※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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水切りドーム球場

「光太郎さん大丈夫?何処か怪我したりしてない~……?」

 

「俺は大丈夫、なんだけど……」

 

文月が光太郎に襲い掛かろうとするヴルを止めてすぐ、文月は変身の解除した光太郎の下へ駆け寄り、光太郎に向かって心配そうにこの様に尋ね、それを聞いた光太郎は、文月に対して特に怪我をしていない事を伝えながら、文月に向けていた視線を、先程自分に襲い掛かって来たヴルの方へと動かすのであった

 

「あ~あ……、やっちゃったね~……」

 

「ヴル……、来る前に何度も言っただろう……?此処には私達の命の恩人がいると……、その人達に迷惑を掛けない為にも大人しくしていてくれと……。確かにお前が文月の事を大事に思っている事は知っているが、よりにもよって文月の憧れの人物である光太郎さんに襲い掛かるとか、そんな事をしたらどうなるのかについて、全く考えていなかったのか……?」

 

「すまない……、その光太郎と言う人物が、深海棲艦の姿をしているとは思っていなかったのだ……」

 

その問題となったヴルはと言うと、呆れ返った様子の皐月と頭を抱える長月を前にして、正座しながらしょぼくれていたのであった

 

ヴルは戦いを止められた直後、長月の鋼鉄の拳を頭頂部に受け、文月が自分を止めた理由や長月に殴られた理由が分からず、混乱しているところに皐月から先程ヴルが襲い掛かろうとした人物の正体を知らされ、愕然としているところに長月の指示で正座させられ、2人からお叱りの言葉を貰う羽目になってしまったのである

 

そうしてヴルが説教をされているその傍らでは……

 

「あの深海棲艦、突然変身したんだけど……?最近の深海棲艦って、皆あんな感じなの……?」

 

「そんな事は無いわ、光太郎さんが変身したのは、彼固有の特別な力なの」

 

神話生物に関してはヴルを通して知っていたものの、転生個体の事についてはよく知らなかった水無月が、目の前で起こった出来事に対して混乱しながらこの様な事を呟き、混乱する水無月を何とか落ち着かせようと、加賀がこの様な事を水無月に言っていたのであった……

 

それからしばらくして、事態が収束したところで光太郎は加賀に対して、ある疑問を口にするのであった

 

「あの、加賀さん……、そのロズレイドは一体何なんですか……?」

 

「それについては、翔さんがいるところで話します」

 

「翔……、出雲丸 翔だったか……。確かあの武闘派モンク僧のクトゥルフの怒りを料理で鎮め、今はルルイエと人類の橋渡しをしていると言う人物だったな……」

 

光太郎の問いに対して、加賀は凛とした表情のままこの様に返答し、それを近くで聞いていたヴルがこの様な事を呟くと、光太郎はその呟きの内容から、このロズレイドは神話生物なのではないかと推測するのであった

 

まあ、クトゥルフの名前や役職について言及すれば、誰でも容易に想像出来る事ではあるが……

 

そうして一行は、車庫のシャッターをしっかりと閉めた後、翔がいるであろう食堂の方へと歩みを進めるのだが……

 

「おっしゃいくぞおおおぉぉぉーーーっ!!!」

 

その道中、突如として長門屋鎮守府(張りぼて)内全域に、やたら気合いの入った輝の叫び声が響き渡り、それに驚いた一行は何事か?!とその足を一旦停め、輝の声が聞こえた埠頭の方へと駆け足で向かうのであった

 

そうして向かった先には、何やらギャラリーが多数集まっており、光太郎達がギャラリーと並ぶ様にして、ギャラリーの視線を目で追ってみると、そこには大型ハンマーを手にした輝が、唯一人海上に立っていたのであった

 

「あいつ……、一体何するつもりだ……?」

 

光太郎がそう呟いた直後、海上に立つ輝が突如として手にしたハンマーをこちらに向かって放り投げ、それに危機感を覚えた光太郎は、すかさずギャラリーと加賀達に退避する様指示を出し、この場にいる全員が安全圏に到達したところで、光太郎はとても信じられない光景を目にする事になるのであった

 

輝が投げたハンマーが、埠頭のコンクリートに突き刺さるや否や、そのコンクリートが凄まじい勢いで輝がいる海上まで伸びていったかと思えば、そのコンクリートは海上で円を描く様に広がっていき、そうして広がったコンクリート上に何と何処かで見た事がある様なドーム球場がニョキニョキと生えて来たのである

