※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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長門屋鎮守府の仕事

「え……?戦治郎さん達のところに行くの……?横須賀を離れて……?」

 

明石の発言を聞いた北上は、驚きの表情を隠そうともせずに、明石に向かってこの様に聞き返すのであった

 

恐らく多くの者達が、明石の発言を聞こうものならば、北上と同じ反応をする事は想像に難しくない事であろう。何せ今の明石の発言は、海軍の関係者ならば誰もが憧れるであろう横須賀鎮守府所属と言う肩書を自ら捨て、過去に受けた恩義の為に辺境の土地に建てられる事となっている鎮守府に、嬉々として向かおうとしている様に受け取れるのである

 

確かに明石が戦治郎達から受けた恩は相当なものなのであろうと、その辺に関して元アムステルダム泊地所属だった由良達から話を聞いていた北上は、その部分についてはある程度理解を示した

 

だが、これだけはどうしても納得出来ないと言うところが、北上の心の中に存在していたのであった

 

それは幾ら日本中に名の知れた工作艦である明石と言えど、技術力お化けが集まる長門屋鎮守府で上手くやっていく事が本当に出来るのだろうか?そんな長門屋鎮守府に彼女の居場所はあるのだろうか?もしこれで彼女が戦治郎達の技術力に追いつく事が出来ず、惨めな思いをするくらいならば、いっそ長門屋に次ぐ戦力を保有する横須賀に留まり、横須賀の艦娘達の為にその技術力を遺憾なく発揮する方が、海軍的にはいいのではないか?と、北上はそう思ったのである

 

「北上よぉ、おめぇさんは俺達の事情について、戦治郎から何も聞いてねぇのかぁ?」

 

「事情……?いや~、戦治郎さんからは悟さんの事と、長門屋の技術力とそれに関わる事について、後は今の世界情勢をちょっと聞いたくらいだけど……」

 

「なるほどなぁ……、戦治郎の野郎、如何やら北上には大して関係無い話だろうって事で、この辺の事情について北上に説明すんの省きやがったなぁ……」

 

そんな北上の様子を見て、彼女が考えている事をある程度察した悟が、確認の為に北上に向かってこの様な事を尋ね、相変わらず頭の上に疑問符を浮かべる北上がこの様な返答をしたところ、悟は右の掌で自身の顔を覆い隠しながら、やや呆れ返った様な声でこの様な事を呟いた後、資金繰りや出撃制限以外に長門屋が抱えている問題について、北上に話し始めるのであった

 

「長門屋鎮守府ってとこはなぁ、慢性的なマンパワー不足に陥る事が確約されちまってる鎮守府なんだわぁ」

 

「マンパワー不足……?」

 

「あぁ、ウチの鎮守府にはなぁ、他の鎮守府や泊地なんかには無ぇ様な仕事もやる義務みてぇなモンがあるんだわぁ」

 

悟がこの様に語る通り、長門屋鎮守府には通常任務以外にも、やらなければいけない仕事が数多く存在するのである

 

代表的なもので言えば、長門屋の料理長である翔がトップとして君臨する、神話生物対策本部が挙がる事だろう。しかし、これ以外にも戦治郎達が艦娘ランドの経営権を手に入れる為に了承した、特殊な任務が存在しているのだ

 

先ずは剛が率いる特別警察隊、通称特警隊の裏の仕事である

 

特警隊は言わば憲兵隊の海軍ヴァージョンになるのだが、長門屋の特警隊には九州エリアにもしかしたらいるかもしれない、桂島提督の影響を受けたブラック鎮守府を、世間にバレない様に秘密裏に発見、調査する任務が与えられており、その内容が余りにも度が過ぎていると判断出来るのであれば、元帥の名の下にその場で問題を起こしている提督を殺処分する様に言われている、言わば対ブラ鎮用暗殺部隊としての任務も請け負っているのである

 

これは日本帝国海軍の体裁を保つ、かなり大事な仕事の1つなのだが、明石はあまりこの件については関係が無い為、細かい説明は今のところは省かせてもらう

 

長門屋のマンパワー不足云々が関わって来るのは、もう1つの特別任務である『大規模任務前の下準備』の方なのである

 

