何も無い海上で何処からともなく音楽が鳴り響く中、唐突に通の『月影』が叫び声を上げた事で、その所有者である通を除く誰もが、今起こっている出来事を正しく理解する事が出来ず、言葉を失ってしまうのであった……
いや……、通のすぐ傍に立つ磯風だけが、それとは全く違う理由で絶句していた
言葉を失う者達の中では、磯風だけが剣術に心得があり、それに伴って刀の使い手の実力だけでなく、刀そのものの性能もある程度は見抜く事が出来、それらは戦治郎と出会った事で更に磨きが掛かっている状態となっているのである
そんな磯風は通の『月影』を見た時、『月影』が秘めたその尋常では無い力を見抜いてしまい、こうして言葉を失ってしまっているのである……
そんな中……
「おいィ?何いきなり黙り込んでるわけ?」
「当然でしょう、刀と言うものは普通は言葉を話さない物なのですから……。それが何の前触れもなく突然喋り出せば、誰だって驚いて言葉を失ってしまいますよ……」
「はぁ~?この程度で驚くとかあもりにも精神が貧弱すぐるでしょう……?」
「貴方の使う言語のインパクトが強過ぎる事も、この様な事態を引き起こしている原因だと思うのですが……?」
相変わらず流れている音楽をBGMに、絶句する深海棲艦達の姿に気付いた『月影』がこの様な事を言うと、やや呆れた様子で首を横に振りながら、通が『月影』に向かってこの様に返答したところ、『月影』はこの程度で驚くとは情けないとばかりに、やれやれと言った様子でこの様な言葉を口にし、それに対して通はガックリと肩を落としながら、この様な返事を返すのであった……
「通さん……、それは一体何なんだ……?」
我に返った磯風が、まだまだ状況が掴めず困惑しつつも、この状況を作り出した『月影』を手にする通に対して、何とか口からこの様な問いを絞り出したところ……
「申し訳ありません、詳細は後ほど……。今は……」
通は磯風の問いに対してこの様に答えながら深海棲艦達の方をじっと見つめ、磯風が通に倣って深海棲艦達の方へと顔を向けてみると、其処には磯風同様状況こそ掴めてはいないのだが、取り敢えず自分達の目的を達成する為に、困惑しつつも自分達の方へと再び砲口を向けて来る深海棲艦達の姿があったのであった
「来るか……っ!?」
それに気付いた磯風が、慌てて戦闘態勢に入ろうとしたその時……
「磯風さんは下がって……、いえ、私の身体の何処でも構いませんので、出来れば精一杯其処にしがみついていて下さい」
不意に通がこの様な事を言いながら、抜刀術でもするかの様に1度『月影』を鞘に納め、腰を深く落として構えを取り始めるのであった
さて、通にこの様に言われた磯風が、通の指示に従い取り敢えず彼の腰の辺りにしがみついたところで……
「ダークネスさん、磯風さんもいる事ですから、出力は最小限でお願いします。それが守れない様ならば……、分かりますよね……?」
「hai!!まだ僕は鯉口と鞘を溶接されたくないんです!!2度と抜けなくなるのが怖いんです!!だから他の人もはやくあやまっテ!!」
「ダークネスさん……?」
「すみまえんでした;;ゆるしてくだしあ;;」
通とダークネスさんと呼ばれた『月影』は、この様なやり取りを交わし、その後通は深海棲艦達をしっかりと見据えながら精神統一を開始し、『月影』はその刀身から尋常では無い恐怖を感じさせる、漆黒のオーラの様な物を放出し始め……
「……参りますっ!」
「hai!!」
精神統一を終えた通がそう言うと、それに『月影』が呼応してそう叫び……
「ふっ!!!」
通が気合と共に鞘から再び『月影』を抜き払った瞬間……
「ハイスラァッ!!!」
『月影』の叫びと共に、先程その漆黒の刀身から溢れ出ていた黒いオーラが、剣閃となって深海棲艦達の方へと真っ直ぐ飛んで行き……
「ダークパワーッ!!!」
漆黒の剣閃が深海棲艦の艦隊の先頭に立つ、ル級に直撃しそうになったところで、突然『月影』がこの様に叫び出す。するとどうだ、剣閃はル級ではなくル級の目の前に存在する『空間』を切り裂き、その空間の裂け目からは恐らく剣閃と同質の物と思われる漆黒のモヤの様な物が溢れ出し、そのモヤの様な物は次々と深海棲艦達を飲み込み始めたのである……
いや、それだけではない……。なんとそのモヤは辺りに広がっていくだけではなく、モヤから離れた位置にいる深海棲艦達や、そのモヤから逃れようと逃げ出す深海棲艦達を、モヤや空間の裂け目の方へと吸い寄せているではないか……っ!?しかもモヤや裂け目が吸い寄せられているのは、何も深海棲艦達だけではない……。彼女達の足元に広がる海面も、天上に広がる満天の星空も、そして裂け目やモヤの近くに存在する空間と言った、ありとあらゆるものがその姿を歪に歪めながら裂け目やモヤに引き寄せられ、飲み込まれているではないか……っ!!?
