剛達特警隊による基地鎮圧が終了してから間もなくして、陸軍の海田市駐屯地から派遣された憲兵隊が基地に到着、提督の身柄の受け渡しや関係者に対しての事情聴取、証拠品の押収などが直ちに行われ、基地内は騒然となるのであった
この事情聴取によって、提督と協力していた艦娘達も連行され、提督達に脅迫されてこの件を口止めさせられていた艦娘達や、マスメディア関係者相手に枕営業を強要された艦娘達は、メンタルケアの為に専用の施設へと送られ、特に脅迫などをされた訳でも無いにも関わらず、この件を知っていながら通報などの対処をしていなかった艦娘達に対しては、憲兵隊から厳重注意が行われる事となるのであった
「提督が問題を起こしちまったら、罪の重さに関わらず、こんだけの騒動になっちまうモンなんだな~」
「拠点の責任者が問題を起こせば、事件との関連性を調査する為に、拠点に所属する艦娘にまで捜査の手が伸びる……。まあ当然と言えば当然か……」
「提督1人拘束する為に、あれだけ激しい戦闘が起きるの……?それはちょっと勘弁して欲しいなぁ……」
「幾ら何でもあれはやり過ぎでしょ……、てかあの特警隊とか言うの、あれは海軍所属なんでしょ?何で陸戦用装備があんなに充実してるのよ……、普通に考えたらおかしいでしょうが……」
提督が通に拘束された後、憲兵隊による執務室内の捜査の邪魔にならない様にする為に基地の中庭まで移動した戦治郎達は、慌ただしく動き回る憲兵隊の様子を見守りながら、各々に感想を口にするのであった
その直後である
「憲兵隊も特警隊も、基本拠点内にいる提督とかを相手にするんだから、必然的に屋内でも使える陸戦用装備が充実してくるってモンよ」
紅葉が特警隊の武装についての疑問を口にしたところで、戦治郎達の背後から声が聞こえ、戦治郎以外の3人が突然聞こえた声に驚き、思わずそちらに視線を向けたところ、そこには少尉である事を示す階級章を襟に付けた憲兵が1人立っていた
「それに今日の逮捕劇を実際に見ていたら分かるだろ?提督が命令を下せば、事情を知ってる艦娘も、そうでない艦娘も命令に従って抵抗してくる。艦娘の艤装に搭載された兵装の強力さについては、候補生であるお前達の方が俺達なんかよりよっぽど詳しいだろ?その辺も考慮すりゃ、特警隊の戦闘はやり過ぎとはとても言えねぇよ」
「
「その声は長門さんか……、横須賀で顔を合わせて以来ですね……」
件の憲兵がこの様に言葉を続けたところで、ようやく振り返った戦治郎が憲兵に向かって気さくに声を掛け、戦治郎に斧原と呼ばれた憲兵は誰にも気付かれないレベルで、極々微細に表情を引き攣らせながら、若干震えた声でこの様に返事をするのであった
「戦治郎、この憲兵さんと知り合いなのか?」
「応、この人は斧原さんって言って、俺が横須賀にいる時に友人に紹介されたんだわ。まさかこんなとこで会うなんてな~」
2人のやり取りを見て、思わず毅が不思議そうな顔をしながら疑問を口にすると、戦治郎はあっけらかんとした様子でこの様に返答するのであった
この戦治郎の返答を聞いた毅は、舞鶴で戦治郎自身から聞いた彼の友好関係の事を思い出し、戦治郎が友人と言った人物が現陸軍元帥大将である剣持の事であると察すると、斧原が声を震わせた理由に納得すると同時に、彼に対して同情の念を抱くのであった……
それもそうだろう、戦治郎の話によれば今の陸軍である程度の立場にいる者は、皆剣持を通して戦治郎達の事を知っている訳だ。そんな国の命運を左右する様な人物が、自分達の組織のトップと仲が良いと言う人物が目の前にいれば、誰だって緊張もするし、戦治郎の強さも知っているのならば、何かしらの不手際が原因となって戦治郎の機嫌を損ね、その矛先を向けられた時に感じる恐怖感も、それはそれは凄まじいものとなる事だろう……。故に毅は斧原に同情の念を抱いたのである……
「それで、斧原さんは俺達に何か用事が?」
「えぇ、現場にいたからと言う理由で、長門さん達にも事情聴取を受けてもらわなくてはいけないのですよ……」
その後、戦治郎が自分達に接触して来た斧原に対してこの様に尋ねると、今の尚戦治郎と対面している事でモリモリと精神をすり減らす斧原は、精神の擦り切れ具合と比例してその顔色を悪くしながら、戦治郎の問いに対してこの様に返答するのであった
