資料室にて大淀の計画を阻止する事に成功し、その事を大淀大将に報告し終えた戦治郎は、執務室から退出した時には丁度時間が昼食時であった為、この度長門屋鎮守府に来てくれる事を約束してくれた大淀を誘って共に食堂へと向かい、先に食堂に来ていた大和達と合流すると、瑞鶴など大淀が現帝国海軍に反旗を翻そうとしていた件を知らない者達に配慮し、その件については伏せて大淀が長門屋に来てくれる事だけ伝えたところ……
「大淀さんが来て下さるとなると、大和達も大いに助かります。長門屋鎮守府は稼働し始めると、どうしても書類関係の仕事が凄い事になってしまいますので……」
「書類の件については、此処に来るまでの道中で、戦治郎さんの方から伺っています。しかし……、テーマパークや温泉施設の経営に、石油コンビナートとボーキサイト採掘場の運営ですか……、話を聞けば聞く程、戦治郎さん達の鎮守府は常軌を逸脱していますね……」
「確か今は鋼材確保の為に、鉄鉱石の鉱脈を探してるんだっけ……?」
「あぁ、まあそっちの方はちょっち難航してるみてぇだがな。因みに弾薬に関しては、鎮守府の敷地内で食糧確保の為に畜産をやる予定になってて、そこで出る家畜達の排泄物とかを利用して硝石を作って、そこから火薬を作って弾薬作る予定になってるわ」
「幾ら軍から資金や資源を貰えないからって、普通そこまでやるモンなのか……?」
大和の発言から話が広がり、それから雑談の流れとなり、戦治郎達は会話を楽しみながら昼食を摂っていたのだが……
「今戻ったぞーっ!」
「いや~、京都の街とやらは、中々に興味深い所じゃったの~」
突如として2つの声と共に食堂の扉が勢い良く開かれ、食堂内にいる誰もがそちらに視線を向ける中、声の主である正蔵と咲作は、戦治郎達が座る席にゆっくりと歩み寄って来るのであった
この1人と1柱、前回は時間の都合で出来なかったからと言う理由で、今回はあの過酷な演習が終わった後、揃って京都観光の為に変装して京都の街に飛び出して行ったのである。因みにこの時の咲作の姿は、犬に擬態する為にジガルデ10%フォルムに変化していたのであった
「久しぶりの日本は堪能出来たか?」
「そうじゃのう、やはり祖国は落ち着くもんじゃ」
「ワシは初めてなんじゃがな」
そうして戦治郎達の席に辿り着いた1人と1柱が、現在大和が座っている戦治郎の隣とは反対の隣とその隣に腰掛けたところで、戦治郎が彼らに短くこの様に尋ねたところ、1人と1柱はそれぞれこの様に返答した後、戦治郎達の雑談に加わり、主に咲作の京都観光の感想で話が盛り上がる。話を聞く限り、如何やら咲作は歴史ある京都の街並をかなり気に入った様で……
「これほどのものを作り上げる事が出来、それを保ち続け後世に伝える事が出来る人間と言う生物に対しての認識を、ワシら外なる神は改める必要性がある様じゃのう」
話の中でこの様に述べ、それを聞いた瑞鶴や毅と言った京都出身の者達は、外なる神である咲作に感動を与えた故郷を誇らしく思うと同時に、高次元の生命体に故郷をべた褒めされた事が嬉しかったのか、思わずはにかむ様に笑みを零すのであった
そんな中、食堂のテレビからあるニュースが流れて来て、それを耳にした戦治郎達は雑談を止め……
「またこのニュースか……、まぁこの世界の日本からしたら、朗報っちゃ朗報だが……」
「京都のテレビもラジオも、一昨日の晩からずっとこのニュースの事ばっかなんだよなぁ……」
「内容は確かに嬉しいニュースなんだけど……、態々緊急特番まで組んで連日放送する必要ある……?折角見たかったドラマがあったのに……」
その内容を聞いた戦治郎、毅、瑞鶴の3人が、ゲンナリしながらこの様な事を口にするのであった。そんな戦治郎達の様子が気になった正蔵が、静かにニュースに耳を傾けてみたところ、如何やら一昨日の晩に、以前から行方不明になっていた琵琶湖周辺の住民達が、突如として戻って来たのだとか……
「行方不明者が戻って来たと言うのは、何処の国でも朗報じゃろうに」
ニュースの内容を理解した正蔵が、思った事をそのまま口にしたところ……
「まあな、けどこの世界の日本は、戦争が始まってから少し経過した辺りから、急激に行方不明事件が増えてるんだわ。だから行方不明者が戻って来たって言うのは、日本的にはとんでもねぇ朗報になるんだわ」
「そう言う訳だから、マスコミが騒ぐのは分かるんだけど……、流石にこれは騒ぎ過ぎなんじゃないか?って思うのよ」
それを聞いた戦治郎がこの様に返答し、それに瑞鶴がこの様に続くのであった
「なるほどのう……、ふむ……、深海棲艦との戦争が始まってから……、か……。十中八九、人間の……、それも成金タイプの上流階級の人間の仕業じゃろうな……」
「やっぱ祖父さんもそう思うか……」
「どうしてそう思われるのです?」
そうして戦治郎達の言葉を聞いた正蔵が、少し考える様な素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いてこの様に言い放つと、戦治郎以外の者達が信じられないとばかりに驚愕の表情を浮かべ、前々から正蔵と同じ考えに至っていた戦治郎は、うんざりしながらこの様な事を言い、そのやり取りを聞いて誰よりも早く我に返った大淀が、神妙な表情をしながら2人に向かってこの様に尋ねるのであった
