※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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陸軍キャンプ地にて

「う~ん……、ムサシがくれたGPSを頼りに、何とか此処まで来たのだけれど……、中々見つからないわね……。っとそれよりも、仕方ない事と分かっていても、山の中はホント蚊が多くて嫌になるわね……」

 

陸奥はこの様な事をぶつくさと呟きながら、時々手にしたGPSを見つめ、自身と目的地の位置情報を確認しながら、木々が生い茂る山道を只管歩き続けるのであった

 

さて、何故彼女が独りこの様な山の中にいるのかと言うと、単純にこの連休を利用して、陸軍の強化合宿に参加しているムサシの様子を見に来たと言う、ほぼほぼプライベートな理由であったりする

 

因みに、ムサシは最初こそ陸奥が強化合宿の様子を見に来る事に反対していたのだが、横須賀の乱の際、彼女から譲り受けたバイクをオシャカにしてしまった件もあってか、ムサシは彼女に対して強くものを言う事が出来ず、最終的には陸奥の勢いに押し切られ、剣持にこの話を通した上で、渋々ながら彼女の合宿見学を認め、その際に合宿の場所の位置情報が登録されたGPSを彼女に手渡していたりする

 

何故陸奥がムサシの事をそこまで気に掛けているのかと言えば、彼女はムサシと出会ってから彼がヒーローを引退するまでの間、彼に海軍の闇に触れる様な非常に危険な任務を依頼すると同時に、彼がスムーズに任務をこなせる様、後方でずっと彼のサポートをし続けて来た、言わばバディの様な関係にあったのである

 

それ以外にも、ムサシの日本を平和にしたいと言うそれはそれは強い志と、それに対して本当に真剣に行動を行うその姿勢に、その時の彼が浮かべるその表情に、いつの間にか陸奥は惹かれてしまっていたのである

 

事実、陸奥は辛い現実に打ちのめされた事を切っ掛けに、ムサシがヒーロー活動を辞めると言った時は心底悲しみ、ムサシが剣持からの勧誘を受け、憲兵としてその力を振るう事を決め、再び立ち上がってくれた事を知った時は、心から歓喜し、大急ぎで彼に再び自分達に力を貸してくれる事に関しての感謝と、陸軍でも頑張る様にと激励の言葉を送っていた。それほどまでに、陸奥の中では彼の存在が大きくなっていたのである

 

とは言っても、陸奥ほどの美人と絡んだ事が、その短い生涯の中で全くと言って良い程無かったムサシが、陸奥との距離をこれまで以上に縮めて良いものかと躊躇してしまっている事が原因で、その関係は友人以上、恋人未満と言った状態になってしまっているが……

 

それはそうとして……

 

「ん……?もしかしてあそこかしら……?」

 

辺りを見回しながら歩いていた陸奥が、視界に映ったものに違和感を感じ、目を凝らしてよく見てみたところ、其処には山の木々に完全に溶け込む様、しっかりとカムフラージュが施された多くのテントが存在しており、それに気付いた陸奥はこの様な事を口にしながら、問題のテント群の方へと足を運ぶのであった

 

そうして陸奥が発見したテント群は、やはりと言うべきか陸軍によって設営されたもので、その傍には剣持が考案した過酷過ぎる訓練に参加した陸軍の多くの兵達が、疲労によりゼェゼェと呼吸を荒くしながら地べたに這い蹲っていた……

 

その光景を目の当たりにした陸奥が、その異様さにドン引きしながら、ムサシの居場所を誰に尋ねたらいいものかと困惑していると……

 

「そこの……、貴女……、どうやって……、此処に……、辿り着いたで……、ありますか……?」

 

不意に訓練に参加したのだと思われる、肩で息をする女性兵に声を掛けられ、陸奥は突然の出来事に驚いた後、自分が海軍の者である事を証明する為に、声を掛けて来た女性兵に身分証を掲示し、自分の来訪理由こそ伏せ、この事は剣持に既に伝えてある事を明かしてから、ムサシの居場所について尋ねてみたところ……

 

「鶴田殿……、でありますか……?彼なら……、剣持閣下と……、炎山殿と共に……、森の奥の方へ……」

 

女性兵は生きも絶え絶えと言った様子で、陸奥の質問に対してこの様に答え、それを聞いた陸奥は彼女に礼を述べた後、ムサシがいると言う森の方へと進んでいくのであった……

 