「最近の純粋な深海棲艦達はよぉ、俺達転生個体を強く警戒してるせいなのかなぁ、以前とは比較にならねぇ規模の艦隊を編成しているらしくてなぁ、今まで通りに各鎮守府から大規模作戦に参加する艦娘を選出して、普通通りに艦隊を編成して出撃させると、連合艦隊であろうとほぼ間違いなく轟沈者が出るだろうと、上層部の方では予測されてんだわぁ」

 

「一応、妖精さん達が作った羅針盤に従って作戦を実行すれば、こちらの被害を最小限に抑える事が出来るのですが、それをやっちゃうと作戦期間がどうしても長くなってしまっちゃうんですよ~……。そうして長期戦に持ち込まれてしまうと、自国で資源をあまり採取出来ない日本は、ものすっごく不利になってしまうんですよね~……。この辺については、確か長門さんがミッドウェーの作戦報告書に書いてたはずですから、大淀大将にお願いしてそれを見せてもらえば、深海棲艦との資源保有量の差を、嫌でも思い知らされると思います」

 

「この事態を重く見た日本海軍はなぁ、過剰過ぎる戦力を保有する俺達に目をつけてなぁ、大規模作戦前の露払いをする様にって言って来たんだわぁ」

 

「悟さんは露払いって言ってますけど、実際はもっとハードな内容になりますね……。相手の艦隊を誘き寄せて殲滅して頭数を減らすだけでなく、作戦に参加する艦娘達をサポートする為に、作戦海域内部に侵入して、迅速に前線基地や航空基地の建設する様にとも言われてるんですよね~……」

 

「この辺は此処の再建に参加した輝の実力を見て、上層部がウチなら問題無く出来るだろうって判断した事で、条件に追加したみてぇだがなぁ。まぁ尤もぉ?北上はさっき資料見てっから分かると思うがよぉ、能力覚醒のおかげで輝がパワーアップした関係で、建設に関しては全く問題にはなりそうにはねぇんだが……」

 

『大規模任務前の下準備』について、北上に対して悟と明石が説明している中、悟が話している最中に言葉を詰まらせて見せ……

 

「その建物に駐屯させる裏方さん達も、戦治郎さん達のとこから出せって言われた……?」

 

「それだけじゃねぇ、基地を防衛するメンバーもこっちから出せって言われてんだよなぁ」

 

「うわぁ……」

 

これまで静かに話を聞いていた北上が、その中で何となく思い至った予想を口にしたところ、悟は不快そうに顔を顰めながら北上の予想の上をいく返答をし、それを聞いた北上は、日本海軍のやり口に思わずドン引きするのであった……

 

「確かに戦治郎さん達は、何度も日本海軍の助けになる様な事をしているんですけど、転生個体である関係で実際に助けてもらった当事者の皆さん以外からはあまり信用されていなくて……」

 

「だったら無垢な新人からサポート要員を引っ張ってくればいいと思うだろうがよぉ、軍学校を出たばっかのド素人がよぉ、迅速な作業が大量に要求される様な現場で、即戦力になるとは思えねぇんだよなぁ……。そもそもよぉ、大規模作戦中最も熾烈な戦いが展開されると予想される戦場によぉ、ペーペーが好き好んで来てくれると思うかぁ?拠点内にいても敵の襲撃が容易に予想出来てなぁ、常に死と隣り合わせで安心出来そうにない様な場所によぉ、戦いの『た』の字も知らなかった様な輩が来てくれると思うかぁ?」

 

「……顔を真っ青にして、全力で首を横に振る新人整備兵の姿が、即座に思い描けたよ……」

 

こうして明石と悟からの追撃を受けた北上は、その内容に思わず頭を抱えてしまうのだが、悟達は北上に更なる絶望を与える様な言葉をその口から放つのであった……

 

「更に言えばよぉ、ウチの工廠関係者はなぁ、殆どが主力格である都合、どうしても誰かが戦場に出る羽目になるんだよなぁ」

 

「特に戦治郎さんの場合、司令官と言う立場がある関係で、大規模作戦中はよっぽどの事が無い限り、戦場に出る事も工廠の手伝いに入る事も出来ないみたいなんですよね~……」

