「これが儂と咲作が出会った経緯じゃ」
「いや~、まさかワシの身体を叩き斬れる輩が、ヨグ坊やダークネス達以外におるとは夢にも思っておらんかったぞ」
突如として姿を現した古のものを瞬殺した正蔵達は、雲龍達に案内された舞鶴鎮守府の執務室の中で、自分達が知り合う切っ掛けとなった出来事について話し、この様な言葉で話を〆るのであった
「正蔵さん……、もしかして私達と初めて会った時よりも、更に強くなってたリする……?」
「そりゃそうじゃろ、儂はヤマグチ水産の業務以外にも、最近はほぼ毎日の様にカルメンの連中とドンパチしとるんじゃぞ?例え相手が格下だったとしても、数をこなせば嫌でも強くなってしまうわいっ!」
「って事は、正蔵さんはカルメンって奴等がいなくなるまで、強くなり続ける可能性があるって事……?ちょっと怖すぎるんだけど……?」
正蔵の話を静かに聞いていた雲龍が、話が終わるなり正蔵に向かってそう尋ねてみたところ、正蔵はこの様に答えるなり胸を反らして大笑いし始め、出撃した雲龍達を埠頭で出迎え、共に執務室にやって来ていた瑞鶴は、その様子を見るなりドン引きしながらこの様な事を口にするのであった……
因みに瑞鶴は小弁天島でのポリプとの戦いの後、軍学校に戻るその道中にて、戦治郎が平八達にした質問……、紋付羽織袴のリコリスについて戦治郎に尋ねており、そこで紋付羽織袴のリコリス=正蔵の事を教えてもらっていた為、埠頭で初めて正蔵と出会った時、彼に対して矢を向ける様な命知らずな事はせず、正蔵が纏う覇気に当てられ圧倒されていた関係で、執務室に到着するまでずっと大人しくしていたのだとか……
「しかし……、南極方面にいると言われる古のもの達が、南極から遠く離れた北半球とやらに出現するとは……。一体この地球で何が起こっておるのじゃ……?」
「戦治郎、これに関して何か心当たりは……、って、お前……、まぁ~だ横になっとるんかい……」
先程のやり取りの後、先程の戦闘後に出現した古のものについて考えていた咲作が、不意にこの様な言葉を口にし、それを聞いた正蔵が戦治郎に向かって何か心当たりはないか尋ねようとしたのだが、今の戦治郎の様子を見た正蔵は一旦そこで言葉を切り、溜息を1つ吐くと呆れた様子でこの様に言葉を続けるのであった……
何せ今の戦治郎は若干顔色を悪くし、大和に膝枕をしてもらいながら、執務室内にある来客用ソファーの上で横になっているのである……
その原因は勿論、全て正蔵達にある……
戦治郎は正蔵の話を聞き始めた段階では、まだまだ元気一杯だったのだが、咲作の正体が外なる神であるサクサクルースである事を知った時点で頭痛が始まり、正蔵がリンガの提督をぶん殴ったと聞いた段階でキリキリと胃が痛み始め、正蔵が不滅であるはずの咲作を叩き斬ったと、改めて聞いたところで眩暈がし始め、正蔵からこの世界の情勢を聞いた咲作が、ツァトゥグアに危険が及ばない様にする為に、そして暇つぶしの為に、人類や神話生物に害をなす転生個体がこの世界からいなくなるまでの間、地球に滞在する事を決めたと聞いた瞬間、遂に戦治郎は限界を迎えてしまい、倒れ込んでしまったのである……
因みに現在戦治郎に膝枕をしている大和だが、正蔵が戦治郎の祖父であると知るや否や、艤装の中に入れていた手鏡を素早く取り出すと急いで身だしなみを整え、ガッチガチに緊張しながら、声を震わせて正蔵と挨拶を交わしており、それからしばらく時間が経過した今も尚、緊張状態から解放されていなかったりする……
こう言った理由で倒れてしまった戦治郎の事はさて置き……
「古のものとやらについて気になる点がある様ですが……、それよりも先に、私の部下達を助けて下さったことに関して、私から正蔵さん達に感謝の言葉を送ろうと思います……。正蔵さん、咲作さん、この度は本当にありがとうございました」
「何、礼には及ばんよ」
「儂等が偶然通りかからなくても、あの状況なら正蔵の孫が如何にかしていただろうしのう」
正蔵達の話を聞いていた大淀大将が、正蔵達に対して深く頭を下げながら感謝の言葉を口にしたところ、正蔵は気にするなとばかりにヒラヒラと手を振りながらこの様に答え、それに咲作がこの様に続く。と、その時である
「……ハッ!?」
古のもの達の登場から始まり、戦治郎の正体を目の当たりにし、続け様に正蔵と咲作の戦いっぷりを見せつけられ、更には正蔵と咲作の出会いの切っ掛けを聞かされると言う、余りにも暴力的過ぎる情報の大洪水の直撃を受け、それによる精神的ダメージを緩和する為に、本能的に思考を停止していた毅がようやく我に返るのであった
「そう言えば、この若造は何者なんじゃ?」
「正蔵の孫と似た様な格好しとるし、関係者であるのは間違いなさそうじゃのう」
毅の声を聞き、毅の存在をたった今思い出したかの様に、ジジーズがこの様な事を口にすると……
「そいつは俺と同期の提督候補生で、京 毅って言うんだ……。っと大和、膝枕サンキューな」
ここでようやく戦治郎が正蔵達の方へと視線を向け、この様な事を言いながら上半身を起こすなり大和に小さな声で感謝の言葉を述べ、ソファーから足を下ろしてソファーに腰掛けた体勢をとるのであった
「戦治郎……、お前……」
