「皆大丈夫……ではなさそうだね……、艤装とかすっごいボロボロになってるし……」
強硬派深海棲艦の連合艦隊の第二艦隊の処理を終えたサミュは、その様子を呆然と見守っていた鬼怒達の下へ近寄り、彼女達の安否の確認の為に声を掛けるのだが、改めて彼女達の姿を目にすると、最初に発しようとした言葉は尻すぼみになっていき、その表情を徐々に彼女達の事を心配する様なものへと変化させながら、この様に言葉を続けるのであった
「え?あ、あぁ……、見た目は酷い事になってはいるけど、一応ゆっくりでなら航行可能な状態だから、大丈夫と言えば大丈夫かな~?って……」
「でも、兵装は皆駄目になっちゃってるから、帰還中にまた深海棲艦に遭遇したりなんかしちゃったら、ノーマルのイ級相手でも危ないかもしれないんだよね……」
「だから出来れば今こっちに向かって来てるかもしれない古鷹さん達と合流するまで、何処かに身を潜めておきたいところなのよね……」
それに対して鬼怒は、サミュに声を掛けられた事に一瞬驚いた後、返事をする為にサミュの方へと視線を向けるのだが、その直後に強硬派深海棲艦の連合艦隊相手にたった一人で立ち向かい、無双するサミュの姿を思い出してしまい、それから来る恐怖で表情を引き攣らせながらサミュに向かってこの様に返答し、それを聞いた白露と村雨が思わずこの様な言葉を口にする
此処で何故彼女達がサミュに頼ろうとしなかったのかと言えば、彼女達からしたらサミュは所属不明の謎の艦娘である為、幾ら助けてくれたからと言って簡単に信用する訳にはいかないし、何よりも何かの拍子で彼女を怒らせ、その凶悪な戦闘力の矛先が自分達に向く事が恐ろしくて仕方が無かったからなのである。その為、鬼怒はなるべくこれ以上サミュと関わり合いにならずに済み、且つ彼女を出来る限り怒らせない様な言葉を、先程の彼女の戦いを目にした事で混乱し切った頭で必死になって考え、その結果この様な返事を返したのである
しかし、この海域で自分達の親戚である山風を失ったと思っており、更には自分達の提督が山風をロストした際のショックの受け方を知る白露と村雨は、自分達までこの海域でいなくなってしまう様な事があれば、提督が後追い自殺に走ってしまうのではないかと考え、出来るならそれを避ける為にこの状況を切り抜け、提督がいる基地に帰還したいと思った為、サミュは信用出来ないし恐ろしいけど、出来ればその力を上手く利用して基地に帰還すべきだと考えた2人は、鬼怒の返事を耳にするなり反射的にこの様な言葉を口にしたのである
そんな彼女達の心境を知ってか知らずか、サミュは彼女達の言葉を聞くなりちょっとだけ唸りながら腕を組み、眉間に皺を寄せて考え込み……
「流石に日本に直接送り届けたりしたら、翔さんやゾアお兄様に見つかっちゃうだろうから……、そうなるとここから一番近い拠点はっと……、よしっ!だったら私に良い考えがあるよっ!」
最初こそ唸り声交じりにブツブツと呟き、ある程度考えが纏まったところで、鬼怒達に向かって笑顔でこの様な事を言い、鬼怒達が怪訝そうな表情を浮かべると、それを自分の話に興味があるサインだと判断し、自分の考えを彼女達に伝え始めるのだった
それからしばらくして……
「うわぁ……、何これ……、すっご……」
「これが海軍内で噂になっていた……」
「海戦ちゃんぽん要塞……?」
「名前の割に、しっかりとした要塞なんですね……」
サミュの考えとやらに半信半疑ではあるものの、取り敢えず従う事にした鬼怒達は、サミュの案内で辿り着いた島にあったものを目の当たりにすると、呆然としながら思わず各々に感想を口にするのであった
そう、サミュが彼女達に提案したのは、ゼッペーの手によって滅ぼされてしまったラバウル基地の代わりの拠点として機能している、穏健派連合によって管理運営されている海戦ちゃんぽん要塞に保護してもらい、そこで艤装の修理と怪我の治療を行いながら、古鷹達の到着を待とうと言うものであった
サミュはクトゥルフと共に横須賀鎮守府に訪れていた時に、よく遠征任務に就く吹雪達から海戦ちゃんぽん要塞や護目炒飯基地の事を聞いて知っており、彼女達の都合と自分の都合を照らし合わせた結果、鬼怒達と出会った地点から近かったからと言う理由で、彼女達をこの海戦ちゃんぽん要塞に連れて行く事にしたのである
因みに鬼怒達は海戦ちゃんぽん要塞の噂こそ耳にしてはいたのだが、その当時はまだ提督の実力不足が原因で南方海域への遠征の許可が大本営から下りておらず、ようやく許可が下りていざ挑戦したところで山風ロストと言う憂いなき目に遭ってしまい、その結果任務娘の判断により、しばらくの間南方海域への遠征が禁止されてしまい、結局今日この日までその噂の真偽を確かめられなかったのだとか……
又、鬼怒達の南方海域への遠征が解禁された理由についてだが、これは単純にそろそろ鹿屋基地の貯蔵資源が枯渇しそうになっており、基地近海の遠征任務と大本営からの支給資源だけでは供給が追い付かなくなってしまっているからと言う、割と世知辛い事情があったりする……
