神通と川内が執務室に乗り込むより前の事である
数日前に戦治郎から協力要請を受けた剛は、護達から基地に関する情報を貰った後、特警隊に所属するメンバーを集めて作戦会議を行い、話が纏まるとそれに備えてしっかりと準備を整え、戦治郎が基地に向かう日が来ると、瑞穂と戦治郎から許可を得て連れ出した大五郎と共に、長門屋鎮守府(張りぼて)から海路で南下し、四国の南にある土佐湾に陣を構えるのであった
「さて……、そろそろ予定時刻になると思うのだけれど……」
瑞穂が放った艦載機達が、周囲を警戒する様に剛達の頭上を飛び交う中、剛は自身の左腕に付けた腕時計を眺めながらこの様に呟く。するとまるでタイミングを見計らったかの様に……
『剛さん、先程神通さん達が基地の正門を通過しました』
別動隊として神通達と共に陸路で基地に向かった不知火から、この様な通信が入って来るのであった
「分かったわ不知火ちゃん、それじゃあこちらも手筈通りに、派手に始めちゃいましょうか♪っと言う訳で大五郎ちゃん、Ξの準備をお願いするわ」
「分かっただぁよ~」
不知火からの通信を受けてから大して間も空けず、剛が大五郎に向かってそう言うと、大五郎は返事をするなりすぐさまハコを展開、中から以前伊吹から譲り受けたΞガンダムが姿を現すのであった
只このΞガンダム、受け取った時とは配色がガラリと変わっており、白かった部分は濃いグレーに、青かった部分は艶消しの黒に、そして赤かった部分は濃い紺色と言った具合に、明らかに夜戦を意識した様な、闇に溶け込める配色に塗り替えられていたのであった
さて、どうして今回の基地制圧戦に剛はΞガンダムを投入したのか……、それは剛の身体の構造上、変装で正体を隠す事が難しい事が関係してくる
以前アフリカ大陸の西部を陸路で移動した際、剛はスカート丈の長いドレスを着用し、下半身の艤装の隠蔽を図った訳だが、これが通用したのはあくまでもアフリカ大陸の西部での深海棲艦の活動があまり活発ではなく、鬼や姫が派遣されていなかった関係で、アフリカ西部の住民達が深海棲艦=イロハ級と言う印象を持っており、戦治郎達を見ても深海棲艦だと思いもしなかったからである
なので今回の襲撃対象が深海棲艦との交戦経験が豊富で、鬼や姫に関するデータがある程度揃っている日本帝国海軍の1拠点である事から、剛はドレスでの変装ではすぐに正体がバレてしまうだろうと考え、自分の代わりに口の部分にスピーカーを搭載したΞガンダムを投入する事にしたのである
こうして投入されたΞガンダムは、準備が整うとスラスターに火を入れて宙に浮き始め、ある程度高度を確保したところで、瑞穂が追加で発艦した水戦や剛が発艦した水爆達を引き連れ、戦治郎達がいる基地へと一直線に飛翔し始めるのであった
「Ξガンダムだったかしら?それが今発艦したわ~。すぐに目的地に到着すると思うから、それまで陽炎ちゃん達は待ってて頂戴ね~」
『了解、しっかしまさかペーガソスのデビュー戦の相手が、同じ日本帝国海軍の人間だなんてねぇ……』
『それは僕のキュクロープスも同じさ。でも彼等を野放しにしていれば、いつかは僕達を脅かす存在になる可能性がある……。そんな事にならない様に、僕達は彼等と戦わなくちゃいけないんだ』
『それも分かってるわよ、桂島の提督みたいな奴らを見過ごせるほど、私も寛容じゃないからね』
陣から飛び立ったΞの後ろ姿を見送った剛が、今回の作戦に参加する特警隊のメンバーである陽炎と時雨に対して、Ξガンダムが基地に向かった事を伝えたところ、陽炎がどこか複雑な気分が籠った声色で返事をし、それを聞いた時雨がやや真剣な口調でこの様な言葉を口にすると、陽炎はこの様に返答するのであった
