「戦力が増えるなら当然資源の消費も増えるだろ?んで、ある程度戦争を知っている奴なら、基本日頃から資源がカツカツになる様な艦隊運用なんかはせず、大体は先の事を見越して保有する資源に余裕を持たせるだろう?その事を頭に入れながら、穏健派連合のリチャードさんやスウさんがくれた、スウさんがいた頃の強硬派深海棲艦の数や、世界中にある強硬派深海棲艦の補給拠点の数、各種深海棲艦の1隻あたりの資源消費量に、各年の深海棲艦の人口増加量とその傾向と言った諸々のデータを基に、俺達が必死こいて電卓を叩いて計算してみたところ、この戦争が始まってから深海棲艦が急増している事、時間が経てば経つほど、戦争が激しくなるにつれてその倍率が増えて来ている事、そして各補給拠点に備蓄されている資源の量が、俺達が今まで見て来た補給拠点の資源備蓄量と同じだと仮定した場合、強硬派深海棲艦が保有する資源が、この先に起こると予想される深海棲艦の人口増加にも、数年の間余裕を持って対応出来る程の量がある事が判明したんだわ。まぁ、おめぇ的には情報ソースが信用出来ねぇとこから出てるものだがな……。あぁ、因みにだが、スウさんが穏健派になった理由なんだが、彼女は戦力強化の為に仲間を犠牲にしなければいけない事に心を痛め、そうまでして戦争を続ける必要があるかについて疑問を感じ、そこからこの憎悪渦巻く戦争に虚しさを感じる様になったからなんだとよ」
戦治郎がそう言って言葉を一旦切り、深海棲艦が今も尚増え続けていると言う事実を知り、呆然とする大淀に向かって視線を送ると、戦治郎の視線に気付き、我に返った大淀は佇まいを正すなり……
「……どうしてそんな重要な事を、今まで……、いえ……、今でも隠しているのですか……?」
祖父である大将が元帥の友人であるが故、こう言った情報は大将経由で何処よりも早く手に入れられる立場にあるにも関わらず、今回の情報に関しては大将からも全く聞かされていなかった大淀が、この情報は海軍全体どころか大将にも秘匿されている可能性がある事に気付き、戦治郎に向かってこの様に尋ねたところ……
「こんな話聞かされたら、どいつもこいつもさっきのおめぇみたいに、世界に絶望しちまうだろうがよぉ……。まあ尤も?本当の地獄はこれから先の話なんだがな……」
「本当の地獄……?」
戦治郎はこの様に答え、それを聞いた大淀が怪訝そうな表情を浮かべながら、本当の地獄とやらについて戦治郎に尋ねると……
「この情報の出処は、偶に舞鶴に来てる
「戦争が……、終わらない……っ!?」
この戦治郎の発言を聞いた大淀が、思わず己の耳を疑い、戦治郎に向かってこの様に聞き返したところ、戦治郎はばつの悪そうな表情を浮かべ、自身の後頭部をバリバリと掻きながら言葉を続けるのであった……
戦治郎が言うには、外なる神クラスのかなり強大な神話生物になると、世界の本質に触れ、思うがままに世界を弄る事が出来る様になるらしく、この世界のクトゥグアやイオドの様に、外なる神に近いレベルの強さを持つ旧支配者達も、流石に外なる神達の様に世界の本質を弄り回す事は出来なくても、それを感じ取る事は出来るのだとか……
「んで、だ……、その世界の本質を感じ取れるイオッチが言ってたんだが、この世界は『艦娘と深海棲艦が戦争する』事で成り立っているらしく、それが崩壊しそうな事があれば、それを防ごうと世界の方が働きかけて来るみてぇなんだわ……。一番良い例が、スウさんが人類と和平を結ぼうと呼び掛けた際、リコリスがスウさんを反逆者として始末しようとし、そこから強硬派深海棲艦を乗っ取った事が挙げられるだろうな」
「では、転生個体や神話生物達の台頭も……?」
「いや、転生個体の出現に関しては、完全にイレギュラーな事態みてぇだな。んで神話生物達の台頭については、転生個体の出現によって発生した、世界の歪みの影響があるんじゃねぇかって言ってたわ。まぁ、もしかしたら俺達がこうして転生個体と戦う羽目になったのも、世界の働きかけである可能性があるのかもな……。因みにこの事は、まだヒクイドリ派……穏健派大連合の皆にも言ってねぇぞ。最近俺の方がクッソ忙し過ぎて、皆と話す機会が全くねぇからな……」
こうして戦治郎の口から驚くべき事実を知らされた大淀は、話の規模についていく事が出来ず、思わず愕然としてしまうのであった……
