「英吉郎さんは、本当に凄い方なのですね……」
「技術者としての腕を磨く為に色んな事をして来たって、この世界の日本人だったらまずやらなそうな事だよね~……」
「確かこの世界の日本人は多くが提督や艦娘になる為に勉強していて、そのせいで艤装関係以外の生産業の就職率が非常に悪くなった挙句、技術者達も艤装関係の企業に再就職する為に離職する関係で、今残ってる企業の多くは人手不足に陥って、大打撃を受けているみたいだね」
英吉郎が艤装の修理をしている間、鬼怒達は璃栖瑠の誘いで海戦ちゃんぽん要塞の食堂で食事を摂る事となり、この要塞の名物となったちゃんぽんを堪能した後、食後のコーヒーを持って来てくれた璃栖瑠を捕まえて英吉郎が一体どの様な人物なのかについて尋ねたのであった
そうして璃栖瑠から英吉郎の事を聞いた海風と鬼怒が、各々に感想を口にしたところ、璃栖瑠は柔らかい笑みを浮かべながらこの様な事を口にするのであった
「璃栖瑠さんは海外にいるのに、今の日本の事も知ってるんですね」
「横須賀の乱の後、横須賀鎮守府で開催された大会議に参加したリチャードから聞いたのさ。これには流石のリチャードも驚いてたみたいでね、ドイツやイギリス、アメリカの総司令官達と一緒に、他の国が日本の様にならない様にする為の対策を考えてたみたいだよ?」
「組織のトップの方を呼び捨てですか……?」
「歳が割と近いからね。こう見えても僕、40代なんだよ?」
「40代っ!?全然そんな感じがしない……」
その後海風と鬼怒は、璃栖瑠とこの様なやり取りを交わしていたのだが……
「2人共、さっきから静かだけどどうしたの?」
先程から白露と村雨が会話に入って来ていない事に気が付いた鬼怒が、不思議そうな顔をしながら2人に向かってこの様な事を尋ねるのであった
「あぁ、ごめんなさい。さっき璃栖瑠さんが言ってた、戦治郎さんと空さんと言う人がちょっと気になって……」
「今年の3月頃、私と村雨は有給消化の為に実家にいた時に、突然ショートランド泊地にいたはずの時雨と夕立が実家に帰って来て、しばらく実家に滞在した後すぐ横須賀鎮守府に行っちゃったんだけど、その時に2人が頻りにその人達の名前を口にしていたからね……」
「そう言えば……、同じくらいの時期に江風も帰って来ていましたね……。江風の方は海賊団がどうとか言っていましたが……」
「あぁ~、その事か~……」
鬼怒に声を掛けられた村雨と白露が、考え込む様な表情をしながらこの様に答えたところ、海風も不意に思い出したかのようにこの様な事を口にし、それを聞いた璃栖瑠が、苦笑しながら戦治郎と空の事と海賊団の事、そして海賊団の主要人物であったその2人が、自分の話の中に出て来た英吉郎の弟子だった2人である事を話したところ、鬼怒達はそれはそれは驚いたのであった
因みに璃栖瑠の話によると、現在何かと忙しい戦治郎達には、英吉郎の事は話していないと言う事であった
そんな話をしている内に、工廠の床を転げていた伊吹や、英吉郎の一撃を受けて気絶していた2Pが復活したのか、食堂にやって来ると鬼怒達に艤装が仕上がった事を伝え、それを聞いた鬼怒達は璃栖瑠達に礼を言った後、工廠へと向かうのであった
そこで鬼怒達は、信じられない物を目にする事となるのであった……
「おう、お前さん達の艤装は、宣言通りバッチリ仕上げておいたぞ」
「いやいやいや……、バッチリ仕上げるって言っても……」
「何か所々パーツが増えてる様な……?」
「何なんですかこれ……?これが私達の艤装なんですか……?」
「これ……、もしかして改修されてる……?」
作業が大変だったからなのかどうか分からないが、全身汗だくになった英吉郎が、息も絶え絶えと言った様子で工廠に姿を現した鬼怒達に向かってこの様に言い放ち、それを聞いた鬼怒達が、自分達の艤装の方へと視線を向けたところ、そこには大幅な改修が加えられた為か、変わり果てた姿となった艤装が鎮座しており、それを目の当たりにした鬼怒達は、思わず驚愕しながらこの様な言葉をそれぞれ口にするのであった