その直後である
『今神通さん達が提督と接触、逮捕状を見せたところ、この件に関わってると思わしき艦娘達が、必死の形相で神通さん達を取り押さえようと戦闘を開始しました』
基地内の何処かに潜伏する不知火から、この様な内容の通信が入って来るのであった
神通達と共に基地に進入した……、そう、元帥が発行した書類を用いて基地内に正規の手続きを行って進入した不知火は、護が集めてくれた基地の情報から選出された狙撃ポイントから、神通達の様子をスコープ越しに観察しており、動きがあればこの様にすぐさま剛に連絡を入れているのである
「あらあら……、神通ちゃん達の実力を見抜けないお馬鹿ちゃんばかりなのかしら……?そんなんじゃぁ、神通ちゃん達と一緒に執務室に侵入した通ちゃんを、発見する事は出来ないでしょうね~……」
「恐らく通さんの姿を捕捉するよりも前に、通さんに意識を刈り取られてしまうでしょうね……」
「間違いないわね……、っと、Ξガンダムが目的地に到着したわ。それじゃあいくわよ~♪」
不知火の報告を受けた剛が、相手の艦娘達の行動に思わず呆れながらこの様な事を零すと、隣で剛の言葉を聞いた瑞穂がそれに同意する様に呟き、それを聞いた剛が苦笑しながらこの様に返事をした直後、Ξガンダムが基地上空に到達し、それを感知した剛はそう言うと艦載機を操る要領でΞガンダムに攻撃指示を出し、それを受けたΞガンダムはビームサーベルを模したプラズマカッターを両手に持ちながら、背部のバックパックからファンネルミサイルを射出、剛の思うがままに飛翔するファンネルミサイル達は基地の至る所に着弾し、轟音と爆炎を辺りに撒き散らす……
偶々外にいた事で、Ξガンダムの存在に気が付いた艦娘の報告よって発された警報に従い、迎撃の為に外に出たところで、Ξガンダムが攻撃を開始した様子を目撃した基地の艦娘達は、未知の人型の飛行物体が突然飛来し未知の攻撃を繰り出して来た事に激しく動揺してしまい、それはそれは大混乱に陥ってしまうのであった……
そんな中、なんとか混乱する艦娘達を落ち着かせようと、声を張り上げる艦娘がいたのだが……
「この娘は確か……、提督に協力している艦娘達のリーダーだったわね……。丁度いいところに立っている様だし、ちょっと驚かせてあげましょ♪」
剛はΞガンダムのメインカメラ越しに件の艦娘の顔を確認すると、ニヤリと笑いながらΞガンダムに指示を出し、彼女を掠める様にΞガンダムの両腕部と両脚部に取り付けられたミサイルランチャーからミサイルを発射し、彼女の後方にミサイル群を着弾させると、その爆風で彼女を豪快に吹き飛ばすと共に、着弾点に大穴を開けるのであった
こうして吹き飛ばされた艦娘が、何とか起き上がり体勢を立て直そうとしたその時、先程剛が開けた大穴の中から機械の駆動音と共に……
『さぁて……、戦闘開始よっ!!!』
「ぽいぽいぽーーーいっ!!!」
「よっしゃぁっ!!!一丁派手にやってやンぜぇっ!!!」
「お前らっ!!はしゃぎ過ぎて被弾とかするなよっ!?」
『時雨……、いくよ……っ!!』
件の艦娘には聞き覚えの無い声が聞こえ、思わず彼女がその声がしたと思われる大穴の方へ視線を向けると、大穴から5つの影が飛び出して来るのであった
そう、大穴から飛び出して来たのは10本の主砲を装備したペーガソスを駆る陽炎に、今回の作戦の為に一旦カタパルトを外したキュクロープスを駆る時雨、そして彼女達に随伴していた夕立、江風、木曾の5人、彼女達も神通達と同じく、特警隊のメンバーとしてこの作戦に参加しているのである
