護が意識を取り戻してから少し時間が経過したところで……
「……おぉん?」
薄っすらと意識を取り戻すなり、周囲がやけに騒がしい事に気が付いた輝は気の抜けた声を上げながら、ゆっくりと瞼を開き寝転がったまま辺りを見回すのであった
そんな輝の視界に映った光景、それは何者かによって破壊され、ボロボロになってしまった食堂を背景に、空とシゲが食堂の机と椅子の、護が厨房にある電化製品の修理を行い、修理が完了したものを順次艦娘達が並べていると言うものであった
「こりゃ一体何があったんだ……?」
「あっ輝さん、気が付いたんですね」
その光景を目の当たりにした輝が、相変わらず食堂の床の上に転がった姿のまま、不思議そうな表情を浮かべながらそう言うと、それによって輝が意識を取り戻した事に気が付いた望が、安堵の表情を浮かべながらこの様な言葉を発するのであった
その後望から食堂が何故この様な状態になったのかについて聞いた輝は、自分が二日酔いしている事を忘れ、翔の行動に対して思わず怒気の籠った声を上げ、直後に自分が二日酔いの事を思い出し、しまった!と言った様子の表情を浮かべるのだが……
「……おぉぉん?」
輝は何時になっても二日酔い特有の頭痛がこない事に気付き、再び不思議そうに間抜けな声を上げるのであった
「どうしたんですか?」
そんな輝の様子を不思議そうに見ていた望が、輝に向かって何があったのかを訊ねたところ……
「おっしゃぁっ!二日酔い治ってんじゃんか!!もしかしてこれって例のゾア汁とか言う奴の効果なのか?だったら俺は翔の行動の件については、これで手打ちにしとくわっ!!!」
輝は望に対していつもの調子に戻りながらこの様に答え、空達の手伝いに参加する為に立ち上がろうと床に手をつくのであった
と、その直後である……
(……っ!?)
不意に輝は手から脳にかけて電流が走る様な感覚に襲われ、その感覚に驚きつつも思わず不審そうにその顔を顰めるのであった
(何だ今の……?)
輝はそう思いながら己の右手を眺めるのだが、そこには何の変哲もない自分の手があるだけだった為、輝は先程の感覚は気のせいであると考える事にし、今度こそ床から立ち上がって空達の方へと視線を向けるのであった
ここでようやく、輝は自分の身体に起こった異変に気が付くのであった……
輝が空達がいる方角に顔を向けた時、彼の視界には空達の姿以外に、護の電撃によってガラスが割れてしまっている複数の窓が映り込んだのだが、何故か輝にはその窓の近くに『開閉』の文字が付いたスイッチが浮かんで見えたのである……
「何じゃこりゃ?」
そんなスイッチの存在に気付いた輝は、何となくそのスイッチを操作しようと、問題のスイッチが近くに浮かぶ窓の方へ腕を伸ばしてみると、輝の指先は窓から全然距離があるにも拘らず、輝の脳にスイッチに触れた様な感触を伝え、それを感じ取った輝は、特に警戒する様な様子も見せずにそのスイッチを操作するのであった
その直後、閉まっていた筈の窓が突然勢いよく開き、その近くに立っていた陽炎型の3人を大いに驚かせるのであった……
「……」
その様子を黙って見ていた輝は、沈黙したまま再びスイッチを操作して窓を閉め、何の前触れも無く開閉する窓に警戒し始める陽炎達の姿をしばらく眺めた後……
「もしかしてこれって……、アレなのか……?」
望に不思議そうな表情を向けられたままそう呟くと、建築物把握能力を発動し……
「うおおおぉぉぉっ!!?俺の建築物把握能力の有効範囲がめっちゃ広がってやがるっ!?!しかも色んなとこによく分からんスイッチついてやがるしっ?!!」
自身の視界に石油コンビナート及び大黒丸用地下ドック、更にはボーキサイト発掘現場までもを含んだ長門屋鎮守府建設予定地全域のMAPと、それらに取り付けられた扉や窓など開閉する物全て……、いや、それだけでは無い、艦娘達や自分達の部屋にあるテレビや冷蔵庫などの電化製品や、石油コンビナートや工廠や採掘施設に設置された工業用機械にまで、先程発見した謎のスイッチが付いてる事に気が付いた輝は、思わず驚愕の声を上げるのであった
「目覚めて早々、一体何があったんだ?」
輝の叫びを聞いた者達全てが、作業の手を止めて驚きの表情を浮かべながら輝に注目する中、空だけがそんな輝に対して驚いた素振りも見せずに冷静に尋ね、空に質問された輝が現在自分に起こっている出来事について、嘘偽りなく正直に話してみたところ、輝の話を聞いた空は驚きの余り思わず目を見開くのであった
その後輝は食堂内の電化製品に付いていると言うその謎のスイッチを操作した場合、一体何が起こるのか調べたいと言う空の提案を受け、実際に食堂にある電化製品の中でも、特にスイッチの数が多い電子レンジのスイッチの内の1つを試しに操作してみたところ……
「うぉっ!?急にレンジの出力が500Wから1500Wになったでっ?!」
「ああ、このスイッチは出力変更用だったか。んじゃあこっちはっとぉ……」
