深海棲艦達との戦闘を終えた通達は、取り敢えず当初の目的は果たしたと言う事で、鎮守府(張りぼて)に帰投する事にした訳なのだが、その道中において、磯風は引き続き通にダークネス関連の質問をしていたのであった
先程の話では、ダークネスの戦闘方法と通と協力関係を結んだ理由についてある程度分かったのだが、ダークネス本体に引き寄せられてしまう原理と、その影響を通が一切受けていなかった事に関しては全く触れられていなかった為、磯風からしたらこの辺りに関してはまだ謎が残っている状態となっているのである
そう言う訳で、磯風は先ずダークネス本体に引き寄せられた原因について、自身の隣を航行する通に対して尋ねてみたところ、通は少し悩む様な素振りを見せた後……
「その質問に答える前に、磯風さんは『引力』についてどのくらいご存じなのですか?」
「『引力』……?それなら砲撃時の砲弾の飛距離の計算などに関係して来る事だから、ある程度は理解しているが……」
通は磯風に対してこの様な質問を行い、それに対して磯風はそれがあの現象と何の関係があるのか?とばかりに、やや困惑しながらこの様に返答するのであった。すると……
「それなら話が早いですね、あれはその『引力』なのです」
「……は?」
通は磯風に向かって1度頷いて見せた後、いまいち要領を得ない様な返答をし、それを聞いた磯風はその内容に理解が及ばず、思わず間抜けな声を上げてしまうのであった……
如何やら通の話によると、ダークネスの身体にはダークマターと呼ばれる物質が、それはもう大量に含まれているらしく、それがダークネスの身体が宇宙全体に広がっている事と合わさり、ダークネスの身体は天文学的な数値の質量を持っている事になっているらしいのである
そして惑星の様に大きな質量を持っている物体は、自分より質量の小さい物体を引き寄せる力……引力を発生させる……
そう、つまりダークネスが裂け目から出て来た瞬間発生したあの引き寄せる力の正体は、恐ろしいほどの質量を持ったダークネスの身体から発生した引力だったのである
「あの現象と一番近い現象と言えば、まあブラックホールなのですが……、ダークネスさんの前で迂闊にブラックホールなどと言おうものならば、『黄金の鉄の塊で出来た闇が皮装備のブラックホールに遅れを取るはずはにぃ!』の文句から始まる、それはそれは長い説教が待っているので、そこだけは注意してくださいね」
「そ、そうか……」
通があの現象を磯風がイメージし易い様、例を挙げて説明しようとするのだが、その内容にダークネスの前では禁句となる単語が含まれていた為、通は取り敢えず例を挙げるだけ挙げた後、磯風に向かってこの様な注意を促し、それを聞いた磯風は、その表情を引き攣らせながら、力なく返事を返すのであった……
因みにこの時、通はダークネスからブラックホールに関しては、ダオロスと言う外なる神の方が扱いが上手いと言う事を、ダークネスと出会った際に受けた説教を通じて聞いていた事を、磯風に明かしていたりする
「それはそうとして、私がダークネスさんの引力の影響を受けていなかったのは、単純に私がダークネスさんと協力関係にある事から、ダークネスさんからの加護を受け、ある程度力を制御する権利を認可してもらっていたからですね。とは言っても、今の私ではあれ以上の出力は流石に制御する事が出来ず、あれ以上の出力を無理して出してしまえば、最悪の場合は加護の有無に関わらず、私もあの引力の影響を受ける事になってしまいます……」
「出発前、通さんが鍛錬の様なものと言っていたのは、この暴れ馬過ぎるダークネスの力を、今以上に制御出来る力をつけようとしている事だったのか……」
「そう言う事です」
こうして、通がダークネスの引力の影響を受けなかった理由が分かった後も、磯風は通に対してダークネスが使う言語などに関する質問を投げかけながら、通と共に照明が消え、真っ暗になった鎮守府(張りぼて)に帰投するのであった
背後から何者かに見られている事に、一切気付く事も無く……
「むぅ……」
通がダークネスの力を行使した海域の上空、艦娘達の艦載機では到底辿り着く事が出来そうに無い様な高度にて、ソレは通達が向かった方角を向いたまま、まるで吐息の様な声を漏らすのであった
そしてそれは、少し考える様な素振りを見せた後……
「はぁ……」
今度は溜息の様な声を上げながら、自身の背後にある空間の歪みの中へ入っていこうとするのだが……
「あら?ダオロスじゃない、貴方も此処に来たの?」