こうして鬼怒達が海戦ちゃんぽん要塞の入口で、要塞が放つ重々しい威圧感に圧倒されていると……
「海戦ちゃんぽん要塞へようこそ、君達が保護を希望する艦娘達だね?」
要塞の中から黒いエプロンを着用した戦艦仏棲姫が姿を現し、戦艦仏棲姫の登場に驚く鬼怒達に向かって、柔らかい笑顔を浮かべながらこの様に尋ねて来るのであった
「は、はい……、一応そうなんですけど……」
「あぁ、そう警戒しなくていいよ。多分道中で聞いてるとは思うけど、僕は姿こそ深海棲艦だけど、中身は璃栖瑠 俊彦と言う成人男性のソレだからね。っとそれはそうとして、今から艤装の修理の為に工廠に向かうから、艦娘の皆は僕の後に付いて来てね」
璃栖瑠の問いに対して、鬼怒が戸惑いながら返事をしたところ、璃栖瑠は鬼怒達に向かってウインクをしながら、自己紹介を交えつつこの様な言葉を口にし、踵を返して要塞の中へと入って行くのであった
さて、何故璃栖瑠が鬼怒達の事を知っていたのかと言うと、サミュ達が海戦ちゃんぽん要塞に向かっている最中、鬼怒達が古鷹に通信機で連絡を入れている中、サミュも戦治郎達から貰っていた通信機を使用し、大会議の際に会った事のある伊吹に連絡を入れており、サミュから連絡を受けた伊吹の頼みで、璃栖瑠が彼女達を迎え入れる事になったからである
こうして無事に海戦ちゃんぽん要塞に辿り着いた鬼怒達は、自分達を此処まで連れて来てくれたサミュに対して、疑念を抱いていた事を謝罪した上でお礼を言おうと思い、島に上陸した後は殿を務めるべく、自分達の後方に控えていたサミュの方へ向き直るのだが……
「あれ……?いない……?」
「サミュちゃんは何処に行ったの……?」
そこにはサミュの姿は無く、この事実に気付いた海風と村雨は、思わずこの様な事を口にしながら、サミュを探すべく辺りをキョロキョロと見回し始めるのであった
そう、サミュが殿を務めていた理由は、海戦ちゃんぽん要塞の関係者達に自分の姿を見られない様にする為に、要塞に向かう途中で鬼怒達に悟られない様に注意しながら抜け出す為であったのである
その後、結局サミュを見つけられなかった鬼怒達は、璃栖瑠の後を追って海戦ちゃんぽん要塞の工廠に向かい……
「こんの馬鹿タレがあああぁぁぁーーーっ!!!」
「あ"い"だあ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ーーーっ!!!」
「おごぉっ!!!」
工廠の扉越しに聞こえた何者かの叫び声と、それに続く様にして聞こえて来た凄まじく重々しい2発の打撃音、そして先程とは違う誰かの悲鳴に驚き、思わず身体をビクリと震わせるのであった……
「やれやれ……、英吉郎さんは相変わらずだね……」
それを聞いた璃栖瑠は、またかとばかりに呆れた様子で左右に小さく首を振りながら、溜息交じりにこの様に呟くと工廠の扉を開き……
「英吉郎さん、あまり伊吹達をポコポコ殴らないであげて下さい。伊吹達からよく相談されるんですよ?英吉郎さんの手の早さは如何にかならんのか~?って」
「おぉ璃栖瑠か、ってこいつら、そんな事お前さんに話しとるんかい……」
工廠の中に入ると、頭を押さえて床を転げまわる重巡夏姫の転生個体である熊野 伊吹と、気絶しているのか床に倒れ込んでピクリとも動かない空母棲姫の転生個体である
そんな光景を目にして鬼怒達が絶句していると、欧州水姫が鬼怒達の存在に気付き
「お前さん達が保護されたとか言う艦娘か、話は聞いとる、ほれ、さっさとこっちに艤装を持ってこんかい」
欧州水姫は鬼怒達に向かって、ジャイアントモンキーレンチを持っていない方の手で手招きしながら、工廠内に入って来る様促すのであった
その後、欧州水姫の言葉に従って、鬼怒達は工廠の中に足を踏み入れ、装着していた艤装を外し、恐る恐ると言った様子で欧州水姫に艤装を預けたところ……
「なぁに心配いらんわい、お前さん達の艤装はこの
英吉郎と名乗る欧州水姫は、不敵な笑みを浮かべながらこの様に宣言するのであった
こうして英吉郎に艤装を預けた鬼怒達は、璃栖瑠の誘いで食堂に向かい、そこでかつて翔が考案したチャンポンを口にする事となり、その間に英吉郎は伊吹を圧倒的に凌駕する技術力を用いて、鬼怒達が食事を終えるよりも先に、鬼怒達の艤装の修理を完了してみせるのであった
因みにこの英吉郎……、実のところ生前は修理屋を営んでおり、一時期は大学生であった戦治郎と空をアルバイトとして雇い、2人に技術者としてのイロハを叩き込んだ、謂わば2人の技術者としての師匠と言える人物だったりする……
又、戦治郎をアルバイトとして雇っていた事から、態々修理屋に出向いて戦治郎の事を頼むと挨拶しに来た正蔵とも生前から繋がりがあり、後にこの世界で正蔵と再会した英吉郎は、
轟音老人の由来は、英吉郎が兎に角よく叫ぶから、そしてジャレンチの打撃音が凄まじいからとなっております