼継を連れ去り、自身の拠点に監禁する事で最新の改二情報を独占し、場合によっては兼継を始末する事で、自分の地位を揺ぎ無きものにしようとする者も出るかもしれないのである……
この様な事態が想定される為、兼継は佐世保鎮守府に所属する艦娘にだけは、自分が知っている情報を基に、工廠の妖精さん達やヴルと協力して改二改修を行っていくが、その際に一部の艤装に細工を施す事で、艤装に改二改修が行われている事を分かり辛くし、兼継が最新の改二情報を持っていると言う事実を、誰にも悟られない様に隠蔽する事にしたのである
因みに金剛の艤装に新しく搭載された艦首中甲板の魚雷発射管も、ヴルと妖精さん達によって施された細工によって取り付けられた、スライド式装甲板で隠せる様になっていたりする
「こう言った理由があって、僕は艤装に細工して事実の隠蔽を図ってるんだけど……、赤城改二戊の場合、艤装云々じゃなくて赤城自身から溢れる風格って言うか……、オーラって言うか……、そう言った類のもののせいで滅茶苦茶誤魔化しづらいんだ……。だからさ、改二戊にするのはもうちょっち待ってて欲しいんだ……」
「ちょっと釈然としませんが……、そう言う事ならば仕方が無いですね……」
こうして兼継はこの言葉を以て赤城に対しての事情説明を終わらせ、兼継の話を聞いていた赤城は、兼継が改二戊の改修を渋る理由に関しては納得していないものの、兼継の身を守る事を優先する事にして、この様に返答するのであった……
尚、兼継が持つ情報が世に出回る様になるのは、兼継と戦治郎がこの世界で再会してからになるのだが、それはまだしばらく先の話になる事だろう……