「単純な話じゃ、仮に犯人が深海棲艦で、人質を確保する為に人を攫っていたとしたら、行方不明事件が日本だけで頻発しているのはおかしいじゃろ?奴等は世界中の何処にでもいるんじゃ、人質の為に人間が欲しかったら、何も日本に固執せず自分達の拠点の近くの人間を掻っ攫った方が手っ取り早いじゃろう。これと同じ理由で、転生個体が犯人と言う線も無いじゃろう。そうなると考えられるのは、日本国内で現在最も売れている民間用艤装を取り扱う事で、急成長を遂げた企業の関係者が、ヤクザに高い金を出して依頼してやっている可能性が考えられるんじゃよ。そう言った輩は自分の命と財産を守る為に、細かい手続きなんぞせずに、自由に使える自分専用の兵隊を欲しがるモンなんじゃよ。実際、儂も家族を守る為に私兵団を持っておったからのう。金持ちと言う生物は、どうしても命を狙われやすくなってしまうからのう」
「祖父さんのとこの私兵団の皆様には、足を向けて眠れませんです、はい」
大淀の問いに対して、正蔵はあっけらかんとした様子でこの様な事を言い、幼少時代に正蔵の私兵団に命を救われた事がある戦治郎は、まるで拝む様に手を合わせながらこの様な言葉を口にするのであった
「ヤクザて……、そっち方面の連中も絡んでやがんのかよ……」
「そりゃそうじゃろう、その土地で商売をする場合、その土地にいるヤクザに面通ししておかんと、商売の邪魔をされる可能性があるからのう。その繋がりを利用して、この世界の成金共はヤクザに人攫いの罪を着せ、自分達は無関係であると主張しながらのうのうと旨い汁だけを啜って生きとる事じゃろうて」
「ヤクザって言えば、
正蔵から闇が深い話を聞いた毅が、思わずその表情を引き攣らせながらその感想を述べたところ、正蔵は自分達がお土産として買って来た生八つ橋を頬張りながら、さも当然とばかりにこの様な言葉で返答し、それを聞いた戦治郎は、自分が長門屋を始める際、正蔵の教えに従って面通ししたヤクザの事をふと思い出し、懐かしそうにこの様な事を呟くのであった
さて、戦治郎達がこの様な話をしていると、不意に戦治郎の通信機に通信が入り、怪訝に思いながら戦治郎が通信に出たところ、通信機からは現在実家に帰省している由良の声が聞こえて来るのであった
「由良、急にどうしたんだ?実家の方で何かあったのか?」
『えぇ……、っとその前に確認なんですけど、戦治郎さん達はニュースは見ましたか?例の琵琶湖周辺で行方不明になった人達が、突然戻って来たと言う内容なんですけど……』
何処か緊張感を帯びていた由良の声を聞いた戦治郎は、その表情を引き締めながら由良に向かってこの様に尋ねたところ、由良は戦治郎に対してこの様な問いを投げかけ、戦治郎は現在進行形でそのニュースを見ている事を由良に伝えるのであった
「それがどうしたんだ?」
『それがあの事件……、私の実家付近で起こった事件なんですけど……、事件に巻き込まれなかった両親が言うには、どうも戻ってきた人達の様子がおかしいみたいなんです……』
このやり取りの後、由良は由良の両親が感じたと言う、帰還者達に対しての違和感について話し始めるのであった……
由良の両親が言うには、帰還者達は以前は普通に昼間でも外に出て、仕事をしたり買い物をしていたのだが、事件の後は昼間には一切外に出る事が無くなり、逆に日が沈み夜になると動き出す様になってしまっただけでなく、昼間家にいる時は人間味を一切感じさせない様な表情で、虚ろな瞳で何処か彼方を見つめ、その身体からは今まで嗅いだことの無い様な、腐敗臭に似た臭いを放たれているのだとか……
『この話の後半部分は、両親が近所で被害に遭った方の家に見舞いに行った時に見た、被害者の方の様子なんだとか……』
「明らかに行方不明になっている間、何かあったと考えるべきだろうな……」
こうして由良の話を聞き終えた戦治郎が、この様に呟いた直後である……
『あ~、由良と言ったかのう?咲作じゃ、どうもおまえさんの話を聞く限り、そのご近所さんとやらは、アンデットに作り変えられてしまっておる様じゃ』
突如として咲作が魔法で通信に割り込んで来て、由良に向かってこの様な事を言い放つのであった
『咲作さん、それはどう言う事ですか……?』
『そのご近所さんの症状なんじゃが、ワシに心当たりがあってのう。んで、これはお前さんのご両親宛てなんじゃが、儂らがそちらに向かうまでの間、元行方不明者達とは接触しない様にして欲しいと伝えておいてくれんか?もしこの約束が守られない様ならば、下手したらお前さん一家は、被害に遭ったご近所さん達の手によってこの事件の犯人の下に連れて行かれ、アンデットにされてしまうかもしれんからな』
由良が咲作に対して疑問を投げかけると、咲作はそう言って由良の実家に向かう事を約束すると同時に、由良達に釘を刺すのであった
「なぁ咲作さん、その心当たりってのは、やっぱ神話生物なのか……?」
その後由良との通信を終えた戦治郎が、咲作に向かってこの様に尋ねたところ、咲作は……
「その通りじゃ戦治郎、今回の事件には旧支配者のグラーキが関わっとるじゃろう。由良からご近所さんの様子を聞いた時にピンと来たんじゃ、この症状はグラーキにアンデットに作り変えられた人間特有のものじゃったからな」
この様に返答し、その話を聞いた者達を戦慄させるのであった……
その後戦治郎達は、大淀大将に事情を話して外出許可を貰い、正蔵達と共に由良の実家があると言う琵琶湖まで、人間の命を弄んだ、罪深き神話生物に制裁を加える為に、正蔵の紅吹雪で作った雲に乗って向かうのであった……