突如先程護が直したばかりの電子レンジのデジタルパネルが点灯し、それに驚いた龍驤が警戒しながらそれを注視していると、デジタルパネルにはレンジの現在の出力が表示されており、その数字は龍驤がレンジに一切触れていないにも関わらず、突然500から1500に変更され、この事を伝える為に龍驤がこの様な声を上げたところ、それを聞いた輝はこの様な言葉を口にした後、今度は他のスイッチを操作したところ……
「加熱を開始しましたね……」
「加熱時間を設定していないのに……」
それに合わせる様にして、電子レンジは鳳翔と龍鳳が言う様に、加熱時間が設定されていないにも関わらず、しばらくの間空っぽのレンジ内を加熱し始めるのであった……
その後、その様子を見ていた空はエイブラムス達と連絡を取り合い、ボーキサイト採掘現場の装置を一旦止めてもらい、今度は採掘現場の装置を動かして欲しいと輝に頼み、それを受けた輝が採掘施設の機械のスイッチを操作したところ、採掘現場の機械達はそれに合わせて再び動き出すのであった
「特定の敷地内の建築物だけでなく、建築物の中にある物まで自在に操作出来るのか……。もしやこれは……、ウチの陸上型組が何とか入手しようと頑張っていた、建築物掌握能力なのではないのか……?」
「まさか、これがゾア汁によって引き出された、輝さんの能力ッスか……?」
そうしてエイブラムス達からの連絡を受けた空は、考え込む様に眉間に皺を寄せ、腕組みしながらこの様な言葉を口にし、それを聞いた護が何とも微妙な……と言った雰囲気を漂わせながらこの様な事を言うと……
「輝さんの話を聞いた後、僕も直ぐに建築物把握能力を使ってみたのですが……」
「その様子だと変化が無かったみてぇだな……」
これまた何とも言えない様な表情を浮かべながら翔がこの様な事を口にし、その様子から察しがついたシゲが、これが輝の能力であると断定しながら、護や翔同様微妙な表情を浮かべてこの様な言葉を口にするのであった……
護達の反応からすると、如何やら彼らは輝の能力は、その性格とマッチした様なもっとド派手なものが来ると思っていた様である。尤も、この能力も鎮守府の防衛用設備が整いさえすれば、鎮守府中の兵器が一斉に稼働、敵を瞬時に捕捉し攻撃を仕掛けて敵をまとめて蹴散らすと言う、中々ド派手な事が出来るのだが……、建設のペースが遅れ気味な現状では、結局この能力は建築物把握能力の上位版程度の認識にしかならないのである。故に彼らは微妙な反応を示してしまったのである……
そんな輝の能力を微妙に思っている者が、護達以外にも存在していた……
「これが俺の能力だってのかっ!?流石にこれはショボ過ぎんだろっ!!?」
そう……、この能力の持ち主である輝自身が、自分の能力に対して一番不満を持っていたのである……
「もっとこう、俺が地面をバァン!って叩いたら、建物がドォン!って出て来る様な奴とかじゃねぇのかよっ?!!」
そんな不満を爆発させる輝が、そう叫びながら勢いよく食堂の床を叩いたところ……
「っ!?全員食堂から退避っ!!!」
突然食堂が地震にあったかの様に激しく揺れ始め、それを感知した空の指示に従い誰もが食堂から退避した直後、突如として地面から巨大な高層ビルが、食堂を貫く様にして生えて来るのであった……
「……」
その様子を長門屋の誰もが呆然と見ている中、不意に輝が特に建築物などが無い方角を向き、黙ったまま再び地面を叩いてみたところ、今度は何もない所からそれはそれは立派な二階建ての一軒家が生えて来るのであった……
「……良かったな輝、如何やら注文通りだったみたいだぞ」
「……ぴょ~……」
その様子を見ていた空が、輝の右肩に手を置きながらこの様な事を言うと、予想外の出来事に思わず呆然とする輝は、これまでにないくらい間抜けな声を上げるのであった……
そう……、輝が身に付けた建築物掌握能力は、実際の所は輝が頭の中で思い描いた、自身が自在に操る事が出来る建築物を生み出せる『瞬間建築』と言う能力の一部に過ぎなかったのである……
その後、我に返った輝はこの能力を駆使して食堂を建て直すばかりか、建設ペースが遅れていた都合で着手出来ていなかった建物までもを、あっと言う間に完成させてしまうのであった
因みにこの能力では機械などは作れない為、食堂の電化製品や本庁となる建物及び司令室などに設置する機械設備については、工廠組に頑張ってもらう事になっているそうである
又、先程地面から生えて来たビルと一軒家は、輝の能力で無事一瞬で撤去された模様
尚、護達と共に倒れた藤吉だが、何故か彼は他の2人とは違い、ゾア汁を飲んだにも関わらず能力を発動させる事が出来なかった様である……
それもそのはず、彼は自分の能力を使用する為に必要なものについて、この時点では知らなかった、その存在に気付いていなかったのだから……。だから彼はこの時点では能力を使えなかった、発動させる事が出来なかったのである……