提督科の生徒達の大量脱落が発覚した翌々日、大本営からの通達を生徒達に伝える事が中心となった全校朝礼を終えた戦治郎達は、教室に戻るなり担任である香取の許可を取り、早速江田校祭での出し物を何にするかについて話し合いを始めたのだが……
「三原……、紅葉……、お前ら本気で言ってるのか……?」
「当然だ」
「ええ」
戦治郎と毅が中心となって少人数でも出来そうな出し物について意見を出し合い、その様子を傍観していた三原と紅葉に対して戦治郎が意見を求めたところ、2人は別に自習でも構わないと言い出し、これまで真剣に話し合いをしていた戦治郎は、2人の言葉が自身の聞き間違いである事を祈りながら、眉間に皺を寄せながら、絞り出す様な声で2人に向かって尋ねると、2人は戦治郎の言葉を肯定する様に、頷きながらこの様に返答するのであった
これには毅と勉も驚き、2人に向かって理由を聞いてみたところ……
「出し物で稼いだお金は、軍資金として全額軍の懐に入るって話でしょ?私達が折角頑張って稼いだお金が、一銭も私達の手元に残らないとか明らかにおかしいでしょ?そんなんだったら、私は軍の為に江田校祭に参加する義理を感じない、提督科は自習でいいと思っているわ」
「そ、そうか……」
「紅葉さん……、ちょっと落ち着いて下さい……」
紅葉は殺意にも似たオーラを放ち散らかしながら、地を這う様な低い声でこの様に返答し、その気迫に気圧されした毅と勉は、紅葉の金銭に対しての執着心に驚きつつも、思わず後退りしながら各々に返事を返すのであった
(紅葉の奴の金への執着心が、休み前よりパワーアップしてやがんな……。確かに紅葉の言い分は俺もある程度理解出来るんだが、だからってそれが江田校祭をボイコットしていい理由にはならねぇんだよな……。今回の通達も実質軍からの命令なんだから、軍学卒業後は軍に所属する事になる俺達は、出された命令は基本従わなきゃいけねぇ立場になる……。まあ俺達長門屋は独立部隊として動けるところがあっから、ある程度の命令無視は許容されるんだが、紅葉の場合はそうはいかねぇんだよな……。つか、こいつの金銭への執着心は一体何が原因だ……?これはちょっち調べておく必要がありそうだな……)
紅葉の話を聞いた戦治郎が、顎に手を当ててこの様な事を考えていると……
「僕はこの江田校祭そのものの存在意義に疑問を感じている。態々軍機漏洩のリスクを背負いながら、民間人を軍が保有する敷地内に入れて交流を図る必要があるのだろうか?それ以外にも民間人の中に、今の世界情勢を全く理解しようとせず、深海棲艦相手に通用するはずもない憲法9条を掲げ、戦争反対と喚き散らす輩が紛れ込み、軍学校内の様子を撮影した写真を利用して、自分達の主観ででっち上げた軍の悪評をSNSなどで拡散したり、最悪施設に破壊工作を仕掛けて来る可能性も考えられる。そんな危険性を孕んだイベントを、やる必要があると思うか?」
「お前の言い分をまとめると、提督科の自習は軍に対して江田校祭などのイベントは不要である事を訴える為の手段って事か?」
「そう言う事になる、まあ……、他に言う事があるとするならば、戦場に出る気も無い様な民間人は、一々軍に意見せずに黙って僕達に守られていろ、と言ったところだな」
(う~ん……、こいつ引っ叩きたい!こいつは軍を運営する為に必要な金が、一体何処から出ているのか分かってんのか?国民の税金じゃろがいっ!確かにこいつの言い分も分かる、実際空達の話では長門屋鎮守府建設予定地も、三原が言う様な連中に火ぃ放たれそうになったし、桂島の一件で明るみになった、エデンが人間社会に紛れ込んでいる事実から、奴らが何かしらの方法で潜入して来る可能性もありやがるからな……。だが、だからって民間人の信用信頼をないがしろにしてたら、民間人が税金を出し渋る様になって、軍が資金難に陥ってまともに機能しなくなるじゃろがいっ!よっし、紅葉の素性調査ついでにこいつの素性調査もして、こいつの根性叩き直してやらぁっ!!)