そんな光景を目の当たりにする磯風は、最早完全に状況を理解する事が出来ず、只々通にしがみついたまま混乱しているのだが、そんな中でもある事に気がついてしまい、思わず愕然としてしまうのであった……
磯風が気付いてしまった事……、それは自身も目の前の深海棲艦達と同様に、モヤや裂け目の影響を受けてそちらへと引き寄せられそうになっている事、そして深海棲艦達の口の動きを見てみれば、モヤと接触した彼女達が何かしら叫び声を上げている事が分かるのだが、その声が全くと言って良いほど聞こえてこない事である……。そして何よりも異常なのが、自分はモヤや裂け目に引き寄せられそうになっているにも拘らず、通だけがその影響を一切受けておらず、髪の毛1本揺らす事も無く只々その場に静かに佇み、目の前で繰り広げられる地獄絵図を見守っているのである……
「な、何だ……?この場所で一体何が起こっていると言うのだ……?あれは……、あの黒いモヤの様な物は一体何なんだ……?」
「そうですね……、あれを説明するには、まず磯風さんがどのくらい神話生物の事を知っているか……、其処を把握しておく必要がありますね……」
この状況を目の当たりにした事で、最早正常に頭を回す事が出来なくなってしまった磯風が、必死になって通にしがみつきながらこの様な言葉を漏らしたところ、通は顎に手を当て少し考え込みながらこの様な事を言い、それに対して磯風が、以前小弁天島で起こった事件の関係で、戦治郎から多少神話生物と言う存在について聞かされている事を話すと、通は磯風の方へ視線を向け、納得した様に1度頷いて見せた後、とても信じ難い言葉を口にするのであった……
「あのモヤそのものが、途轍もなく強大な神話生物なんです。それも磯風さんが言った飛行するポリプとは比較にならない、その場に存在しているだけでも世界に多大な影響を及ぼしてしまう……、あれはそんな恐ろしい存在なんですよ」
「……では、あの裂け目は……?」
「あれはあの場所と彼が存在している世界を繋げる、謂わばワープホールの様なものです」
その言葉を聞いた磯風は驚きのあまりに目を見開き、通から視線を外して改めて深海棲艦達の方へと視線を向け、その光景に戦慄しながらもその一部始終を見届けるのであった
そんな中……
「ダークパワーは忍者や暗黒が持つと真の闇を解放する事が可能となり最強に見えるが、ナイトが持つと闇を暴走させた挙句自身が闇に飲まれ生も死も、時の流れも存在しない世界に永久に閉じ込められて頭がおかしくなって死ぬっ!!!」
通が強大な神話生物と称した存在……、咲作とニャルの実兄にして長兄であり、シュブ=ニグラスの父、そして今、通達の目の前で深海棲艦達を闇に葬り続けてる上位の外なる神であるダークネスは、通の『月影』に宿した自身の分霊を介して、自身の力によって歪み切った星空の下、声高らかにこの様な事を叫んでいたのであった
尚……
「生も死も無いと言っておきながら、最後は死ぬと言っているんだが……?」
「そこを突っ込むのは野暮だと思いますよ?」
磯風と通は、ダークネスの発言を聞くと、この様なやり取りを交わすのであった……