※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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朝潮の決意

サクサクルースこと咲作との戦いを終え、報告の為にリンガ泊地に帰還している正蔵達は、この移動時間を利用して咲作にこの世界の事情について話していたのであった

 

確かに咲作は細かい座標さえ分かれば、様々な場所に時空を超えて自由に移動が可能な存在なのだが、正蔵達と初めて遭遇した時のリアクションから分かる通り、自分と同じ外なる神や旧支配者以外の存在に対しては、基本的には見下し歯牙にも掛けていない為、過去、現在、未来の枠組みを超越し、個人の体感時間も含めた全ての時間軸に同一の存在を同時に存在させる事によって、世界中の情報を常にこれでもかと言うくらい集められるヨグ=ソトース程の精度はないものの、時空を超える力を使ってある程度情報収集が可能であるにも関わらず、咲作は深海棲艦も含む地球人類に興味が湧かなかったと言う理由で、地球の出来事に関して全く情報の類を集めていなかったのである

 

しかし、先程の正蔵達との戦いで敗れた事で、正蔵を中心としたこの地球の生物に興味を持った咲作は、自身のこれまでの認識を改めると同時に、この地球にいると教えられた自分の孫であるツァトゥグアの身に危険が及ぶのではないか?と言う可能性を感じ取り、正蔵達からこの地球の生物達や世界情勢に関わる情報を教えてもらう事にしたのである

 

尤も、これは正蔵やリチャードにまで伝わっていなかった為、現時点では咲作に知られる事は無かったのだが、ツァトゥグアが現在日本の釧路に住んでいる理由は、神話生物を味方に付けようとしていたアビス・コンダクターの襲撃が原因である為、咲作のこの予感は実際の所的中していたりするのだが……

 

それはさて置き、正蔵が咲作にこの世界の状況について教えている中、正蔵が作り出した紅筋斗雲の上で、朝潮は俯きその表情を曇らせながら、今回の戦いについて振り返っていた……

 

今回の戦いにおいて、戦闘に参加していなかった多摩を除けば、自分以外の誰もが身に付けた技術を大いに活用し、しっかりと成果を出していたのではないか?と、朝潮はそう考えていたのである……

 

実際の所、朝潮は正蔵から仕込まれた体術を用いて咲作の触手攻撃を受け流しながら咲作の本体に接近し、満潮が付けた傷に魚雷を叩き込む事で、僅かながらではあるが咲作に見事ダメージを与えている訳なのだが、如何やら朝潮としては、満潮の様に自身が身に付けた技術で直接咲作の身体に傷を付けられなかった事や、荒潮や大潮の様に的確なサポートが出来なかった事が不満だった様である……

 

「……今回の戦いで、何処か不満なところでもあったって感じね」

 

「満潮……」

 

そんな朝潮の様子に気付いた満潮が、朝潮に向かってこの様に尋ねたところ、朝潮は彼女の名を口にした後、先程自身が考えていた内容を暗い表情のまま、ポツリポツリと話し始めるのであった……

 

「あんたがそう思うなら、きっとそうなんでしょうね……。それで?あんたの事何だから、その問題の解決方法についてはある程度考え付いてるんでしょ?」

 

「それは……」

 

朝潮の話を聞き終えた満潮が、言葉の内に少々棘を含ませながら再び朝潮に向かってそう尋ねると、朝潮は少々困った様な表情を浮かべながら言葉を詰まらせるのであった……

 

事実、朝潮はこの不満点の解決方法として、以前から正蔵から薦められていた長門屋への異動を挙げているのだが、あのヘタレ・オブ・ヘタレな提督の所に、これまでずっとチームを組んでやって来た満潮達を残して、自分だけが戦治郎達の下へ向かう事に躊躇いを覚えていた為、満潮に対してその考えを言い出す事が出来ず、こうして言葉を詰まらせてしまったのである……

 

「……ほら、早く言いなさいよ。あんたが思いついた解決法って奴をね……」

 

暗い表情を浮かべながら、自身の問いに対して言葉を詰まらせる朝潮の姿を見て、苛立ちを覚えた満潮が眉間に皺を寄せ、正蔵直伝の剣気を朝潮にぶつけながら改めてそう尋ねたところ、朝潮は満潮が発する威圧感に気圧されてしまったのか、観念した様に自身の考えを口にし……

 

「……自分の力に自信が無い癖に、よくもまあそんな偉そうな事が言えるわね……っ!?」

 

それを聞いた満潮は、苛立ちを隠そうともせずに、この様な言葉で朝潮の言葉に返答し、辺りに一触即発の空気を漂わせ始め、その様子を見守っていた大潮と多摩は、その空気に当てられたのか、動揺し慌てふためき始めるのであった……