今度は三原がこの様な事を言い出し、それを聞いた戦治郎は一旦思考を中断し、三原に向かってこの様に尋ねる。すると三原はこの様な返事をして来た為、戦治郎は内心では怒りに震えながらこの様な事を叫び、紅葉と三原の素性調査を行う事を決意するのであった
その後、三原と紅葉は香取の制止を無視して教室を出て行き、残された戦治郎、毅、勉の3人は、気を取り直して出し物についての話し合いを再開するのであった
因みに勉はイベントに対しては肯定的で、過去にいじめを受けて周囲から孤立していた事もあってか、提督科の生徒皆で協力してこのイベントを成功させたいと考えているのだそうな……
「さて……、三原と紅葉が江田校祭をボイコットすると言う事で、俺達3人で出し物をやらなきゃいけなくなっちまった訳だが……」
「人数が絶望的過ぎやしないか……?流石に3人じゃ碌な出し物やれねぇだろ……」
「こういう時、公開資料作りが出来たら良かったんだけど……」
「情報漏洩防止と遊び惚ける生徒を出さない様にする為に、禁止されてるんだよなぁ……」
三原と紅葉の離脱によって、更なる窮地に追いやられた戦治郎達は、溜息交じりにこの様なやり取りを交わし、頭を抱えながらこの状況を打開する為の案を出し合う……
そして……
「こうなったら……、最終手段だ……っ!!」
粗方案を出し終えて、どの出し物も3人では実行するのが難しいと判断し、3人で途方に暮れていると、戦治郎が意を決した様な表情を浮かべながら立ち上がり、この様な言葉を言い放つ
「何か良い事思いついたのか?」
最早考える事を苦痛に思っていた毅が、ゲンナリしながら戦治郎に向かってこの様に尋ねると……
「確かライブとか演劇とかする為の、特設ステージがあっただろ?あそこの使用許可を貰って来てくれれば、多分何とか出来るかもしれんっ!」
毅の問いに対して戦治郎はこの様に答え、戦治郎の秘策が一体何なのか、全く予想出来ない2人が不思議そうな表情を浮かべていると、戦治郎は少々困った様な表情を浮かべながら、この様な言葉を口にするのであった
「これ、俺ばっか目立つ事になっから、出来ればやりたくなかったんだが……、こうなったら仕方がねぇって事で……、長門 戦治郎、久方振りに舞いますっ!!」
「「……舞う?」」
「応、おめぇらには話してなかったと思うんだが、実は俺な、日本舞踊の段位持ちなんだわ。俺の祖母さんが日本舞踊の師範やっててな、ガキの頃に祖母さんの舞を見て興味持って、武術の道場通う傍らで祖母さんから指導してもらってたら、気付いた時には俺も師範の資格取っちゃってたんだわ」
「はあああぁぁぁーーーっ!?!」
「えぇーーーっ?!戦治郎さんが日本舞踊っ!!?」
戦治郎の言葉によって更に疑問が深まった2人に対して、戦治郎は2人には今まで伝えていなかった事実を告げ、普段の戦治郎の言動からは全く想像出来ない様な、あまりにも意外過ぎる戦治郎の特技に、思わず2人は驚愕の声を上げるのであった
こうして、たった3人だけでの参加となった提督科の出し物は、戦治郎による日本舞踊に決定し、毅は照明を、勉は音響を担当する事になるのであった
因みにどうして戦治郎が、日本舞踊をやっていた事を黙っていたのかと言うと……
「これ以外にも、祖母さんには華道や茶道、書道も教えてもらってたんだけどなぁ、奏姉の影響でやってたピアノと合わせて、小学生の頃にこの事を公表したところ、クラスの男子達から女子みたいな事やっててキモいなんて言われちまってな、んでそれ聞いた空がブチギレて大暴れ、大事になっちまったから、それ以降は出来るだけこの事は公表しない事にしたんだわ……」
戦治郎は何処か彼方を見つめる様な、遠い目をしながらこの様に語ったのだとか……