今日の工廠はいつもと違って賑やかだなぁおい
今俺達は作業ツナギに着替えた陽炎型駆逐艦3人に艤装のメンテナンスのやり方を教えているわけだが、これがまた大変な事大変な事……
陽炎、不知火、天津風の3人は機械いじりは今回が初めてで基本の部分から教えていかないといかんわけだ、だが今回教える側の俺達2人も誰かに作業方法教えるってのが初めてになるんだわ、輝さんのアシスタントやっていた藤吉を除けば現場組の最年少は俺とマモなわけで、俺達より下がいなかった=作業方法を教えるべき相手がいなかったってわけ
その事をアニキに言ってみたら
『何事も経験経験、男は度胸!何でも試してみるもんよ!それで駄目だったら相談乗るから心配すんな』
そう言われて取り敢えず挑戦するわけだがいや~やっぱキツイッス……、俺自身感覚に頼って作業していたのと作業方法を頭でしっかり把握してやってるわけではないってのが浮き彫りになっちまって若干凹んだ、こういう時マモの頭の回転の速さが羨ましい……、話聞いてる俺がほへ~と感心しちまうくらい分かり易く解説してんだもん……
「シゲさ~ん、ちょっと見てもらいたいんですけどいいですか~?」
陽炎に呼ばれたので短く返事してそっちに向かう、あいつにはあいつのやり方があるんだ、いつまでも嫉妬してねぇで俺は俺のやり方で教えてやればいいか、うっし!やってやらぁ!
「ここってこんな感じでいいんですか?護さんが言ってたのがぼんやりとしか分からなかったから何となくでやってみたんですけど、これで合ってます?」
どらどら、あんちゃんに見せてみな~……ってこりゃあかん、このまま動かしたら艤装がオシャカになっちまう……
「残念だがこれじゃあダメだわ、いいか?よぉ~っく見とけ~、ここはな……」
いつもならチャチャっと修正するところだが、今は陽炎に直し方教えなきゃいけねぇから作業ペースをいつもより落として自分が知っている語句を頭から捻り出しながら解説を入れる、陽炎の奴目ぇまん丸にしながら俺の手元を見てやがる
「うわぁ……、私がここまでやるのに結構時間かかってたのにシゲさん物凄い速さで修正していくし……」
すまんな陽炎、これでもペース落としてるんだぜ?
「よっしこれで修正完了っと、やり方はちゃんと頭の中入ったか?」
「ありがとうございます、う~ん、やっぱり実際にやってるとこ見ないとよく分かんないわね……、っと助かりました、また分からないとこ出てきたらそのときはお願いしますね☆」
礼を言いながらウインクする陽炎、可愛いな畜生
「それにしても、シゲさんってホント手慣れてますねっと……、私なんかバラすのにもこんなに手間取ってのに……ぃっ!」
俺達がOK出すまではバラして組み上げてを繰り返してもらう事になってるもんだから俺がさっき修正したところを再びバラしにかかってる陽炎が言う
「そりゃぁシゲは高校中退してから長門屋に入ってたッスからね~、それ以前からバイクを自力でいじってたみたいッスけど。まあ機械いじりに関しては間違いなく年季が入ってるッス」
それに答えたのは向こうで不知火と天津風の相手をしていたマモ
「マモ、お前こっち来て大丈夫なのか?」
「それなんッスけど、向こうの作業が粗方終わったらしくて空さんがこっち来てくれたんスよ、だからあっちの2人は空さんに任せて来たってわけッス」
そう言われて不知火達の方を見てみれば本当に空さんこっち来てるし、そんでアニキの方見たらいつの間にか来ていた剛さんとアニキが何か話し込んでるし……
「高校中退……、いやまあそんな気はしてたけど……」
そんな気はしてたって……、陽炎おめぇそれ酷くねぇ……?
「一時期は暴走チーム『大天狗』とか作って暴れてたみたいッスけどシャチョー達に〆られて解散、そんでチームの敵討ちの為にバイクに跨って長門屋に単騎で殴り込みに行ったらバイクのメンテの腕買われてそのまま長門屋入りしたんだったッスよね?」
「よしマモちょい表出ろ……、人の黒歴史ほじくり返すたぁ覚悟は出来てんだろうなぁ?」
人の古傷抉るような真似すんなって教えられてねぇのか?だったら俺が今から教えてやんよぉ……、俺は指を鳴らしながらマモに詰め寄る
「ふぇっふぇっふぇ落ち着くッスよシゲ~、暴力は何も生まないッスよ~?「護、ちょっと来てくれ」っと御指名入ったッスね、今行くッス~!」
あの野郎、人の黒歴史いじるだけいじって逃げやがった……、ああもう!陽炎がドン引きしてんじゃねぇか!
