「取り敢えずおめぇが考えた計画書に目を通した訳だが……、気になる点が幾つかあったから質問してもいいか?」
「気になる点、ですか……。構いませんよ」
大淀から渡された資料……、彼女が単独で書き上げた物だと思わしき帝国海軍改革の為の計画書に目を通し終えた戦治郎が、大淀に鋭い視線を向けながらこの様に尋ねたところ、大淀は変わらず無表情のままこの様に返答する
そうして大淀の了承を得た戦治郎は、先ず最初に大淀が元帥を失脚させようとしている理由について尋ね、それに対して大淀は……
「今の元帥のやり方は、手緩過ぎるからです。確かに基本専守防衛を貫いている元帥も、必要であると判断したならばミッドウェーの時の様に攻勢に出る事もありますが、その頻度は年に数回程度で留まっており、その結果この戦争は一進一退を余儀なくされている状況になっています。それを打開する為に、専守防衛の姿勢を貫く元帥に退場してもらい、その代わりに強硬派……、その中にある武闘派派閥に属する方に元帥の座に就いてもらい、積極的に攻勢に出る事で相手の数を削っていき、最終的には深海棲艦を全滅に追いやる為、と言ったところでしょうか」
その表情をピクリとも動かす事無く、淡々とこの様に返答するのであった
因みにここで大淀が口にした、裏で幾多の思惑が飛び交っていたミッドウェーでの作戦が、どうして実行する事が可決されたかについてだが、元帥の中ではミッドウェーに深海棲艦の大きな拠点があると、日本と南方海域を行き来する艦娘や輸送船が深海棲艦に襲われる可能性が極めて高くなると考えられ、その懸念を払拭する為に、元帥はミッドウェー奪還作戦を実行する事にしたのであった
それはそうと、大淀の話を聞いた戦治郎はと言うと……
(深海棲艦を根絶やしにする事が目的なら、まあ元帥のやり方とは反りが合わないだろうなぁ……。一応俺達ヒクイドリ派も元帥を失脚させようとは考えてるが、それはあくまで提督達の労働環境を整える為なんだよなぁ……。あの自己評価ヨワヨワ爺のやり方だと、優秀な提督を次から次に使い潰す羽目になっちまうし……)
相変わらず大淀に鋭い視線を向けたまま、内心でこの様な事を呟いていた
そして更には……
(そもそも深海棲艦の全滅って、実質無理なんだよなぁ……。やっぱスウさんから貰った情報は、もうちょっち軍内に広めておけば良かったな……)
先程の呟きに続ける様に、この様な事を考えるのであった
「聞きたかった事はそれだけでしょうか?」
戦治郎がそんな事を考えていると、大淀は戦治郎に向かってこの様に尋ねてきて、それを聞いた戦治郎は次の質問を大淀にぶつけるのであった
戦治郎がぶつけた質問、それは自分達を含めた穏健派の深海棲艦や転生個体は、大淀の考えではどの様な立場にあるのかについてだった
この質問に対して……
「穏健派と言えどもやはり深海棲艦ですからね、彼女達の主張を完全に鵜呑みにするのは非常に危険だと思われます。もし私達が彼女達を言い分を信じ、油断して背中を見せた時、後ろから刺される可能性も捨てきれません」
「俺に協力しろと言った割に、全然信用してくれてねぇのな……?」
大淀はこの様に答え、それを聞いた戦治郎はその視線を更に鋭くし、大淀を睨みつける様にしてこの様な言葉を口にするのであった
「戦治郎さん達は別ですね、戦治郎さん達がいなければ、もしかしたら大将が横須賀の乱の際、命を落としていたかもしれませんから。ただ、強硬派の中には戦治郎さん達の事を快く思っていない方もいらっしゃいますので、戦治郎さん達には目立たない様にする為に、表舞台には出ない様にしてもらう事になるでしょうね……」
そんな戦治郎の言葉に対し、大淀はほんの僅かに眉を動かして見せた後、この様な言葉を口にし……
(……今の反応で、大淀が単純に深海棲艦をジェノサイドしたい訳ではないってのが分かったな……。しっかし、表舞台には出ない様にか……、それってつまりは~……)