そう、彼女達が指摘する通り、彼女達の艤装は英吉郎の手によって、未だ存在していないとされていた筈の改二改修が、それぞれ施されているのである
「姿形や性能が多少変わっておっても、動けば問題ないじゃろう。っとわしはちと汗を流してくるわい」
英吉郎は愕然とする鬼怒達に向かってそう言い放った後、ゆっくりと立ち上がるとふらつきながら工廠の入口に向かって歩いていき、そのまま工廠から出て行ってしまうのであった
そんな英吉郎の様子を見て、英吉郎の事が少々心配になると同時に、何か申し訳なさを感じた鬼怒達が、英吉郎の身に何があったのかについて議論していると……
「ふぅ~……、やっぱここのちゃんぽんは格別じゃのう……って、どうしたんじゃお前ら?」
食事を済ませた伊吹が工廠に戻って来た為、鬼怒達が英吉郎の事を知っていそうな伊吹に先程の英吉郎の事を話したところ……
「あぁ、それはアレじゃ、親方が能力を使った時の反動が原因じゃ」
伊吹は困った様な表情を浮かべながらそう言うと、鬼怒達に英吉郎の能力について話し始めるのであった
英吉郎は穏健派連合に加入した直後、長門屋鎮守府(張りぼて)から送られて来たゾア汁によって能力を使える様になっており、その能力は【世に出回っていない知識や技術で成されている物であったとしても、『知識』や『技術』の集合体とも言えるそれらの『概念』から設計図などを引っ張り出し、それ基に改造、改修、製作が可能になる】と言うものであった
そう、英吉郎は鬼怒達の艤装を修理する前にこの能力を使用し、最新の艦これの情報を持つ兼継がこの世界に持ち込んだ門外不出の『知識』の影響で出現した、鬼怒達の改二のデータを発見、そのデータを基に鬼怒達の艤装を改修してみせたのである
因みに伊吹達が剛用に作っていたパワードスーツ、ゼオライマースーツを強化改造しグレートゼオライマースーツにしてしまった時も、伊吹と戦治郎達の『知識』によって出現したグレートゼオライマーのデータを基にしたのだとか……
これだけ聞けばかなり有用な能力だと思われるが、如何やらこの能力は内容が強力な分、大きな反動があるらしいのである……
「何でも能力を使用しちょる間は、全身の神経と言う神経が、熱した刃物で刺された様な激痛を脳に伝えて来るっちゅう話じゃ。まぁそんなん我慢しながら作業しちょったら、脂汗で全身ベチョベチョになるじゃろうて」
伊吹の話を聞いて愕然とする鬼怒達が、英吉郎が作業をしていたであろう自分達の艤装の方を改めてよく見てみると、その周りの床に血痕がある事に気が付くのであった
恐らくこの血痕は、英吉郎が全身に走る激痛に耐える際、思いっきり歯を食いしばったり、工具を握る手を力一杯握り締めた為、歯茎や指の爪が作業用手袋を突き破って突き刺さった掌から出血し、それが滴り落ちた為に出来たものだと考えられる……
その事実に気が付いた鬼怒達が、心底申し訳なさそうな表情をして黙り込んでいると……
「そないな顔すんな、親方は技術者としての誇りの為に、自分に出来る事を全力でやっただけなんじゃ。じゃからお前らは親方が戻って来たら、親方に笑顔でお礼言っちょきゃええんじゃ。もしお前らがそないな表情しちょる事を親方が知ったら、『わしの仕事に不満があるんかっ!!!』って、鬼の形相で言われかねんぞ?」
伊吹はこの様な事を口にし、それを聞いた鬼怒達は思わずその光景を想像し、その表情を引き攣らせるのであった……
こうして鬼怒達が伊吹と話していると……
「いたいた、鬼怒ちゃん達、如何やらお迎えが来たみたいだよ?」
食堂で仕事をしていた璃栖瑠が姿を現し、鬼怒達に古鷹達が到着した事を伝え、それを聞いた鬼怒達は急いで英吉郎が改修してくれた艤装を装着し、古鷹達が待っていると言う要塞の入口へと駆け足で向かい、その道中でジガルデ10%フォルムと思わしき生物を連れ、生八つ橋で有名な和菓子の店名が入った紙袋を手にしたリコリス棲姫と話をする英吉郎を発見し、艤装を改修してくれた事に対してお礼を言った後、再び要塞の入口へと走り出すのであった