 

これには輝の能力を知らない加賀達だけでなく、ギャラリー達も光太郎も驚きを隠せずにいたのだが、それ以降の輝の行動に、この場にいる誰もが思わず愕然としてしまうのであった

 

「ふんぬおおおぉぉぉーーーっ!!!」

 

海上にそれはそれは立派なドーム球場が出来上がった直後、輝はドーム球場の方へと駆け寄り、コンクリートに突き刺さったハンマーを回収すると、ドーム球場の土台となっているコンクリートの下に手を差し込み、雄叫びを上げ始めたのである……

 

するとどうだ、埠頭とドーム球場を繋ぐコンクリートの道が、バキバキと言う音を立てながらドーム球場から切り離され、肝心のドーム球場は輝によって持ち上げられてしまったではないか!

 

これだけでも凄い事だが、輝の行動はこれだけでは留まらなかったのである

 

「ぬおおおぉぉぉーーーっ!!!」

 

輝は再度気合いを入れる様に叫ぶと、何を思ったのかハンマー投げの様にドーム球場を持ったまま、自分の身体を軸にグルグルと独楽の様に回り始め……

 

「ちょいやっさあああぁぁぁーーーっ!!!」

 

魂を込めた叫びと共に、渾身の力を込めて、ドーム球場を投擲したのであった

 

そうして投擲されたドーム球場には、如何やら水切りの石の如く、横方向の回転が加えられている様で、ドーム球場はバインバイン!と海上を何度か飛び跳ねた後、遥か彼方でバラバラに砕け散り、海の藻屑となって消え失せてしまうのであった

 

「輝ぅぅぅーーーっ!!!お前一体何やってんだ馬鹿野郎っ!!!」

 

「おっ!光太郎かっ!帰って来るの早かったなっ!!」

 

「そんなんどうでもいいわっ!!!それよりマジで何やってんだよっ!!?」

 

目の前で繰り広げられた光景に、その場にいた誰もが愕然とし、その中で誰よりも早く我に返った光太郎が、今回の出来事の当事者である輝に対して声を荒げながら尋ねたところ、輝は暢気そうにこの様に返答し、それを聞いた光太郎は更に声を荒げながら輝の行動について言及するのであった

 

そうして輝から話を聞いたところ、如何やら輝は自身の能力を活かした攻撃方法を探っていたらしく、無い知恵を絞って攻撃方法を色々と考えた結果、この様な方法を編み出したのだとか……

 

「他にもデカいビルを建てて、それを根元から引っこ抜いて、そのビルで相手をぶん殴るって奴も考えたんだが、こっちの方が相手を纏めて倒せるって思ってなっ!んで、今こうしてそれをテストしてた訳だっ!!!」

 

「思いついたからって、実行してんじゃねぇよ……。こんなん俺達でも驚くのに、鎮守府の近くに住んでる人達とか、世界の終わりみたいになっちまうだろうが、このアホ……」

 

何処か誇らしげに胸を張ってそう言って、ガッハッハと笑いだす輝に対して、光太郎はゲンナリしながらこの様な言葉を言い放つのであった……

 

そんな中……

 

「我々から見れば、戦治郎さんも中々の怪力だったが……」

 

「上には上がいるのですね……」

 

「ドーム球場を放り投げて攻撃とか、あの人はなんちゅう発想しとるんじゃ……」

 

「……」

 

「うわぁ……、水無月ったら完全に言葉失っちゃってるよ……」

 

「まあ……、転生個体と初めて接触した日に、こんなものを見せつけられてはな……」

 

「輝さん、すっご~い!」

 

「うわ~……、輝さん、横須賀にいた時よりパワーアップしてますね~……。って言うか、これなら建築関係の作業は、冗談抜きで全部輝さんに任せちゃって良さそう……」

 

「転生個体とは、これほどまでに凄まじい力を持っているのか……。今の攻撃も、まるで脳筋ゴル=ゴロスを彷彿させるものだった……」

 

輝の能力と怪力を目の当たりにした磯風達は、呆然としながらそれぞれこの様な事を呟くのであった……

 

因みにアムステルダム泊地の件で、輝によって命を救われた事を切っ掛けに、彼に対して静かに好意を寄せていた加賀は、その逞し過ぎる輝の腕に抱かれる自分の姿を妄想し、人知れず無言でその両頬を紅潮させていた……

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