リンガの提督を暴力で黙らせて出撃した正蔵達が、救難信号を発信する輸送船の下に急行したところ、そこにはとても常識では考えられない様な姿をした巨大生物が存在しており……
「まだ輸送船の位置まで距離があるって言うのに……、此処からでもはっきりと姿が視認出来るなんて、どんだけあの怪物はでかいって言うのよ……っ!?」
「目測で50mくらいかしら~?とっても大きいのね~、あれ」
正蔵が作り出した紅吹雪製筋斗雲に搭乗する満潮と荒潮は、その姿を見るなりこの様なやり取りを交わしていると……
「……っ!?正蔵さんっ!!」
問題の巨大生物をしっかりと見据えていた朝潮が、何かを発見したのか正蔵に叫ぶ様にして声を掛けながら巨大生物の足元の方を指差す。するとそこには救難信号を発信しているのであろう輸送船の姿があり……
「あいつ……、輸送船の方に触手みたいな物を伸ばしているニャ……。もしかして、輸送船の乗組員を食べようとしてるのかニャ……?!」
「ちぃっ!!」
朝潮の指先を視線で追っていた多摩が、巨大生物が輸送船に向かって触手を伸ばしている事に気が付き、思った事をそのまま口にしたその刹那、正蔵が渋い表情を浮かべながら舌打ちし、自身の能力で新しく彼岸花の花弁を大量に作り出すと、巨大生物の触手と輸送船の間にそれらを滑り込ませ、直後に物理障壁を形成する事で、巨大生物の行動を阻害する事に見事成功するのであった
「儂の目の前で人を食おうとするとは、中々いい根性しとるのう……っ!!その根性、儂が叩き直してくれるわっ!!!お前らいくぞっ!!!」
「はいっ!アゲアゲでいきましょー!」
何とか巨大生物による人間の捕食を阻止した正蔵が、怒りを隠そうともせずにそう叫ぶと、正蔵の傍にいた大潮がその言葉に反応してこの様な事を口にし、直後に正蔵は飛行する紅吹雪を一気に加速させて巨大生物との距離を詰め、ある程度距離が縮まった所で朝潮達と共に紅吹雪から降り、何時どの様な攻撃にもすぐに対応出来る様、今まで乗っていた紅吹雪の筋斗雲を分解すると……
「そこのデカブツウウウゥゥゥーーーッ!!!ワシが知覚出来る範囲内で人様を喰らおうとするとは、いい度胸しとるのうっ!!!えぇ?!おいいいいぃぃぃーーーっ!!?」
正蔵は巨大生物の気を引き付ける為に、巨大生物……、いや、孫であるツァトゥグアに会う為に、時空の壁をも超えて地球に飛来した外なる神であるサクサクルースに向かって、大声で啖呵を切るのであった……
(さて……、取り敢えずこれであの化物のヘイトはこっちに向いたが……、どうしたもんかのう……)
こうしてサクサクルースの意識を自分達の方へと向ける事に成功した正蔵は、内心でそう呟きながら思考を巡らせ始めるのであった
先程の行動のおかげで、取り敢えず相手の注意を引き付ける事に成功はしたのだが、輸送船がこれに合わせて即座に行動出来るか否か、それが正蔵の中で不確定要素となり、彼を僅かながら悩ませているのである……
(十中八九、輸送船内はこの化物のせいで大混乱に陥っとるじゃろうな……。そんな中で、こちらの存在に気付いて冷静な判断が出来る奴がどれ程いるか……、それが最大の問題点じゃな……)
正蔵としては正蔵達が化物の注意を引き付けている間に、輸送船がこの隙を利用してこの海域から離脱してくれるのが最大の理想なのだが、この化物を見たショックと化物に襲われたと言う事実が重なってしまったせいで、船内は大パニックに陥ってしまい、それも叶わんだろうと正蔵は思ったのである
(輸送船を庇いながらの戦闘の場合、こちらの行動に制限が掛かってしまい、どうしてもこちらが不利になってしまう……。かと言って輸送船を無視して戦闘に突入しようものなら、あの化物が輸送船を盾にしてこちらの攻撃を捌こうとする可能性もある……。儂が輸送船を庇っている間に朝潮達に……、いや、これだと朝潮達に危険が及ぶ可能性が非常にでかい上に、間違いなく火力不足に陥るじゃろうな……。ぬ~ん……、この問題、どうやって解決……、……んん?)