「俺の正体をお前達に隠していた件については素直に謝る、だが俺の方にも事情って奴があってな……。ちょっち言い訳っぽくなるが、出来れば今から俺が話す事を、全部とまでは言わねぇ……、少しでもいいから信じて受け止めて欲しい……」
そんな戦治郎に複雑な表情を見せる毅に向かって、戦治郎はこの様に前置きした後、自分が先日大淀大将が言っていた転生個体である事、転生個体についての更なる詳細、自分の正体が軍学校内に知れ渡った際に発生するだろう混乱や襲撃事件を避けようとして変装していた事、そして自分達が欧州から日本に来るまでの間に発生した、フェロー諸島での決戦やアムステルダム泊地での人体実験、更には大淀大将が伏せてくれていた転生個体によって結成された組織の存在についてや、横須賀の乱の一部始終について、そして一部の神話生物達が転生個体の存在を危惧し、転生個体撲滅の為に大規模な戦いを仕掛けようとしていた事などを、真剣な表情を浮かべながら、嘘偽りを一切含めずに包み隠さずその全てを毅に話すのであった……
こうして戦治郎からこの世界の真実を伝えられた毅は、最初はとても信じられないと言った様子で話を聞いていたのだが、先程ディスプレイ越しに存在を確認した古のもの達や、現在進行形で自身の目の前で瑞鶴と雲龍に質問攻めされながら突かれる咲作の姿を見て、戦治郎が話している内容は全て真実であり、現在存在している提督や今後新しく提督に任命される者達全てが、立ち向かっていかなければいけない問題である事を深く理解し、その内容を真正面から受け止める事にするのであった
しかし、それでも毅には1つだけ分からない事があった……
「戦治郎が正体を隠していた理由は分かったし納得した、そしてこの世界が今、とんでもねぇ状況になっている事も、今日の出来事で嫌ってくらい思い知らされた……。でも戦治郎よぉ、それを何で今俺に話したんだ?」
「おめぇは昨日大将の話聞いた時、ビビッてはいたが逃げようとはしてなかっただろ?普通の奴があんな事知らされたら、間違いなくバックレると思うんだが、おめぇはあの話聞いた後バックレる算段をするどころか、あの情報を周知徹底させて、しっかり対策練って立ち向かうべきだ~みたいに言ってただろ?」
「いや、確かにそうだけどよぉ……」
「ほぅ……、この若造はそんな事を言いおったんか……。リンガの提督なんかよりよっぽど見どころがありそうじゃのう……」
「だろ?だから俺は、この世界の問題に巻き込むのはちょっち申し訳ないと思いながらも、転生個体と戦う意志を見せてくれたお前に、この世界の真実を伝える事にしたんだ。尤も、ホントはもうちょっち後から……、大体北上と大井の問題解決してから?まあそのくらいのタイミングで話そうと思ってたんだが……」
「急に 古のものが 湧いて来たので」
「うん、大体あいつらのせい」
「なるほどな……」
毅が自分の中に生じた疑問を口にしたところ、戦治郎は毅の事を真っ直ぐ見据えながらこの様に答え、その間に時々正蔵が茶々を入れると戦治郎は苦笑しながらこの様に言葉を締め、それを聞いた毅は若干脱力しながらも、戦治郎の言葉に対して納得の声を力なく発するのであった……
こうして毅は戦治郎達と共に転生個体や神話生物と戦っていく事になり、軍学校在籍中は戦治郎の協力者として戦治郎の正体の隠蔽の為に奔走し、軍学校卒業後も戦治郎達と積極的に交流を図る事で良好な関係を築き、その過酷な戦いで積み上げた経験のおかげで、最終的には日本海軍の名将の1人と数えられる程の実力者となるのだが、この時点での毅は、自身にそんな未来が待っているとは夢にも思っていなかったのであった……。まあ、当然と言えば当然ではあるが……
その後、毅に正体がバレた事で、現在舞鶴鎮守府にいる者達全てに正体がバレた事となった戦治郎は、今日以降舞鶴鎮守府にいる間だけは、変装しなくて済む事に気が付くと、喜びの余り満面の笑みを浮かべ始めるのだが……
「そう言えば戦治郎……、お前……、確か桂島泊地を改装して作った遊園地を経営するんじゃったよな……?」
直後に何処からか情報を仕入れていた正蔵が発した言葉を聞くなり、その表情を絶望を超越した負の感情の色で染め上げると同時に、突然襲い掛かって来た暴虐的過ぎるストレスに脳と腹と肛門を、これでもかと言う程に痛めつけられるのであった……
こうして、艦娘ランドのフードコート内に、アンダーゲート艦娘ランド店がオープンする事となるのであった……
尚、今回の正蔵達の襲来で甚大なダメージを受けたのは、何も戦治郎だけではない……
「そう言えば正蔵よ、お前が育てた朝潮達は兎も角、この鎮守府とやらにいる娘っ子達だけで、神話生物の相手が出来るのか?」
「ぬ……、そう言われると確かにちと不安じゃのう……」
相変わらず瑞鶴達に突かれている咲作と、この様なやり取りを交わした正蔵は、直後にそれはそれは獰猛な笑みを浮かべ、大和達まで巻き込んで神話生物対策の訓練として、現在舞鶴鎮守府にいる艦娘全員対咲作(パーフェクトフォルム)と言う内容の演習を提案し、演習に参加した艦娘達を地獄より遥かに深い場所にご招待するのであった……
尚、この演習に参加した艦娘達が、驚くべき程に成長した事は言うまでも無い……