まあ彼女がそうなってしまうのも仕方が無い事である、何たって今聞かされた話が全て事実であるならば、自分がやろうとしている事は世界の働きかけにより確実に潰されると、自分が今まで頑張って来た事のその全てが徒労に終わる事と分かってしまったのである……。そうなれば、誰だって世界に絶望してしまう事だろう……
そんな絶望に襲われ、呆然自失となってしまった大淀の姿を見て、戦治郎は大淀に同情し、この様な言葉を掛けるのであった
「まあ戦争を終わらせる事は出来なくても、エデンからの横やりが入ってこなければなんだが、戦争の規模を小さくする事は一応出来るみたいだぜ?」
戦治郎のこの言葉を聞いた大淀は、すぐさま我に返り、戦治郎に向かって視線を向け、その内容を早く話す様無言で催促し始めるのであった。その様子を見た戦治郎は、内心で大淀が絶望に屈していなかった事に胸を撫で下ろしながら、言葉を続けるのであった
「この戦争の規模を小さくする方法なんだが、兎にも角にも深海棲艦の数を減らさなくちゃどうにもなんねぇ……。んで、それは深海棲艦の増殖方法から考えると無理みたいに思うところだが、実はそこに抜け道があるんだよな」
「抜け道……?」
「あぁ、深海棲艦は負の感情から生まれる幽霊みたいなモンだって、俺がさっき言っただろ?ここを利用すれば、深海棲艦の発生を抑えながら、その頭数を減らす事が出来るみてぇなんだわ。まあ尤も、方法は少なくとも2つあるんだが、どっちも実行するのは難しいだろうな……」
「その方法とは、一体どの様なものなのでしょうか……?」
「1つ目からベリーハードモードだが、咲作さんみたいな外なる神の力を借りる事、それがプランその1な。外なる神は世界の理屈や法則さえ捻じ曲げられるくらい強大な存在だ、その力を借りて世界の法則を変えてもらう事が出来れば、間違いなくこの戦争を終わらせる事が出来るが、人類の事を玩具くらいにしか考えていない外なる神に協力してもらうのはどう考えても難しいし、仮に協力してもらえても、精々戦闘に参加して、負の感情を発生させずに深海棲艦達の相手をしてもらうのが限度だろうな……。因みに俺達に協力してくれている咲作さんも、そこまでこの世界に干渉するつもりが無ぇみてぇだわ」
「実質無理な内容ですね……」
期待したところを見事に叩き落された大淀が、やや肩を落としながらそう呟くと……
「そこでプランその2の登場だ。って言っても、こっちも中々実行すんのは難しいが、外なる神に協力してもらうよりは楽だな……。で、その内容なんだが、すっげぇ強力な霊能力を持った聖職者に、深海棲艦達を祓ってもらう方法だ。只、これを実行する聖職者は、そこら辺の有象無象の坊さんとかじゃ駄目だ。マジで悟りを開いている様な、ガチの聖人クラスの人じゃないと、お祓いの最中に深海棲艦達の大量の憎悪に中てられて、発狂死しちまう可能性があるな……」
「その様な素晴らしい方が、この荒んだ世界に実在するのでしょうか……?それ以前に、本当にそれは深海棲艦に効果があるのでしょうか……?」
戦治郎はもう1つの方法について話し、それを聞いた大淀は、ジットリとした視線を戦治郎へ向けながら、この様な言葉を口にするのであった
「こっちに関しては、ウチの扶桑姉様が実証してくれてるんだわ。扶桑姉様はかなり格式の高い、歴史ある神社の出の人を親に持つ身でな、その関係でかなりの霊能力持ってて、その霊能力の影響で2ヶ月と言う長い時間の中、暴走した艤装に意識を飲み込まれず、海上を彷徨い歩いていたらしいんだ。これから察するに、深海棲艦は自分達の武器以外にも神聖な力にも弱く、その力を用いてキチンと成仏させてやれば、負の感情を発生させずに倒せるかもしれねぇんだわ。だがまぁ……、大淀も言ったが、そんな事が出来る聖人がこの世界にどれだけいるか分かんねぇけどな……」
「その2つのどちらかしか手が無いと言うならば、まだ後者の方が希望が持てそうですね……。前者の場合、交渉で相手の怒りを買い、自分達が消されてしまう可能性も十分考えられますからね……」
「この辺については、俺の仲間やイオッチが可能な限り調べてくれているから、今は情報待ちってとこだな」
戦治郎の話を聞いた大淀が、深い溜息を吐きながらこの様に言うと、戦治郎は苦笑しながらこの様に返答するのであった
因みに先程戦治郎が言っていた、正真正銘の聖人がこの世界にいるかどうかについてだが、その答えはYES、本物の聖人は現在この世界に存在している。但し、転生個体ではあるが……
