時は戦治郎達がジジーズと激戦を繰り広げている最中、正確な時刻はヒトマルマルマル辺りだろうか、昼食の準備の為に集まっていた食堂組以外は建築作業の為に出払っている長門屋鎮守府建設予定地に建てられた食堂の中にて、翔は厨房内にあるガスコンロ上に存在する大きな鍋を前にして神妙な表情を浮かべていた……
「翔さん……、本当にやるのですか……?」
「鳳翔さん……、僕だって本当は分かっているんです……、これは本来やっていい事ではないと……」
そんな翔の様子を少し離れた場所から見守っていた鳳翔が、心配そうな表情を浮かべながら翔に向かって声を掛けると、翔は何かを自分に言い聞かせているかの様に、その双眸を閉じながらこの様に返事をするのであった……
「だったら……っ!」
「でもこれをやらないと、恐らく僕はこれ以上料理人として先に進めなくなってしまう……、そんな気がするんです……っ!」
鳳翔の隣で翔の返答を聞いた龍鳳が、何かを実行しようとする翔を制止する様声を上げるのだが、翔は小さく首を振りながらこの様に返答するのであった……
「それに……、さっきから僕の頭の中で何かが囁くんです……。これは絶対にやるべきだと……、もしこのタイミングでやらなければ、僕は一生後悔する事になるって……」
「いや……、しかしなぁ……、幾らウチらが味見して大丈夫だったから言うても、流石にこれは……」
それから大して間も空けず、翔がこの様に言葉を続けたところ、今度は龍驤が不服そうにこの様な事を零しながら、鍋の中身に視線を向けるのであった……
そんな龍驤の視線の先にある鍋の中には、見たところとても食材として使えそうになさそうな、やや黒ずんだ謎の液体が湯気を立ち上らせながら存在していたのであった……
「今回の件の責任は全て僕が負います……、ですから……っ!!」
「……翔さんがそれほどの覚悟を決めていると言うのであれば、私達はその決定に従いましょう……」
龍驤が鍋の中身を再確認したその直後、翔はこの様な事を口にしながら鳳翔達食堂組の艦娘達に頭を下げてみせ、その様子を見ていた扶桑が周りを見回し、この場にいる者達が皆首を縦に振った事を確認すると、皆を代表してこの様に答えるのであった
「皆、ありがとう……。では……、今日の昼食には、これを使ったお味噌汁を出します……っ!!!」
その後、扶桑の言葉を聞いた翔は皆に一言礼を言った後、今日の昼食のメニューを伝えると、すぐさま皆と共に昼食の準備を開始するのであった……
「あ~……、ようやく大黒丸専用地下ドックが完成した~……」
「確か大黒丸本体の建造は、シャチョーが戻ってからだったッスかね?」
「ああそうだ、そうしないと戦治郎が拗ねかねんからな」
「戦治郎さんにもそんな子供っぽいところがあるんだな……、少し意外だよ……」
「ぼ、ぼぼ僕達がい、い~きてた時のこ、こ、事だけど、い、今のここ、工廠組のみ、み、み~なさんがや、やってる作業に、しょしょ書類仕事のかか、関係で、参加出来なかった件で、す、すっごくい、い、い~じけてた時が、あ、あ、あったよ……」
「あ~……、確か小型飛行機の修理の時だったか……?確かあの時は修理に参加するって言って、結局参加出来なくてかなり凹んでたっけか……」
食堂組が不穏なやり取りを交わしてからしばらく経ったところで、太郎丸のリクエストである農場を建設しているメンバーよりも早く、工廠の地下で大黒丸用のドックを建設していたシゲ、護、空、ヴェル、藤吉、輝の6名が、予定通りに作業を終わらせると、昼食を摂る為にこの様な会話を交わしながら食堂へやって来るのであった
因みにこの会話中、輝だけがやや気分が優れないのか、他のメンバーと比べてテンションが低いのだが、それは輝が現在進行形で二日酔いに苦しめられているからである
何故割と酒に強い輝がそんな事になっているのかと言えば、それは現在の長門屋鎮守府建設の進捗状況が輝からしてみればやや遅れ気味であり、戦治郎から鎮守府建設を任されていた輝はその事をかなり気にしていたのである
その結果、輝は悩みや不安を打ち消す為に、連日の様にいつも以上に酒を呑む様になってしまい、それが積もり積もってこうして二日酔いとして輝に襲い掛かって来たのである……
因みにだが、もし普通の業者が長門屋鎮守府の建築を行っていた場合、鎮守府の完成に輝の想定の6倍以上もの時間が掛かってしまう事を、比較の為に此処に明記しておこうと思う
