戦治郎と翔が通信を終えようとした直後、緊急用回線で長門と燎、そして剣持からニャルの件についての通信が入り、その件について戦治郎達が通信回線上で話し合いをしている頃……
「昼間に見た時も思ったが、この戦治郎さん達の鎮守府の艦娘寮は素晴らしいものがあるな……。軍学校を卒業した後が楽しみになってくる……っ!」
消灯時間を過ぎた関係で、真っ暗になった艦娘寮の廊下を、持参した懐中電灯を片手に歩く磯風は、この様な事を呟きながら自分に与えられた部屋に向かっていたのであった
彼女は少し前、寝ている最中に唐突にトイレに行きたくなり、自室を出て昼間に教えられたトイレに向かった訳なのだが、その道中で改めて見た輝が建てた艦娘寮の造りや、設備の整い具合に思わず感嘆の声を上げ、自身がこの鎮守府に着任した後の光景を想像し、この様な事を呟いてしまったのである
そんな磯風は、もう少しで自室に到着すると言うところで……
「む……、誰か外にいるな……」
何気なく窓から外を見たところ、外に何者かの影が存在している事に気付き、怪訝そうな表情を浮かべながらこの様に呟くのであった
「こんな時間に一体誰が……、いや……、そう言えば……」
磯風が影の正体を突き止めようと、そう呟きながら目を凝らしていたその時、ふと昼間に聞いた話を思い出すのであった
磯風が聞いた話と言うのは、通の事である。彼は桂島泊地にいた頃に、エデンの下部組織であるシャングリラの転生個体に敗北を喫して以来、戦治郎と出会う前の瑞鶴を凌ぐほどの自主トレを己に課し、それはシゲが父島付近でヘモジーこと防人を単独撃破した事を皮切りに苛烈化し、彼を慕う神通を筆頭に、多くの者達を心配させる事態となっているのだとか……
「ふむ……、これは部外者が口出しする問題ではないだろうが……、いつかは私もここの一員となることだろうし、何より神通教官には過去に陽炎達と共に艦娘としての手解きを受けた恩もあるからな……。ここは1つ、ダメ元で説得を試みてみるか……」
恐らく自分が部外者であるが故、通に取り合ってもらえないだろうと思いつつも、磯風は通を説得してみようと決意すると、急いで艦娘寮を出て通と思わしき影の方へと駆け出すのであった
「……おや?」
後方から自分の方へ駆け寄って来る存在の気配を感じ取った通が、歩みを止めて不思議そうな表情を浮かべながら後方を振り返り、この様な事を口にすると……
「貴方が通さんか?」
気配は通のすぐ傍まで近付き、通に向かってこの様に尋ねて来るのであった
「如何にも、私は通ですが……、そう言う貴方は……、磯風さんですか……?」
「ああそうだ、偶々トイレから戻っている時に、外に貴方がいる事に気が付いてな」
「そうだったのですね……、それで、私に何か用があるのですか?」
「用事と言う程の事でもないのだがな……」
磯風は通とこの様なやり取りを交わした後、通に向かって周囲の心配を無視してまで無茶な自主トレを行う理由について、単刀直入に尋ねるのであった
「その事を一体誰から……?」
「神通さんや不知火、それにシゲさんや空さんからだな……。鎮守府の誰もが心配する中、如何して通さんはこの様な無茶な自主トレを行っているのか……、それが少し気になったから、こうして通さんから直接理由を聞こうと思ったんだ」
「なるほど……、そう言う事でしたか……。そうですね……、私がこの様な鍛錬をしていた理由は……、やはりコンプレックス……、でしょうかね……?」
磯風の問いに対して、通はそう呟いた後、自身に過酷な自主トレを課す理由について、訥々と話し始めるのであった……
如何やら通は、シャングリラとの戦いで敗北を喫して以来、自身の力不足を痛感する事となり、最初は皆の足を引っ張らない様にと自分に厳しい自主トレを課していたのだが、シゲが戦治郎でも苦戦を強いられた相手であるヘモジーを単独撃破して見せた事で、強烈な焦りを感じる様になってしまったのだとか……
「只でさえ私と同世代の仲間には、シゲ以外にも外なる神クラスの相手にも影響を与える能力を持ち、多くの神話生物と協力して戦える翔や、水がある場所ならばどの様な相手に対しても無類の強さを誇る司、更には最近能力を手に入れ、それを有効活用出来そうな装備を自力で開発出来る護などがいますからね……。そんな彼らと自分を比較してしまうと、如何しても焦燥感に駆られてしまい、あの様な行動に走ってしまったのですよ……」
