「扶桑ー!何処に行ったー!聞こえたら返事をしてくれー!」
「扶桑さーん!声が聞こえたからって無理に動かなくていいですからねー!声が聞こえてたらその場で大人しくしていて下さーい!」
昼食の後にちょっと修正が入った今日の予定が皆に伝えられて、僕と太郎丸が講師を担当しているサバイバル訓練には扶桑さんとグラーフさんが来る事になったんだけど……
「太郎丸、そっちは何か分かった?」
「う~んちょっと待って~、ここは色んな臭いが混ざっててちょっと分かり難いんだ……」
太郎丸が辺りの臭いを嗅ぎまわりながらうんうんと唸っている、今僕達はちょっと目を離している間に迷子になっちゃった扶桑さんの捜索の真っ最中なんだ……、昼食のときに昨日渡し忘れていたからと護からもらった通信機はまだ上手く使いこなせないようで全然通信に出てくれない……
「しかしこの拠点はどうなっているんだ……、砂浜と拠点の入口を繋ぐ道を少しでも外れれば深い森林の中を彷徨う事になる……、天然の防壁と言ったところか……」
「その道は輝さんが中心になって繋げてくれたものなんですけどね、最初は全て森林に囲まれていたみたいなんですよ?」
僕はこの拠点を攻略するときは浜辺で増援に備えて待機していたからこの情報も潜入に参加したメンバーが言ってたのを聞いただけだから真偽に関しては自信がないんだ……
「そうなのか……、それにしてもこうも視界が悪いと扶桑を探すのも一苦労だな……、艦載機も飛ばしているが上からでは木の葉が邪魔でまともに見えん……」
そうなんだよね~……、今のメンバーは皆艦載機が使えるから上空からも捜索してるけど木の葉のせいで全然分からなくて、結局太郎丸の鼻を頼るしか手がなくなっちゃった……
「くんくん……、ん!もしかしたらこれかもっ!皆付いて来て!」
っと遂に太郎丸が扶桑さんの臭いを嗅ぎ当てたみたいだ、その臭いがする方角へ走っていく太郎丸の後を追って僕とグラーフさんも走り出した
「「「いたぁ!」」」
「み、皆さん……、やっと来てくれたんですね……」
ようやく扶桑さんを見つける事が出来たんだけど、肝心な扶桑さんは僕達に気付いたけど涙目になってプルプル震えながらその場を動こうとしない……、何があったんだろう?
「どしたんだ扶桑?私達が見つける事が出来たからもう動いてもいいんだぞ?」
「それがそのぉ……この子がさっきからずっと私の方を見ていて……」
そう言いながら扶桑さんが自分よりちょっと前の地面を指差す、そこにいたのは蛇、ヨーロッパクサリヘビである
「成程、それじゃ下手に動けないね……」
「そいつか……、そいつは確か毒性は低いが毒蛇だったな、医務室にこいつの解毒薬はあるのか?」
グラーフさんは蛇とか大丈夫なのか、扶桑さんなんかさっきのグラーフさんの話聞いてひぃっ!とか言ってさっきより震えが大きくなっちゃってるのに……、っとこのままだと扶桑さんが可哀想だからそろそろ助けますか
「扶桑さん、今助けますから大人しくしてて下さい……ねっと!」
僕はそう言うと素早く鼓翼を抜き問題の蛇の首を斬る、蛇はしばらくグネグネとのたうち回った後に動かなくなる。鼓翼の初めての出番が毒蛇の相手か……、願わくばこれ以上の事で鼓翼を振るう必要がなければいいんだけど、やっぱりそうもいかないよね……
「ふぅ……、やっぱり戦治郎さんや通みたいにはいかないか……」
「お前も刀を使えるのか……、ここにはどれだけサムライがいると言うのだ……」
僕はしがない料理人ですよ~、剣術はあくまでこういう時くらいしか使うつもりありませんよ~、そんな事を考えていたら扶桑さんが慌ててこちらに駆け寄ってくる
「一時はどうなるかと思いましたが助かりました、翔さん、本当にありがとうございました」
扶桑さんは感謝の言葉と共に一礼する、その姿が凄く様になっているあたりそのあたりはしっかり教育されたんだなと思う
「でも、私に襲い掛かろうとしていたとは言え何だか可哀想ではありますね……」
「そのあたりはちゃんと弔ってあげないとですね、食べるって形になりはしますけど」
「「……えっ?」」
僕のセリフを聞いた2人が急に固まっちゃったけどどうしたんだろう?そもそもこの森の中にいる理由ってこいつを捕まえて捌いて食べる、その方法を教える為だって言って……言って……、そうだ言ってる最中に扶桑さんがいないの気付いて捜索始めたんだった……
「と、取り敢えず厨房に行きましょうか、本来ならここでやるべきなんですけどそれじゃあ扶桑さんが落ち着いて話聞けそうになさそうですからね」
僕はそう言って頭とお別れした蛇の胴を持って拠点の厨房へ向かって歩き始め、硬直していた2人もすぐに立ち直り僕を追って歩き出した。最後尾には特にお願いしたわけでもないのに太郎丸が付いてくれて扶桑さんがまた変な方向に行こうとしたとき止めてくれていた、本当にありがとうね太郎丸、今度何か食べたいもの作ってあげるね