「俺達に暗部的な事やれってか……?」
大淀の反応を見過ごさなかった戦治郎は、大淀がこの計画を考えた理由は深海棲艦が只憎いだけではない事に気が付きながらも、取り敢えず今この時はその事には触れない様にし、大淀が言葉の後半に出た表舞台云々についてこの様に尋ねたところ、大淀はそれを肯定する様に1度頷いて見せた後、この様な事を口にするのであった
「そうなりますね、もし私達が戦治郎さん達と繋がっている事が明るみに出てしまえば、強硬派の方々は私達の方向性と行動に関する矛盾について言及した後、戦治郎さん達やその関係者の皆様に、その矛先を向ける事となりかねませんからね……。それを未然に防ぐ為にも、戦治郎さん達には影から私達を支えてもらう事になると思います。まあ……、戦治郎さん達は戦治郎さんが軍学校を卒業した後、それこそ暗部の仕事を元帥から直々に依頼されているのでしょう?でしたら、私達と協力する事になったとしても、特にその部分に変化は見られない為問題は無いはずです」
「確かにその部分に関してはやる事は変わらんが、間違いなく『仕事』の時の俺らのモチベが段違いになるだろうな……。元帥からの依頼の場合は、大体俺ら的にも叩き潰したくなる様な連中……、艦娘達を酷い環境で働かせる様な輩……、所謂ブラック鎮守府の提督やその関係者がターゲットになると思うが、おめぇらからの依頼の場合、単純に軍の意向にそぐわない連中の粛清とかになるんだろ?そんなん俺含めた長門屋の面々が引き受けると思うか?」
そんな大淀の言葉に対して、戦治郎は苛立ちの余りやや語気を強めながらこの様に返答する。まあ実際のところ、戦治郎達的には元帥が敵として見ている相手が、自分達の敵と一致するからこそ、暗部の仕事を引き受けたところがある為、大淀が言う様な『仕事』はやりたくない、それどころか仮に大淀の企みが成功した場合、そんな輩が出る様な組織運営をするなと、代表者に中指を立てながら言い放つ位の事を、この男やその仲間達はきっとやるだろう……
そう言った理由で怒気を全身から薄っすらと滲ませる戦治郎を見た大淀は、その気迫に気圧され、思わずたじろいで見せ、その様子を見た戦治郎はしばらくの間大淀を睨みつけた後、1度深い溜息をつくなりやれやれとばかりに首を左右に振ってみせるなり、最後の質問を口にするのであった……
「じゃあ最後に聞くが……、これで本当に深海棲艦を全滅させられると、本気で思っているのか……?」
「……それはどう言う事ですか……?」
戦治郎の質問を耳にした大淀が、片目を細めながら戦治郎にこの様に尋ねると……
「これは大会議の時、今は穏健派深海棲艦の代表をやっているスウさん……、深海棲艦と人間との戦争を始めた張本人からの情報なんだが……」
戦治郎はここまで口にした後一旦言葉を区切り、一呼吸入れてからこの様に言葉を続ける……
「純粋な深海棲艦は怒り、悲しみ、恨み、妬みみたいな、負の感情を中心とした思いから生まれる、まるで幽霊みたいな存在らしくてな、その負の感情がこの世界に発生し続ける限り、幾ら倒してもすぐに何処かに別個体が誕生……、それどころか戦いで沈んだ深海棲艦と周囲の仲間、沈んだ艦娘とその仲間達の負の感情が原因で、倒された数の倍以上の数の深海棲艦が新たに生まれるんだとさ……。これと黄泉個体の事も合わさって、深海棲艦は戦えば戦う程数が増えていってるんだとか……。つまり、おめぇらが深海棲艦を全滅させようとして、多くの犠牲を出しながら必死こいて戦えば戦う程、あっちは戦力が爆発的に強化されちまうんだよ……。この話が真実である事を裏付けてるのが、長門達から報告があったはずの、補給拠点としての役割も持ってるミッドウェーの飛行場姫の拠点にあった、膨大過ぎる量の資源なんだわ……」
戦治郎のこの言葉を聞いた大淀は、思わずその目を見開き、絶句しながらその場に立ち尽くしてしまうのであった……