ほんの僅かな時間で、此処まで思考を巡らせていた正蔵は、ふと視界に映ったものの存在に気付くと……
(ああ……、そう言えばそう言う手筈じゃったか……。すっかり失念しとったわい……)
内心でそう呟きながらニヤリと獰猛な笑みを浮かべ、急に黙り込んでしまった正蔵の事が気になって、様子を窺っていた荒潮を驚かせるのであった
「さっきので相手の注意を引き付けられたけど……、これからどうするつもり?」
「今、すっごく怖い笑みを浮かべてたけど~……、正蔵さん、何か策があるのかしら~?」
その直後、満潮が正蔵に向かってこの様な事を尋ね、それに反応した荒潮が満潮に続く様に、先程見た正蔵の笑みの理由を尋ねて来る
「ああ、とっておきの策があるぞい、それは……、全軍、輸送船の事は気にせず突撃じゃーっ!!!」
それに対して正蔵はこの様に叫ぶと同時に、巨大生物の方へと一気に駆け寄り、居合の要領で酒呑童子を鞘から抜き払い、巨大生物に斬りかかるのであった
「ちょっとっ!?輸送船を無視するとか正気っ?!」
「……っ!?そう言う事ですか……っ!!ならば朝潮、正蔵さんに続きますっ!!!」
正蔵の指示に困惑する満潮が思わず声を荒げながらこの様な事を口にした直後、正蔵の意図に気が付いた朝潮がそう叫びながら、正蔵に続く様にして、手にした主砲でサクサクルースに対して牽制を仕掛けながら間合いを詰め始めるのであった
「朝潮まで……っ!?一体どう言うつもりよっ?!」
「……なるほど、そう言う事ね~」
「えっ!?何っ?!荒潮は正蔵さんの意図が分かったのっ?!?」
「ええ~、今、輸送船の方を見たらすぐ分かるわ~」
朝潮までサクサクルースに突っ込んでいく様子を見て、更に困惑の色を深める満潮がそう叫んだ刹那、荒潮がようやく正蔵達の意図に気付いてこの様な事を口にし、それを聞いた満潮が食って掛かる様にして荒潮に問い質したところ、荒潮はこの様に返答しながら輸送船の方を指差すのであった
そんな荒潮の言葉に従い、満潮が彼女が指差す方角へ視線を向けると……
「あれって……、穏健派連合の深海棲艦……っ!!」
そこには輸送船を守る様にその周囲を取り囲み、輸送船をこの海域から離脱させる為に先導する、腕章や鉢巻などを装着した深海棲艦達の姿があり、それを目の当たりにした満潮は、思わずこの様な言葉を口にするのであった
そう、この深海棲艦達は満潮が言う様に、穏健派連合に所属する深海棲艦であり、元々この輸送船の護衛任務に就いていた者達なのである
彼等はその姿の都合上、人間の生活圏にあるシンガポールの港に直接向かう事が出来ない為、台湾にある護目炒飯基地から出撃した後、洋上で輸送船と合流し、そこから護衛任務を開始すると言った手順で、普段から護衛任務をやっているのである
そう、正蔵が先程失念していたと言っていたのはこの事であり、現在輸送船には穏健派連合の深海棲艦達の一部が乗り込み、一部は乗組員達を落ち着かせる為に奔走し、一部は乗組員の代わりに輸送船を操縦し、輸送船を戦闘海域から離脱させようと奮闘しているのである
「これでスッキリしたかしら~?」
「えぇ、そう言う事なら、私も心置きなく参戦出来るわ……っ!」
「そう、なら私達がしっかりと援護しなくちゃね~」
「大潮、戦闘準備完了しましたっ!!いっきまっすよーっ!!」
この海域から遠ざかっていく輸送船を見送る満潮に対して、荒潮が落ち着いた様子でこの様に尋ねると、満潮は疑問が解消した事でスッキリした表情を浮かべながら、腰に差した大嶽丸の柄に手を添えてこの様に返答し、その様子を見た荒潮はこの様な言葉を口にしながら、伊吹が剛用に作ったパニッシャーと並行して作り上げ、正蔵の要請で荒潮の手に渡ったダブル・ファングを構え、満潮達のやり取りの最中に戦闘準備を整えていた大潮も、それに合わせて荒潮のダブル・ファング同様、伊吹が作り上げたハルコネンを構え、サクサクルース目掛けて駆逐艦用とは思えない様な、それはそれは大きな砲弾をぶっ放すのであった……
その直後……
「満潮、出るわっ!!!」
「さぁて、暴れまくるわよぉ~」
満潮はそう叫びながらサクサクルースの方へと駆け出し、荒潮は左右の手にそれぞれ持った、25mm機銃の火力を軽く凌駕するダブル・ファングのトリガーを引き、満潮の援護をする様に銃弾の嵐を吹き荒れさせるのであった