海上で偶々発見した、強硬派深海棲艦の連合艦隊に襲われる鹿屋基地に所属する鬼怒達を助ける為に、サミュはこの連合艦隊に戦いを挑む
そんな彼女の姿を見た鬼怒達は、流石に独りであの連合艦隊に挑むのは無謀だとして、慌てて彼女を引き留めようとしたのだが、その言葉は戦う決意を固めたサミュに届く事は無かった……
「鬼怒さんっ!あのままではあの娘がっ!!」
連合艦隊目掛けて突撃するサミュの背中に視線を向けながら、白露や村雨同様、この遠征に参加している白露型駆逐艦の7番艦の海風が、鬼怒に向かってこの様に叫び
「分かってるっ!今救難信号出して、基地に残ってる古鷹さん達に連絡入れたよっ!!本当なら鬼怒達が何かしてあげるべきなんだろうけど……」
「この損傷だと、とても戦闘には耐えられ無さそうですからね……」
「古鷹さん達が到着まで、あの娘が無事である事を願ってるしかないなんて、ホント情けないな~……」
海風に対して鬼怒がこの様に叫び返し、そのやり取りを聞いていた村雨と白露は、その表情に悔しさを滲ませながら、呟く様にしてこの様な言葉を口にするのであった
村雨が言った様に、今の彼女達の艤装は強硬派深海棲艦の連合艦隊の猛攻によって、大破スレスレ、海上に浮かんでいるのがやっとと言う状態となっているのである。故に白露の言葉の様に、彼女達は自分達を助けてくれようとしているサミュの為に、何もしてあげられない事が、心底悔しくて悔しくて仕方が無かったのであった
そんな鬼怒達を余所に……
「日本の瀬戸内海と言う海域の何処かに潜伏していると言う、戦艦棲姫様の所へ向かおうとしていたところで、弱そうな艦娘と遭遇したものだから、戦艦棲姫様の手土産としてこいつらの首を持って行こうと思ったのだが……」
「何か変な艦娘が乱入して来たな……」
「まあ、もののついでにこいつも討ち取って、その首を戦艦棲姫様に献上しようではないか!こいつ1匹増えたところで、この連合艦隊を如何にか出来るとは思えんからなっ!」
強硬派深海棲艦の連合艦隊の主力であるフラルの3隻は、自分達に向かって突っ込んで来るサミュを見て、この様な会話をしていたのであった
彼女達はサミュの事を只の艦娘だと思い、完全に侮っていたのであった。彼女の正体と実力など、欠片ほども知らなかったが故に……、先程鬼怒達を自分達の砲弾から守った、堅牢で分厚い氷の壁を生み出したのが、この小さな艦娘である事に気付く事が出来なかったが故に……
「さぁ、戦闘開始っ!」
そんな彼女達は、サミュがそう叫びながら手にした主砲を構えた事に気付くと、彼女の事を馬鹿にした様に、ニヤニヤしながら彼女の砲撃を防ぐ為に、両手に持った艤装をくっ付ける様にして盾にする様な構えを取る
「Fire!」
そしてサミュの叫びと共に艤装に何度か衝撃が走り、彼女の攻撃は自分達の装甲を抜けないと確信し、砲撃音と艤装に伝わる衝撃が無くなったところで、反撃を開始しようとするのだが……
「な……っ!?」
「艤装が……、離れない……っ?!」
「一体何が……っ?!?」
此処で自分達の艤装が、まるで溶接でもされたかの様にピッタリとくっつき、離れなくなってしまっている事に気が付く。こうなってしまうと、自分の艤装によって視界が遮られてしまい、まともに狙いを定めて砲撃する事が出来なくなってしまうのである……
そしてフラルの1隻が別のフラルの艤装を見て、思わず驚愕してしまうのであった。何とそのフラルの艤装の前面に、有り得ないくらいの厚みを持った氷が、ガッチリとくっついていたのである。そう、彼女達の艤装が離れなくなってしまったのは、この氷が原因だったのである
さてこの氷だが、これはサミュが放つ砲弾に込められた魔力によって作られたものであり、サミュはこれまでの経験から、ル級はその手に持った艤装の装甲の厚さを利用して、艤装を盾にして攻撃を防いで来る事を知っていた為、ル級と対峙した際はこの方法でル級の艤装を無力化していたのである
「氷……、だと……っ!?」
その事に気付いたフラルが、混乱しながらこの様な言葉を口にしたその時である
「これじゃあ、自慢の砲撃も防御も出来そうにないね!」
いつの間にか自分達との距離を詰めていたサミュが、跳躍してフラルの凍った艤装の上に飛び乗り、手にした砲の砲口をフラルの顔に向けながら、この様な言葉を放つのであった。これにより、このフラルは自分達の艤装を凍らせた犯人がこの艦娘である事を察し、思わず愕然とするのだが……
「Fire!」
その次の瞬間、サミュは再びこの様に叫びながら主砲の引き金を引き、彼女のターゲットとなったフラルの顔面には、ツララの様に鋭く尖った氷に包まれた砲弾が叩き込まれ、それがフラルの顔面に生々しい音を立てながら突き刺さると、しばらくの間氷を伝ってフラルの脳漿が海上に滴り落ち、時が来ると砲弾の信管が動き出したのか、砲弾が爆発しフラルの頭部を木っ端微塵に吹き飛ばしてしまうのであった
これには他のフラル達も唖然としてしまうのだが、すぐに我に返ってサミュの方へと凍ったままの艤装を向け、攻撃を仕掛けようとするのだが……