「暴走族って……、何でそんな事やろうと思ったんですか……」
引き攣った表情のまま陽炎が尋ねてくる、あ~あ~やっぱそう来るよな~!
「ただの若気の至りって奴だ、単純に目立ちてぇ、俺はすげぇんだ特別なんだ~っての見せつけたかったってだけだ」
取り敢えずこう言っておけば大体の奴は納得してくれる、それを知っていたからいつも通りにこのセリフを口にする俺
「……それは自分の周りにいる人皆にですか?」
陽炎の奴、手ぇ止めてまで聞いてきたんだが……、つかこの感覚……まさかなぁ……
「そうだな、俺の周りにいる連中全部に如何に俺がすげぇ奴なのk「嘘ね」あん?」
「私達が施設にいたのは知ってますよね?私と不知火は施設の中では年長組に入るくらいの歳になるのでどうしても自分達より小さい子の世話をする事が多かったんですよ、そんな子達は悪い事をしたら叱られるのが怖くてつい嘘をついちゃうんですよね~、私はそういうの沢山見て来たので人が嘘を付いてるかどうかってのが分かる様になっちゃったんですよ」
うっへぇ……、長門屋入った直後に悟さんに俺の事根掘り葉掘り聞かれた時に感じた感覚、嘘を完璧に見抜くあれを陽炎も体得してるってぇのかよぉ……
「陽炎、お前悟さんの弟子にでもなったらどうだ?」
「それは機会があったら考えておこうかな?それは兎も角、その発言は嘘を認めるって事でいいです?」
完敗だ完敗、参りましたよっと……
「認める認める、俺がそんな事やってたのは母親に俺の事を見て欲しかったからだわ」
「お母さんに……?」
施設にいたこいつらに話すのはどうかと思ったが、こっちの負けを認めた以上白状するべきだろうと思って陽炎に話し始める
俺は自分の父親を知らない、母親も誰が俺の父親なのか知らない、この母親はそうなるほど数多くの男に抱かれていたのだ……それも自分の方から男を誘ってだ……。俺が生まれてからすぐの間は俺の事をまともに育てていたようだが、物心ついた頃にはちょっとしたネグレスト状態である。祖父母はどうしたと聞かれれば母親はその祖父母に勘当されているので、俺の事は一切祖父母に伝えていないようだった
そんな母親も世間体は多少気にしていたみたいで学校と病院、周りがやってるのと自分の自由時間を増やす理由で習い事として空手の道場に行く事が出来たがそれ以外は俺が何を言っても完全無視、そんな調子だったので食事は母親が保管している物をくすねて食べる、洗濯なんかは最初は洗濯してない服をローテーションで着回して、途中から自分でやるようになっていた。
俺がこんな事になってても母親は俺に関心を一切持つ事は無く、夜な夜な街へ出ては男に抱かれていた。俺はこんな扱いをされていたがそれでも自分の唯一肉親だからとあの手この手と色々な手段を使って母親の目をこちらに向けさせようとしたのだ、暴走チームを作って暴れ回ったのも結局は母親に自分を見て欲しかったからだったりする
「その後はさっきマモが言った通りだな、空手の道場はチームの喧嘩で使ったのが原因で破門にされて、そんで母親の件はアニキ達の世話になりだしてから疑問に思うようになってアニキ達に相談したら絶縁するように言われたっけな、それからはアニキの家に住み着いて母親には会わなくなったな」
「ごめんなさい……、シゲさんがそんな苦労してたとは思わなくて……」
まあこうなるよな~……、つか陽炎の奴泣いてんのか?俺の為に?おめぇらの方が俺なんかよりよっぽど辛い目にあってんだろうに……
「ちょいシゲ~……、ここでそんな重い話すんの止めてくんないッスか?お前の話が不知火と天津風にも聞こえてしまったもんだからこっちも泣き出しちゃったッスよ~?」
うん、その……、すまん……、結局俺達は泣き出した3人を落ち着かせるのに結構な時間を使ってしまい、訓練どころではなくなってしまったのだった……