又、建設作業が輝の想定より遅くなってしまっている原因は、大体が
とまあこの様なやり取りを交わす輝達は、会話を続けながら翔達が準備した食事が乗ったトレイを取り、食堂の一番奥にある席に腰を下ろし、改めて今日の昼食が一体何なのかを確認する為に、トレイ上の料理に視線を向け……
「お……、今日は生姜焼き定食……、しかも味噌汁はしじみ汁か……。個人的には助かるメニューだな……」
「きっと輝さんの様子を察して、翔が気を利かせてくれたのかもしれないッスね~」
今も尚二日酔いによる頭痛に苦しむ輝が、しじみ汁の存在に気付くとその表情を綻ばせながらこの様な事を言い、それに反応した護がこの様に返したところで、皆で揃って頂きますを唱和し、二日酔いの頭痛を少しでも和らげたい輝と、料理は先ずスープから食べる派の護が、揃ってしじみ汁が入った椀を手にし、口元に運んで椀の中身を啜るのであった
と、その直後である……
「「ぶぼふぉおおおぉぉぉーーーっ!!?」」
しじみ汁を啜った2人が、突然口の中のしじみ汁を豪快に噴き出しながら倒れ込み、揃って白目を剥いてビクビクと痙攣をし始めたのである
これには流石の空達も驚き、しじみ汁に手を伸ばそうとしていた藤吉とヴェルは急いでその手を引っ込め、その様子を見ていたシゲは只々呆然とし、空は護達が倒れた原因はこのしじみ汁にあると断定し、状況を把握する為に警戒しながら、恐る恐ると言った様子でしじみ汁を口にするのであった……
が……
「……?」
自分の椀に注がれたしじみ汁を口にした空は、不思議そうな雰囲気を辺りに漂わせながら小首を傾げ、続いて護達が手にしている椀に僅かに残ったしじみ汁を口に含むも、再び小首を傾げて見せるのであった……
「どうしたんです?」
「いや……、このしじみ汁に何か盛られてるのではないかと思ったのだが……」
そんな空の様子を見ていたシゲが、思わず空にこの様に尋ねてみると、空はこの様に返答しながら手にした椀をシゲに差し向け、それを受け取ったシゲは空同様警戒しながらしじみ汁を口に含み……
「……何でこの2人はこれ飲んでぶっ倒れたんだ?これ滅茶苦茶旨くね?」
「俺もしじみの旨味が出汁によって絶妙に引き立てられ、それによって深いコクが生み出されていて、非常に旨いと思うのだが……?」
心底不思議そうな表情を浮かべながらこの様な言葉を口にし、それを聞いた空もその意見を肯定する様に、首を縦に振りながらこの様に返答するのであった
そうして2人の反応を見たヴェルと藤吉が、意を決してしじみ汁に口をつけたところ……
「本当だ……、これは美味しい……」
ヴェルは驚きの表情を隠そうともせず、しじみ汁の味の感想を口にするのだが……
「ごぶヴぉっ!?!」
何と藤吉までもが、護達同様しじみ汁を噴き出しながら倒れてしまうのであった……
これは何かがおかしい……、そう思った空、シゲ、ヴェルの3人が、このしじみ汁を作ったであろう翔に詰め寄ったところ……
「な、なんの事でしょう……?」
如何やら人柄の関係で隠し事が下手なのか、翔は空達から視線を逸らし、声を震わせながらこの様に返答し、その様子を見た空が圧を掛けながら改めて問い質したところ、翔は観念した様子で口を開こうとした……。と、その時である……
「翔っ!!新しい出汁が出来たぞっ!!!」
突然食堂内にゾアの声が響き、それに反応した空達がそちらに……、食堂と翔の自室を繋いでいる通路がある方角に視線を向けたところ、そこには何故か身体から湯気を立ち上らせるゾアの姿と、ゾアが自作のスープを運ぶ際に使用している台車、そしてその台車の上に乗った、やや黒ずんだ謎の液体で満たされた大きな鍋の姿があったのであった
何故ゾアの身体から湯気が出ているのか……?そして台車の上の鍋の中身は一体何のか……?身長の関係で鍋の中身が見えた空達が、そんな疑問を頭の中に浮かべていると、先程何かを言おうとしていた翔が、その疑問に答えるべくこの様な言葉を口にするのであった……
「えっと……、今日のしじみ汁の出汁なんですけど……、今ゾアがこっちに運んで来ているものと同じもので……、その……、ゾアを煮出して作ったものなんです……」
翔が言葉を紡ぎ終えるや否や、それはそれは驚くべき速度で、空とシゲの拳が翔の脳天に叩きつけられるのであった……