不意に何者かに声を掛けられ、ダオロスと呼ばれたソレは、空間の歪みに入ろうとするのを中断し、怪訝そうな顔をしながら声の主の方へと向き直るのであった
そんなダオロスの視線の先には、背中から蝙蝠の翼を生やした褐色肌の見目麗しい女性……、以前戦治郎が大和とカラオケに行った際、ガラの悪い連中に絡まれていたあの女性……、ダークネス、ネームレス・ミスト、咲作、そしてニャルの従姉妹にあたる外なる神であるマイノグーラの姿があったのである
「んむ……?」
「『如何して私が此処にいるのか?』ですって?そんなの貴方と一緒で、此処からダークネスの気配を感じたからよ」
マイノグーラの姿を目にしたダオロスが、不思議そうな表情をしながら小首を傾げ、呟く様にこの様な事を口にすると、マイノグーラはやや呆れながらダオロスの言葉の一部をオウム返しした後、自身がこの場所に来た理由について述べるのであった
そう、ダオロスもマイノグーラ同様、この地球にいるはずの無いダークネスの気配を感知し、この場所で一体何が起こっているのかを確認する為に、時空を超えてこの場所にやって来ていたのである
因みにこのダオロスの言葉、たった2文字しかないものの、その文字の1つ1つには彼の力によって『増幅』された言葉の意味が驚くほど含まれており、これを翻訳して文章化しようものならば、ものにもよるが、その文字数は漢字仮名交じりの場合、最大250万文字を超えてしまうのだとか……
それはそうとして……
「で、見た感じダークネスはこの辺りにはいない様だけど……、ダオロス、貴方ダークネスが何処に行ったかしらないかしら?」
「む……」
マイノグーラは自分がこの場所に来た理由をダオロスに明かした後、辺りをキョロキョロと見回し、自分の到着が間に合っていなかった事を把握すると、ダオロスに向かってこの様に尋ね、それを聞いたダオロスは、自身の記憶から通がダークネスの力を行使している光景を抽出し、その映像をマイノグーラの脳に直接送り込み、彼女にその時の光景を見せるのであった
「これは……、私が知らない転生個体がダークネスの分霊の力を使って、ダークネスを地球上に呼び出している光景かしら……?なるほど、あいつの気配がしていたのは、こう言う事だったのね……。しかし、ダークネスの力を使っているのが、戦治郎でなくて本当に良かったわ……。もしあいつが戦治郎の傍にいたりなんかしたら、私が戦治郎の魂を食べられなくなるところだったわ……」
そうしてダオロスの記憶の映像を見たマイノグーラが、何処か安心した様子でこの様に呟くと……
「むぅ……?」
ダオロスは戦治郎の名前に反応し、再びマイノグーラに怪訝そうな表情を浮かべた顔を向けるのであった
「『如何してお前が戦治郎の事を知ってるのか?』ですって?それはちょっとね……。ってちょっと待ちなさい、如何して貴方が戦治郎の事を知っているのかしら?」
「ぬ……」
ダオロスが戦治郎の事を知っていた事に驚いたマイノグーラが、訝しみながらダオロスに向かってそう尋ねると、ダオロスはたった一言そう呟くと、今度は戦治郎が咲作らと共に、琵琶湖の湖底でグラグラを拘束している時の映像を、彼女の脳に送信するのであった
そして……
「ふん……」
「……貴方が戦治郎の事を知った経緯は把握したわ……、けど……、『こいつは面白そうだから、家に連れて帰って玩具にしたい』ですって……?ふ・ざ・け・な・い・でっ!!戦治郎は私が先に目を付けたのっ!!幾ら貴方がダークネス達に並ぶほどの実力がある外なる神であったとしてもっ!!私は戦治郎の事だけは絶っ対に誰にも譲るつもりは無いわっ!!!戦治郎の魂はっ!!!この私っ!!!マイノグーラが食べるのっ!!!だから戦治郎の魂を貴方の『遊び』で壊させない為にもっ!!!貴方の暇つぶしの為の玩具は戦治郎以外から選びなさいっ!!!いいわねっ!!!!!」
「むぅ……」
ダオロスが戦治郎を自分の玩具にしようとしている事を知るや否や、マイノグーラは自身より格上の存在であるはずのダオロスに対して、それはそれは凄まじい剣幕でこの様に捲し立て、戦治郎の所有権をこれでもかと主張し、それに思わず圧倒されてしまったダオロスは、そう呟きながら渋々戦治郎の事を諦める事にするのであった……
尚、この様な理由で戦治郎の事を諦めたダオロスは、後に戦治郎よりも数段面白そうな存在を偶然発見する事となり、ダオロスはそんな彼とその仲間達と協力関係を築く事となるのだが、それはまだ先の話となっている……