帰り際に追加で4匹も捕れるなんてこの島どうなってるの……?まあ数が増えたおかげで2人にも実際に調理してもらえるからいいんだけどね、そんなわけで今僕達は厨房で蛇を捌いているわけだけど
「扶桑さん捌くの上手ですね、もしかして蛇捌くのは初めてじゃなかったりします?」
「いえ、小さい頃から色々な事を教えてもらっていましたので、料理もその一環で覚えてときどきですが家族に私が作った料理を振舞ったりしていたので料理自体は得意なんです。ただ蛇を捌くのは流石に今回が初めてです……」
皮の剥ぎ方と内臓の取り方を口で説明しただけでスルスルとこなしていく扶桑さん、蛇を捕まえる事さえ出来れば問題は無さそうだね
「翔、すまないが先程のところをもう1度頼む……」
一方グラーフさんはあまり包丁を握った事がなかったらしく悪戦苦闘していた、いい機会だからここでしっかり料理スキル身に付けてもらいましょうかね
「はいは~い、ここはですね……ちょっと失礼しますね、っとまずは包丁はこう持って……、それでここをこうして……」
僕はグラーフさんの後ろに回って包丁の握り方から調理台への立ち方など細かいところから入って、本来の目的である蛇の捌き方を教え始める
「それにしても翔さんは本当に料理がお上手ですね、昨日の夜に頂いたお粥もそうですが今日頂いた食事は皆まるで本物の板前さんが作ったのかと思いました」
「あはは……、僕は戦治郎さんのお店の事務員始めるまでは実家の料亭で働いてたんだ、椀方っていう汁物作り担当まで腕を磨いたんだけど次板……副料理長だった1番上の兄さんと喧嘩……うん、喧嘩しちゃってね……、その事を父さんと京都で修行しているもう1人の兄さんに相談してから自分探しをやろうと思って家を出たところを戦治郎さんに拾われてね、それからは事務員やりながら長門屋の台所を預かってたんだ」
扶桑さんが2匹目の蛇をぶつ切りにしながら僕の料理の腕前を褒めてくれた、この2人には僕が昔板前だった事を教えていなかったのを思い出したので、いい機会だから教えておく事にした。てか扶桑さんホント手際いいなぁ……
「道理で料理が上手いわけだな……、元本職と言うなら納得だ……っとと」
1匹目の蛇を危なっかしくもぶつ切りにするグラーフさんが言う
「兄さんとの喧嘩で1度は料理人としてやっていくのが怖くなって逃げだしちゃったんだけどね、まあ長門屋の台所を預かるようになった時にやっぱり僕は料理が好きだって言うのを捨てきれずにいたのに気付いてね、それからは誰にも縛られずに楽しく料理を作らせてもらってるよ」
「長門屋は皆のチームワークを良くする為にって理由でお昼は皆でご主人様と翔の料理を食べてたからね~、どんな料理でも皆笑顔で美味しい美味しいって食べるからそれが翔にいい方向に働いたんだと思うな~」
太郎丸が言う、そう、その事に気付いたのは僕の料理で皆が喜んでくれているのを見た時だったな……、皆本当に美味しそうに食べてくれてお礼まで言われて……、まあその結果お昼だけでなくお金払ったら晩御飯も食べさせてもらえるってシステムが出来上がったんだけどね、でも僕の料理ってお金払うほどのものだったのかな?この辺りはまだ僕自身未だに疑問に思っているけど、まあそんな事疑問に思っているのも忘れるくらい今後も腕を磨いていけばいいか!
「翔さんが本当に板前さんだったのは分かったのですが……、それがどうしたらこういった事の技術に繋がるのでしょうか?」
扶桑さんに聞かれたけど真っ当な疑問だよね~……
「何か食べる事はとても重要な事だし、食べるのならやっぱり美味しい物の方がいいじゃないですか、そう思ったからサバイバル食の研究を始めちゃったんですよね~……、そしたらそっち方面の趣味も出来ちゃって……あはは~……」
僕がそう言うと2人は苦笑いで返してくれた、まあそうなるよね~……
そんな事言っている間にグラーフさんの方も切り終わったようなので、塩コショウを軽く振って焼いてから皆で食べる、蛇肉が予想に反して美味しかった事に驚きを隠せない2人、そんな2人に僕はこう告げる
「蛇の捌き方と味はこれで分かってもらえたと思いますから、次は見つけられたら蛙に挑戦してみましょうね、蛇の捌き方は当然ですけどしっかり覚えるまで継続しますし、今度は2人にも捕獲を頑張ってもらいますから覚悟しておいて下さいね」
2人が硬直しちゃったけど大事な事だからしっかり覚えてもらわないといけないからね、仕方ない仕方ない、って言うかグラーフさんは蛙と聞いた途端扶桑さん共々固まっちゃったけど蛇は大丈夫でも蛙はダメだったりするのかな?
「今日はまだ時間があるみたいですし、次やる時に使う蛇の捕獲用トラップを今の内に作っちゃいましょうか」
果たしてこの言葉は2人に届いたのだろうか……?最初から素手での捕獲なんてまず無理だって分かってるからね?そこまで無茶させるつもりないからね?
僕はそんな事を考えながら太郎丸と一緒に網の上で焼かれている蛇肉を無駄にしない為に食べ続けるのだった