因みに先程女性兵が口にした炎山殿とは、以前横須賀鎮守府で行われた大会議の際、長門屋鎮守府の憲兵となる為に陸軍に入隊した旧神ヴォルヴァドスの事で、現在彼はその正体を剣持とムサシ以外の陸軍の者達に隠しながら、『炎山 煌(えんざん こう)』と言う名前を名乗り、人間に擬態して生活しているのである

 

さて、そうして陸奥が森の奥の方へと歩みを進めると……

 

「でやあああぁぁぁーーーっ!!!」

 

「踏み込みが足りんっ!!!」

 

前方からムサシと剣持の声が聞こえ、それを耳にした陸奥が歩みの速度を上げて、2人の声がした方へと進んでいくと、其処には最早服としての機能をほぼ失い、布切れとしか表現出来ないもので胸元を隠したムサシが、激闘の末上半身が裸になり、機械の身体が露わとなった剣持に向かって突撃していくと言う光景が目に映るのであった

 

その直後、ムサシは剣持が鞘に納めたままの太刀を用いて放った一閃によって、後方に勢いよく吹き飛ばされてしまうのだが……

 

「まだだっ!!!」

 

ムサシは剣持に向かってそう言い放つと同時に、手にした黒い棒の様な物を剣持目掛けて振るう。するとどうだ、ムサシが振るった黒い棒状の物は鞭の様な姿に変貌し、それを打ち落とそうとした剣持の剣閃の合間を掻い潜りながら、その先端は風切り音を放ちながら剣持に向かって飛んで行く……

 

そしてそれが剣持の身体に僅かに触れた瞬間……

 

「ぐうぅ……っ!?」

 

突然剣持はその表情を苦痛に歪め、思わず呻き声を上げるのであった……

 

そう、現在ムサシが手にしている物は、剣持の依頼で戦治郎達が横須賀にいる間に作り上げた武器で、普段は30cmくらいの棒状なのだが、勢いよく振るえば先程の様に鞭状に変化し、グリップ部分にあるスイッチを押し込めば、鞭に人間の致死量にこそ至らないものの、しばらくの間は全身が麻痺して動けなくなってしまうレベルの電気が流れる様になっているのである。先程剣持が呻き声を上げた理由は、鞭の先端が剣持の身体に触れた事で、剣持の身体に強力な電気が流れた為である

 

その後、2人は互いに間合いを取り、戦いに夢中になるあまり陸奥の存在に気付く事無く、攻撃するチャンスを自分のものにする為に、しばらくの間睨み合いを始めてしまうのであった……

 

「あらあら……、ちょっと間が悪かったみたいね……」

 

その様子から、他の陸軍の兵達には秘密で、剣持がムサシに稽古をつけている事を察した陸奥が、2人に声を掛けるべきかどうかについて、この様な事を呟きながら悩んでいると……

 

「あれ?陸奥さん?」

 

何者かか不意に陸奥に声を掛け、それに驚いた陸奥がビクリと身体を震わせた後、声がした方へと顔を向けたところ、其処には1頭でも最低250kg、最大500kgはあるヒグマの死体を2つも担いだ、炎の様に赤い髪を持つ、精悍な顔つきをした青年が立っており、青年の顔を見た陸奥は……

 

「煌じゃない、びっくりさせないでよ……」

 

「すみません、まさかこんなに早く陸奥さんが来るとは思っていなくてですね……」

 

自分に声を掛けて来た者が、同期である事からムサシとよくつるんでいるヴォルヴァドス改め煌であった事が分かると、途端に緊張の糸を緩め、脱力しながら煌に向かってこの様な事を言うと、煌は苦笑しながらこの様に返答するのであった

 

その後、陸奥はムサシの訓練が終わるまでの間、煌と雑談を興じる事となり、その時に煌が担いでいた熊の事を、好奇心から尋ねてみたところ……

 

「これは山の中で食糧調達が出来なかった人用の、非常食ってところですね。流石に食糧調達が自力で出来なかった事が原因で、合宿参加者の中から餓死者を出す訳にはいきませんからね……。で、僕が非常食の調達を担当してるのは、単純に僕が神話生物でそう簡単に死なない事と、剣持さんでも僕に稽古をつけるのは難しいと判断されたからですね……。そんな訳で、僕は毎日こうして雀蜂なんかに襲われつつも、熊狩りや猪狩りをしてるんですよね……」

 

煌は相変わらず苦笑しながら、この様な返事をするのであった

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