「さて、ここまで俺の話を聞いて、何か思った事はあるか?」
「正直、世界の禁忌に触れてしまった様な気がします……。もしこの事をもっと早く知っていれば、私は強硬派派閥での海軍再編成など考えなかったでしょうね……」
この世界のことについて、自分が知っている事を大淀に話した戦治郎が、大淀に向かってこの様に尋ねたところ、最初は無表情であった大淀は、感情を取り戻したかの様に苦笑しながら、この様に返事をするのであった。その様子から、戦治郎は彼女は自分が考えた計画を実行する気は無くなったと判断するのであった
「ん、それが分かりゃいい、もし俺の話を聞いても考えを変えない様ならば、最悪おめぇさんの事エネミー認定してるとこだったわ……。っとぉ、ところでだ、おめぇさんは何でこんな無謀な計画立てたんだ?この話している最中におめぇさんの反応見てて、そこからおめぇさんは単純に深海棲艦を滅ぼしたいだけではない事に気が付いたんだが……?」
先程のやり取りで、大淀が自分がやっている事が如何に馬鹿らしいかについて理解した事を確認した戦治郎が、一応その真意にある程度気付いてはいるものの、それを大淀の口から言わせようと考え、この様に尋ねてみたところ……
「凄まじい観察眼ですね……」
「俺は子供の頃から金持ちだった都合で色んな人間見て来てるし、友人の中には凄腕の精神科医もいて色んな話聞いてるし、ちっちゃい会社の経営者として採用試験で面接官やったりしてたかんな。そう言うの見る目は養われてんだわ」
大淀は戦治郎の観察眼に対して驚きながらこの様な事を言い、それに対しての戦治郎の返しを聞くと、表では相変わらず苦笑しつつも、内心で戦治郎と敵対しなくて良かったと、安堵の息を吐くのであった……
それからすぐに、大淀は戦治郎の問いに対しての答えを口にする……
「恐らく戦治郎さんはもうお気づきだと思いますが……、私があの様な計画を立てたのは、両親の敵討ちもありますが、それ以上に4月に退役予定となっている大将が……、お祖父様が安心して退役出来る様に……、そして退役後のお祖父様の平穏が、深海棲艦に脅かされない様にする為だったんです……。これ以上家族を失いたくありませんでしたから……」
「それ、逆効果だったんだよなぁ……。大将はおめぇさんが何か企んでる事に気付いてて、変な事しねぇかってめっちゃ心配してたぞ?その結果俺がこうして出て来る事になったって言うね……」
大淀は自分がこの計画を立てた切っ掛けについて話した後、戦治郎の返事を聞くなり言葉を詰まらせ、それから大将が大淀を止める方法として、大淀を戦治郎のところに嫁がせようとしていた事を戦治郎から聞くと、そのあんまりな内容に愕然としながら沈黙してしまうのであった……
その後、大将が退役した後、大淀はどうするつもりなのかについて、戦治郎が大淀に向かって尋ねてみたところ、大淀は計画実行後の事ばかり考えていた為、計画を実行しなかった場合については碌に考えていなかった事が判明し……
「特に予定が無い様なら、深海棲艦の増殖方法や世界の自浄作用に関する問題さえ無かったら、かなりいい線いってるこの計画を単独で思いつくその頭脳を、そして俺から見てもかなり素晴らしいと思う事務処理能力を、俺達に貸してくれねぇか?ウチは諸事情で事務仕事が大量に来る予定になってるから、おめぇさんに来てもらえると非常に助かるんだが……」
「戦治郎さんには今回の件で多大な迷惑をお掛けしていますし、帝国海軍の要とも言える立場にある戦治郎さん達をサポートし、戦治郎さん達の負担を軽減する事は、帝国海軍にとって非常に重要な事だと考えられます。なのでその申し出、私で良ければ喜んでお受け致します。そうした方が、お祖父様も安心出来るでしょうからね」
戦治郎が長門屋鎮守府の運営に協力して欲しいと大淀に対して申し出ると、彼女はそう言って戦治郎の申し出を快諾、それから戦治郎と共に執務室に戻ると、大将に心配させていた事を謝罪した後、大将が退役するより少し前、来年の3月末には長門屋鎮守府に移動出来る様、異動手続きに必要な書類を即座に書き上げて大将に提出し、それを受け取った大将は1度頷いて見せ、書類に自分の承認印を押した後、大淀を止めてくれた戦治郎に向かって、丁寧に腰を折ってお辞儀をしながら、感謝の言葉を口にするのであった