「ぐわあああぁぁぁーーーっ!!!」
「ぎゃあああぁぁぁーーーっ!!!」
主砲の引き金を引いたその直後、突然彼女達の艤装が大爆発を起こし、彼女達の両腕は艤装諸共、見事に吹っ飛んでしまうのであった……
「戦艦の砲撃だったとしても、私の氷はそう簡単に壊せないんだからっ!」
その様子を見たサミュは、不敵な笑みを浮かべながら、声高らかにこの様な事を口にする。如何やらサミュはフラル達の艤装を凍らせた際、その強固な氷で彼女達の艤装の砲口を塞いでいた様で、それが原因で彼女達の艤装は暴発してしまったのである
そうして攻撃手段も防御手段も失った2隻のフラルに対して、サミュは艤装に取り付けられた魚雷をお見舞いし、2隻仲良く沈めてしまうのであった
さて、こうしてサミュが瞬く間の内に、この連合艦隊の主力であったフラル3隻を沈めてみせ、その様子を見ていた鬼怒達が驚愕していると……
「「「き、貴様あああぁぁぁーーーっ!!!」」」
不意に3つの叫び声が聞こえ、一同が声がした方角に視線を向けると、そこには今まで碌に相手にされていなかった3隻のエリルの姿があり、サミュの攻撃を受けていない彼女達は、凍り付いていない艤装の砲口を全てサミュの方へと向け、主砲の一斉掃射による攻撃を仕掛けようとするのだが……
「お嬢に何するつもりだあああぁぁぁーーーっ!!!」
この叫びと共に、ようやくサミュに追いつく事が出来たダゴンが、エリルの1隻に飛び掛かったのであった。ダゴンの叫び声によってダゴンの存在に気が付いたエリルが、フラル達同様艤装を盾にしてダゴンの体当たりを防ごうとするのだが……
「おらぁっ!!!」
ダゴンの体当たりはエリルの艤装を障子紙を破る様に易々と突き破り、そのまま彼女の胸のド真ん中にぶつかると、皮膚を裂き、筋肉を破り、肋骨を砕き、心臓と肺を抉り、背骨を割り、そのまま彼女の背中から飛び出すのであった
これには鬼怒達もエリル達も大いに驚く。何せ如何にも軽そうな手のひらサイズのちっちゃな鯨が、戦艦タイプの深海棲艦の分厚い装甲を、体当たりで突き破って倒してしまったのである。普通に考えれば、このミニ鯨はエリルの艤装にぶつかると、体重差で打ち負け、ポインポインと弾き返されてしまうだろうと思われたのだから
尤も、このミニ鯨が見た目の通りのものならば、そうなっていてもおかしくは無いだろう。だがこのミニ鯨の正体は、クトゥルフの眷属である従属神ダゴンなのである。その身体は主であるクトゥルフに迫る程の大きさ、身長30mくらいとかなり大きく、自分の主やその娘を守る為、日頃から肉体を鍛えている事から、その腕や脚は丸太の様に太く、胸板は分厚い。それ故に体重もかなり重いのである
それが一体如何したのかと言うと、実はこのミニ鯨、身体はちっこいものの、その重量は本体の重量と一切変わらないのである
つまりどう言う事なのかと言えば、ダゴンの先程の体当たりは、鍛え上げられた筋肉によって生み出された驚くべき速度で、数十tレベルの重量を持つ手のひらサイズの物体が突っ込んで来たと言う事であり、そんなものが局所的にぶつかれば、幾ら人間より頑丈な身体を持っている戦艦タイプの深海棲艦と言えど、徹甲弾でブチ抜かれた様に、身体に風穴が開いてしまうと言う事である
こうなってしまうと、この光景を目にしていた誰もが混乱し始める。普通に考えれば起こり得ない様な出来事が、次から次へと息つく間もなく襲い掛かり、その正気をガリガリと削り始める……
そしてその非現実は、まだまだ猛威を振るう……
「隙ありっ!!!」
その叫びが聞こえたと同時に、残った2隻のエリルの内の1隻の頭部に衝撃が走る。そう、ダゴンの攻撃を目の当たりにして愕然とし、無防備となってしまったエリルの頭部に、サミュが飛び回し蹴りを叩き込んだのである
しかも只の飛び蹴りではない、蹴り脚に魔力を込めて蹴り脚に氷を纏わせる事で、蹴りに重量と硬さを加えてあるのである
それによりエリルの頭部は瞬時に凍り付くと同時に砲弾の如く吹き飛び、残ったエリルの腹部に激突、仲間の頭部を腹で受けたエリルの背中からは、仲間の凍った頭部と共に胃や各種腸、肝臓や腎臓、更には背骨や凍った血液などが勢いよく飛び出し、2隻は同時に海の底へと沈んでいき、完全に姿を消してしまうのであった……
さて、その様子を見た強硬派深海棲艦の連合艦隊の第2艦隊の深海棲艦達は、恐怖のあまり動けなくなっていたり、失神して海上に横たわっていたり、サミュ達に背を向けて逃げ出そうとしていたのだが……
「お嬢、あいつらはどうしやす?」
「う~ん、残していたら余所で艦娘達を攻撃しそうだし、私の事を強硬派の中に広められたりしたら後々厄介な事になるだろうし、此処で皆沈めておこっかっ!!」
ダゴンの問いに対してサミュはこの様に答えると、残った深海棲艦達をあっという間に氷漬けにし、自身の格闘術とダゴンの体当たりで次々と破砕して、その全てを海の藻屑にしてしまうのであった。その光景を目にして、ドン引きする鬼怒達の存在など、一切気にも留めずに……