戦治郎がお土産購入の為に、大和と共に街に繰り出している頃、アメリカはハワイ州のホノルルにて、とある者達が秘密裏に進めていた計画が、最終段階に移行しようとしていたのであった……
ハワイ時間の15時頃、ホノルルの兵器開発研究所に所属する妖精さん達は、深海棲艦が出現する前は多くの観光客で賑わっていたのだが、深海棲艦の出現によって観光客が激減し、現地の住民達の多くも深海棲艦に襲われる可能性を危惧し、理由無く近寄ろうとはしなくなってしまった事で、殆ど人影が見えなくなってしまったチャイナ・ウォルスの海岸にて、ある者がやって来る事を静かに待っていた……
そんな妖精さん達の背後には、かなり頑丈な木材で作られた、駆逐艦の艤装が1つスッポリと入る程の大きさの木箱が鎮座しており、その木箱からは何やら異様なオーラの様な物が放たれていたのであった……
それからしばらく経ったその時、突然海面が人1人分くらいの大きさに盛り上がり、盛り上がった海水が重力に引かれて海面に戻りきったところで、中から1人の少女が姿を現すのであった
「皆、お待たせっ!」
少女が妖精さん達に微笑みかけながらそう言うと、妖精さん達は待ってましたとばかりに、皆揃って両手を上げて彼女を歓迎し始める
「その木箱の中身が、頼んでおいた私専用の艤装なのかな?」
そんな妖精さん達に向かって、片手を振りながら応じていた少女が、木箱の存在に気付き、足早になりながら木箱の方へと歩み寄ると、妖精さん達は少々眉を吊り上げながら彼女を制止する……
「あぁ、ごめんごめん。そう言えばまだ、お願いされていた報酬を渡してなかったね……」
彼女は妖精さん達の様子を見るなり、申し訳無さそうに謝罪の言葉を口にした後……
「ダゴンッ!!例のアレ、此処に持って来てっ!!!」
海の方へと向かって、この様に叫ぶのであった。するとどうだ、今度は先程以上の大きさで海面が盛り上がり、その中から握り拳2つ分くらいの大きさの、とても普通とは思えないサイズの小さな鯨と、その鯨に引っ張られて来たのであろう、金属製の大きなコンテナが2つほど姿を現すのであった……
「お嬢……、やっぱこれは不味いんじゃないですかい……?この事が殿にバレたりしたら、俺もお嬢も殿から大目玉喰らうんじゃ……」
「ダゴンは心配性だなぁ……、いつもはもっと堂々としてるのに……。まあお父様の方ならきっと何とかなるって、お父様の分もしっかり準備しておいたから、多分きっとそれで誤魔化せるはずっ!」
コンテナを見るなり、先程以上に歓喜する妖精さん達を余所に、ダゴンと呼ばれたミニ鯨は、この様な事を少女に向かっておずおずと尋ね、それを聞いた少女は根拠の無い自信に満ち溢れた表情を浮かべながら、この様な返事を返すのであった
さて、ダゴンと少女がこの様なやり取りをしているうちに、妖精さん達はダゴンが持って来たコンテナへと群がり、彼女達の了承を取るより先にコンテナの封を切る
それにより、コンテナの中に大量に並べられたアイスが入った大きな容器がその姿を現し、妖精さん達はアイスの数をしっかり数え、それが予定通りの数がある事を確認すると、次々とコンテナの中からアイスを運び出していくのであった
その後、少女は妖精さん達から了承を取り、妖精さん達が持って来ていた木箱を開封し、その中に駆逐艦用の艤装が入っている事を確認すると、思わず頬を綻ばせるのであった
……ここまで読んで、恐らく多くの方々がこの少女の正体に気付いていると思うが……、そう、この少女はクトゥルフの実の娘にしてゾアの妹であるクティーラなのである
クティーラは横須賀の乱や大会議の際、多くの艦娘と触れ合った事や過去に世話になった事のある間宮と再会した事で、艦娘と言う存在に興味を持つ様になり、遂には自分も艦娘になりたいと思う様になってしまったのである
そんな事を常日頃から考えていた彼女は、ハワイ近海を警護するディープ・ワン達から、横須賀鎮守府で開催された大会議の後、日本から提供された艤装に関する情報を基に、ホノルルの兵器開発研究所が艤装の開発を開始し、最近になってようやくプロトタイプの艤装を完成させた事を聞くと、ある事を思いついたのである
そう、クティーラはアメリカ製艤装の製作に関わった妖精さん達にお願いし、自分専用の艤装を作ってもらう事にしたのである
それからの彼女の行動は早かった……
先ず最初に彼女が行ったのは、自身の艦娘化計画を父であるクトゥルフに報告され、計画を中止させられない様にする為の、自分のお世話係となっているハイドラとダゴンの説得であった。クティーラはお世話係の2柱を自室に呼び出し、2柱に対して嘘偽りなく自身の胸中を語り、クトゥルフに対して忠義を尽くすダゴンは、最初はクティーラの身に何かあっては事だとして、彼女の艦娘化に反対していたのだが……