 

「余所からの応援も期待出来ない、状況的に新人は使えそうにないし、そもそも来てくれるかも疑問、更には現存の裏方からも戦力を割く必要がある……、これに鎮守府に戦力を残す事も考えなくちゃいけないから……、うん、どう足掻いても人員不足になっちゃうね~……」

 

「俺達の仕事はよぉ、どれだけ出来たかで作戦の成功率が大きく上下されちまうからよぉ、どうしても中途半端な真似は出来ねぇんだわぁ」

 

「こう言った事情があるので、渋々ではあるけど元帥は私の異動を了承したのかもしれませんね」

 

こうして3人は長門屋が抱える問題の1つである、マンパワー不足についての話を終わらせるのだが……

 

「それにしても……、ようやく龍神様のお膝元で仕事出来るのか~……」

 

「龍神様……?」

 

ふと思い出したかの様に明石がこの様な事を呟き、その言葉の中にある『龍神様』と言うワードが気になってしまった北上は、思わず明石にこの様に聞き返すのであった

 

「龍神様ってのはなぁ、俺達のダチである石川 空の事なんだわぁ」

 

「あぁ~……、確か瑞鶴のお姉さんである、翔鶴さんを攻略しちゃった人だっけ……?」

 

「……戦治郎の奴ぁ、自分の親友の事をどういう風に説明しやがったんだぁ……?まぁそれで合ってるがよぉ……」

 

その直後、悟が龍神様の正体について北上に教え、それを聞いた北上の返答を聞くと、何とも複雑そうな表情を浮かべながら、この様な事を呟くのであった……

 

「空さんは南方海域で非常に困難な任務(Nの殲滅)を達成した事や、戦場で何ともロマンチックな事(翔鶴攻略)をやって見せた事、そして横須賀鎮守府の工廠の更なる発展に貢献した事で、繰り出す【技】に龍が関係しているものが多い事から、作戦成功と技術力向上、更には武術と縁結びを司る神様、龍神様として横須賀鎮守府内で祀られているんですよ~。因みに御社は元々工廠内にあった、空さんの居住スペースがそうだったんですが、最近になってその居住スペースを丸々移設した、もっとしっかりした御社が建てられたんですよ~」

 

「実際、遊び半分で恋愛祈願した艦娘が、マジで横須賀鎮守府の職員と結婚して寿退役したり、会議の為に来ていた提督が作戦成功祈願したところ、2階級昇進する程の功績を上げたり、工廠連中が技術力向上祈願をしてみたら、戦治郎達の手を借りずに新しい技術を生み出したりとよぉ、ガチでご利益があったらしいぜぇ?」

 

「えぇ……?」

 

こうして悟達から龍神様の事を聞いた北上は、その内容に大層驚き、思わず愕然としてしまうのであった……

 

その後、明石がハイエースに自分の荷物を積み終え、横須賀の乱の際に光太郎達が使用した高速道路を使って、目的地である佐賀県に向かおうとしたところ

 

「どうせだぁ、北上も途中まで乗せてもらってったらどうだぁ?用件終わったから帰るつもりだったんだろぉ?」

 

悟のこの一言により、北上は明石のハイエースで東京駅まで送ってもらい、そこから実家に帰ると、自分の両親に後遺症が治った事を報告した後、艦娘として再び戦場に戻るつもりでいる事を伝えるのであった

 

 

 

 

 

因みに北上を見送った悟だが、この直後に戦治郎から通信をもらい、食堂で戦治郎と北上のやり取りを聞いていた毅の妹の足の治療を依頼され、正月休み中に京都に向かい、毅の妹の足の治療を行う事を戦治郎と通信を変わった毅と約束するのであった

 

「やれやれぇ……、この世界での俺の需要って奴はよぉ、どんだけ高ぇんだぁ……?」

 

こうして通信を終えた悟は、ニヤニヤしながらこの様な事を呟くのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後、悟は大声で悟の名を叫びながら自身の方へ走って来る、レ級の尻尾が生えた大きな虎に撥ね飛ばされるのだった

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