「……しまった?いや、それより前に、鍛錬をしていた……?その言い方だと、今はやっていないと受け取れるのだが……?」
「恐らく、今の様に夜中に徘徊しているところを見て、まだ鍛錬をしていると思われているのでしょうね。いえ、ある意味これも鍛錬になるかもしれませんが……」
「如何言う事だ……?」
自身の問いに対しての通の返答を聞いた磯風が、通の発言の一部が過去形になっている事を疑問に思い、思わずこの様な事を口にすると、通は苦笑しながら何やら歯切れの悪い返答をし、それを聞いた磯風はやや混乱しながらこの様に呟くのであった
その後、通はこの答えは自分に付いてくれば分かると返答し、磯風が通に付いて行きその答えを知りたいと答えたところ、通は一瞬姿を消した後、工廠に置いていた筈の磯風を艤装を手にした状態で再び姿を現し、それを磯風に手渡してくるのであった。如何やら通は、この件はまだ空達には明かしたくないらしく、磯風が工廠まで艤装を取りに行けば、物音で工廠に自宅を併設している空にこの事がバレる可能性がある事を考慮し、磯風の代わりに艤装を回収して来てくれた様である
さて、そうして艤装を装着した磯風は、通と共に誰にもバレない様、静かに海に出たのだが……
「それで、これから何をするんだ?」
「先ずは深海棲艦を探します、本当は転生個体の方がいいのですけど……、そう都合よく転生個体が見つかる事は無いですからね……」
「転生個体と戦闘する気か……っ!?まあ実戦は訓練より効果的とは言うが……、大丈夫なのか……?」
「問題ありません、少なくとも、生半可な転生個体では、今の私に勝つ事は出来ませんからね」
磯風が通に何をするつもりなのかを聞いたところ、通は平然とこの様に返答し、それを聞いた磯風がやや不安そうにこの様に呟くと、通は薄っすらと笑みを浮かべながら、言葉の端々から自信を醸し出しながらこの様に返答するのであった
そして……
「あれは……、艦娘と……、転生個体……っ!?」
「あいつはまさか……っ!?長門屋海賊団の軽巡棲姫かっ?!」
「間違いないっ!!あいつは長門屋海賊団の軽巡棲姫だっ!!あいつを葬り去る事が出来れば、リコリス様から多大な褒賞を貰えるはずだっ!!!」
通達は強硬派深海棲艦の艦隊に遭遇し、通達の存在に気が付いた強硬派深海棲艦達は、そう叫びながら奮い立ち、通達の方へとその砲口を向けて来るのであった
「おいっ!見たところ30隻以上いるみたいだが、大丈夫なのかっ!?」
「30隻ですか……、もう少し頭数が欲しかったですね……」
「……まだ余裕があると言うつもりか……?」
「はい、少なくとも、この4倍の規模の艦隊が相手であったとしても、刹那ほどの時間もかからず、跡形もなく殲滅出来るでしょう」
相手の艦隊を見た瞬間、驚き慄いた磯風が思わず通に向かってそう言うと、通はあっけらかんとした様子でこの様に返答し、それを聞いた磯風が戦慄しながら再び通にこの様に尋ねると、通はこの様に返答しながら、自身の腰に差した『月影』を手に取り、その鯉口を切るのであった
その直後……
「……何だこの曲は……?」
「気にしないで下さい……、この刀の鯉口を切ると、どうしても流れて来るみたいなんです……」
「如何言う原理だ……?」
突然辺りに音楽が流れ始め、この現象に驚いた磯風がそう呟いたところ、通が苦笑しながらこの様に返答し、それを聞いた磯風は、困惑しながらこの様に呟くのであった
そして通が『月影』を鞘から抜いた瞬間……
「「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいるメンバーのために俺はとんずらを使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦すると「もうついたのか!」「はやい!」「きた!闇きた!」「メイン闇きた!」「これで勝つる!」と大歓迎状態だった!!!」
夜の闇をも飲み込んでしまいそうな程に、漆黒よりも黒く染まり上がった『月影』の刀身が、何故かこの様な事を叫び出すのであった……
通が月影の鯉口を切った瞬間流れて来た曲は、ACE3のOPにして島谷ひとみさんが歌う「深紅」となっています