「お嬢ももういい歳なんだ、若の様に自分がやりたいと思った事に挑戦してみるのも、アタイは悪くないと思うよ?それでも心配だってんなら、あんたがお嬢の傍について守ってやりゃぁいいだろう?」
クティーラの思いを真摯に受け止めたハイドラの、この言葉によってダゴンは何も言えなくなってしまい、最終的にはハイドラ共々クティーラのお願いを聞く事にするのであった
因みにダゴンがミニ鯨の姿になっている理由は、自分が本来の姿でクティーラの護衛に付けば、海上で出会った艦娘達に巨大な化物を連れた艦娘がいると変な噂を流され、自身だけでなくクティーラまでもが警戒の対象になってしまう可能性を恐れた為である
又、一応ダゴンも人間の姿に化ける事が出来るのだが、生憎ダゴンの人間態は男性の姿をしており、艤装も付けずに海上に筋骨隆々のおっさんが立っていれば、それもそれで異様な光景となってしまい、本来の姿で護衛した場合と同じ結末を辿る可能性が極めて高かった為、ハイドラと話し合った結果、ダゴンはミニ鯨の姿に化ける事にしたのである
こうしてダゴンとハイドラの説得に成功したクティーラは、次の手を打つ為に兵器開発研究所に海底で採れた資源を運搬する為に、頻繁に兵器開発研究所に出入りしているディープ・ワン達から、兵器開発研究所の妖精さん達が好むオヤツを聞き出し、彼らがアメリカの妖精さんらしく、アイスクリームを好んでいる事を知るや否や、妖精さん達を懐柔する為に、翔によるクトゥルフ説得事件以降、宮殿に新たに作られた大きな厨房に籠り、大量のアイスクリームを作ったのであった
そうしてアイスの準備を終えたクティーラは、今度はある物を入手すべく、城下町にある書店へと足を運び、目当ての物を見つけるとすぐさま購入に踏み切る。そんな彼女が購入したのは、出版版『
如何して彼女はこの妙法蟲聲經を購入したのかと言えば、彼女は自身の艤装がオリジナルコアの呪縛に囚われない様にする為に、自身が使う艤装のコア部分にこの雑誌を使おうと考えているからである
先程も言ったがこの雑誌は出版版アジア圏用ネクロノミコン……、今のアメリカ海軍が保有する駆逐艦ホーンド・サーペントや、現在空達が長門屋鎮守府の設備を整える傍らで作っている大黒丸の演算ユニット&動力源となっている出版版ネクロノミコンと同質の物である為、艤装のコアとしても十分使える代物となっているのである
尚、過去に今後新しく作られる艤装には、出版版ネクロノミコンを使えばいいのでは?と言う意見が出た事があるのだが……
「いや~、流石に艤装が作られるペースが思った以上に早過ぎて、こっちの印刷製本のペースが全然追い付けないから無理ですね~……。そもそも、普通の人間じゃ出版版魔道書から漏れ出す魔力に耐えられず、艤装を装着した人はその影響で皆もれなく発狂しちゃうんじゃないです?」
クトゥルフ経由でカソグサの方からこの様な返事をもらった為、艤装のコア変更計画は頓挫してしまった模様……
さて、こうして準備を整えたクティーラは、ディープ・ワン達にお願いして秘密裏で妖精さん達と交渉する場を設けてもらい、クトゥルフも絶賛する間宮直伝クティーラ特製アイスをチラつかせながら妖精さん達と交渉し、見事アイスに一本釣りされた妖精さん達相手に交渉を成立させると、出版版妙法蟲聲經を妖精さん達に手渡し、艤装が完成するまでの間、積極的に横須賀鎮守府に通い、そこで艦娘に関する知識を身に付けていたのであった
そして今日、ディープ・ワンからクティーラ専用艤装が完成したと言う報告を受けたクティーラは、待ちに待った自分専用艤装を受け取る為に、報酬の特製アイスを持参して待ち合わせの場所に姿を現したのである
こうして妖精さんから艤装を受け取ったクティーラは、自身の魔力を用いて艦娘適性を誤魔化して艤装を装着し、艤装の機関や兵装をテスト的に動かし、艤装が問題無く動いた事を確認すると……
「やった……、動かせた……っ!これで私も艦娘になれたんだっ!!!」
満面の笑みを浮かべながらこの様に叫び、思わずはしゃぎ回るのであった
それからしばらくして……
「あっ!そう言えばこの艤装が、何て言う艦艇がモチーフになった艤装か聞いてなかったやっ!」
ふと思い出した様に、クティーラはこの様な事を口にし、妖精さん達にこの艤装のモチーフについて尋ね……
「
モチーフとなった艦艇の名前が分かると、彼女は妖精さん達にお礼を言った後、ダゴンの方へと向き直り……
「ダゴンッ!!今日から艤装を装着している時の私の事は、クティーラじゃなくサミュエル・B・ロバーツ、もし長いと思ったらサムって呼んでねっ!!」
「は、はぁ……、でもサムって言うと何か野郎みたいですから、サミュって呼ばせてもらいやすね……」
ダゴンに向かってこの様に言い放ち、それを聞いたダゴンは苦笑しながらこの様に返事をするのであった……
こうしてこの世界に初めて、艦娘として活動する神話生物……、神話艦娘が誕生したのであった……