彼女達がどうやって地下に潜伏していたのかと言えば、この鎮圧戦が行われる事が決定した段階で、空の命令によってエイブラムスがこの基地の地下に潜伏用の空間を作っており、作戦当日に彼女達はエイブラムスに案内されながらこの空間に向かい、剛の攻撃で空間の上部に穴を開いた事を合図に、そこから飛び出して強襲を仕掛ける手筈になっていたのである
これにより基地の艦娘達はより一層混乱状態に陥り、その隙を突く形で陽炎達も攻撃を開始、陽炎はペーガソスの主砲に装填された特殊砲弾……、妖精さん達が特警隊の為に開発した『ノームジェル弾』と言うトリモチの様に粘着性のあるジェル状の物体を内包しており、着弾と同時に辺りにジェルを撒き散らし、そのジェルで相手を捕獲すると言う砲弾を辺りにばら撒き、時雨は暴徒鎮圧用のゴム弾が装填された主砲と機関砲で、次々と基地の艦娘達を昏睡させていく……
その合間を縫う様にして夕立は空仕込みの体術で、木曾は戦治郎仕込みの剣術で艦娘達の意識を刈り取っていき、状況をようやく理解してこの場から逃げ出そうとする艦娘達に対しては……
「悪いねぇ、あンた達には後から来る陸軍の憲兵さン達の事情聴取を受けてもらわなきゃなンねぇから、逃がす訳にはいかねぇンだよっ!!!」
「幾ら混乱しているとは言え……、仲間を見捨てて相手に背中を見せて逃走を図るのは、流石に感心出来ませんね……」
混戦時において相手に自分の存在を気付かせない様にしつつ接近し、速やかに相手を仕留める方法を通から教え込まれていた江風と、自分の居場所を相手に特定されない様にする為に、護が開発したワイヤーなどを駆使して基地内の狙撃ポイントを転々としつつ、相手を次々と狙撃していく不知火が襲い掛かるのであった
こうして特警隊の艦娘達が基地の敷地内で暴れる中、上空でも戦闘が繰り広げられていた……
一部の基地の空母艦娘達が、次々と仲間達を倒していく陽炎達に対して、艦載機を発艦して攻撃を仕掛けようとしたのだが……
『あらあら、アタシをスルーするつもりぃ?』
それを剛が見過ごす訳もなく、剛が操るΞガンダムは陽炎達に襲い掛かろうとする艦載機達に強襲を仕掛け、その手に持ったプラズマカッターで、頭部に搭載された機関銃で、更にはミサイルランチャーやファンネルミサイルまで駆使して、基地の空母艦娘達の艦載機群を次々と撃墜していくのであった
これにより空母艦娘達は、陽炎達よりもΞガンダムの方が脅威であると認識を改め、Ξガンダムにその矛先を向けるのだが……
「貴女方がその様な手に出る事は、既に想定済みです……っ!」
空母艦娘達の艦載機が連携してΞガンダムに襲い掛かるものの、それを見越して発艦されていた瑞穂の水戦達が一斉に彼女達の艦載機に襲い掛かり、基地の空母艦娘達の航空隊は、剛と瑞穂の連携によって瞬く間の内に壊滅に追い込まれてしまうのであった……
そうしている間に、剛が発艦していた水爆達が陽炎達が暴れている場所の上空に到達、それに気付いた夕立と江風はすぐさまそこから距離を取る様にして退避し始め、木曾は陽炎のペーガソスの中に退避する……
「皆退避したわね?それじゃあ……、投下っ!!」
夕立達が退避した事を確認した剛は、そう言うとΞガンダムを操作しつつ水爆達に指示を出し、その指示を受けた水爆達は今回の作戦の為に準備された暴徒鎮圧用ガス弾を投下し始め、そのガスを吸った艦娘達はあっという間にバタバタと倒れていき、海上を移動中に剛が呼んでいた憲兵達が到着するまでの間、彼女達は楽しい楽しい夢の世界を満喫する事となるのであった……
こうして剛達によって基地の外に誘き出された艦娘達は、剛達の目論見通りに一網打尽にされ、後に【群狼隊】の異名で恐れられる事となる、長門屋鎮守府の特警隊の実力を示す礎となってしまうのであった……