「あぁ~……、なら俺の事情聴取は斧原さん……、君に決めたっ!!って事でよろぴく~☆」
「あ……、はい……」
こうして自分の事情聴取の担当者に斧原を指名した戦治郎は、彼の肩に腕を回しながら、基地の本庁内の部屋を利用して設置された取り調べ室へと向かうのであった
「……何であの斧原って人は、戦治郎の存在に気付くなり憔悴していってんの……?」
「さぁ……?」
(戦治郎の正体知らねぇ奴からしたら、斧原さんの精神的疲労は想像出来ねぇだろうな……。俺だってあいつがイギリスやドイツやアメリカの軍や、穏健派深海棲艦の組織、果ては神話生物の国家や組織のトップと友達だって知った時は、精神的に死ぬかと思っちまったからなぁ……)
そんな戦治郎達の背中を見送りながら、紅葉と勉は心底不思議そうにこの様なやり取りを交わし、そのやり取りを傍から聞いていた毅は、戦治郎に自身の正体などについて知らされた時の事を思い出しながら、内心でその表情を引き攣らせながらこの様な事を呟いていたのであった
「さぁ~てぇ、今から事情聴取をする訳なんだが……、斧原さんや、いつまでそんな辛気臭い顔してんだ?」
「剣持閣下の友人であると言う貴方を前にして、緊張しない陸軍の者なんて早々いませんから……」
「んも~、そんなんそこまで気にする事じゃねぇだろ?つか俺が此処にいる事は、作戦開始前に聞かされてたはずだろ?ってそんな事より今は調書のでっち上げが最優先じゃろがい。ってな訳ではよ気持ち切り替えて!ほらハリーハリー!!さっき俺達に声かけて来た時くらいの調子でやるZO!!」
取り調べ室に入り、対面する形で席に着いた戦治郎と斧原は、この様なやり取りを交わした後、前日から特警隊と憲兵隊+戦治郎で行われた打ち合わせの際に、予め準備しておいたカバーストーリーに実際現場で起こった出来事などを散りばめていきながら、調書を完成させるのであった
如何して戦治郎達がこの様な事をしているのかと言えば、そもそもこの基地制圧戦は、提督の罪状は兎も角、派手な戦闘と襲撃する拠点を何処にするかに関しては戦治郎によって仕込まれたものであり、それを馬鹿正直に調書に書く訳にはいかないからである。尚、この調書の偽造、陸軍と海軍の両方のトップから許可を得ていたりする
さて、戦治郎達が調書の偽造工作を行っている頃、基地の制圧に成功した通達はどうしているかと言うと……
「久しぶりの拠点制圧戦でしたね……、前にやったのは何時くらいだったでしょうか……?」
「剛さんと共に陸軍の駐屯地を襲撃したメンバー以外の方は、本当に久しぶりの事でしょうね……」
「陽炎と時雨の場合、あれがある意味デビュー戦だね」
「お二人の戦車のおかげで、外の方は予定以上の早さで鎮圧が出来た様ですね」
基地の敷地内にて、陸路でこの基地に来ていた通、不知火、川内、神通の4人は、この様なやり取りを交わしながら、撤収の為の準備を行っていたのであった
因みに地下からやって来た陽炎達の方は、キュクロープスやペーガソスが公道を走行出来ない事と、地下空間の後始末をする必要がある関係で、来た穴から穴を埋めながら帰還している模様
尚、通達が地下組と共に穴から帰還しなかったのは、この後剛達と合流し、この地域の拠点の負担を軽減させる事と、自分達の実戦での感覚を鈍らせない様にする事を目的に、この近くにまで偵察に来ている強硬派深海棲艦達を、片っ端から潰して回る手筈になっているからである
そうして通達が撤収準備を進めていると……
「あっ、あの……っ!」
恐らくこの基地に所属していると思われる艦娘が1人、通達の姿を発見するなり駆け寄って来て、息を切らせながら話し掛けて来るのであった
「「……?」」
「貴女は……」
「あぁ~……」
その艦娘と面識が無かった不知火と神通が、彼女の方に不思議そうな顔を向ける中、通と川内は意味深な反応を見せ、それに気付いた神通は即座に2人の方へと顔を向け……
「通さんと姉さんは、この方をご存じなのですか……?」
2人に向かってこの様に尋ねてみたところ……
「この方は今回の作戦に必要な情報を私に提供して下さった、謂わば協力者の方なのですよ」
通は神通の方へと視線を向けながら、阿賀野型軽巡の2番艦である能代の事を、この様に紹介し、通の発言を聞いた能代は、神通に向かって挨拶をする様に1度お辞儀をして見せるのであった