 

その後、遂に朝潮と満潮が言い争いを始め……

 

「二人共、喧嘩はその辺りに……」

 

普通の艦娘には早々発する事が出来ない様な、凄まじい威圧感同士がぶつかり合う中、何とか勇気を振り絞って2人の喧嘩を止めようと、多摩が2人の間に割って入ろうとすると、それを2人と付き合いが長い荒潮が多摩の肩に手を置き、それに気付いて荒潮の方へと視線を向ける多摩に向かって、無言で首を振って見せて仲裁する事を制止するのであった

 

そう、満潮が朝潮の焦りに気付いていた様に、荒潮も満潮と同じ様に朝潮の焦りに気付いており、これはいい機会だと思った荒潮は、敢えて仲裁に入ろうとする多摩を制止し、2人に本音をぶつけ合ってもらう事にしたのである

 

「だからっ!私は貴方達の事が心配でっ!!」

 

「それがお節介だと言ってるのよっ!!あんたは私達の実力についてはもう既に把握し切ってるんでしょっ!!?その上で自分の実力が私達に劣っていると思っていながら私達の心配っ?!!ふざけるのもいい加減にしなさいよっ!!!」

 

そんな中、朝潮と満潮は互いの言葉をぶつけ合い、遂には満潮のこの言葉が余程効いたのか、朝潮は驚きの表情を浮かべた後、沈黙してしまうのであった……

 

それからしばらくの間、紅筋斗雲の上に沈黙が訪れ、それはそれは重い空気が辺りに漂い始める……

 

(満潮姉さんったら、格好つけて思っても無い事言っちゃって……。でもまあ……、このくらい言わないと朝潮姉さんは動きそうにもないから、仕方ないと言えば仕方ないわよね~……)

 

こうして訪れた静寂の中、満潮の真意に気付き、その考えに同意している荒潮は、内心で困った顔しながらそう呟く……

 

そう、満潮のあの言葉は決して本心ではなく、かなりきつい言葉にこそなってしまっているが、実際の所は『自分達の事は心配せず、戦治郎達の所でしっかりと自分を鍛え上げ、その不安や不満が消え去る程実力を付けたその時、所属こそ違えど再び肩を並べて戦おう』と言う、ちょっと素直ではない激励の言葉なのである

 

(まあ、朝潮姉さんの事だから、満潮姉さんが何を言いたいのかについてはキチンと分かっている筈だし、私からのフォローは要らないでしょうね~)

 

荒潮が内心でそう言葉を続けた直後、不意に朝潮が今までの暗い表情がまるで嘘であったかの様な、毅然とした表情を浮かべながら顔を上げ……

 

「……如何やら貴方達に心配を掛けさせていたのは、私の方だった様ですね……。今まで心配させてしまって、本当にごめんなさい……。そしてありがとうございます、これで決心が付きました、私はリンガ泊地に戻った後、すぐに戦治郎さん達がいる長門屋鎮守府への異動の為に、異動届の作成に取り掛かろうと思います!」

 

この場にいる者達に対して謝罪の言葉を述べた後、感謝の言葉と共に決意表明するかの様にそう言い放ち、それからすぐにリンガ泊地に帰還した朝潮は、正蔵に殴られた事で医務室での安静を言い渡された提督の代わりに、秘書艦に今回の戦いに関する報告と、長門屋への異動を希望している事を伝え、秘書艦から異動届を受け取った後、先程の宣言通り部屋に戻って異動届の作成を開始するのであった

 

因みに異動届が完成し、朝潮が提督に異動届を提出しようとするのだが、自身が保有する艦隊をまともに戦場に出すつもりも無いクセに、貴重な戦力が減る事を嫌がった提督が異動届の受理を拒否、この事を満潮を通して知った正蔵によって、提督はしこたま張り倒される事となるのだが、それでも提督が異動届の受理を鋼の意志で拒否し続けた為、正蔵は最後の手段として、咲作と共に釧路に向かう際、朝潮を元帥がいる横須賀鎮守府に連れて行き、元帥に異動希望を直談判する事を朝潮に提案し、それを聞いた朝潮は咲作の孫に会ってみたいと言う理由から、釧路に向かった後に横須賀鎮守府に向かいたいと正蔵にお願いするのであった

 

この朝潮のお願いが、後に降り掛かる悲運から剛を救い出す事となるのだが、この事実を現状知っているのは、今は戦治郎達と一切面識の無い外なる神、ヨグ=ソトースくらいだと思われる……

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